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35.お買い物

◼️前回までのあらすじ◼️

eスポーツ部の部活見学をしたのだけれど、真雪はそこに自分が混じると迷惑になると思い、途中退出して帰宅したのであった。

 私は夕飯を食べてお風呂に入った後、自分の部屋で横になっていた。


 私は今日のことを思い返して、漠然とバイザー越しに表示されている仮想デスクトップを眺める。


 授業は問題なかった。ちゃんと復帰してもついていける様に予習も念入りにしていたので勉強の部分では後れをとることはなかった。


「クラスのみんなも、優しくしてくれたし、明日また学校行くの、楽しみだな」


 思わず声が漏れる。けど――


 仮想デスクトップに表示されている『ブレバト』のアイコンをツンとつつく。


 せっかく誘ってもらったeスポーツ部については、わだかまりが残る結果となってしまった。


「クラスにはうまく馴染めたけど、部活になると一緒にやっていける自信がないなぁ……」


 弱音が口を突いて出る。『くまたろう』として知らない人を相手にして腕試ししていた時はそうは思わなかったけど、部活という枠の中だとなんだか上手くいかない。ずっと寝たきりで相手を観察(みること)しかできなかった私の唯一の特技である観察眼が、他の人たちの心の動きを感じ取ってしまう。私がいることで普通でいられなくなる状態が分かってしまうのだ。


「本当は朱音ちゃんたちと一緒にいる時間を増やしたいんだけど、多分私には部活は難しいかな」


 ツンツンとアイコンをつついていると、ブレバトが起動してしまう。私は思わず「あっ」と声を漏らすが、せっかくだしログインしようと私はそのままゲームを始めることにした。


   ☆


 地域のグローバルエリアに降り立った私は、そういえば新着メッセージが来ていたことを思い出す。


 新着メッセージの印が付いたメッセージボックスを選択すると、運営からのお詫びメッセージが届いていた。


「なんだろう」


 運営からのメッセージなので安全だろうとそのメッセージを開くと、急遽行われた大型メンテナンスに対するお詫びの文章が綴られていた。


「あ、そうか。そういえば先週メンテナンス中で入れなかったな」


 メッセージを見て思い出す。スポーツ大会で倒れて病院で治療することとなった時、有坂さんに設定を戻したもらった翌日に折角病院に来たのでもう一度師匠に会おうとログインを試みたのだ。しかし、ブレバトはメンテナンス中で入れなかったのを思い出す。


「あっ、なんかゲーム内通貨がいっぱい増えてる」


 お詫びの品として贈られたゲーム内通貨を見てびっくりする。ゲーム内通貨はログインするだけでも少しずつもらえるけど、お詫びですごい桁の金額が付与されていた(始めたばかりで分からないけど、討伐モードとかイベントに参加してももらえるらしいので、もしかするとそこまで高い金額じゃないのかもしれないけど……)


 これだけお金があったらなにか良いアイテム買えるかも。しかも、期間限定でレアアイテムも出品されてるって書いてあったし。


 私はちょっとワクワクしながら、のどかな遊牧民の集落の様な神里町のグローバルエリアでアイテム購入ができる『ショップ』へと向かう。

 そこはこの町の雰囲気に合わせてなのか、小さな三角テントに販売用のNPCがいる質素なものだった。


 私が「買い物をしたいです」と話しかけると、音声に反応してNPCが受け答えしてくれる。


 目の前に表示された商品リストに目を遣る。

 そこには幾つものアイテムが表示されていて、購入可能なものはハイライトされていて、装備可能なものは青色表示になっていた。


「う〜ん、どれにしようかな」


 一覧を見て私が唸る。装備や消費アイテムなど買えるものが沢山あって目移りする。


「色々あるけど、今日のバトルでの敗因となった致命の一撃(クリティカルヒット)対策の防具かな……」


 装備のタグを選択し、一覧を表示する。


 頭のクリティカルを防ぐ『鉢金』、喉のクリティカルを防ぐ『首飾り(チョーカー)』、心臓のクリティカルを防ぐ『胸当て(プロテクター)』がある。

 そしてそれぞれ素材として『(レザー)』『鋼鉄(はがね)』『魔銀(ミスリル)』の三種類ある。革は耐久値が低いが軽量、鋼鉄は耐久値が高いが重量、魔銀は革と鋼鉄の中間で魔法スキルの耐性がついているが高額となっている。


「あー、見た目変更アイテムも捨て難いな……」


 通常では有料アイテムである、胸や腰回りのサイズ変更や装備や髪・瞳などの色変更ができるアイテムにも目移りする。


「ん? これって、限定で出品されてるレアアイテム」


 装飾品にタブ移動した所で目についたアイテムにリスト移動していた手が止まる。


波の乙女の指輪(ウンディーネリング)


 丁寧に「おすすめ」のアイコンまで付いている。


「やっぱり日本人は限定品に弱いんだよね……」


 にはは、と笑みを浮かべながら、とりあえず性能を確認する。


【耐久値】 - (破壊されない)

【効果】水属性の射出スキルの射程範囲が拡大し、射出速度が上昇する。

【武具解放】スキル【濃霧】の効果が発動する。クールタイム10分。


「なにこれ、凄いアイテムじゃん」


 驚きの声を漏らす。値段を見ると支給された金額とほぼ同値だったので、多分運営がこれを買ってね、と出品したアイテムなのだと思う。同じくそれぞれの属性の精霊名が付いた指輪アイテムが並んでいた。


 他にも武器に『ドラゴンナックル』というレアアイテムがあったけど、そっちは私には魅力を感じなかったのでスルーしていた。ちなみにドラゴンナックルの性能は


【攻撃力】 +3

【効果】スキル【気功弾】の射程距離が大幅に拡大。

【武具解放】30秒間、筋力の上限値が限定的に解除される。クールタイム10分。


 だった。恩恵をうけるスキルを取得してないし、筋力上限値解放も常時【超過駆動(オーバードライブ)】を発動している私には旨味が無いものであった。


「う~ん、クリティカル対策したいけど、限定の指輪も欲しいし……」


 私は悩んだ結果、『波の乙女の指輪(ウンディーネリング)』と、クリティカル対策の装備でギリギリ残金で手の届く『革の首飾り(チョーカー)』を購入した。


「ありがとうございました」


 NPCの定型的な挨拶を受けて、私はニコニコ顔でショップを後にした。しかし、これで所持金がほとんど無くなってしまった。



「なかなか良い買い物したようだな」


 ストレージボックスを開いてニコニコしていた私に、後ろから声がかけられる。


「ひゃいっ」


 私はびっくりして変な声を上げて振り返る。

 そこにはクマの恰好のアバター『クマ子』さんが立っていた。


 買い物に夢中になっていて気づかなかったけど、もうクマ子さんとの約束の時間だったか。


 クマ子さんが装備している『くまくまスーツ』は、装備していると『表示名』と『見た目』が変更になるが、そのデメリットとして通常の名称にて行われる『アバター検索』や『フレンド登録』ができないのた。

 なので、未だにクマ子さんとはフレンド登録できていない。そのため『くまくまスーツ』の着用を続けるクマ子さんと落ち合うには時間と場所を決めて待ち合わせをするしかなかった。その時間と場所が、『21:00』に『Kamisato.town』であった。いつもは見晴らしのいい中央広場で待ち合わせていたのだが、今日は珍しくショップの前で出会った。多分、時間になっても私が広場に現れないから探しに来たのだろう。


「すみません。買い物に夢中になってて……」


 慌てて頭を下げる。


「いや、別に構わないよ。今日は少し話をしたいと思っていたので、話をしながら中央広場まで歩こう」


 クマ子さんはそう言うと、中央広場に向かって歩き始めた。


「はい」


 私はその後ろを追うように小走りに移動開始する。


「あの、クマ子さん……というか、風祭先輩って呼んだ方がいいですか?」


 無言で歩くクマ子さんにおずおずと話しかける。


「どちらでも構わないが、この格好の時は『クマ子』の方で呼んでもらった方がいいかな」


 クマ子さんからそう言葉が返ってきたので「分かりました」と頷く。


「ところでショップでは何を買ったんだ?」


「えっと、買ったのはレアアイテムの『波の乙女の指輪(ウンディーネリング)』と、クリティカル対策の『革の首飾り(チョーカー)』です」


「ほう。今日のバトルではクリティカルで負けたからな、それの対策か」


「はい」


「やはり悔しかったんだな。良かった」


「あの、部活では噓をついてしまい。すみませんでした」


「いや、構わねぇよ。だが、どうしてだ? アタシだったらあんな負け方だったら悔しくて、すぐにでも再戦を挑んだけどな。時間は貴重だ。時間を空けてしまえば相手も対策をしてくる。勝てるときに勝たなければ、一生勝てないかもしれなくなってしまうからな。勝てそうな時は勝つまで挑戦する。それがアタシのモットーだ」


 クマ子さんの力強い言葉に、私はぐっとこぶしを握り締めてから思いを告げる。


「もし私が部長さんに勝ってしまったら、部員のみんなが困惑しちゃうかなって思って…… そう思ったら、「勝てた」とか「もう一回」なんて言えませんでした」


 その言葉を聞いて、クマ子さんは立ち止まり、真っすぐこちらに視線を向ける。


「部員が困惑する? だから何なのだ。困惑したきゃさせればいい。努力や才能は認められなきゃ意味がないとアタシは思っている。他人に気を使って、自分が積み上げてきた時間を無駄する方がアタシからすると嫌なことだがな……」


 ふっと笑みを見せてから、再度歩み出す。


 怒られると思っていた私は肩透かしを食らった感じになった。


「あの…… 怒らないん、ですか?」


 クマ子さんの背中に問いかける。


「ふ、怒りはしないさ。逆にあの言葉が本当で、初めて会ったときに言った「強くなりたいです」の言葉が嘘だったら怒っていたかもな。

 強くなりたいという気持ちを持ち続けているならば、アタシからは言うことはない。


 それに、Snowが入部するとなると大会のレギュラー枠が減るからな。レギュラーを狙っているアタシとしては助かる部分もある」


 クマ子さんは振り返って冗談めかして笑う。


 私は最初意味がわからなかったが、どうやら私が入部したらレギュラー枠を一つ取られてしまうという意味の様だった。そんな私なんかがレギュラーになんてなれるはずもないのに、なんだか過大評価されてるみたいだ。


 そんなやりとりをしている間に大広場に出た。


「さて、話したかったことの本題だ」


 クマ子さんはそう切り出す。


 私は何を言われるのかドキドキしながら頷くのであった。


 

◼️補足説明◼️


【ゲーム内通貨について】

・ログイン毎に少額支給される。

  毎日連続ログインしていると額が少しずつ上昇する。

・討伐モードの報奨金として受け取れる。

  報奨金の金額は対象エネミー毎に設定されている。

・課金にてチャージすることも出来る。


【武器、防具の入手について】

・ゲーム内通貨にてショップで売買することができる。

  ショップは基本装備とその素材違い(鉄、鋼鉄、魔銀、王金)の物が常時売っているが

  プレイヤーが売却したレアアイテムも販売される。

・レアアイテムについては、高難易度の討伐モードにて極稀にドロップする。


【武具の性能について】

・武器には攻撃力として+1〜3が設定されていて、ダメージにボーナスが付く。

・防具については、ダメージ軽減ボーナスは存在せず、耐久を上回る蓄積ダメージを受けると破壊される。

・クリティカル耐性装備は耐性回数のクリティカルを受けると破壊される。



★作者からお詫びと、改稿のお知らせ★

クマ子=楓にづてですが、見切り発車で登場させたため口調が統一されてませんでした……

次話投稿前にクマ子=楓の口調を全面見直しします(物語の内容は変わりません)

次話の前書きでどのように見直したかの詳細を記載したいと思います。

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[一言] クマ子ナイスフォローすぎる
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