57.練習試合①〜顔合わせ〜
◼️前回までのあらすじ◼️
eスポーツ部は、千葉県立津張工業高等学校と練習試合をすることになったよ。
「ほーう、『海無し県』の『ど田舎』の学校って聞いたが、仮想世界の中じゃ立派なもんじゃねーか」
開口一番にそんな言葉が聞こえてきた。
本日は練習試合当日。
対戦相手である千葉県立津張工業高等学校のメンバー達が続々とうちの高校のローカルエリアに転移してきた。
埼玉と千葉は仲が悪いと言われているけど、ここまであからさまに蔑んだ言葉を使う人物がいるとは思っていなかった。
津張工業高校の人達は強面で睨んでくる人ばかりなので、ちょっと怖い。
「たまたま第一回のブレバトグランプリで優勝できただけで、これだけ立派な設備ができるなんてな。チッ、羨ましいな」
仮想世界の設備を見回しながら悪態をついているのは細く吊り上がった眉に鋭い眼光。そして金髪に染めた髪はモヒカン刈りの髪型のアバターだ。棘の付いた革ジャンを羽織っており、どこかの世紀末漫画に出てきそうな外見である。
「おい、勘弁してやれ。だ埼玉の田舎者がビビって失禁しちまうぞ。はーっはっは!!」
その隣では龍の刺繍が入り裾を短くした学ランの上着
に、ボンタンと言われるダボつかせた改造を施したズボンを身に纏ったリーゼントの男が笑いながら茶々を入れる。
「ちょっ、ちょっと君たち、ここは他校のローカルエリアなのですから、行儀良くしてくれなくちゃ困りますよぅ〜」
二人のアバターを眼鏡をかけて頰のこけたアバターが声を震わせながら注意する。
「ああん? うっせーよ先公が。このゲームじゃ舐められたら負けなんだよ。オメーは俺らに『今日は宜しくお願いしますぅ〜』って言ってほしいのか? はっ! 冗談じゃねーぜ」
モヒカン男が眼鏡アバターを睨みつける。どうやら眼鏡のアバターが引率の先生であるようだ。バトルメンバーでないためか、一人だけマスコットモードのままである。
「おい。いい加減にしろ。威嚇行為はバトル内だけでいいだろ。一年振りの試合なのだ、お前らは大人しくしていろ」
その言葉が響くと共に、ビリビリと空気が震える。
最後尾からゆっくりと歩いてきたアバターの姿を目にすると、モヒカンとリーゼントのアバターが硬直する。
そのアバターは身長が2メートルをゆうに越え、全身を筋肉の鎧に身を固めたような圧倒的な体格を有した巨漢のアバターであった。圧倒的な風貌。他を寄せ付けないオーラを見に纏っていた。
「ゴ、ゴウキさん。す、すみません」
巨漢アバターに睨まれると、モヒカン男が慌てて頭を下げる。
そんなやり取りをしていた相手高校のアバター達の前に、老ナースの格好をしたマスコットモードのアバターが歩み寄る。老月先生だ。
「ようこそいらっしゃいました。津張工業高等学校の皆さんで宜しいですか?」
にこりと笑って対応する。
あれだけ威嚇していた生徒に対して冷静に対応できるなんて、思った以上に肝が座っているようだ。
「あっ、はい。神里高校の老月先生ですね。
本日は練習試合の申し込みを受けていただき、ありがとうございます。
あの、口の悪い生徒が多いのですが良い生徒ばかりなので……」
ゲーム内では汗をかかないのだが、必死に汗を拭くような姿が目に浮かぶ。
「ええ、本日はよろしくお願いします」
老月先生は相手の生徒と握手をして言葉を交わす。
「貴方がeスポーツ部の部長ですか?」
刹那部長が巨漢のアバターの前まで歩み出て言葉を掛ける。
「ああ……」
ギロリと睨まれるが、セツナ先輩はたじろぐ事はない。
「私は神里高校の部長、セツナだ。宜しく頼む」
刹那先輩は右手を差し出す。
それに対して、巨漢のアバターは相手を値踏みするような視線を送った後、右手を出して握手に応じる。
「津張工業の部長ゴウキだ」
握手を交わした瞬間、ビリビリと空気が震える。闘気――威圧的な見えない圧力――がゴウキから放たれる。
その圧に当てられ、神里高校の部員の何名かが腰を抜かす。
「威嚇行為はバトル中のみ、ではなかったのか?」
手を握りあった状態のまま刹那先輩が言葉を返す。さすが刹那先輩だ。あれだけのプレッシャーを受けても涼しい顔をしている。
「ふっ、試すような事をして悪かった。俺の闘気を受けても平然としていられるならば、良い闘いが出来そうだな。
練習試合、宜しく頼むよ」
ゴウキは不敵に笑うと、握った手を離す。
「で、バトルの進め方はどうする? シングルバトルを中心にとのリクエストのようだが」
巨漢を見上げて刹那先輩が訊く。だがその言葉を聞き流すようにゴウキは首を横に振る。
「俺は戦うしか能がないからな、その辺は『参謀』に任せている。そちらもそうだろう?」
肩越しに視線を向けて、ゴウキがそう言葉を残して歩き出す。
そんな背中を刹那先輩は見送る。その言動の意味がわからず声をかけようとした時、ビクリと部長は身体を震わせた。
!!
どうしたのだろう、とセツナ部長の視線の先に目をやると、全身に悪寒が走った。本能が危険信号を上げたのだ。それは師匠が初めて本気を出した時に感じたものに近い。
そこには神里高校の部員達に紛れ、いつの間にか一人、津張工業高校のアバターが立っていた。
「貴方が神里高校の参謀ですよね?」
それは凶暴そうな風貌なアバターが多い津張工業高等学校の中では異質に感じる、普通のアバターであった。
改造されていない普通の黒い学ランに学生帽。上質な筋肉が制服を内側から押し上げているが、イメージ的には部活でスポーツをやっている爽やかな学生といったものである。
そのアバターはいつの間にかレッドリーフ先輩の目の前に立って話しかけていたのだ。
気配も感じさせずに接近された事に面を食らったようだったが、くいっと眼鏡を押し上げる仕草で動揺を隠してレッドリーフ先輩が「よく分かりましたね」と言葉を返して挨拶する。
「驚かせてしまって、すみません。
僕は津張工業高等学校のeスポーツ部で参謀を任されているジョーカーです。よろしくお願いします」
学生帽の鍔を摘んで小さく頭を下げる。
「早速、今日の練習試合の進め方なのですが、午前中に事前にお願いしていた団体戦を3戦行って、午後は時間の許す限りシングルバトルを繰り返す、という形でお願いしたいのですが、如何でしょう?」
そして学ランアバターのジョーカーが、練習試合の進め方について提案する。
レッドリーフ先輩はセツナ先輩にアイコンタクトで確認して、その案を了承することとなった。
こうして波乱尽くめとなる練習試合が開始されるのであった。




