64.不良①〜放課後の襲来〜
◼️前回までのあらすじ◼️
休日に行われた千葉県立津張工業高校との練習試合が終わり、週が明けて通常の学生生活が始まります。
※今回は真雪のクラスメイトの木下 菫麗からの視点です。
菫麗は登場させるたびに作品評価が落ちて、酷評が出るキャラですので再登場について悩みましたが、敢えてチャレンジしてみました。
今回は簡単な「ざまぁ」を用意しているので、次話まで辛抱強く読んでいただけるとありがたいです。
※胸糞展開が苦手な方は、本話と次話は読み飛ばしていただいて構いません(話は繋がる様にしています)
あー、つまらない。早くこんなかったるい授業終わらないかしら……
週明け月曜日の午後の授業。木下 菫麗は気怠げな視線を窓の外に向けた。
学校の授業はまったくついていけなくなってしまった。スポーツ大会の事件があってから、唯一の友達であった有坂 文乃とも口を聞かなくなってしまった。クラスの中で浮いてしまっているのは自覚している。
「木下。なにボーっとしてるんだ。次の問題、答えてみろ」
外を眺めていた私を見つけて、数学の先生が私を指名する。
ったく、めんどくせぇな
私は気怠く返事すると、当てられた問題の回答を答える。授業に集中していなかった私がすんなりと答えたことに先生は驚いた様な顔をしたが、すぐに「正解だ」と言って授業を再開した。
授業についていけていない私がなぜ答えられたかと言うと、その秘密は教科書にある。学校外の知り合いに教えてもらったデータパッチを全教科の教科書に適用させていて、全ての教科書に載っている演習問題の答えが解説付きで追加記載されているのだ。公式のパッチデータではないが、ネットのアンダーグラウンドゾーンに行けば、そんなデータは幾らでも売買されている。
それを買うお金なんかも、裏バイトの金持ちのオッサンと手を繋いで歩いて食事するだけで簡単に手に入った。
毎日学校に来て勉強するだけのクラスメイトより私はもっと楽しい世界を知っているのだ。それに、そこで知り合って今付き合ってる相手はここら一帯を取り仕切ってるヤクザの構成員らしい。いままで敵対していた女子グループや、威張り散らしていた不良グループなども、その彼氏と付き合ってからは私にヘコヘコ頭を下げる様になった。
必死に勉強なんかしなくても、私には学校とは別に地位と居場所があるのだ。こんなつまらない授業など早く終わって、煌びやかな夜の街に遊びに行きたい。早く時間が過ぎないかなと、最近買ったブランド物の腕時計に視線を落とす。
「はいっ!」
そんな私の耳に元気に手を挙げるクラスメイトの声が届く。
私は「チッ!」と心の中で舌打ちをする。
先生の質問に手を挙げて答えているのは、先月から編入してきた柊木 真雪だ。病弱で気弱そうな少女だが、今ではクラスに馴染んで積極的に授業に参加している。クラスのみんなも、素直で積極的な真雪を認め、勉強の内容を聞きにいったり、色々と話しかけたりする生徒が増えていた。
(あー、気に食わない。辛いことや、嫌なことなど何もありませんみたいな、スカした顔しやがって!)
ペンを握る手に力が入り、ペンがミシリと音を立てた。
気に食わないあの子を、一度VRゲーム内にて証拠が残らない様にしていじめようとした事があったが、あの見た目でゲームの中ではめちゃくちゃ強くて返り討ちにあってしまった。その後、VRゲームでのいじめが社会問題として取り上げられたため、その事は無かったこととしたが、それにしてもあの子は調子に乗っているみたいなので、どこかで痛い目にあえばいいと思っている。
あぁ、嫌なことばかり思い出す。早く授業終わらないかな。
そう思って、もう一度窓の外に視線を向ける。
ドゥルン、ルン、ルン! ドルン、ドルン!!
その時、外から何か低い音が響き、その音で窓が揺れた。
何だ? と目を凝らすと、学校の校門の前に何台ものバイクが集まっていた。そこに乗っているのは学ランを着たいかにも不良といった面々である。
なんだ、なんだとクラス内がざわつく。そんな状況を「みなさん、静かにしなさい」と先生が注意したところで、終業のチャイムが鳴り響いた。
「終業の時間ですね。少し外が騒がしいですが、冷静にしていて下さい。何かあれば校内放送にて連絡があると思います。それでは授業を終わります」
少し戸惑いの表情を見せながらも、数学の先生が終業を宣言して、教室を後にした。
その後、クラス内は騒然となった。
「えっ、何何、不良が襲ってきたの?」
「うわぁ、怖い」
生徒たちは不安の言葉を口にする。
「おい。お前ら、帰りのホームルームだ。席に戻れー」
気付くと担任の柏葉先生が教室に戻ってきており、クラスに号令をかける。
「帰りの連絡は特にないのだが、見ての通り、校門にガラの悪い他校生徒が集まっている。
先生達のほうで状況を確認しているので、部活がなくすぐ帰宅の予定の生徒は、念の為だが連絡があるまで一旦教室に待機していてくれ」
先生はそう告げると「とりあえず、帰りのホームルームは以上だ」とホームルームを終わらせた。
「と、とりあえず、部活行ってくるわ」
何人かの生徒は部活のために教室を出ていった。
「うちの部活、どうするんだろう。屋外競技だからグラウンドに出るのちょっと怖いな……」
「うちの部活は今日休みの予定だけど、残った方がいいよね。ちょっと時間潰しにダイブルーム使えるか見てくる。美月と真雪は教室で待ってて」
屋外競技の部活や、今日休み予定の部活の生徒などは混乱している様だ。
あー、めんどくさい。折角学校が終わったってのに何でここに残んなくちゃいけないのよ!
菫麗は「チッ!」と舌打ちをして、端末のバイザーを展開する。そして、チャットツールを起動すると、仮想キーボードにて文字を打ち込む。
『何だか学校の前にバイクに乗った他校の生徒が集まってて、超怖い。早く隆司に会いたいのに』
そのメッセージはすぐに既読が付く。隆司とは菫麗が今付き合っている男だ。この辺一帯に名を轟かすヤクザの構成員である。この辺の不良ならばその名を聞いただけで震え上がる。
『分かった。迎えに行くよ。車で行くんで校門前の坂の入り口で待ち合わせでいいか?』
すぐさま隆司から返信が来る。坂の入り口と言うことは、あの不良共の集団を抜けていかなければならないが、もし絡まれたとしても坂の入り口からそれが確認できるので助けに来てくれるはずだ。
『ありがとー。嬉しい。今日はちょっと大胆になっちゃうかも♡』
絵文字をつけて返信し、展開していたバイザーを端末に仕舞う。
「ふふん。隆司が来てくれるなら安心ね」
菫麗は未だに不安でどよめく教室内のクラスメイトを一瞥すると、鞄に荷物を纏めて立ち上がる。
「それじゃあ、私、帰るわ」
そう呟いて教室の出口に向かう。クラスメイトの何人かは「まだ教室に待機していた方がいいよ」と声をかけてきたが、「ふん。アンタらとは違って、私はあんな不良達なんて怖くないから」と言葉を残して教室を出た。
校舎を出て校門に向かう。窓から覗いていた生徒たちからどよめきの声が上がったのを背に感じながら。私は何食わぬ顔で、校門前に設置された認証ゲートを潜る。生徒手帳の電子認証がないと通れないこのゲートがあるため不良達は中に入れなかったのである。
一人ゲートから出てきた私に気付くと、たむろしていた不良達の中の一人がバイクを降りて菫麗に近づく。
「よう、姉ちゃん。聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
短ラン、ボンタンにリーゼントといういつの時代の不良だよ、とツッコミたくなるような男が菫麗に声をかける。
「はぁ、何。私はアンタらなんかに用はないんだけど?」
ふん、と鼻を鳴らして答える。
「何だかいけ好かねぇ、姉ちゃんだな。まぁいい。この学校のeスポーツ部に『Snow』ってプレイヤー名の生徒が居るはずだが、姉ちゃんはその生徒を知らねえか?」
用は無いって言ってんのに話しかけてくんなよ、と思ったが、その質問内容にピクリと反応する。
『Snow』ってあのいけ好かない柊木の使っていたアバター名だよな、と思い出す。
こいつら、もしかして――
「知ってる、って言ったらどうするつもり?」
不機嫌を装って質問する。
「Snowには昨日の練習試合で痛い目にあってるからな、現実世界でちょいとばかり挨拶してやろうと思ってな」
その言葉を聞いてニヤリと口元が歪む。おっとここで怪しまれたらいけないと、口元を手で隠して俯きながら言葉を返す。
「分かったわ。その子を連れてきてあげる」
そう告げると、くるりと校門の方へ振り返る。
なんだ、なんだ、なんだ。こいつらゲームの腹いせにあの子をボコるために来たんじゃないの。ははっ、いいね、いいね。あの子が暴行られ輪姦されるの。
ははは、想像しただけでもゾクゾクするわ。
「すまねぇな。助かるぜ。連れてくるまでに、こっちも用意しとくぜ」
背中から不良達のそんな声が聞こえる。
えーなになになに準備が必要な復讐方法って、どんな手を使ってあの子を甚振るの? は、ははは、楽しみ、楽しみだわぁー
菫麗は誰にも見られない様にニヤリと表情を歪ませると、生徒手帳を使って再度学校に戻る。
ゲートを通過すると、慌てて駆けつけた先生方に声をかけられる。
「おい、大丈夫だったか? 何かされなかったか? 何かあるならば警察を呼ぶが」
「ふふふ。大丈夫です。ああ見えてとても良い人達でしたよ。うちの生徒で探している人がいるみたいで、会えたらすぐ帰ってくれるみたいです。
その探している人を私は知っているので、連れて行って会わせればすぐにいなくなってくれるみたいなので、少しだけ待っていてくれればと思います」
先生達の心配の声に、問題ないと笑顔で答えて菫麗は足早に教室に戻る。
いた。ちょうどあの子の仲良しでいつも一緒にいる榎崎と大鍬がいない。今がチャンスだわ。
「柊木、ちょっと良いかしら」
近づいて声をかけると、有無を言わさず柊木の手を取る。
「えっ、何、木下さん」
「貴女を探してるって人がいるの、ちょっと一緒に来てもらえるかな」
慌てふためく柊木の言葉を遮って、一方的に言い放つと無理やりに立たせて引っ張っていく。
「あの、ちょっと待って。荷物――」
「大丈夫。ちょっと会うだけだから」
柊木に発言させずに、ぐいぐい引っ張っていく。
ちっ、それにしてもこいつトロいな。普通に歩いてるだけで、なんで転びそうになってんのよ!
引っ張る相手に不満を持ちながらも、それでもこれから起こるであろう事を想像して口元を歪めさせて歩を進める。
校舎を出て、心配そうに見守る先生達の横を行き過ぎてゲートを潜る。
校門を出ると不良達が皆バイクから降りて睨みをこちらに効かせていた。
く、くくく。この子はこの後どんな目に遭うか想像すらしてないんだろうな。ゲートを通るのに使用した生徒手帳を不器用に胸ポケットに仕舞おうとしていた柊木を少し強めに前に押し出した。
「痛いよ、木下さ――はうっ!」
強く押したことに抗議の声をあげようとした柊木が、押された勢いに足をもたれさせて転ぶ。
「その子が『Snow』よ」
転んで涙目になっている柊木を見下ろして、不良達に告げる。
さぁさぁさぁ、どんな目に遭っちゃうのかなぁ〜たっのしみ〜
自然と菫麗の口元が綻ぶ。
「お前が本当にSnowか?」
リーゼントの男が一歩前に歩み出て、柊木を見下ろして問いかける。
「えっ、えっと、あの…… ゲームの話なら、そう、ですけど……」
恐る恐る相手を見上げながら柊木が答える。
リーゼント男は眉根を寄せて、不器用に立ち上がる柊木を値踏みしている。どうやら、まだ疑っている様だ。
チッ、その子がSnowで間違えないんだから、早く犯っちまえよ!
菫麗ははやる気持ちで目の前の光景を見守る。
「俺が誰だか分かるか?」
「えっと、ごめんなさい……」
相手がわからない様で、柊木が申し訳なさそうに答える。
「ならば、これでどうだ」
リーゼント男は担いでいた細長いバッグから金属バットを取り出した。
えっ、なになに。金属バットでボコるわけ? ははは、興奮するぅ〜
そんな思いを巡らせている菫麗の心中と裏腹に、柊木の口から「あっ」と気の抜けた様な言葉が漏れる。
「その髪型と金属バット。もしかして『ドモン』さんですか?」
柊木がそう言うと、強面だったリーゼント男の顔が破顔して、満面の笑みに変わる。
なっ、なに、気持ち悪い……
「お、覚えて貰えていて光栄です。俺は津張工業高校三年の土門 勝利。アバター名『ドモン』です!
昨日の練習試合でのSnowさんの闘いを見てファンになりました」
リーゼント男はそこまで言うと、金属バットを鞄に仕舞い、代わりに色紙とサインペンを取り出した。
「色紙を用意しました。もしよければ、サイン頂けないでしょうか!」
「俺も!」「俺様も!」「儂も」「俺も」
その言葉に続けて、取り囲んでいた不良達が一斉に色紙を差し出して頭を下げたのだった。
大オチまで書き切ったのですが、文字数が10,000文字を突破してしまったので、分割しました。
校正があるため1時間後に次話(本話の後編)を投稿しますので、しばしお待ちいただければと思います。




