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59.練習試合③〜悪い流れ〜

◼️前回までのあらすじ◼️

津張工業高校との練習試合が始まった。

初戦の3対3の団体戦に部内最強のメンバーで挑んだのだが、まさかの敗北を喫することとなってしまったのだった。

「おっしゃあぁぁぁぁっ!」

「見たか、オラァ!!」

「はっはー! 快勝じゃーい!」


 団体戦の初戦。その試合が終わると、相手高校の観戦メンバーから歓喜の声が上がる。


 対するうちのメンバーは言葉が少ない。部内の最強メンバーでの初戦の敗北はショックが大きかった。


「すまん、みんな。初戦を落としてしまった」


 セツナ先輩もそう口にした後、きつく唇を引き結んでしまった。


 そんな静まり返った空気にパンパンという手を叩く音が響く。


「負けてしまったものは仕方ない。切り替えていこう。クルミ、プロテイン、リョーマ。うちの初勝利をお前らに託す。頼むぞ!」


 そして場の空気を変えるように言葉を発したのはレッドリーフ先輩だった。


「よーし、クルミちゃんの華麗なバトル見せてやるわ。私の活躍のお膳立て、ありがとね☆」


 場の空気が重いのを察してか、クルミ先輩も特徴のツインテールを揺らして陽気にウインクしてみせる。


「がはは! そうだな。俺達が流れを引き寄せてやるぜ」


 プロテイン先輩も豪快に笑って見せる。


 残りのメンバーであるリョーマ先輩はというと、三年の先輩とは違ってプルプル震えているのを他の二年の先輩方に弄られていた。



「おう。次はそっちの筋肉野郎がメンバーなのか?」


 やっと重い空気が払拭された、と思った時に、声がかけられた。

 振り返ると津張工業高校のモヒカンアバターが不敵な笑みを湛えて立っていた。


「おう、そうだ!」


 いつも通りプロテイン先輩が大きな声で答える。


「なるほど。じゃあ、バトル申請を送っとくぜ。

 次に出る団体戦のリーダーは俺様だ。

 見た感じ、オメーがこの学校で一番見所がありそうだからな。いいバトルにしようぜ!」


 そう告げるとモヒカンアバターが指を動かして去っていく。どうやらプロテイン先輩に向けて団体戦のバトル申請をしたようだ。


「がっはっは。奴ら分かってるじゃねーか」


「はぁ、むしろ目が腐ってんじゃない。こんな筋肉ダルマのどこが強そうに見えんのよ」


 嬉しそうにするプロテイン先輩に対して、すぐさまクルミ先輩がツッコミを入れる。

 先輩方のそんなやりとりで、重い空気が少し和らいだところで団体戦の第二戦となる。


「先輩!」


 バトル承認をしようとするプロテイン先輩に声を掛ける。


「どうした、Snow?」


「あの、第一戦を見て気づいていると思いますが、相手はこちらを相当研究してきてます。気をつけてください」


 私はそう言葉を掛ける。


「おう! 肝に銘じとくぜ」


 プロテイン先輩がニカリと笑いサムズアップで答える。その隣でクルミ先輩も、ツインテールの髪を弾きながら「安心して見てなさい」と言葉を重ねた。



  ★


 第二試合のバトルフィールドは『廃墟1』

 石造りの城の跡地の様な場所で、崩れた壁や柱が散乱しており、天井はなく空が見渡せる。

 第一試合とは異なり、障害物が多いフィールドだ。


 こちらには射手のリョーマが居るため、ますは不利になる屋内フィールドでなかったことに胸を撫で下ろす。



 シャキン……シャキシャキン……シャキシャキシャキシャキン……


 バトル開始と共に、フィールドにリズミカルな金属音が響く。


 相手高のアバターの一人が武器を鳴らして存在をアピールしながら堂々とフィールドのど真ん中を歩きこちらの陣地へ侵入してきたのだ。


「オラオラオラオラ。掛かってこいよ!」


 スキンヘッドに顔に刺青が入ったアバターが、挑発するような声を上げる。

 金属音を鳴らしているのはバタフライナイフだ。職業は『剣士』なのだが、装備する武器が短刀(ナイフ)であるアバターは数少ない。

 そのアバターはバタフライナイフを器用に開閉したり回したりして存在をアピールしている。


「団体戦は相手に気づかれずにどうやって先制してFirst Attackをとれるかが重要なのに、相手は悉くセオリーを無視してきてるわね……」


 ルナの言葉に、私は苦笑して相槌を入れる。

 まさにその通りで、位置が丸わかりとなったスキンヘッドアバターに対して、リョーマ先輩がスキル【天弓乱射】を発動させる。


 空に撃ち放たれた無数の矢がモヒカンアバターに降り注ぐ。が――


「はん! そんなチャチな技じゃオレには傷一つつけられねぇぜ!」


 なんと振り回していたナイフ一本でその全てを打ち落としたのだ。しかも――


「うわぁぁっ!!」


 ズドォォォォォン!!!


 リョーマ先輩がスキルを発動させると同時に、直径1メートルはあるであろう巨大な鉄球が投げ込まれていたのだ。リョーマはスキル後硬直のため反応が遅れ、直撃は免れたが衝撃の余波をくらい体力を減少させる。しかも、First Attack判定が入ったため、一気に2割体力が削られてしまった。


「はっはー! いきなり斉射スキルとは舐められたもんだ。こっちに遠距離攻撃アバターが居ないとでも思ったか!」


 恰幅の良い上半身裸でしめ縄を腰に巻いたアバターが、鉄球に繋がった鎖を思いっきり引いて鉄球を手繰り寄せる。凄まじい膂力(パワー)で引かれた鉄球は、途中にあった障害物を砕いていく。結果、鉄球が相手アバターの手元に戻った時には、リョーマが居る場所まで障害物が無くなった一本の道が出来上がった。


「テツオよくやった! おっしゃあ、行くぜ!」


 その出来上がった道をモヒカンの世紀末風アバターがバールの様な鈍器を片手に突っ込んでいく。


「うわっ、マジかっ」


 衝撃波に吹き飛ばされていたリョーマは狙われていることを察知し慌てて体勢を整える。


「がははー、させん!」


 瓦礫のなくなった道の側面からプロテイン先輩が飛び出してモヒカンアバターにシールドバッシュを仕掛けるが、読まれていた様でバールの様な武器で受け止められる。


「はっはー。ナイス筋肉のおっさんだな。ならばまずはオメーから血祭りに上げてやんよ!」


 モヒカン男は獰猛に笑って見せると、鈍器による連打を繰り出す。その攻撃はプロテインの硬い守りに阻まれるが、それでもモヒカン男は攻撃の手を緩めない。

 盾や重装備の鎧に鈍器が当たり弾かれる音が次々と響き渡る。


「ドラァ!」


 モヒカン男がいままでと違う叫び声で殴りつけた瞬間、【貫衝撃】のスキルが表示される。


「ここで、略式鍵言のスキル発動⁈」


 相手の使用した高度なスキル発動方法につい言葉が漏れる。スキル名を言うのではなく、略式の言葉を発動ワードとして使用する方法だ。それを普通の掛け声に混ぜて使用すると、スキル発動のタイミングを見切る事が難しく、初見での対応は困難だ。しかも――


「がはっ……」


 盾の防御を掻い潜り、脇腹辺りに一撃が入ったタイミングでスキルが発動したのだ。通常ならば鎧に守られてダメージを受けないのだが、スキルによる貫通攻撃のため衝撃がそのまま本体に通ったのだ。脇腹は人体の急所の一つである。しかも意識外からの衝撃のため息が詰まり体勢が崩れる。


「ドラァ、ドラァ、ドラァ!!」


 そんな隙を見逃さず、貫通攻撃スキルを最大コンボ数の4発叩き込む。


「あー、このクソ筋肉! タイマンで負けてるんじゃないわよ! 喰らえっ【電磁加速(レールガン)投擲(スロウ)】!」


 たまらずクルミ先輩が【二段跳躍】と【空間転移】のコンボにて上空へ跳び上がり、投擲技にて援護を行う。

 相手はスキルを最大コンボ数打ち終えた後のため、デメリットのスキル後硬直にて無防備状態だ。クルミ先輩の精密投擲ならば、致命の一撃(クリティカルヒット)も狙えるのだが――


「くっ」


 クルミ先輩の顔が悔しさに歪む。投擲スキルを発動させる寸前にバタフライナイフが飛んできて左肩に刺さったのだ。ダメージは小さいが、バランスを崩して狙いがズレてしまったのだ。それでも投擲した槍は相手の腹部に突き刺さり体力を2割削った。


「ふんぬぅぅぅうん!!!」


 さらに相手の投擲士が投げ放った鉄球が襲う。それを何とか【空間転移】で回避するが、着地に失敗して落下ダメージを受けてしまう。

 慌ててリョーマ先輩が射撃で援護し、クルミ先輩への追撃は防ぐ。

 しかし、その間にプロテイン先輩がモヒカン男に押し込まれていた。相手の鉄球男が優勢となったモヒカン男の援護に切り替え、二人の連携攻撃を捌ききれずに退場となる。


 その後は数的不利になったがクルミ先輩の【雷音発破(フラッシュバン)】と【麻痺付与(パラライズ)】を駆使した搦め手の戦法に切り替えて何とか制限時間まで耐え切ったが、団体戦第2戦も劣勢判定となり判定負けを喫してしまった。




「Snow……」


 団体戦第2戦がタイムアップになる直前に、カエデ先輩が声を掛けてきた。


「どうやら相手はアタシ達が思っている以上の強者揃いの様だな。不良の様な外見と行動に惑わされず、全国レベルの強豪だと思って闘いに臨まないと足元を掬われるな……」


 いつになく真剣な表情で語るカエデ先輩に「うん」と答える。


「だけど、今回Snowは援護に徹してくれ。

 アタシとアカネが前衛で行く。もし相手に隙が出来たなら精密射撃で急所攻撃(クリティカルヒット)を狙ってくれ。Snowの遠距離攻撃は相手も予測してないだろうから、うまく決まれば一人退場させられる。

 それと――」


 そこで、一拍置いてから言葉を続ける。


「最悪の事態の想定だが、もし前衛のアタシとアカネが斃されたらSnowは構わず『棄権』してくれ。

 うちの秘密兵器をここで相手に晒す必要はない」


 思いがけない言葉に私は「えっ……」と言葉を詰まらせる。援護だけでいい、ってことなのかな。でもそうすると団体戦全敗になっちゃう。


「いいですよね。部長?」


 私が言葉を返そうと口を開き掛けたところで、カエデ先輩が視線を私から外して確認する。

 視線の先にはいつのまにかセツナ部長がいた。


「ああ。団体戦で大きく負け越すのは悔しいが、これは練習試合だ。むきになる必要はない」


「それに相手側に気になる動きがあるしな……」


 セツナ部長の言葉に付け足す様に、レッドリーフ先輩が意見する。


 気になる動き?

 なんだろう。私は気づかなかったげど、と首を傾げる。


「先程、プロテインが斃された時『お前じゃないな』って言っていた。

 明らかに誰かを探している様な雰囲気だった。

 老月先生から相手高がうちに練習試合を申し込んできた理由が『オールスターを見てうちに興味を持ったため』だって聞いている。

 もしかしたら、相手はオールスターバトルに乱入した『くまたろう』がうちにいるのでは、と勘繰っている可能性がある。

 折角、ネットやマスコミが見当違いな予想をしてる中、こんなところでSnowの正体がバレて、Snowが面倒ごとに巻き込まれるのは避けたいからな」


 くいっと眼鏡を押し上げてレッドリーフ先輩が言う。


 その言葉に「うっ」と声が漏れた。

 オールスターバトルの後、マスコミ等の追及は避けられたものの、あの日に連絡先交換した東雲からのメッセージやりとりが大変だったのだ。「師匠に会わせてくれ」とか「バトルデータを取らせてくれ」とか色々とあり、その対応に四苦八苦した。

 特に「師匠に会わせてくれ」の件については、しつこい追及につい病院名を口にしてしまったら東雲が病院にリアル突撃したらしく、主治医の先生から注意されてしまったりしたのだ。


「分かりました」


 私が先輩方の意見に首肯すると、丁度団体戦第2戦のバトルが終了した。


「この無能筋肉! あんたが早々にやられるから数的不利で負けちゃったじゃない」


 クルミ先輩がプロテイン先輩の頭を叩きながら戻ってくる。



「はっはー、連勝! 第一回大会優勝っていっても大したことねーなぁー」

「埼玉のレベルはこんなもんかー、弱えーなー」

「次はジョーカーさんが出るから全勝は決まりだな」


 津張工業高校のメンバーからは挑発まがいの言葉が浴びせかけられる。



「くっ、調子に乗りやがって……」


 カエデ先輩の攻撃的な目が厳しい視線を相手に送る。


「さっきカエデ先輩が言ったのって最悪の想定ですよね……

 私とカエデ先輩であいつらを蹴散らせばいいんですよね。団体三戦目はあいつらに目にモノ見せてやりましょう」


 アカネちゃんは気合を入れるように自らの頬を叩く。


「ああ、Snowに鍛えられたアタシ達のチカラを見せてやろう。

 Snow、援護は頼んだぞ」


 カエデ先輩が私の背中を叩いて不敵に笑って見せる。



 うちの学校は団体戦で二連敗してしまった。

 流れは完全にあちら側に行ってしまっている。


 でも、一緒に練習を重ねたこのメンバーならば負ける気はしない。


「うん、勝とう」


 強い言葉でそう言うと、私は団体メンバーであるカエデ先輩、アカネと拳を合わせる。



「次のメンバーはそちらの女性陣ですかね?」


 相手チームのメンバーから声がかけられる。それは相手高校の『参謀』だと自己紹介していた普通の学ランに学生帽を身につけたアバターだった。


「次は僕も出ますのでお手柔らかにお願いしますね。では代表だと思われるそちらの方にバトル申請を送りますね」


 学生帽のアバターは、カエデ先輩にバトル申請を送ると静かに相手高メンバーが集まる場所に戻っていく。


 お手柔らかにと言ったけど、あの人の立ち振る舞いと纏っている空気――間違いなく強者で、警戒しなくちゃいけない相手だと本能が告げている。



「準備はいいか?


 二連敗となってしまったが、アタシ達で初勝利を掴み取るぞ!」


 カエデ先輩の言葉に私とアカネは「「はい」」と答えた。


 カエデ先輩は大きく頷くと、バトルを承認した。


 こうして練習試合の第三戦目となる団体戦が始まるのであった。

次回は満を辞してのSnow団体戦登場です。


しかし相手も隠れた実力者である『参謀』が参戦する様子。

しかも『くまたろう』を探る気配もある中、Snow達は初勝利をもたらす事ができるのか。


次回は2021/8/9までに投稿する予定です。

ご期待ください。

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