41.お誘いと、ひとつの夢が叶った日
◼️前回までのあらすじ◼️
ブレバトのオールスターゲームのチケットを手に入れた楓は部長にその事を報告する。
何とか真雪に入部してほしい部長はそのチケットを使って真雪の興味を惹くように画策するのであった。
「ねぇねぇ、真雪。今月末の日曜日って空いてない?」
ある日の朝、学校に行くと開口一番に朱音ちゃんがそう声をかけてきた。
「ふえっ、なっ、どうしたの急に」
驚いて変な声が出てしまったが、それ以上に朱音ちゃんの顔がすぐ近くに迫っていて、ドキッとした。
「ブレバトオールスターゲームのチケットを譲ってもらえることになったんだけど、真雪、一緒に行くよね。行こうよ。行こうじゃないか!」
「って、真雪ちゃん困ってるでしょ!」
私の手を取って、捲し立てる様に言う朱音ちゃんの頭に手刀が落ちる。その手刀の主は勿論美月ちゃんだ。
「まったく、もう。ごめんね真雪ちゃん。ビックリしたよね」
優しく声をかけてくる美月ちゃんに、私は控えめに頷く。
「ちゃんと事情を説明するね。
実は部活の先輩がブレバトのオールスターゲームのチケットを手に入れたらしくて、それを融通してくれることになったの。けど、それに条件を出されていて……」
そこまで言うと、言いづらそうに視線を朱音ちゃんに向ける。そんな美月ちゃんの様子に私は「なんだろう」と小さく首を傾げる。
「うちの部活の先輩方が真雪をまだ勧誘したがっていて。真雪も一緒に行くなら私達にチケットを融通してくれるってことなの」
「真雪ちゃんがこれでブレバトに更に興味を持ってもらえればってのが見え見えだよね。真雪ちゃんがあまり部活に興味がないのは分かっているので断ろうと思ったんだけど――」
「生でクイーンを見れるチャンスなんて滅多にないの。どうしても見たいの。興味ないかもしれないけど、一緒に行ってほしいの。お願い。一生のお願い!」
朱音ちゃんが机に額を擦り付けるぐらいの勢いで頭を下げる。
「って。何してんの!」
「はわわ……」
急な事に私は驚きで変な声が出る。
「こんなチャンス二度とないかもしれない」
朱音ちゃんの必死の声。そんな、頭下げなくても――
「分かったよ。一緒に行くよ。だから頭上げて」
私は肯定の言葉をかけると、朱音ちゃんはガバッと顔を上げて私の手を掴むと涙目で「ありがとー、ありがとー」と連呼した。
「ったく、現金なんだから」
美月ちゃんが呆れている。
「私、別にブレバトに興味が無いわけじゃないよ。昨日も家に帰ってからプレイしたし。それに最強の高校生ってのも気になるし……」
なんだか二人が誤解しているようだったので、ちゃんと伝える。
「えっ、そうなの」
「うん。部活動はまだ私は団体行動とか自信ないから、遠慮してるけど、ブレバト自体は毎日ログインしてるし」
「なんだぁ~、そうなんだ。良かった~」
朱音ちゃんは安心したように顔をほころばせる。
「私もいきなり一生のお願いされて、ビックリしたよ……」
「あぁ、朱音ちゃんの一生のお願いは年に一度はあるから気を付けてね」
「えっ」
「美月~、そんなこと――」
「この前の連休明けも宿題写させてって一生のおねがいしてなかったっけ?」
「う……」
そんなやり取りをして笑いあう。
「あ、だけど。一応、お父さんに確認するね。私、遠出とかしたこと無いから……」
ふと思い出して言う。
実はずっと入院していたから遠出はおろか、電車に乗ったことすらないのだ。もしかしたら過保護なお父さんが遠出はダメと言うかもしれない。
「ええっ、そこは何とか許可をもらって~」
朱音ちゃんがまたしても拝み倒し状態に戻る。
「ふふふ。大丈夫だよ。もしダメって言われても最後の手段『一生のお願い』を使うから」
笑って言う。多分、お父さんだったらダメだって言っても、私がお願いすれば許してくれるはずだ。
「一生のお願いはあんまり連続で使うと効果が薄くなるから注意だよ」
「それ朱音ちゃんが言う?」
真面目にアドバイスする朱音ちゃんに美月ちゃんがツッコミを入れ三人で笑いあった。
☆
早速、その日にお父さんお母さんに「友達と遠くまで遊びに行きたい」と相談した。
案の定、お父さんが私の身体を心配して反対をしたのだけど、お母さんとお爺ちゃんお婆ちゃんが逆にお父さんを「子離れしなさい」と説教され、すぐにお父さんが折れることとなった。
久しぶりにお父さんの泣きそうな顔を見たので、私はよしよししてあげたら元気になった。お母さん達はそれを見てすこし呆れていたみたいだったけど、お父さんが元気になったし、約束も取り付けたので、私は安心したのだった。
その後すぐに朱音ちゃん達に「両親からOKもらえたよ」とメールを送ったら、すぐさまありがとうという内容と拝み倒す様な顔文字がずらりの並んだメールが返ってきた。
イベントが月末で期間があったので、二人にお願いしてその週の週末に私が着ていくための服を買いに行った。
外出した事がほとんどないため、外出用の私服もあまり持っていなかったのだ。お母さんが気を利かせてお小遣いをくれて「お母さんが選んで買ってきても良いんだけど、若い子の流行があまりわからないから、お友達を誘って買ってくるといいんじゃない?」と言ってくれた。
私は外出OKのメールの後、「一緒に買い物したい」と言う旨のメールを出したら、二人とも快く引き受けてくれた。
私の住んでいる町では良いお洋服は見つからなそうだったので、美月ちゃんに案内されて県内の大都市まで電車で移動して買い物をした。
実を言うとその時、始めて電車に乗った。なので交通用のICカードを発行するところからスタートだったので、目的の駅に着くまでに結構時間が掛かってしまった。
「買い物の前に、先にご飯食べちゃおうか」
美月ちゃんはそう言うと、事前に三人でチェックしていたお洒落なカフェで簡単な昼食とデザートを食べた。
朱音ちゃんはデカ盛りパフェにチャレンジして、それを私と美月ちゃんが応援しながらデザートまで綺麗に食べた。
ずっと寝たきりだった時に夢に描いていた「友達とカフェでランチする」が叶った瞬間だった。私は嬉しくて、途中泣いちゃいそうになって二人に驚かれた。
その後、日が暮れるまでお洋服屋さんを巡った。
帰りに私が少し疲れた顔をしてしまったのか、二人は私の荷物を持って最寄り駅まで付き添いしてくれた。
そして駅に迎えにきてくれたお父さんと一緒に二人へお礼を言って別れた。
「真雪。随分嬉しそうだな。良い事あったのか?」
車を運転しているお父さんが、私の雰囲気を察して声をかけてくる。
「うん。ずっと夢だった『友達とのカフェでのお食事とお買い物』が出来たの!
お昼はお洒落なカフェでご飯食べて、その時に朱音ちゃんが大きなデザート食べて――」
車の中で私は今日あった出来事を夢中になって話した。
それを聞いていたお父さんはとても嬉しそうだった。
こうしてイベントに向けての準備も万端に、月末のイベント当日を迎えるのであった。




