68.小さなサプライズ
◼️前回までのあらすじ◼️
週末の七夕イベントに友達と一緒に参加したい真雪は約束を取り付けようとがんばってるよ。
□登場人物紹介(真雪の家族編)□
・柊木 真雪
この物語の主人公。難病を克服したばかりの虚弱・病弱っ娘。しかしゲーム内では最強(と成り得るポテンシャルを持っている)
・柊木 正晴
真雪の父。涙もろい過保護お父さん。両親は若い頃に他界しており、柊木家の婿養子となった。義理の両親との関係は良好だが、いざとなると頭が上がらない。
・柊木 真白
真雪の母。見た目と行動は天然っ娘だが、一流大学を卒業し、多数の資格を有しているという頭脳明晰な女性である。
・柊木 遊雲
真雪の祖父。元は大工だったが、引退してパン職人となった。独学で始めたが今や一流シェフに引けを取らない腕前である。
・柊木 そら
真雪の祖母。夫を支えるまさに良妻賢母。
●ひいらぎパン店
真雪の祖父母が経営している町のパン屋さん。
元々は祖父が仕事引退後に趣味で始めたお店だが、真雪の手術の為に全財産を投げうった真雪の両親が転がり込んだ。一時的に家計が苦しくなったが、真白のネット戦略と正晴の営業力で瞬く間に人気店となった。
「えっ、今週末? 特に予定はないけど」
タッチー先輩とのバトルの後にアカネちゃんたちに訊くと、そんな返事が返ってきて呆気なく予定を取り付けることが出来た。こんなことだったらもっと早く訊くのだったと思った。
て、ことで土曜日に七夕イベントへ参加して、日曜日に太刀川先輩とジョーカーさんを引き合わせることとなった。
そして今日は待ちに待った七夕イベント当日。実は内緒でちょっとしたサプライズを考えていた。
サプライズと言ってもそんなに大それた事ではない。ことの発端はお父さんとお母さんに七夕イベントで遠出の外出をしていいか許可を貰おうとした時だった。
★
「今週末なんだけど、お友達と一緒にまた東京まで遠出をしたいんだけど、いいかな?」
夕飯時に私はそう話を切り出した。お母さんは「いいんじゃない」とすぐに許可をくれたけど、お父さんの方は渋い顔をしていた。
「また遠出か。この前も行ってたと思うが、身体の方は大丈夫なのか? 完治したと言っても、無理をするとまた熱を出してしまう可能性があるだろうから、あまり頻繁に遠出をするのは……」
心配するような視線を向けて、お父さんが苦言を呈する。まさかのお父さんからの反対意見に、私は返す言葉を探す。
お父さんの言う事は尤もである。学校の最初のイベントだったスポーツ大会で張り切りすぎて倒れてしまったし、オールスターバトルで遠出をした時も様々なハプニングがあり門限を守れなかった。お父さんが心配するのは当然だ。
「まったく、アナタは過保護すぎるのよ。
真雪がお友達と出かけるって言ってるってことは、もう約束しちゃってるんでしょ? 真雪が初めて作った同年代のお友達との楽しい時間を、親の我儘で奪ってしまうのは良くないと思うわよ」
返す言葉が見つからず困っている私に、助け舟を出してくれたのはお母さん。
「ほっほっほ。ワシも真雪ちゃんの好きにさせてあげて良いと思うがのぉ……」
お爺ちゃんは夕飯のおかずの里芋の煮物を上手に箸で摘みながら援護射撃をしてくれる。お爺ちゃんお婆ちゃんは私の事をユキちゃんと呼んでくれている。
「お、お義父さんまで。しかし……」
お父さんが頭の上がらない二人から言われても、折れずに食い下がる。
「ユキちゃんはどうしたいのかな? ちゃんと話してお願いすれば、正晴さんも許してくれると思うわよ」
お婆ちゃんがいつもどおりの柔和な表情で私に語りかける。その言葉に私ははっとする。
「そうだね、お婆ちゃん。うん。ちゃんと話すね。
あのね。お父さん。今週末にお台場で七夕イベントが開催されるの。そのイベントに同じクラスで仲良くなった朱音ちゃん、美月ちゃんと一緒に参加したいなと思ってるの。
今までこういう季節のイベント事に参加することができなかったから、出来るだけイベント事には参加したいんだ」
素直に想いを伝える。しかし、それでもお父さんは「うーむ……」と唸っている。
「まったくアナタったら頑固ものね。
季節のイベントへの参加を反対したら、真雪が臍を曲げて、来年の『父の日』のプレゼントは無いかも知れないわねぇ〜」
「なっ――そんなっ」
お母さんの言葉に、眉根に皺を寄せていたお父さんの表情が崩れる。私が『父の日』にあげた私がワッペンを縫いつけたエプロンをお父さんが大切に使っている事を知っている。
「10月のアナタの誕生日も忘れちゃうかも知れないし、バレンタインにチョコも貰えないかもしれないわね」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。それは、それだけは――」
お父さんはこの世の終わりの様な絶望した表情でこちらを見てくる。その横でにこやかに「あとひと推しよ」とお母さんが合図してくる。
これじゃ、お父さんが可哀想だよな……
「大丈夫だよ、お父さん。お父さんの誕生日だって忘れないし、来年の父の日も裁縫を上手くなってもっと良いものをプレゼントするから。だから、お願いお父さん」
そう言って、お父さんに両手を合わせてお願いポーズをして見せる。
それを見たお父さんは「うっ」と言って胸を押さえて天井を見上げる。なにか起きたのかと慌てて立ち上がろうとするが、お母さんがそれを制する。
見ると、お父さんの口から「真雪可愛い、真雪可愛い、真雪可愛い過ぎる……」と呪文のような私を褒め称える言葉が溢れていた。
「お、お父さん?」
「はっ、しまった。真雪が可愛い過ぎて意識を失うところだった。
うん。そうだな。真雪がそこまで楽しみにしているなら、お父さんが止めるわけにはいかないな。プレゼントも欲しいし……
し、しかし、何で東京のイベントなんだ? もっと近くのイベントだったら、週末はお店はお休みだし、お父さんがお友達も一緒に車で送ってあげられるのに……」
「アナタ、そんな事したら真雪のお友達に迷惑かかるでしょ。それにそんなに口うるさく言うと真雪に嫌われちゃうわよ」
「そ、それは、困る……」
シュンと肩を落とすお父さん。
「じゃあ、真雪の遠出外出、オッケーね?」
「そうだな。仕方ない……」
渋々ながらお父さんが頷く。私は「良かった」とほっと胸を撫で下ろす。
「良かったね、ユキちゃん。それじゃ、外出の許可も取れた事だし、冷めちゃう前にちゃっちゃと夕飯を食べちゃいなさいな」
お婆ちゃんの言葉に、私達は「はーい」と言って、止まっていた箸をおかずに伸ばした。
こうして両親からの許可を取りつけて、夕飯を済ませたのだったが、みんなが食べ終わって食器を片付けようとした時にお母さんが「そうだ。いい事を思いついたわ」と呟いてポンと手を叩いた。
「ねぇ、真雪。週末に一緒にお出かけするお友達ってパンは好きかしら?」
「えっ、うん。好きだと思うよ。朱音ちゃんはいつもお昼は売店の焼きそばパンを食べてるし……」
急な質問に驚きながらも答える。
「ねぇ、アナタ。真雪のお友達に今開発している新作パンを食べてもらって感想を貰うってのはどうかしら?」
急な提案に、お父さんもびっくりしている。
「ま、まぁレシピもほぼ決まってきているし、一般の人に食べてもらうのはありだと思うけど……」
う〜ん、とお父さんは唸っている。
「ふふふ。真雪のお友達にうちのパンの味を知ってもらえるし、アナタも真雪がどんなお友達と一緒にいるか知れるし一石二鳥じゃない?
むしろ、一般の女子高生の意見も聞けるから一石三鳥かしら……」
お母さんはふふふと柔らかな笑みを見せている。
「でも、お友達って2人だよな。少量でパンを作るのはちょっとコスト的に効率わるいが、問題ないか?」
「う〜ん。多少のコストロスは仕方ないかしら。真雪のお友達に美味しく食べてもらえるなら、それでいいと思うわ」
いつもは原価や費用に煩いお母さんからすると、珍しい言葉だ。
「あ、もし多めに作った方がいいなら、お土産に包んで貰えたら嬉しいかも」
私はコストの話になって表情が固くなったお母さんに伝える。
「あら、誰か食べてもらえるアテがあるのかしら?」
「うん。実はイベントが開催される巨大施設の関係者に知り合いがいて、入場料とかを融通してくれる事になっているの。だからお礼も込めてお土産として持っていこうかなって思って」
「まぁそれならばロスが少なく作れるわね」
お母さんの顔に朗らかな笑顔が戻る。
こうして、お母さんが発案した『お友達に新作パンを食べてもらおう作戦』が実行されることとなったのだ。
なので朱音ちゃん達には「朝ごはんも一緒に食べよう」と伝えてある。何を食べるかは当日のお楽しみ、と伝えているので、まさか二人は美味しいお店のご飯がうちの新作パンだとは思っていない筈だ。
朝一番で新作パンを作ったお父さんは、その疲れも見せずに嬉しそうに車を運転している。車内には焼き立てのパンの香ばしい匂いが充満している。
あと少しで待ち合わせしている神里駅だ。近くに公園があるので、そこに設置されている憩い場にて簡易的な『ひいらぎパンの出張店』を開く予定だ。
ふふふ。二人ともびっくりするかな?
そんな事を思いながら、私は友達との集合場所へ向かうのであった。
パン祭り(朝食)まで書こうと思ってたのに、頑固なお父さんのせいで中途半端なとこまでになってしまいました。次話で朝食場面はサラッと流す感じになると思います。
しかしながら、作者がお父さんと同じ世代なので感情移入してしまい、自分だったらすぐには許可出さないよなぁとなりこの様な流れに…… がんばれ、お父さん。
次回は上手く過去を掘り下げられていなかった『あのキャラ』が再登場予定です。
七夕編は、人気の無いキャラクターの救済も込めているので是非ともご期待いただければと思います。
そして恒例のクレクレですが、ページ下段にある評価欄ですが、まだ評価を入れていないようでしたら是非とも評価を頂きたく思います。【★★★★★】としていただけたら、作者が救済されます(^ω^)




