77.デモ体験④〜冴華の視点〜
◼️前回までのあらすじ◼️
七夕イベントでブレバトの紹介ブースへ足を運んだ真雪たち。
見学をしていた真雪はたまたまゲーム体験をするメンバーに選ばれ、一緒にいた冴華と共にゲーム体験に参加する事となった。
好きな衣装とスキルを設定できる仮アバターを使って、動作確認をする真雪たち。時間があまりないのでバトル形式で動作確認をすることとしたのだった。
※今回は『冴華からの視点』のお話になります。
私は目の前の少女を見据えて「ふぅー」と細く息を吐く。
看護服を基調としたフリフリのドレスに、幼児向けアニメのヒロインが持つような魔法のステッキを構えている。
目の前の少女の名は真雪ちゃん。デモ用のアバター名は「ゆき」としている少女。見た目には線が細く、中学生だと言われても分からないような弱々しい少女だ。
「行きます」
勝負だというのに正直に声をかけてくる。まったくどこまで真っ直ぐな子なのかしら、と感心しつつ、その言葉に私は「ええ」と答える。
今回はデモ体験。デモ用の仮アバターでの闘いだ。あの時のように全力で闘うわけにはいかないので、まずは相手に先制攻撃を譲る。
「スキル【氷弾丸】!」
真雪ちゃんは氷属性の基本スキルである氷の弾丸を飛ばすスキルを発動させた。『杖』を装備しているため威力が倍となった氷の弾丸が飛来するが、私はそれを刀で切り払う。
プロになり過酷な修行を行ってきた私にとってみれば、高速で飛来する弾丸を刀で防御するなど朝飯前だ。
そう私はこのゲームで頂点に立つためにあらゆる修行を積んできた。最強を目指すならば自分を限界まで追い詰めなくてはいけないと、そう信じて。
次の攻撃に備えて、私は刀を再度構えて相手を見る。すると真雪ちゃんは先ほどよりも距離を取った位置に移動していた。
なるほど、魔術士としては距離を置いてでの闘いが有利だ。いまの魔法スキルを放った後すぐに距離を取ったようだ。宙に【二段跳躍】の文字が踊っているので、どうやら足に装備した『飛翔の靴』の効果を利用して後方に跳んだようだ。
距離を取った真雪ちゃんは、杖を左手に持ち替えると右手の人差し指をこちらに向け構えた。
何をするのか油断なく相手の様子を伺うと、真雪ちゃんが構えた指の前に氷の塊が三つ出現し、更に足元に魔法陣が展開される。
っ! これってまさか多重詠唱?!
今日初めて魔術士を使用したはずなのに、信じられない。
目の前でいきなり魔術士の高等技術である複数同時での詠唱を始めたことに驚く。
いや、そうか、あの子は元々【水弾丸】を使用していた。だから、それと同系統の【氷弾丸】を理解してるんだ。右手で杖の補助無しで【氷弾丸】を使用し、左手で別の魔法系スキルを発動させているのだ。
しかしだとしてもゲームを初めてニヶ月程度の初心者が出来るような芸当ではない。
「やはり、天才ね……」
自分も昔から天才だとか神童だとか囃し立てられていたが、やはり上には上がいる。
私がプロの壁にぶつかり、全てを投げうって強さを求めていかないとこの世界では生き残っていけないと思い込んでいたあの時にこの子と対戦したのだ。結果は私の敗北。私は心が折れかけた。
その闘いの後、私は対戦相手の正体を知るために幼馴染である楓ちゃんに連絡を取った。
そこで聞いた対戦相手の正体が、ついこの前にブレバトを始めたばかりの初心者だと知って私のプライドは粉々に砕け散った。
フーちゃんはこの子は最強の格闘家に鍛えられた可能性があると言っていたが、そんなものは関係ない。オールスターバトルが行われたあの当時は、まだゲームを初めて一ヶ月だったはずだ。そんな短期間でゲームに慣れ、そしてプロをも凌駕する実力をつけるなど、圧倒的な才能がなければありえないのだ。
「本当につくづく――」
思いが言葉に出る。そのタイミングで真雪ちゃんがスキルを発動させる。
「スキル【凍結捕縛】!」
杖を地面に翳すと、地面を伝って凍気が真っ直ぐにこちらに向かって伸びてくる。相手の動きを封じるスキルだ。これは回避するしかない。
「【氷弾丸】、【氷弾丸】、【氷弾丸】!」
私の回避行動を読んで、氷の弾丸が撃ち出される。
私は回避行動を取りながらその弾丸を刀で打ち落とすが、相手は3連射してきていた。その中の一発が軌道を逸らすのみとなり頬を掠める。
「――羨ましいほどの才能やね」
あの闘いで私は初めて他人の才能を羨んだ。それと同時に一つのことを学んだ。そう、全てを投げ打たなくても強くなれるという事を――
「それに気づかせてくれたことには、感謝してる」
そう言葉を続けると同時に一気に駆け出す。スキル【推進炎加速】も発動し、一気に距離を詰める。しかし、その間にも真雪ちゃんは次の魔法の詠唱を終えている。
「スキル発動【氷塊乱舞弾】!」
掃射系の魔法スキルだ。先程の会話で脅威ではないと話したスキルだ。
私だってこれくらい――
「紫電一刀流・嵐雷暴風刃!」
自らが扱う剣技の中で最高速度の連撃技を繰り出す。限界ギリギリの速度で振われる刀は降り注ぐ氷の弾丸を正確に切り裂いていく。これもプロになり血の滲むような修行によって身につけた技術だ。アマの時は速度は出せていたが正確性に欠けていた。
「はああああああっ!!」
気合の声と共に魔法の本流の中を逆走するように距離を詰める。そして――
「てやぁ!」
近距離まで近づいくと魔法の発動起点である「魔法の杖」を刀で弾き飛ばす。
「くっ」
真雪ちゃんは慌てて、いつの間にか右手に持っていた武器を私に向けてくるが、それより先に私の刀の切先が相手の喉元に突きつけられる。
「ま、参りました……」
降参の声を聞くと、私は寸止めした刃を引いてホッと息を吐く。
「やっぱり冴華さん、強いですね。まさか魔法の中を真っ直ぐに距離を詰めてくるなんて……」
がっくりと肩を落とす真雪ちゃん。
「でもこれくらい真雪ちゃんもできるやろ?」
「うー、出来はしますけど……」
「自分がされて気づいたやろ。真雪ちゃんがやってることの異常さに」
悪戯っぽくウインクして見せる。
「うう…… 返す言葉がないです。
放射系魔法を避けたところを狙ってコレを投げて効果を確かめようと思ったのに、まさか魔法を真正面から打ち破ってくるとは思いませんでした」
真雪ちゃんは右手に持っていた武器の「注射器」を見せる。魔力も付与されていたので、もし当たっていれば氷属性の状態異常の『凍傷』となるところだった。
「ふふふ。プロになったら『自分ができることは相手も出来る前提でいる』ことが大切やね」
プロの心得を伝えると、真雪ちゃんは口を尖らせて「私、プロじゃないですよ」と反論した。
そうか、すっかり忘れてたけど、この子はその辺のプロプレイヤーより格段に強いのだがプロの選手ではないのだ。
「それに、あの。本気は出さないって言ってましたが、いいんですか?」
真雪ちゃんの言葉に「あ……」っと我に返る。バトルに夢中になってしまい、いつの間にか本気の剣技を披露してしまっていた。
「バトルについては本気って程じゃなかったけど、紫電一刀流の技を見せちゃったのはマズったかも……」
言い終わる前に観声が上がる。もしかしたらバレたかも、と恐る恐る上空のモニターに目を向けると観客の視線そのほとんどが中央のメイン舞台に向いていた。どうやら社会人カップルがちょうど討伐モンスターを倒したところのようだ。タイミング良くメインが盛り上がっていたため、観客の関心はそちらに向いていた様だ。
とりあえず、ホッと胸を撫で下ろす。
「丁度メイン舞台が盛り上がっていて助かったわぁ。
好敵手と思うとる真雪ちゃんを前にするとやっぱ力が入っちゃうから、次からはもっと気ぃつけんとあかんな……」
ふぅと息を吐く。
「えっ、私が好敵手、ですか」
私の言葉が聞こえたのか、真雪ちゃんは驚いた顔となった。
「何言うてんの。当たり前やろ?
真雪ちゃんは前回、非公式のイベント内バトルではあったものの私を倒したんよ。
はっきり言って私は他のプロプレイヤーよりも、真雪ちゃん、貴女の事を一番の好敵手って思ってる」
不敵に笑って見せると、真っ直ぐに刀を真雪ちゃんに向ける。
「だから私はプロのタイトル戦ひとつを蹴ってでも全国高校ブレバトグランプリに出るって決めたの。
ここでは本気は出せないけど、高校生にとって最高の舞台で再戦しましょう」
そして宣言をする。そうこの言葉を伝えたかった。
私の想いを受け止めて、真雪ちゃんは真剣な表情となり拳を突き出して「分かりました。次は負けません」と言葉を返してきた。真雪ちゃんの中では、剣技を披露し、不意打ちをした様な今のバトルも対戦の一つと受け止めている様だ。飾らず、奢らず、正直で真っ直ぐ。それがこの子の強さの源なのだろう。
「私も負けへんよ」
そう告げて、互いに笑い合う。
『討伐クエストの参加依頼がありました。
メイン舞台へ転送します。
準備はよろしいですが?』
そんな私たちの前に、システムメッセージが表示された。どうやら、前の組の討伐クエスト体験が終了したみたいだ。
「やっと私達の番みたいやね。今度は味方として共闘う事となるから、よろしくね」
「はい」
元気に頷き返してくる真雪ちゃんの声を聞いて、私はシステムメッセージのダイアログに表示された「はい」のボタンを押すのであった。
◼️次回予告◼️
次回は真雪と冴華の共闘となります。
デモ体験用に強さが下方修正されたモンスターが現れる予定が、まさかの事態に。
東雲「ふふふ。これは良いサンプルデータが取れそうね……」
次回『デモ体験⑤〜共同戦線〜』をお楽しみにして下さい。




