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69.友達との朝食

◼️前回までのあらすじ◼️

七夕イベント当日。真雪は小さなサプライズとして、朝食に自分の家であるパン屋のパンを用意して、一緒に食べる計画を立てていたのであった。

「美味しい! すっごく美味しい!」


 朱音ちゃんはうちの新作『太麺焼きそばパン』を頬張りながら満面の笑みを浮かべる。


「もう、朱音ちゃんったら――って、こっちのサンドイッチもすごく美味しい!」


 頬張りながら食べる朱音ちゃんを叱ろうとしていた美月ちゃんもこちらも新作のライ麦パンの野菜サラダサンドを一口食べると口元を押さえて驚いた顔になった。


「うちのパン、美味しいでしょ」


「うん。美味しい!」

「今まで食べたパンの中でも一番に美味しいかも……」


 二人の反応に、私は嬉しくなって笑顔になる。家族のみんなが丹精込めてパンを作っているのを知っているので、それを褒められると、やっぱり嬉しいものだ。


「慌てなくても、まだまだパンはあるからね。食べ終わったら感想を聞かせてもらえるとありがたいかな?」


 お父さんはにっこりと笑って、飲み物のペットボトル(こちらは用意していなかったので、お父さんが今買ってきた)を一本ずつみんなの前に置いていく。

 テーブルにはパンが入った大きなバスケットと、幾つもの自家製ジャム、マーガリンなどが並べられていて、まるで小さなパン屋さんの様になっていた。

 それぞれの前には可愛らしい柄のランチョンマットと取り皿が置かれていて、いつもお店で着ている服でお父さんがそれぞれの好みに合わせて、トングでパンをバスケットの中からそれぞれのお皿に給仕(サーブ)してくれている。

 まずはという事で二人には新作のパンを食べてもらっている。

 朱音ちゃんはお昼に焼きそばパンをよく食べていたので、新作焼きそばパンを。最近ダイエットでサラダを多く食べる様になったと言っていた美月ちゃんには野菜サラダサンドを食べてもらった。


 焼きそばパンについては埼玉のB級グルメで有名な『太麺焼きそば』を用いて、焼きそばが溢れないようにコッペパンではなくお手製の食パンを使ってホットサンドしたものだ。お父さんが休みの日に太麺焼きそばのお店を廻って本場の味を再現した努力作だ。


 野菜サラダサンドについては、お母さんが試行錯誤しながら作り上げたライ麦パンに地元の農家さんと契約して手に入れた新鮮な野菜を挟み込んだものだ。お母さんが「次は絶対ドイツパンのブームがくるわ」と何度も試行していたので、こちらも珠玉の一品である。


 私は大好物の胡桃ミルクパンを食べている。はむはむ、とちょっとずつ齧って食べているのだが、柔らかいパンの中の胡桃の歯応えがちょうど良く、香ばしいナッツの香りが口の中に広がってとても美味しい一品だ。


「それにしても、集まってから一緒に朝食を食べようって言ってたから近くのモーニングをやっているお店で食べるのかなって思ってたけど、まさか公園でこんなに美味しいパンが食べれるなんて思ってなかったよ」


「うん、うん。本当にそうね」


 最初のパンをペロリと食べてしまった二人が頷きあってこっちを見る。


「えへへ…… ちょっとしたサプライズだよ。私の我儘に付き合ってもらうのだから、ちょっとした恩返しができればいいなって思ってたから」


 口の中のパンを飲み込んで、にひひと笑ってみせる。


「もう一つパンを食べるかい? 女の子だから量は食べられないかもしれないから、小さめのパンもあるよ。

 あとは女子に人気のマリトッツォもあるから、リクエストがあれば甘いパンも出せるよ」


 お父さんが丁寧に対応してくれている。まるで執事のようだ。


 そういえば、昨日お母さんから聞いたのだけど、お父さんは私のお友達が「実は男の子だったらどうしよう」と悩んでいたらしい。男女別々のクラスなのでそんな事ないのに、と言ったらお母さんは「あらあら、そうかしら。私は真雪にカッコいい彼氏ができたら嬉しいわ。だから、もし彼氏ができたら、まずはお母さんにこっそり教えてね。いきなりお父さんに話すとショックで寝込んじゃうかもしれないからね。うふふ」と返してきた。両親はなんだか色々と勘繰っているみたいだけど、私の自慢のお友達にお父さんは満足しているみたいでよかった。


 朱音ちゃんはもう一つパンをおかわりしていて、美月ちゃんはデザートパンとしてこちらも新作の苺クリームのマリトッツォをリクエストしていた。


「美味っ。このジャムもめちゃくちゃ美味しいんだけど! すごい」


「あぁ…… 甘味、幸せ……」


 二人は二つ目のパンを口に運ぶと、また美味しそうに食べはじめた。その姿を見て、私とお父さんは目を合わせて「やったね」と笑顔を交わす。


 こうして、朝のサプライズは大成功に終わった。


「真雪ちゃんのお父さん。本当にご馳走様です」


「美味しかった。もう、毎日でも食べたいくらいです」


 お腹がいっぱいになり朝食を終えると、美月ちゃんと朱音ちゃんはお父さんにお礼を言って頭を下げた。


「いやいや、礼には及ばないよ。こちらこそ、いい意見が聞けたし、真雪と仲良くしてくれているお友達に会えてとても楽しかった。

 そうだ、榎崎さん。もし差し支えなかったら、先程の意見を取りいれて改良したパンが出来上がったら真雪に持たせるから、是非また食べて感想を聞かせて欲しいかな」


「はい。是非! 先程も言いましたが、真雪ちゃん家のパンだったら毎日でも食べれます」


 お父さんがにこやかに応対すると、朱音ちゃんは嬉しそうに答えた。


「それじゃ真雪。これが残りのパンを詰めたバスケットだ」


 お土産用のパンをバスケットに詰めたものを私はお父さんから受け取る。

 朱音ちゃん達には、東雲さんへのお土産として持っていくことを食べている最中に話していたが、その流れで「量があるから、もしまたお腹が空いた時に食べたいようだったら少し食べてもいいよ」とお父さんが言ったので、おやつを狙う子供のような視線が朱音ちゃん達から注がれている。

 東雲さんにお土産で渡すときにどれくらい減っちゃってるんだろうと思い、私は苦笑する。


「榎崎さん、大鍬さん。真雪をよろしく頼むね」


 そう言葉を残して、お父さんは車に戻っていった。



 それから私たちは、電車を乗り継いでイベント会場となるお台場まで移動した。

 二人はお腹いっぱいだったためか、移動中はうつらうつらしていた。


「朱音ちゃん、美月ちゃん。もうすぐ着くよ」


 声をかけると、二人は目を覚ます。


「ごめん、寝ちゃってたね……」


 美月ちゃんが申し訳なさそうな表情を見せるが、その隣で朱音ちゃんが眠気眼(ねむけまなこ)を擦っている。


「ふぁ〜、爆睡しちゃった。それじゃ、駅着いたら芝生広場でパン祭りの続きだね」


 大きく伸びをしてそう言う朱音ちゃんの頭に「ちがうでしょ」と美月ちゃんの手刀が落ちる。


「たはは。冗談、冗談。あまりにも真雪ん家のパンが美味しかったから、ついうっかり」


「なにが、ついうっかりよ。もう」


 そんな二人のやりとりを微笑ましく見ていると、電車がイベント最寄駅に到着した。


 イベントに参加する人が多いのか、結構な数の人が駅を降りる。私達はその流れと一緒に電車を降りる。


「真雪、バスケット重いでしょ。持ってあげる」


 朱音ちゃんが手を差し出す。


「そんなこと言って、パンを独り占めしようなんて思ってないでしょうねー」


「うっ、そんなことは」


「真雪ちゃん、気をつけてね。朱音ちゃんは昔から食い意地が汚いからね」


「もー、美月ったら。あっ、真雪、今の本気で捉えないでね。冗談だから。はい。貸して」


 朱音ちゃんは美月ちゃんに顔を顰めて見せながら、私の手から大きなバスケットを取り上げる。


「真雪のお父さんから、よろしくって言われたしね。持ってあげる。あと、疲れたりしたら遠慮なく言ってね」


 にひひ、と朱音ちゃんが歯を見せて笑って見せる。


「それじゃ、イベント会場にレッツゴー!」


 朱音ちゃんが拳を挙げて会場に向かって歩き出す。と、その時――


 ブルル、ブルル。ブルル……


 耳掛け型の端末が震えて着信を告げる。


「ん? どうしたの」


「着信。誰からだろう……」


 端末の震えを止めて、同期している液晶Padを取り出す。


「風祭先輩からだ……」


 部活の先輩からの電話だった。私の言葉に、同じ部活の二人も何だろうと首を傾げる。


「とりあえず、電話に出るね」


 二人に断りを入れてから、歩道の端に寄って通話ボタンを押すのだった。

投稿が遅くなって、すみません。


あまり話が進んでいないので、この話は上げるか迷ったのですが、リアルにパン屋にまで行って雰囲気を味わったので敢えて上げてみました。


次回こそあのキャラが再登場です。

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