55.Snowの立ち位置
◼️前回までのあらすじ◼️
真雪がeスポーツ部に入部して一週間が経った。
私がeスポーツ部に入って一週間が経った。
なんとか部活にも馴染んできたのだけど、私は不思議な立場となっていた。
「Snow、次はこっち観てくれないかな?」
二年の先輩である『シヴァ』が声を掛けてきた。
この先輩は私が見学した時に、私に意見した髪の毛を逆立てたツンツン頭アバターの先輩だ。
けれどシヴァ先輩は、私が入部するとすぐに謝罪してきて、既に和解している。あの時は、私がチート(ズルをしているって事のゲーム用語らしい)していると思っていて気が立っていたらしい。
ずっとこの先輩には悪い印象を持たれていると思っていたので驚いたけど、誤解が解けて和解した後は、むしろ良好な関係となっている。
「はい」
返事をして先輩の所まで行くと、すぐさま観戦申請が届いた。
声を掛けてくれたシヴァ先輩と一緒にいたこれまた二年の先輩である『タッチー』とのバトルが始まる。
「やっとSnowに観てもらう事ができるぜ。
行くぜ、タッチー!」
狩人のシヴァは試合開始と共に武器を主武器の弓から副武器の鉄爪に切り替えて構える。
「うむ。我も前にいただいたアドバイスを受けての成果を試そうぞ」
長身でリーチの長いアバターであるタッチーは、独特の口調で呟くと、ゆっくりと刀を抜き放ちゆったりとした構えを取る。
そして、バトル開始の合図と共に闘いが始まる。
私はその闘いをじっくりと観戦する。
部活に入って一週間、私の立場は何故か教える立場になっており、次々とバトルを観戦してはアドバイスをするということが続いていた。
バトルを連戦すると筋肉痛になったり、体調を崩す事があるけど、観戦するだけだったら問題ないので正直私自身としても助かっている。
一年生については、最初に行った団体戦で私が特別扱いされる様になったのだけど、上級生についてはその後に行ったカエデ先輩とのバトルが原因となった。
「Snow。この後、アタシとバトルを願いたい」
一年生同士の団体戦の後、すぐさまカエデ先輩がバトル申請をしてきた。
私はアカネちゃんに闘い方を教えると約束していたので断ろうとしたのだけど、それを見ていたアカネちゃんが慌てて「私の事は後回しでいいから!」と言ってくれたので、私はカエデ先輩とバトルする事となった。
そのやりとりで部員たちの目を引いてしまい、ほとんどの部員がそのバトルを観戦することとなったなんて、その時は気付いていなかった。
「バトルになったら真剣勝負だ。先輩後輩は関係ない。いつも通りの本気で頼む」
カエデ先輩の言葉に頷くと、拳を構え意識を集中させる。
真陰熊流の修行は、相手の強さに合わせて戦いの中で可能性を引き出すというものではない。全力で相手を叩き潰して、相手の未熟さと強さの高みを見せつけることにあるのだ。
カエデ先輩は拳闘士として強くなってきてはいるが、まだまだなところが目立つ。
何発か拳を受ける様になったが、それでも私の体力を黄色ゲージにまで持っていく事はできなかった。
最後に渾身の力を込めた『崩穿華』を放ってきたのを、カウンターの拳で返して勝負が決した。
「ありがとうございました」
最後に礼を述べてバトルを終了させる。
「くそっ、今日こそは黄ゲージまで削れると思ったのに、後一歩及ばなかったか……」
カエデ先輩が悔しさを滲ませながら私の前まで歩み寄り、私がした様に手を合わせて礼を言う。
「バトルありがとうございました。総評をお願いします」
そして、いつも通りカエデ先輩が意見を求めてくる。
「うん。すっごく強くなっててびっくりしたよ。
何発かいい拳をもらっちゃったし、『流水の捌き』も無駄な動きが無くなってて良かった。
ただちょっと攻撃が単調になったところがあるのと、最後の『崩穿華』への繋ぎについては悪くはなかったけど、『気』をためる事に意識がいき過ぎててバレバレだったかな。もう少し自然に出せるようになれば脅威になると思う。
あと、あのコンボは回避の選択肢は潰せて、発勁だから防御も無効にできるいい技の組み合わせだけど、反撃された時の考慮が足りていなかったかな。攻撃に使用していない左手で同時に『流水の捌き』も発動可能な組み合わせにアレンジするといいと思うよ」
いつもの様に総評を伝える。Bear師匠からは厳しい言葉しかかけてもらった事ないが、私にはそこは真似できなく、いつも優しい口調になってしまう。
「そうか、最後のコンボはまだまだ研鑽の余地ありということだな。ありがとう」
カエデ先輩は頷くと、辺りを見回す。
私はそこで、私とカエデ先輩との闘いを部員みんなに見られていた事に気づいたのだった。
そのことで、私がカエデ先輩より強い事が認知され、さらにカエデ先輩を教えている立場であると言う事がカエデ先輩の口から伝えられた。
その後、私が何人かの部員とも対戦をして全てに勝利すると、その後は近接戦闘について教えて欲しいと観戦依頼が殺到した。
そして今、こうして先輩方の闘いを目の前にて観戦しているのだ。
アバター名『シヴァ』こと、柴田 肇 先輩は射手なのだが、どちらかと言うと副武器である鉄爪の扱いの方が得意の様だった。
前にシヴァ先輩の闘いを見た時に、弓の腕前で悩んでいる事が見て取れた。迷いのある射撃だったので、私は「先輩は爪の扱いの方に才能がある様に思います。なので思い切ってそちらの武器の方を重点的に練習する方が強くなれるかもしれません」と正直に伝えて、簡単な鉄爪を使った格闘の型と技について教えたのだった。
目の前では鉄爪を扱い相手の懐に飛び込んで体力を削るシヴァの姿があった。
うん。やっぱりこっちの方がしっくりきてるな。
「とどめだ!」
「甘いっ」
シヴァの繰り出した鉄爪の攻撃を身をのけぞらせる様に逸らして躱し、その勢いのまま膝蹴りでカウンターを喰らわせたのが『タッチー』こと太刀川 達也先輩。この先輩も剣士として伸び悩んでいたみたいだった。
タッチー先輩を見た時に、その柔軟性に目がいった。しかし剣で戦う事に拘っていて、その良さが生かされていなかった。無理に【会心防御】を狙いにいって力負けすることが多かった。
私がタッチー先輩にアドバイスしたのは『脱力の戦法』だった。下手に攻撃を防御するのではなく、柔軟性を活かして回避することと、大振りで力強い攻撃ではなく、柔軟で変幻自在の攻撃で威力は落ちるが確実に攻撃を当てる戦闘方法だ。
今もその戦法にて、柔らかく攻撃を躱して、剣には拘らない蹴りでの反撃で相手の乱撃を食い止めたのだ。
「くっそ、やりにくいな。前までのタッチーならばもっと早く追い詰められたのに」
「それは此方も同じだ。弓に固執していた先週までであったら、間合いを詰めればこっちのペースだったが、格闘術の腕がここまで上がっているとなると、中々近づけぬし、距離を取ると弓に切り替えるので間合いが取りにくい」
互いが相手を褒めあい、ニヤリと笑った後に再度二人は激突した。
「あの二人、見違えたな」
急に背後から声が掛けられて、目の前の闘いを観戦することに集中していた私はびっくりして「はひゃい」と変な声が出てしまった。
振り返るとレッドリーフ副部長が立っていた。
「すまない。驚かせてしまったな。あいつらからもアドバイスを強請られているのだろ? 観戦しながらで良いので、聞いてくれ」
眼鏡をクイっと上げてレッドリーフ先輩が言葉を続ける。
「Snowに入部してもらって、本当に感謝している。
今闘っている二人なんかは、なかなか伸び悩んでモチベーションも低下していたのだが、この一週間で見違えたな。まさかこんな短時間に生き生きと闘えるようになったなんて信じられない。
カエデが言っていた事を疑っていたわけではないのだが、ここまで的確で効果的な助言ができるなんて思ってもいなかった」
私は目の前のバトル観戦に集中しながらも、レッドリーフ先輩に褒めちぎられて、脳内の処理がパンクしそうであった。
「えっと、その、私、そんな事ないですよ……」
なんとか言葉を返したのと、目の前のバトルが終了するのはほぼ同時だった。
バトルの方は、シヴァ先輩が足払いからの鉄爪攻撃の追い討ちにて勝利を収めた。
バトルが終了したため、観戦モードが解除されたとシステムメッセージが表示されると、対戦していた二人は軽く握手をして一言二言やりとりをした後、こちらに向かって歩いてきた。
「レッドリーフ先輩も観戦されてたんですね」
「ぐぬぬ、先輩の前で負け試合を見せてしまった。しかし、我はまだ強くなれる故、代表選定までに必ず挽回してみますぞ」
私の隣にいたレッドリーフ先輩に気づくと二人はまず先輩に声をかけた。
「二人とも見違えるほど良くなったな。戦法を変えて、型がハマれば二人とも三年生相手でも勝ち筋が見えるような、そんな戦いぶりだった」
レッドリーフ先輩が高評価のコメントを返すと、二人は嬉しそうに「ありがとうございます」と頭を下げた。
「Snow。アドバイス、お願いします」
続いて私に助言を求める。その顔は真剣そのものだった。
私は今のバトルの中で感じた事、身につけた方が良いと思われる技や技術を身振りを交えて伝えた。
「ありがとう。早速練習しようと思う」
「感謝だ。この動き、今ではまだ習得は難しいが、体得したあかつきには更なる高みに達しているだろう」
私の助言を聞き終えた二人の先輩は教えた動きを反復練習しながら二人の先輩からお礼を言われる。
「ふむむ、なるほど。指導が的確だな。これは他のプレイヤーのアドバイスを聞いているだけでもためになるな……」
レッドリーフ先輩がべた褒めするのがちょっと恥ずかしくなって視線を足元に落とす。と、足元が淡く赤に染まる。
「えっ?」
「ん、何だ。部活動中に全体メッセージなんて珍しいな」
レッドリーフ先輩の声に空を見上げると、赤い全体メッセージの文字が表示されていた。
どうやらその文字の光が地面を赤くしていたようだ。
「今日は先生に呼び出されていたみたいだったが、何かあったのかな?」
レッドリーフ先輩は首を傾げている。
何だろうと、メッセージの内容を確認する。
『部員全員に伝えたい事がある。バトル中の部員以外はログアウトしてくれ。バトル中の部員もバトルが終わり次第ログアウトしてくれ。セツナ』
そうメッセージが表示されていた。
やっとeスポーツ部の部員が全員出揃いました(顔出しだけのキャラもいるけど……)
ここで、簡単に部員の紹介です。
〈三年生〉
●久遠寺 刹那
eスポーツ部の部長。黒髪ロングの和風美人。スポーツ万能で部活でもエースである。
アバター名は「セツナ」
二刀流の剣士で、会心防御の達人。
●椛谷 慎一郎
eスポーツ部の副部長。長身、眼鏡のイケメン。参謀的な立場も兼ねる。
アバター名は「レッドリーフ」
レイピア使いの剣士で素早い攻撃が特徴。高速斬撃と【斬波衝】のコンボで中間距離の闘いもこなす器用なタイプ。
●百瀬 胡桃
ツインテールのあざとい系の先輩。
アバター名は「クルミ」
槍を使いこなす投擲士。中近距離を器用にこなす、戦闘スタイルとしては搦め手、騙し手を駆使するタイプ。
●楠木 緋鞠
ショートボブに赤眼鏡のがんばり系の先輩。語尾に「っす」を付ける癖がある。
アバター名は「マリー」
支援を重視した遠距離タイプ。中近距離タイプが多い中、貴重な後方支援が出来る部員。
●芦田 彰
角刈りで筋肉質な肉体派の先輩。豪快に「がはは」と笑う。筋トレが趣味。
アバター名は「プロテイン」
重装備の騎士。防御特化のタンク。騎士の固有スキル【防具重量軽減】と鍛え抜かれた筋力で限界ギリギリまで装備を固めている。やや動きは遅いが、体当たりするだけで相手に大ダメージを与えられる突進系の戦闘スタイルを取る。
〈二年生〉
●風祭 楓
目つきが鋭いショートカットの先輩。見た目が怖く、プレイスタイルも好戦的なので後輩に恐れられているが、気の優しい先輩。
去年の全高ブレバトグランプリ優勝校の祇園女子高校からの転校生。次期エース。
アバター名は「カエデ」
紫電一刀流の門下生であるが、格闘家の岩隈に憧れて現在のアバターでは拳闘士のキャラを使用している。
真雪の妹弟子。
●獅堂 龍馬
細目で臆病な普通を絵に描いたような先輩。
アバター名は「リョーマ」
速射、一撃離脱を得意とする中距離戦闘タイプ。臆病な性格が幸いしてか、危険察知能力と回避能力がずば抜けて高い。楓が転校してくるまでは次期エース候補だった。
●柴田 肇
髪の毛を逆立てたツンツン頭の先輩。ゲーム内の成績が伸び悩んでいてピリピリしていたが、真雪の助言から殻を破りそんな状況を脱している。
アバター名は「シヴァ」
ゲーム職業は射手だが、真雪の助言により副武器の鉄爪を攻撃の中心に据える戦闘スタイルに変更した。
●太刀川 達也
長身痩躯の先輩。口調がやや古風。
アバター名「タッチー」
セツナに憧れていて会心防御を狙い基本に忠実な剣技を使う戦闘スタイルだったが、真雪の助言により回避中心で変幻自在の剣術を使う戦闘スタイルに変更。リーチが長く、身体がめちゃくちゃ柔らかい。
〈一年生〉
●榎崎 朱音
サイドテールが特徴的なスポーツ万能の同級生。
アバター名は「アカネ」
身体能力が高いため戦術を使用しないフリースタイルであったが、女王に負けて自らの未熟さを悟り真雪に教えを乞うた。発展途上の未完の大器。
●大鍬 美月
三つ編みが特徴の知的な同級生。ゲーム内では熱血感。
アバター名は「ルナ」
ハンマーを使うロマン型戦士。理想だけでは強くなれないと気づき始めていて、朱音と共に真雪に教えを乞うている。ロマンの塊のようなアバターで、日の目を見る事があるのか楽しみな逸材。
●幹谷 巌
跳ねた眉が特徴的な同級生。コミュニケーション能力が高い。しのぶの通訳役でもある。
アバター名は「ミキオ」
盾を2枚使う防御型の騎士。武器はソードブレイカーを使用する、防御・カウンター重視の戦術を使う。視野も広くフォロー範囲も広い。
●根岸 央磨
茶髪のチャラ男。お調子者。
アバター名は「オーマ」
命中率・確実性を重視した射手。射手としての手腕は高いが、お調子者の性格であるため戦闘にもムラがある。好調となった場合はほぼ百発百中の精度を誇るが、ピンチになると途端に精度が落ちる。
●葉山 しのぶ
前髪で目元を隠す引っ込み思案の同級生。アニメが好き。言葉足らずでいつも幹谷にフォローされている。
アバター名は「シノ」
遠距離攻撃が得意な魔術士。猫耳フードに星形のオブジェがついたステッキを装備するなど、可愛さ重視の装備を身に纏う。
●柊木 真雪
虚弱病弱な本作の主人公。
アバター名は「Snow」
天才的な格闘センスに加え、射撃スキルも使用可能な万能タイプ。規格外の化け物。
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ノリで部員を15人にしたけど、全員登場させるのが大変でもう少し数を絞ればよかったと若干後悔してます(汗)




