34.部活見学⑤〜すれ違う思い〜
◼️前回までのあらすじ◼️
部活見学でなぜか部長さんとバトルすることになった。
激闘の末、負けてしまったのだが……
◼️side:柊木 真雪
試合が終わり、部員達の観戦モードの設定が解かれ姿が現れる。
……
…………
皆は一様に呆然としていた。
「なんとか、部長の威厳は保てた、かな」
今まで戦っていたセツナ先輩がふぅと溜息をつく。
「さすが、せっつん! 危なく負けるとこだったじゃん、手を抜きすぎだよ」
「びっくりさせないでほしいっす。ちょっとハラハラしちゃったっすよ」
「がはは! 流石に素人に負けたとなっては面目丸潰れだからな」
三年生の先輩方がセツナ先輩の周りに集まり、喜びあっている。
「いやいや、Snowは本当に強かったよ」
しかし、それに応対して笑うセツナ先輩の顔は少しぎこちなかった。
三年の中世貴族風のアバターだけは無言で、セツナ先輩とこちらを交互に見ていた。
周りを見回すと、部員達も「そうだよね。手加減してたのか、さすが部長」とみんな納得したみたいだった。
「そっか……」
言葉が漏れる。
その様子を見て、私はまたしても自分の考慮の足りなかったことに気付く。
もし私が部長さんを倒してしまっていたら、部長さんを中心とした部活の雰囲気を壊してしまっていたのだな、と。
実際に拳を交えた(相手は剣だったが)から私は感じ取れている。セツナ先輩は最初の攻撃こそ様子見だったが、二刀流になってからは本気であったことを。しかし、なんとか話が丸く収まりそうなこの状況で、それを私は口にはしない。
試合後の、あのなんとも言えない雰囲気を思い出す。
師匠やクマ子さんに鍛えられて強くなったと思ってはいたけど、その事を知らない人から見れば今月からゲームを始めたばかりの素人なのだ。そんな相手に部活の部長が負けたとなっては、その立場を揺るがす事になりかねなかったのだ。
そう、これで良かったのだ。
私は初めてゲームで負けて良かったと思った。思ってしまった。
私はまだ世間を知らない。世間知らずだ。学年や男女が入り混じる部活に参加するにはまだまだ経験が足りないのだと痛感してしまった。
「負けちゃった、えへへ……」
振り返ってアカネちゃん達に笑ってみせる。
アカネちゃん達もキョトンとした表情だった。
「勝ってくるって言って戦ったのに、なんか恥ずかしいね」
軽く頭を掻きながら歩み寄る。
「いやいやいや、凄かったよ。始めたばかりのSnowが部長とあそこまで戦えるなんて思ってもなかった」
「うん。すごかった」
慌てて二人が言葉を掛けてくれる。でも、その反応はぎこちなく何か戸惑っている様だった。
ずっと寝たきりだったから、こういう小さな変化に気付いちゃうんだよな。やっはり私の存在はこの部活の中では異質で、和を乱す可能性が高いのだ。
「不運だったな。まさか追尾の水刃が、致命の部位に当たってしまうとは。
もし、水刃を喰らったとしても、通常ダメージの箇所だったならば次の攻撃で決まっていたのに。紙一重で勝利を逃してしまったな……」
冷静に結果を分析して近づいてくるクマ子さん――もとい、カエデ。カエデだけは他の部員と異なり、試合前と変わらない。
「え、うん……」
視線を向けられ、私は条件反射で頷いてみせる。
「ん? どうした」
そんな私の反応を疑問に思ったのか、首を傾げるカエデさん。
「なぜ、悔しさを隠す?」
次の言葉にハッとする。それは図星をついた言葉だった。そう、私は悔しかったのだ。本当は「悔しい! 勝てた闘いだった。次は絶対勝つ!」って言いたかった。だけど、さっき私は「これで良かった」と思ってしまったのだ。
病院で寝たきりだった時代に全身に激痛が走る発作が起きた時が度々あった。その度にお父さんやお母さんは悲しい顔をしていたが、痛みを我慢して笑ったら悲しい顔をしなくなった。
今回も一緒だ。私が我慢すれば部員の人たちは普通に部活をすることができるんだ。
「隠してなんか、ないよ」
だから私は嘘をつく。カエデさんは眉根を寄せて、納得いかない様な表情で「そうか……」と返す。
今度、グローバルスペースで会ったときに謝ろう。
「今のバトルを見たらSnowが不正をしていたなんて思う部員はいないな」
中世貴族風のアバター『レッドリーフ』が宣言をする。
その言葉に部員達は納得した様に頷き、先程私に対して意見を言った髪の毛が逆立ったアバターが歩み寄ってきて「申し訳ない。部内で貴女がチートツールを使っていたのではって噂があって、それを信じてしまっていた。今の試合を見れば、貴女の実力だったのは明らかだ。心から謝罪する」と頭を下げてきた。
「えっと、あの、気にしなくて、大丈夫です、よ」
私は慌ててそう応える。
パン! パン!
「よし。Snowの疑いが晴れたならば、通常の練習に戻るぞ。
セツナ、それでいいよな?」
レッドリーフ先輩が手を叩いて注目を集めると、そう指示をする。
部長であるセツナ先輩は、副部長であるレッドリーフ先輩の言葉に「ああ……」と頷く。
なんとなく、少しぎこちない雰囲気が広がっている。
やっぱり、私の存在が部に不協和音を生じさせているみたいだ。
そう感じ取った私は「すみません」と手を挙げる。
「ん、どうした?」
「そろそろ私の家族が迎えに来るので、見学はここまでで抜けてもいいですか?」
そう告げる。本当はお父さんには「夕方に迎えに来て」と伝えているので時間があるのだが、部活の邪魔にならない様に嘘をついて退出を願い出る。
「そうなのか。本当はここからの通常の部活動を見てもらいたかったんだがな」
対応してくれた副部長さんが唸る。
「あの、Snowは身体が弱くて家族に送り迎えしてもらってるんです」
「そうです。VRゲーム内であってもあまり無理させちゃダメな子なんです」
私の言葉が体力の限界のサインだと思ってくれたのか、アカネちゃんとルナちゃんが庇う様な意見を言ってくれる。
「ああ、すまない。引き留めようとしたわけではないのだ。今日は見学に来てくれてありがとう。もしウチの部に興味を持ってくれたなら、ぜひとも入部してくれればと思う。お疲れ様」
途中、セツナ先輩の方に視線を送っていたが、そのままレッドリーフ先輩が退出許可をくれた。さらに「みんなも」と促すと、部員一同が声を合わせて「お疲れ様でした」と挨拶をしてくれた。
「Snow、大丈夫? 校門まで私達が一緒に行こうか?」
アカネちゃん達が心配そうに声をかけてくれたけど、私は首を横に振って「大丈夫だよ。二人はこのまま部活を続けて」と返す。
こうして私はみんなに「ありがとうございました」と告げてパブリックエリアへ移動した後、ログアウトするのであった。
◼️side:椛谷 慎一郎
試合が終わった。
結果から言うと、セツナの勝利だった。
しかし、それは喜ばしい勝利ではない。「辛勝」そう表現するのが最も正しい表現だろう。
俺の目から見ても実力伯仲、最後の駆け引きなどは確実にSnowの方が上手であった。
Snowは蹴り系の技を使用した移動だと思われる凄まじい轟音を上げながらの高速移動を多用していた。それを最後は無音の移動手段に切り替えたのだ。明らかに最後のラッシュ中にセツナは相手を見失っていた。その時点でSnowの勝利は確定的であった。
しかし、奇跡が起きる。追尾効果を付与して打ち出していたスキルがSnowの喉元を切り裂いたのだ。正に運が良かったのだ。
勝利したセツナだが、試合が終わってから明らかにショックを受けていた。試合には勝ったが、勝負には負けた。そう思っているのであろう。
俺自身もここまでの実力があるとは思わなかった。俺と闘った時は無鉄砲に突っ込んできた印象だった。しかし、セツナとの対戦では冷静に相手の動きを分析し対応する高い対応力を見せつけられた。まさかと思うが、スポーツ大会当日に高熱を出していたと聞いたのだが、俺と対戦した時は意識朦朧としていたのかもしれない。
「今のバトルを見たらSnowが不正をしていたなんて思う部員はいないな」
未だにどこか心ここに在らずなセツナの代わりにこの場を纏める。
俺の言葉を受けて先程不満をぶち撒けた後輩がSnowに謝罪していた。
とりあえずこれでこの騒動は落ち着くだろう。色々と想定外のことが続いたが、これで通常の活動に戻れる、と思ったのだが――
Snowが退出したいと願い出て来た。
これだけイレギュラーなことが続けば興味が削げてしまうのは仕方ないか。
本来なら通常の部活動を見てもらい、興味を持ってもらって入部へと導きたかったんだが――
う〜ん、と唸ると、Snowと同じクラスの二人が口添えをしてきた。
俺は素直に引き留めようとしたわけではないことを伝え、退出を許可する。
一度、セツナに視線を向けて「いいのか?」と合図をしたのだが、その意図は通じなかった様だ。
そのまま、Snowは退出してしまった。
その後、部活は通常通りに進められ、最後に皆で筋トレ3セットをこなして部活は終了となった。
刹那は部長として宣言通り筋トレを5セットこなした。その間に後輩たちはダイブルームの清掃を終わらせたので、部屋の戸締りは残った3年でやると伝え、先に上がってもらった。
他の3年にも、今日は疲れている様に見受けられたので先に上がってもらった。
俺は部屋の端で足を組み、端末にダウンロードしていた小説をバイザー越しに読み進めていた。ページ送りをするために、定期的に虚空に指を躍らせる。
「っし、終わりと」
刹那が筋トレを終了させる。そしてスポーツバックから水筒を取り出して水分を補給すると、さらに取り出したハンドタオルで汗を拭う。
俺は刹那がひと段落ついた頃合いを見て、読んでいた読書アプリに栞を設定して終了させる。
「ってか、なんで慎一郎は残ってんのよ?」
俺の存在に今気づきましたと言わんばかりの調子で刹那が問いかけてくる。
「お前に確認したいことがあってな。それで少しここで暇つぶしさせてもらったよ」
バイザーを収納し、眼鏡の位置を直しながら告げる。そして座っていた椅子を清掃しておく。
「確認って何。まさか愛の告白とかか?」
「つまらん冗談はよせ。下校時間が近いから単刀直入に訊く。
Snowと闘ってどうだった?」
余計な雑談は不要と、刹那の冗談をバッサリ切り捨てて核心の質問をする。
刹那は不満気な表情を浮かべていたが、俺の質問を聞いた瞬間、真剣なものに変わる。
「慎一郎しかいないから正直に言うけど、あの子はハッキリ言ってバケモノね。とんでもない才能の塊よ。
今日のバトルはたまたま勝ちを拾えたけど、次にもう一度闘ったら勝てる気がしない。10回闘って一つ勝てるかって印象ね。その一回をたまたま今日拾えたってとこ。次に闘る時までにもっと鍛えなきゃ追いつくこともできない」
刹那はグッと下唇を噛み締める。
俺から見れば刹那も大概の天才だ。その刹那が今のままでは届かないと認めた相手だ。とんでもない逸材なのは間違いない。だが、刹那は天才が故に負ける事をあまり知らないのだ。なので自身が負けた(と感じた)時、周りが見えなくなってしまう。特に今回は部長という肩書きがあるため、部員の前で気丈に振る舞ってしまった。それがどの様な結果をもたらすか気付きもしないで。
「次か…… その機会が訪れるかは、これからの俺たちの対応次第になるな」
刹那に現状を気づかせるための言葉。俺の予想通り刹那は「どういうこと?」と反応を見せる。
「部活中に何度か合図を送ったのだがな、全く気づかなかったか?
お前が認めたあの少女、部活の途中で帰ってしまったろう。その時のあの子の心情が分かるか?」
俺が投げかけた質問に刹那は口をつぐむ。
「まぁ、負けたと思っていたお前はあの時それどころじゃなかったのは理解している。それでももう少し周りに気を配れるようにならないといけないな」
「う゛、痛いところを突くな……」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「ふっ、こうやってお前に強く言えるのも幼馴染である俺くらいか。だから歯に衣着せずに言うぞ。
試合後の心情はSnowも一緒の様だった。向こうは「勝てた試合を落とした」と思っていたのだろう。だが、試合後の部員の反応を見て気づいたんだろうな。部活という集まりの中では部長であるお前が一番強く、皆を先導する立場にないといけないのだと。あの子は途中から諦めた様な表情をしていた。多分、部長に勝ててしまうかもしれない自分の存在はこのeスポーツ部という組織の中には必要ない存在だ、と思ってしまったのだろう。
そして程なくSnowは用事があると言って、ログアウトしてしまった。
色々とイレギュラーがあったが、本来ならば通常の部活動の様子を見せて、興味を持ってもらい、入部させるのが目的だったんだが、今の状況だとあの子が入部するという可能性は低いだろうな」
まっすぐに言葉を伝える。
「そうか、そんな事になっていたのか。慎一郎の言う通り、私は周りが見えていなかったな……」
額に手を当て、項垂れる刹那。
「刹那、お前はどう思っている?
スポーツ大会の後も言ったと思うが、俺は今年の全高ブレバトグランプリで全国を目指すならば絶対に必要な人材だ。何とかして部に招き入れたいと思っている」
真っすぐに刹那の方を見ると、顔を上げた刹那と目が合う。
「もちろん、私もそう思っている」
しばらく見つめあった後、ふと笑みがこぼれる。
「そうか。その認識の確認が出来たなら残った甲斐があったというものだ」
「不甲斐ない部長ですまないな…… やはり慎一郎が副部長としていてくれて良かった」
「ふん。部長は脳筋過ぎるんだよ。それに強がってるだけで、打たれ弱いしな……」
「ぐぬぬ…… 言い返せない。くそっ、慎一郎のくせに……」
「ははは、やっといつもの刹那に戻ったな。さて、下校時間が近いさっさと部屋を閉めて帰るぞ」
「ああ。そうだな。久々に一緒に帰るか?」
「構わないよ」
「助かる。帰り道で一緒にSnow勧誘作戦を考えよう」
「ふん、そういうと思ったよ」
そんなやり取りをしながら、俺と刹那は夕焼けに染まるダイブルームに施錠をして、学校を後にするのであった。
◼️補足説明◼️
致命の一撃について
心臓・首・頭(脳)の三箇所については、致命の部位となっており、該当箇所の部位破壊もしくは一定以上のダメージが入った場合、致命の一撃として一撃で体力が0になる。
一発逆転の追加要素として組み込まれたが、未だに賛否両論がある機能である。
★作者の独り言★
投稿が遅くなってしまい、すみません…
難産な回でした。すれ違う真雪と刹那の心情が上手く表現出来なく、苦肉の策で慎一郎視点を入れてみました……
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