28.見慣れた天井
◼️前回までのあらすじ◼️
スポーツ大会後、真雪は病院のベッドで目を覚ますのであった。
目を覚ますと、真っ白な世界であった。
見慣れた白い天井。
ここは病院だ。ずっとここに居たのだから、すぐに分かった。
あれ? 病気が治って、学校に行って、友達が出来て楽しい学園生活をしていた筈――
なんで私ここにいるんだろう?
状況が掴めない。
なんで私、病院で寝てるの?
麻酔を打たれているのか、身体がふわふわしている。これは麻酔が解けたら全身が痛いやつだ。過去の経験からそう推察する。
顔も熱っぽい。
「…ぁ……あー……」
全身麻酔じゃないみたいで、声は出せるみたいだ。
すぐ横で機械が意識が戻ったことを知らせる為、ピーピーと音を鳴らしている。
やはりここは病院だ。
私、ここでずっと寝てたのかな?
もしかして――
全身から血の気が引いていくのが分かった。最悪な予想をしてしまった。
「もしかして……」
私の唇が小刻みに震える。
最悪の予想。口にしたら現実になってしまうかもしれない。でも、誰かが「違う」と言ってくれるかもしれない。
だから、言葉にする。
「私……夢を、見ていたの、かな。全部、夢……」
言葉にすると切なくて、ポロポロと涙が溢れた。
「計器が反応してる?
あっ、真雪ちゃんが目が覚まして――
柊木さん、柊木さん! 真雪ちゃんが目を覚ましましたよ!」
遠くでナースのお姉さんの声が聞こえる。
部屋の外が慌ただしくなる。
私は何も出来ずに、涙を流し続けるのみだった。
いくつかの声が近づいてくる。
先陣を切って近づいてきた声はお父さん。
「良かった。目を覚ましたんだな、真雪。ホント、ホントよかった」
お父さんは私の身体に気を遣ってか、私の身体に触れないようにすぐ横でベッドに顔を埋めて泣いていた。
そんなお父さんの泣き声に、呆然としていた私の意識が現実に引き戻される。
私はゆっくりとお父さんの方に視線を向ける。
泣いている場合じゃない。お父さんが悲しんでるのだから、安心させてあげなくちゃ。
「お父さん。泣かないで、私は大丈夫だから……」
私はお父さんを安心させられる様に笑って見せる。
だけど、先程の嫌な予測が脳裏に残っているためか、うまく笑えてないのが自分でもわかる。
それでも無理にでも笑う。
「真雪。無理して動かなくていいからね。安静にしていればすぐに元気になるってお医者さんが言ってたから」
お母さんの声だ。視線を向けるとお母さんが心配そうに祈るように指を絡めてこちらを見ていた。
たけど、私の視線は母さんではなく、その隣にいた人物に釘付けとなった。
「私が見ていながら、真雪ちゃんにオーバーワークをさせてしまいました。重ね重ねですが、本当に申し訳ございません」
そこにはスーツの似合う女性――柏葉先生が頭を下げる姿があった。
「柏葉、先生……」
見開いた目から熱い涙が次々と流れ出した。
学校の、私のクラスの、先生だ。
もし夢であったならば存在しない人物だ。
私の涙にみんなが驚いた顔をするが、涙で滲んでよく分からない。
お父さん、お母さんも心配して声をかけてくれるが、それも自分の嗚咽でかき消されて耳に届かない。
「良かった。
夢じゃ、なかったんだ。
私、学校に、行ってたん、だよね……
本当はまだ病気が治ってなくて、夢を見てた、だけかもって……
そう思っちゃってて……」
最悪の予想が外れてて良かった。
嬉しさで涙が止まらず、周りの声も聞こえないので、必死に自分の気持ちを言葉にして伝える。
「私、もう寝てるだけなんて嫌だよ。
学校、行って、友達と一緒に、お話しして、授業うけて、ご飯食べて、みんなと一緒にいたいよ。
夢じゃなくて、ほんとに、良かった。良かったよ。
うぅ…… うわあぁぁぁぁぁ……」
私はそれ以上言葉にすることができず、思いを爆発させて思いっきり泣いた。
生まれて初めてこんなに大きな声を出して泣いたかも知れない。
途中からお母さんが、私の頭を撫でてくれて、少しずつ冷静さを取り戻していった。
「どう。落ち着いた?
ふふふ。真雪ちゃんは学校、大好きなのね」
「ひっぐ、ひっぐ、ひっく……うん。うん!」
お母さんの言葉に私は大きく頷いて応えた。
「大丈夫よ。すぐ元気になって、また学校に行ける様になるから、今はゆっくりと休みましょうね」
お母さんの優しい声に私はもう一度「うん」と答えて、もう一度泣いた。先程は嬉しさの涙であったが、今度は安堵の涙だ。
「先生。先程は怒鳴ってしまって済まなかった……
真雪がこんなにも好きな場所を、私は奪ってしまうところだった」
「いえ、お父様の怒りはご尤もですので、お気になさらずに。
二度と今回の様なことがない様に管理を徹底することをお約束します」
お父さんと先生がそんなやりとりをしていた。
後でお母さんに聞いたのだが、私が学校で倒れたと聞いたお父さんが激怒していたらしい。
見舞いに訪れた先生方にキツく当たり、学校側の正式な謝罪と再発防止の案を提示するまで娘は学校に通わせない、と強く出ていたみたい。
その話を聞いた時に「信じられない」とお母さんに言ったら、「ふふふ、そうね。真雪の前では泣いてばかりだけど、ああ見えてお父さんは激情家なのよ」と言われた。
私の「信じられない」は、「学校に行かせない」の言葉についてだったのだけれど、その言葉は撤回したみたいなので、私は空気を読んで「そうなんだね」とお母さんに言葉を返した。
そんなこんなで、私は大事を取って三日間、病院で安静にして過ごす事となった。
翌日の夕方、柏葉先生がお友達を連れてお見舞いに来てくれた。
来てくれた友達は朱音ちゃんと美月ちゃん、あとスポーツ大会で一緒だった有坂さんだった。
朱音ちゃんと美月ちゃんは、今日eスポーツ部の部長が直々に私をスカウトに来たって教えてくれた。
「部長に認められるってすごい事なんだよ!」
私の手を取って二人が熱弁する。
朱音ちゃんがブレバトの話題になって熱が入るのは予想していたけど、美月ちゃんも興奮して話していたことに驚いた。
後でネットで調べたけど、うちのeスポーツ部の部長は有名なプレイヤーだった。そんな人に認められるなんて、とても光栄なことだった。
その後、有坂さんとも話をした。
有坂さんは何度も何度も私に謝った。
私は何で謝られていたのか最後まで分からなかったけど、なんだか謝られた後にブレバトを起動してと言われて、パスワードロックを解除してくれた。
私はパスワードロックに困っていたので「解除してくれてありがとう」ってお礼お言ったら、また有坂さんに謝られた。なんだか有坂さん泣いていたみたいだったけど、何だったのだろう。私は何度も「気にしないで。謝らなくていいよ」と言葉を返した。
こうして数日、病院で安静にした後、家に帰ることになり、翌週から学校に復帰する事となったのであった。




