66.真雪の悩み事
◼️前回までのあらすじ◼️
津張工業高校襲来事件もひと段落し、通常の学校生活に戻った真雪達。
普通の生活を送る中、真雪は一つ小さな悩み事を抱えるのであった。
※作者からのひとこと※
更新が遅くなってすみません。
新章の出だしのため、ちょっとプロットを固めるのに時間がかかってしまいました。
この後はもう少しペースが上がっていく予定です。
あと、ずっと三人称の話が続きましたが、本話よりまた真雪の一人称視点に戻ります。
うー、ここ最近は色々なことがあって大変だった。
その中でも、特に頭を悩ませているのは『津張工業高校襲来事件』だ。
部活で練習試合を行った津張工業高校のメンバーがうちの高校に来てしまった事件で、津張工業高校の人達は見た目が怖い人が多いので、一時帰宅を控えて校内待機になる状態になった。
その後に、津張工業高校の人達は私に会いに来ただけで他の生徒に危害を加える意思はないと分かり、通常通りみんな帰宅することができた。けれど、津張工業高校の人達が私に頭を下げている姿が他の生徒に見られてしまったようで、何だか「あの子ってもしかして不良でも頭の上がらない『裏番長』ではないのか」という噂が広がってしまった。
そんな事なくて、ただのゲーム仲間なのだと誤解を解いていったのだけど、「もしかしたら、やはり……」と燻った思いは消えずにいた。
学校での噂については、実質的には私に害がないので、もう気にしない事にしたのだけど、困ったことは別にもあった。
あの日、拝み倒されてサインを書かされて、さらに土下座をする様な勢いでお願いされてゲーム内でのフレンド登録をしたのだけど、それからメッセージが大量に来る様になった。
内容としてはファンレターに近く、私がグローバルエリアでバトルをすると、そのバトルに対する感想が送られてくるのだ。気を使ってくれているのか「返信は不要です」と記されているのだけど、流石に読まずに捨てるわけにもいかず、読むだけで一苦労だったりする。
「ふぁ……」
思わずあくびが出てしまう。
「真雪ちゃん、寝不足?」
あくびの時に声が漏れてしまったのか、前の席の美月ちゃんが反応して振り返る。
「うん。ちょっとね……」
照れ笑いをつくって答える。
「おはよー、ん? どうしたの」
始業ギリギリに登校してきた朱音ちゃんが声をかけてくる。ぎこちない雰囲気を察知して、朱音ちゃんは首を傾げる。
「真雪ちゃんが寝不足みたいだから、ちょっと心配してたの」
「そうなんだ。なにか夜更かししちゃうほど夢中になれる事を見つけたの? ブレバト飽きちゃった、もしかして浮気?」
美月ちゃんの言葉を受けて、朱音ちゃんは机に鞄を置くと話の輪に入ってくる。
「そんな、違うよ。今でも毎日ブレバトやってるよ。
むしろ困ってるのって、ブレバトでの事なんだよね。あの事件以降、津張工業高校の方達からのメールが多くて……」
夜更かしの理由を伝えると、二人は顔を見合わせて笑みを見せる。
「真雪は人気者だからね。あの事件はびっくりしたよ。まさに不良を従える番長って感じだった」
「ちょっ」
「冗談」
「もー」
朱音ちゃんのからかいに、むくれて見せる。
「でも真雪ちゃん。迷惑しているんだったら伝えたほうがいいよ?」
「うーん。メールの内容は好意的なものばかりだから困ってはいないんだよね。逆に元気をもらえるくらいだし。だから、読んじゃうんだ」
「ふふふ。なんか人気アイドルがファンレター来すぎて困ってる、みたいな感じだね」
「そ、そんなんじゃないよ」
「別に慌てて否定しなくてもいいよ。
そう言えば、この前にテレビで人気アイドルが便利だって言っていた『メールの読み上げアプリ』があるから、後でその情報送ってあげるね。それを使えばお風呂の中とかでもメールが確認できるみたいだから使ってみるといいかも」
美月ちゃんが言葉が言い終わると共に、始業のチャイムが鳴った。
こうして今日も一日、いつもの日常が始まった。
★
帰りの車の中で『ピロリン』と着信音が響く。
「あっ、美月ちゃんからだ」
私は端末と同期させているタブレットを操作してメールを確認する。
「友達からのメールかい?」
車を運転しているお父さんが聞いてくる。
「うん。美月ちゃん。同じクラスで仲良しのお友達」
私はタブレットを操作しながら応える。
「学校は楽しいか?」
「うん。すごく楽しいよ」
「意地悪してくるクラスメイトとかはいないか? 困ってることとかないか?」
タブレットを操っていたが、矢継ぎ早の質問に違和感を覚えてお父さんの方を見る。なんだかとても心配そうにしている。
「そんな事は全然ないよ。クラスメイトはみんな優しいし、困った事は……なくはないけど、お父さんが心配するほどのものじゃないよ」
お父さんを安心させる様に明るい声で伝える。
「そ、そうか。ならばよかった。
お父さん、昨日テレビで『いじめ問題』を特集していた報道番組を見ちゃったんで、なんだか心配になっちゃって」
お父さんが泣きそうな顔になっている。お父さんは私の事となるとすぐに涙を見せる。
「もう、お父さんは心配性なんだから。
私の今の悩みも大した事ないよ。そうだ。ちょっと待ってね」
私はタブレットを操作して、ちょうど今インストールしたメール読み上げアプリを起動する。
『同期が完了しました。ゲーム「Brave Battle Online」内に新着メッセージが5件存在します。
読み上げを行いますか?』
スピーカーフォンモードにしたタブレットから音声が流れる。
お父さんは何を始めたのか分からず首を傾げている。
「お願い」
『承知しました。
1件目、プレイヤー名「ドモン」さんからのメッセージです。
昨日の姐御のバトルを録画で見ました。
あー、今回のバトルも凄かった。姐御のバトルは毎度熱くて、バトル後は感動で全身鳥肌が立つほどです。
今回は特に最後の無刀取りにて武器を取り落とさせてからの肘鉄の流れが見事で、見惚れてしまいました。
昨日は赤点を取ってちまった授業の補習で、リアルタイム観戦できず、友達が撮った録画での視聴でした。なので感想が遅れてずまません。次は必ずリアルタイムで観戦したいと思います。
今回もいつも通り、返信は不要です。
次のバトルも応援してます。それでは
1件目のメッセージは以上です。
続いて2件目のメッセージ――』
「ストップ」
音声指示でメッセージの読み上げを止める。
「今の私の悩みはね、ゲーム内でのメッセージが多くて確認する時間がない事なの。メッセージの内容も今聞いてもらった通り、応援メッセージばかりだから心配しないでね」
「そ、そうか…… 真雪ってゲームの中では有名人なのか?」
「んー、どうかな。たまたまファンになってくれる人がいただけだと思うけど」
「それでも読み切れないほどのメッセージって凄いな」
「えへへ。驚いたでしょ? 私、ゲームの中ではすごく強いんだからね」
私は全然盛り上がらない力瘤を作って見せながら、今の悩みをお父さんに説明する。
「そうなのか。お父さんビックリしたよ」
お父さんは驚いた顔をしている。あの顔からは、さっきまでの不安と悲壮感は消えていた。
「えへへ〜」
「それにしても、姐御って……」
「ちょ、お父さん。そこは聞き流すとこだよー」
「ははは、分かったよ。それについては、お母さんには内緒にするよ」
「もー」
そんなやりとりをお父さんとしていると家に到着した。
「ははは。真雪が学校でも、そのゲームの中でも楽しそうにしていて安心したよ」
「うん」
お父さんに笑顔が戻り、私はお父さんの言葉に頷いて見せる。
家に着いたので、タブレットを仕舞おうと手を伸ばすと『ピロリン』と音が鳴る。
『新たに1件、メールを受信しました』
立ち上げっぱなしにしていたメール読み上げアプリが新たにメールを受信したことを告げる。
「……後ででいいか」
私はそれを後で確認する事として、タブレットの電源を落として車を降りた。
この時に受信したメールが、また新たな波乱のキッカケとなるなんてまだこの時の私は知る由もなかった。
メール内容確認のところまで進める予定でしたが、キリが良かったので本話はここまでで話を切りました。
次話より、物語が進んでいく予定です。
何人かの読者さんから質問されたのですが、本話のとおり真雪からすると菫麗からのいじめについては気付いてもいない事柄となっています。




