58.練習試合②〜団体戦〜
◼️前回までのあらすじ◼️
千葉県立津張工業高校との練習試合が始まったよ。
まずは団体戦。不良達が集まる相手高校に勝利をあげられるか?
「よし。まず初戦を取って、流れを引き寄せるぞ!」
セツナ先輩の言葉に、団体チームであるレッドリーフ先輩とマリー先輩が気合の入った声で応える。
「おっしゃあ! 捻り潰してやろうぜ!」
向こうサイドも気合い充分だ。
「では、バトル申請を送る」
巨漢のアバターであるゴウキが声をかけてくる。
今回は正式な試合ではないため、システム管理者が進行するわけではなく、互いのバトル申請を基にバトルが進行する。
「申請を受け取った。これから承認をする。
互いに健闘しよう」
そう応えて、セツナ先輩はコントロールウィンドウにて「承認」を行った。
★
バトルが成立するとともに、皆がバトルフィールドに転送される。
「バトルフィールドは『沼地』ね。うちのAチームは『地』属性がいないから、相手属性によっては不利になるかも」
私のすぐ横に転移したルナがフィールドを見渡して言葉を漏らす。
私はルナの言葉に頷きながら、相手チームの情報に目を向ける。
バトルメンバーは会敵しなくては相手の情報が見えないのだが、観戦モードの私達にはバトル中のみんなの情報が確認できる。
相手のステータスは――
アバター名:ゴウキ
職業:拳闘士
属性:風
アバター名:ドモン
職業:戦士
属性:地
アバター名:ザキ
職業:魔術士
属性:風
「相手に『地』属性がいる」
「うん。運が悪いね……」
私の言葉にルナが相槌を入れる。
「けど部長なら大丈夫っ!」
アカネが言葉をかけてくる。
バトルメンバーには聞こえないが、観戦者同士の会話は可能なのだ。
相手高は野次も入り混じった激しい応援の声が飛び交っている。
「相手の戦法は波状攻撃陣形。想定内だね」
ルナの言葉に頷く。事前ミーティングで予想した相手の戦法の一つである。
相手高のアバターは縦一列の陣形で一点突破を図る布陣でバトルフィールドに出現。
対するうちのアバターは、セツナ先輩を前衛に置いた1壁2射撃の陣形。剣士ではあるのだが【会心防御】の名手であるセツナ先輩が壁役となって、マリー先輩の魔法系スキルとレッドリーフ先輩の【斬波衝】で相手を削る作戦だ。
バトル開始と共に、それぞれスキルを発動させる。
「スキル発動【武具錬成】!」
「スキル発動【炎の加護】」
セツナ先輩とマリー先輩の声が重なる。
セツナ先輩は『ブロードソード』を召喚し二刀流モードになり、さらにマリー先輩の支援魔法にて赤いオーラに包まれ攻撃力が一段階上がる。
ちなみに、今回セツナ先輩が召喚したのは体力消費の無い通常の『ブロードソード』である。魔法系のスキルを使ったため、マリー先輩の体力が減少する。
「スキル発動【索敵微風】」
対して相手が使ったスキルは想定外のものであった。
相手が使ったのはダメージ判定の無い『索敵用』の魔法系スキルだった。
このスキルは『隠密』の効果があるため、観戦モードの私達には発動したスキルが表示されて見えるが、対戦相手には見えない仕様になっている。しかも、効果としては微風程度の風を吹かせるだけなので、気付き難いのだ。
「やばいかも。先輩達、索敵で自分たちの出現位置が知られたのを気づいてない」
不安の声が思わず漏れる。
「でも、沼地エリアだから障害物少ないんで、あまり効果無くない?」
「ううん。なんとなくの位置が分かるのと、詳細に位置が分かるのとじゃ戦略がまるで変わって来る。
相手は力任せの特攻攻撃を仕掛けて来るって予測してたけど、ちゃんと戦略を立てて攻撃してくる」
アカネの問いに、ルナが答える。
そうなのだ。相手が不良高校だからと戦略など無く攻めて来るであろうと先輩達は思っているのだ。それが油断になる。大声で先輩達に知らせてあげたいが、システムのルールにてバトルメンバーには観戦メンバーの声は届かない。
「C5に水剣、B4に火魔、E4に風剣です」
ボロボロのマントを羽織り髑髏のネックレスを着けた相手魔術士のザキが端的な言葉で情報を共有する。
「まずは当初の予定通りまずは『水』狙いだ」
「おっしゃあ! 行くぜ!」
巨漢のゴウキがその情報を受けて瞬時に狙いを決める。そして、リーゼントのアバターであるドモンが武器である『金属バット』を振りかざして駆け出す。
戦局は序盤から激しく動く。
『地』属性のドモンが足元の悪い地形を【地形効果無効】の恩恵を受けて真っ直ぐに駆け出す。そして、それをゴウキ、ザキの順で追うように縦一列の陣形で特攻する。
ゴウキは圧倒的な脚力で沼に足を取られながらも何とか追いかけているが、ザキは杖を構えた『詠唱状態』で走っている為3人の間には距離ができてしまっている。これでは波状攻撃とはならなそうだ。
「来たな。受けてたとう!」
セツナ先輩が二刀を構え、レッドリーフ先輩とマリー先輩もいつでも中距離攻撃スキルを発動できるように構える。
今の崩れた陣形ならば、一番厄介な『地』属性のドモンの攻撃を弾いて、後方からの中距離攻撃と二刀流の一斉攻撃で斃すことが出来そうだ。
そう思った時――
「スキル発動【俊敏向上】」
ゴウキがスキルを発動させる。それはスキルスロットを2つ使う能力向上系のスキル。【地形効果無効】で先頭を行くドモンの背中まで一気に距離を詰めたのだ。
「スキル【金剛纏衣】――っし、準備OKッス!」
「オウ! はぁぁぁぁっ! スキル【爆裂掌撃】‼︎」
ドモンがスキルにて地属性の鎧を纏い軽く跳び上がると、その背中にゴウキの掌打が炸裂する。さらにスキルによって掌に爆発が発生し、ドモンが弾丸の様に撃ち出されたのだ。
友軍攻撃覚悟の特攻攻撃だ。
「なっ!」
想定外の事に一瞬硬直したセツナ先輩は慌てて2本の剣を交差させて防御態勢を取る。繊細なタイミングが必要な【会心防御】での迎撃は不可能と防御を選んだのだ。
「ぬおおおおおっ!! 合体奥義・神風渾身撃!!!」
リーゼントを風圧で乱しながら超高速で接近したドモンは、その勢いと全ての力を乗せて手に持った金属バットを振り下ろす。
ガギギギィィン!!!
凄まじい衝撃と金属同士がぶつかる轟音が響く。
「おりゃあ!」
さらにドモンは勢いそのままに喧嘩キックを繰り出し、セツナ先輩を弾き飛ばした。
「うおっしゃ、オラぁぁっ!!」
First Attackの判定にドモンが雄叫びを上げる。
「チャンスっす! スキル【火炎槍弾】!」
「初撃ボーナスを受けた分は、俺らで取り返す」
マリー先輩の魔法発動に合わせて、レッドリーフ先輩の【斬波衝】の連撃が放たれる。
炎で形成された槍の連撃と共に、複数の斬撃が広範囲で撃ち出される。事前に対策してなければダメージは免れない。しかし――
「フン、陣形から中距離攻撃をしてくんのは見え見えなんだよ! スキル【隆起土防壁】」
ドモンが金属バットを泥濘んだ地面に突き立てると、地面が隆起して壁となる。
その壁が炎の槍と斬撃の全てを防ぐ。
やっぱり相手はこっちの対策をきちんとしてる。
「ゴウキさん、頼んます。――ブレイク!」
攻撃を防ぐと、ドモンは後ろへ跳びすさりながらスキルの追加効果を発動ささる。それは、隆起した土壁を砕く効果だ。壁は数十センチ角のブロックとなって砕ける。
「オウ、任せろ。オラオラオラオラぁ!!!」
砕けた壁へ飛び込んだゴウキは、拳に風を纏わせ、連打でブロック型に砕けた土の塊を撃ち出す。
カウンターで広範囲に撃ち出された土塊に、神里高校の3名は防御が遅れ体力が一気に減っていく。
「やっぱり相手はこっちの対策してるし、何より相性が悪い。風属性には強いマリー先輩の【火炎障壁】も相手攻撃が地属性って判定されているから防ぎきれてない」
思わず言葉が漏れる。
「まだまだぁ! 喰らえ、必殺【地錐串刺撃】!」
ドモンが金属バットを地面に叩きつけると、真っ直ぐにセツナ先輩に向かって地面から土でできた棘が生えていく。
「このまま防戦一方では後輩に示しがつかない。こちらも攻めに出るぞ!」
セツナ先輩は回避するでなく、生えてきた土の棘を二本の剣で切り飛ばしながら檄を飛ばす。
その言葉で劣勢で下がっていた士気が向上される。
「なかなか良い指揮だ。だが――」
攻勢に出ようと一歩踏み出したセツナ先輩の前にゴウキが現れる。【俊敏向上】によって一気に距離を詰めたのだ。
「戦術が甘い。オラオラオラオラぁ!!」
俊敏を限界まで高めた左右の拳連打がセツナ先輩に降り注ぐ。セツナ先輩は二本の剣で何とか防御する。
「セツナ!」
劣勢を見てレッドリーフが駆けつけようと距離を詰めるが――
「行かせねーよ!」
その目の前にドモンが立ちはだかり、武器がぶつかり合いレイピアと金属バットの鍔迫り合いになる。
「くっ」
「はっはー。やっと間合いに入ったな。遠くから斬撃を飛ばすだけなんてチャチな闘いばっかしてねーで、こうやって近距離で殴り合った方が楽しーよな。さぁ俺らも楽しもうぜ」
ドモンは金属バットを振り回しながら狂気に満ちた笑みを浮かべる。
「望むところだ、さっさと斃して数的有利を作ってみせる!」
相手の金属バットをレイピアで受け流し、カウンターで蹴りを入れながら応じる。
「なんだ、そのへなちょこな蹴りは? 全然きかねーぜ。オラぁ!」
ダメージにも怯まずに蹴りを返すが、レッドリーフが鉄甲にて上手く防御する。
こうして乱戦へと突入する。戦局を変えるのは残ったお互いの魔術士の動きだ。
「準備できたっす!」
マリーの一言で近距離戦闘を行っていたセツナ先輩とレッドリーフ先輩が同時に退がる。
「大技行くっすよ、スキル【火炎大爆撃】!!」
体力1割を消費する極大範囲魔法を発動させる、が――
「無駄だ。スキル発動【反魔法領域】」
髑髏ネックレスの魔術士ザキがスキルを発動させる。それは指定した領域内の魔法効果を3秒間だけ無効にするスキルだ。タイミングの難しい高等魔法なのだが、完璧なタイミングで発動させたため、ゴウキとドモンの周りではマリーの放った大魔法が発動しなかった。
「上手い。相手の魔術士は対魔術士に特化したカウンタータイプだ。あのアバターを先に対処しないと、マリー先輩の支援が完全に無効化されちゃう」
「うん。これは対処する相手の順序選択を間違ったかもね。このままじゃ、ちょっと厳しいかも……」
観戦モードの私達はそう感想を漏らす。
見ると、いつの間にかセツナ先輩に掛かっていた支援魔法も無効化されてしまっていた。
そして私達の想定通り、先輩方は実力を存分に発揮できずに、10分のバトル時間が過ぎて劣勢判定で負けを喫してしまったのであった。




