39.楓に届いたメール①
◼️前回までのあらすじ◼️
eスポーツ部の部長は何としても真雪を入部させたいと思っている。
そんな部長に真雪のことを訊かれた楓はーー
※今回は目付きの悪い二年の先輩、風祭 楓からの視点となります。
「ったく、先輩たちも本気なのは分かるけど、まさかあそこまで根掘り葉掘り聞かれるとは……」
部活後の帰り道。先ほどの状況を思い出して溜息をつく。
珍しく部活が早く終わったと思ったら、私だけ残され色々と先輩たちから質問された。
Snowとはどういう関係なのか。
グローバルネットでSnowはどんな事をしているのか。
その辺りを詳しく質問された。
ハッキリ言って困った。
色々と隠さなければならないことが多くて、辻褄の合っていない内容になっていたかもしれない。
まず最初になぜSnowと知り合ったか、の時点で説明できない内容が含まれているのだ。
先輩方には「たまたまこの神里村のグローバルエリアでSnowと出会ったのだ」と伝えた。
椛谷先輩はあからさまに疑念の目を向けてきたが、アタシはその主張を突きとおした。
本当はもっと仕組まれた出会いであったのだ。切っ掛けになったのは一通のメールだった。
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題名:京都府立 祇園病院からのお知らせ
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そんなタイトルの母の入院している病院からのメールだった。送付元のアドレスも公式なものだったのでアタシはそのメールを開いたのだ。
そこに書かれていた内容は予想外のものだった。
端的にいうとその内容は「現在入院中の母親を埼玉の病院に転院させる気は無いか」という提案であった。
母は持病があり定期的に祇園病院に通っていたのだが、その時はその持病が悪化して入院していたのだ。
そんなに酷い状態なのかと不安になったが、メールの内容を読み直すと今のままでも命に別状はなく、暫くすれば元の通院生活に戻れるとの事だった。今回たまたま世界的な名医の執り行う手術に空きが出たらしく、予定していた手術と同症状である母が代理としてその手術を受けられる機会が回ってきたのだという。
母の方はそこまで重症化しておらず、そのままでも問題はないのだが、滅多に回ってくることのない完治できる機会のため是非とも受けるべきだと掛かり付けの主治医からの勧めの言葉が添えてあった。
その後、その内容詳細を聞くために病院へ行き直接話を聞いたのだが、主治医の先生曰く「その名医に執刀してもらえることは、とてつもなく幸運な事」らしいかった。
しかも、手術代についても破格な金額だということだった。
聞いたところによるとその医師が手術を行う場合は莫大な金額となるのだが、手術を受けるはずだった大金持ち患者が前金として殆ど払っていたため、驚くほど手頃な金額となっていたのだ。
話を聞いた父さんは是非とも手術を受けさせたいとなったのだが、提示された条件に頭を抱えることとなる。
その条件が、一人以上の家族の随伴。転院先の病院近くへの家族の異動であった。
アタシの家系は分家ながらも剣術と道場を受け継いできていたのだ。それなりに門下生も居て、この地を離れるわけにはいかなかったのである。
千載一遇のチャンス。しかし、条件を満たすことが出来ない。そんな中、アタシが一つの折衷案を提示する。
「アタシが一人、母さんと一緒に埼玉へ行く。それならば条件は満たせるでしょ」
丁度、高校でも才能の壁にぶつかっていたアタシは逆に良い機会だと思いそう伝える。
その案についても家族内で様々な議論がなされたが、結果的にはアタシの案が採用された。
今思うとそうなるように仕組まれていたのかと思うが、こうしてアタシはこちらに越してくることになったのだ。
なぜ仕組まれていたかと思ったかというと、その後も不可解な事が続いたからである。
異動先の住居の手配と転入手続きについてを転院先の病院が手配してくれたのだ。母が手術を受けるまで一人暮らしすることとなったのは(もちろん手術後の経過観察時期は母と二人暮らしとなる予定)セキュリティやネット環境が整った高級マンションであった。
至れり尽くせりだな、と思いながら、ブレバトで剣の道で才能の壁にぶつかっていたアタシは、これを機に憧れていた格闘王になぞらえた拳闘士のアバターを追加で作成した。
そんな時にアタシの個人アドレスに一通のメールが届いた。送り元は母が転院した病院からであった。
そのメールの内容が不可解なものであったのだ。
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本文:
こちらに来ても『Brave Battle Online』をプレイしてくれてありがとう。
もし転校先の学校にて『岩隈 京士郎』に繋がる人物に出会ったならば、その人物に対して『Brave Battle Online』を教え、導いてください。
そうすれば貴女が尊敬する想い人と会うことが出来るでしょう。
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意味の分からない内容。そしてそのメールにはブレバトで使用可能なアイテムコードが添付されていた。
アイテム内容はトライアル版でのみ配布されたレア装備である『くまくまスーツ』であった。
アタシはそのメールについて病院に問い合わせたが「その様な内容のメールを送った形跡はない」との返答であった。
誰かがアタシを見ているのか?
少し怖くもあったが、興味を惹く内容でもあった。
文章内にある「岩隈 京士郎」「貴女の尊敬する想い人」の文字だ。しかも、添付されていたアイテムが見た目を「熊」に変えられるものである。
アタシの思い付く「尊敬する想い人」がまさに二年前に亡くなったとされる「岩隈 京士郎」その人なのである。そして、その人は最強の格闘家で『東洋の荒熊』と呼ばれており、「熊」のイメージキャラクターを利用していたのだ。
ここまで重なると、偶然とは思えず、意図されたものを感じざるを得ない。
なのでアタシは本来ならば転校先では入るか迷っていたeスポーツ部に入ることにしたのだ。
もしかしたら新しい学校でブレバトをやっていればその謎も判明するだろうと思っていたのだが、転校して1ヶ月経っても「岩隈 京士郎に繋がる人物」には出会えずにいた。
だが、ゴールデンウィークが明けたあの日、遂に出会う。
それは一年の後輩が連れていたブレバト初心者と思われる少女だった。その少女が手にしていた鞄に人形が揺れていた。それは岩隈 京士郎のマスコットキャラクターであるロックベアーの人形であった。しかもそれはただの人形ではない。世界初制覇した時に作られた限定モデルだ。数が少なく岩隈本人からではないと受け取る事は出来ないとまで言われた幻のチャンピオンモデルだったのだ。
アタシの中で衝撃が走った。この子か⁈
急いで帰り支度していたその子に「その人形はアンタのか?」と声をかけた。その少女は「大切な人から貰ったものです」と答えた。
アタシはあの子がメールに記されていた人物であると確信した。しかし、その子はそのまま帰宅してしまったので、ブレバトを教えろと記載されていたメールの内容は実行することはできなかった。
アタシは部活後に先程一緒にいた一年の後輩に話を聞いた。なんだか一年はアタシのことを怖がっている様だったが、あの子のことを色々教えてくれた。
それによるとあの子は近くの病院にずっと入院していた子だということだった。「病院」の言葉でさらに確信が深まる。
さらにこの周辺に住んでいるということと、ブレバトは今日インストールしたばかりだということだった。
なのでアタシは帰宅後にこの周辺に住んでいるプレイヤーがグローバル接続した時に最初に出現する位置の近くでトレーニングすることとした。
学校では新たに作成した拳闘士のアバターを使用しているが、家族への面目もあり『紫電一刀流』の稽古をサボるわけにはいかない。なので夜は侍のアバターで剣術の稽古もしていたのだ。
そしてアタシとSnowはグローバルエリアで出会うこととなったのだ。
初めて会った時はメールに添付されていた『くまくまスーツ』に何か意味があったのかもと思い、それを装備して会ったのだがあまり意味がなかった様だ。
初めて戦った時は驚いた。ブレバトを始めたばっかりだというのにとんでもなく強かったのだ。だが、メールの内容の通り指導しなくてはならないと必死に勝利した。
正直、まともに闘っていたら勝てなかったと思うが、参考になったのが挑発・搦め手を得意とするクルミ先輩の闘い方だった。その対策としてクルミ先輩が使うスキルがどの様な効果があるか検証する為に仮で設定していたスキルが役に立った。
こうしてアタシはSnowにブレバトを教え、アタシはSnowから岩隈さんから直接指導してもらった内容を聞く、そんな関係になった。
なので部長からどんな関係かを訊かれた時には「同じ一人の格闘家を尊敬する仲間で、一緒に格闘の訓練をしている」と答えた。
Snowにアタシの正体がバレたので良い機会だと、昨日これまでの成果を確認しようと拳闘士のアバターで本気で挑んだのだが全く歯が立たなかった。
日を追うごとに実感することになる。Snowはとんでもない化け物だということに。
今となっては侍のアバターでも、搦め手の戦術を使ってでもあの子に勝つことは出来ないだろう。
だが不思議と悔しさや劣等感は感じない。
あの子は眼が良くて、教え上手なのだ。なのであの子と一緒にいると細かいところに気付いてもらえ、その的確なアドバイスによって自分が強くなっていくのが分かる。才能の壁に打ちひしがれる負の感情より、一緒にいて強くなれる喜びの感情の方が上回るのだ。
なので部長にSnowの評価を聞かれた時にはハッキリと「Snowの才能は群を抜いている。今のアタシはSnowには敵わない」と正直に言えた。
Snowが乗り気ではないのでアタシは部活には誘わなかった。しかし部に入れば確実に部全体が強くなるであろう。部長が必死になっているのも気持ちは分かる。
「アタシはSnowとフレンドになれたので、現状でも満足している。
だが、部長の気持ちを考えると何か出来ればいいなとは思うんだけどね。だからといって、やれる事はないな……」
家路に向かう道を歩きながらそう言葉を漏らす。
そんな時、端末からメール着信音が鳴った。
「ん? メールか、珍しいな」
アタシは歩みを止めてメールをチェックする。
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題名:久しぶり
差出人:姫野宮 冴華
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それは思いがけない人物――現ブレバト最強プレイヤーである幼馴染、姫野宮冴華――からのメールであった。
クイーンからのメール内容まで書き切る予定でしたが、文字数が嵩んできたので一旦ここで区切らせてもらいました。
案外、真雪vs女王の対戦が実現になるのが近いかも知れません。
『真雪ちゃんがんばえー』
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お仕事の合間に片手間で執筆活動をしているので、校正が間に合っていない部分があります。
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