16.勝利と敗北
■前回までのあらすじ■
「成敗っ!」
真雪は勘違いしたまま、いじめっ子達をこらしめた!
真雪からの視点に戻ります。
あー、楽しかった。
Winnerの文字を目の前に見ながら私は拳を突き上げる。
まさにアニメと同じ展開。聖なる拳で妖を退治する正義のヒーローだった。
やっぱりスキル【超過駆動】を使用していると、思った通りに身体を動かせる。
奥義の『崩穿華』も撃つことが出来た。崩穿華は真陰熊流格闘術としてアレンジされた『発勁』で、気を操る高等な技術が必要なのである。それをリリース版のBrave Battle Onlineで再現可能であることを確認できただけでも大収穫だ。
私は勝利の余韻を味わいながら、戦闘を終了させると、元のカフェテラス風の共有エリアに転送された。
「あれ?」
戦闘している間に結構人が増えているみたいだけど、ミレイ達の姿が見当たらなかった。
私はメニューを開いて、フレンド欄を確認したら、二人ともログアウト状態になっていた。
「もう、ログアウトしちゃったのか……」
二人の行動の速さに着いていくので精一杯だ。
また、二人を待たしちゃいけないと、私も慌ててログアウトをする。
★
現実世界の身体が覚醒する。
ふう、と一息ついて私は端末のバイザーを仕舞い、ダイブ後特有の身体の凝りをほぐす為に軽く全身をマッサージする。
なんだか、カプセルの外から慌ただしい音が聞こえる。
隣から聞こえるから、木下さんかな?
私は急いでマッサージを終わらすと、外の様子を見ようとカプセルの扉を開ける。
「なんなのよ、アイツ。あんな化け物なんて聞いてない」
「私もよ! ヤバイ、またバトルしても敵うわけない」
「なんで私まで巻き込んで――」
見ると、慌ただしく荷物をまとめ、臨時ダイブルームを出て行こうとする木下さん達の姿があった。
振り返った有坂さんと目が合うと、有坂さんの顔から血の気が引いて「ひぃ」と小さな声が溢れた。
「あの、木下さん。もう、終わり。もう一戦。次は私が悪役で――」
折角楽しくなってきたのに、いや二人に楽しませてもらったのに、次は二人に正義の味方役をやらせてあげようと声をかけたのだが、二人はさらに顔色を悪くして「ふざけんな」と言葉を残してダイブルームを出て行ってしまった。
「えっ?」
私は状況が掴めずに声を漏らした。
あれ、なんか木下さん達を怒らせちゃったのかな?
謝らなくちゃいけないと思うのだが、私はまだ帰りの支度をしていなかった。それに現実世界では歩く速さも遅く、走っても二人に追いつくことは不可能だ。
「う…… なにをしちゃって怒らせたのかは分からないけど、明日ちゃんと謝ろう」
カプセルに戻って、中を清掃したあと、鞄と靴を手に取ると「ピロリン」とメッセージ着信の音が鳴る。
「木下さんかな?」
靴を履きながら、音声コマンドでメッセージを開封すると、メッセージはお父さんからで「今、校門の前に着いたよ」という内容だった。
「お父さんからか」
木下さんからでないことにガッカリしながら、私は手早く「すぐに行くね」と返信して、臨時ダイブルームを後にした。
★
「絞め技についてはダメージ判定が小さい為、相手の体をタップすることで降参の意を伝える」
私は夕飯後に今日の戦闘で何がいけなかったのかを知る為に、戦闘の一般常識のサイトに目を通していた。
その中で思い当たる項目を発見した。
「そっか、トントンされたのは降参の意味だったのか」
有坂さんに変則三角絞めを仕掛けた時、足をトントンと叩かれたのを思い出す。
そっか、あれは降参の意味だったのか。
師匠との戦いの時は、組み技や関節技は綺麗に決まったことがなかったし、師匠は私が限界を迎える寸前で解放してくれたから、そういう暗黙のルールがあるなんて知らなかった。
「明日、有坂さんに会ったら謝ろう」
私は仮想画面で開いていた知識サイトのウィンドウを閉じると、ふぅと一息つく。
基本画面が目の前に表示されている。
正式リリース版でのブレバトは、画像やエフェクトなど私がやっていた試作版と比べて格段に綺麗にそして華やかになっていた。
ずっと師匠とばかりバトルしていて勝った経験がほとんど無かったから、今日のバトルは『勝つ』という経験ができて、すごく楽しかった。
それはもちろん、木下さん達が私に正義の味方役をやらせてくれたからだと思うけど。
無意識にトントンとブレバトのアイコンをタップする。
ブレバトが起動する。
うーん、ちょっとだけ遊んでみるかな。
ベッドに仰向けに寝転がって、なんとなくでログインしてみる。
学校のローカルネットワークとは違い、遊牧民のような草原にいくつかテントが立ち並ぶような野外に出現する。
「グローバルネットワークだと、近くのポータルエリアにでる、だったっけ?」
ネットで調べたブレバトの知識だ。
メニューで現在位置を確認すると「Kamisato Town」と表示されている。
どうやら私の住んでいる神里町のポータルエリアみたいだ。
現実と一緒で、あんまり発展してないな、と苦笑する。
と――
『バトルが成立しました。フィールドを移動します』
急なシステムメッセージ。
視界が明転して、景色が変わる。
目の前に相手の姿が現れる。
「えっ」
その姿に、私は驚きの言葉が漏れる。
そこに立っていたのは熊。
師匠と同じ熊の姿のアバターであった。
師匠と違うのは腰に日本刀を装備しているところ。
名前の表示は、『クマ子』?
1vs1 Battle! Ready
3…2…1…
カウントダウンが始まる。
師匠、じゃない。でもどうしたら。
目の前の熊――クマ子は、腰溜めに構える。
闘うつもりだ。
ならば
私も拳を構える。
Fight!!
闘いが始まる。
パリッ!
小さなスパークを残してクマ子が搔き消える。
早いっ
「スキル【超過駆動】!!」
慌ててスキルを発動させる。
ガキィィィン!
一瞬で間合いに入ったクマ子の抜刀術を、鉄甲で防御する。間一髪だ。
「ふん。さすがにこの程度ならば防がれるか……」
冷静なクマ子の声。それは女性の声であって、師匠の声ではない。
「ならば、これならどうだ」
複数の斬撃が閃光となって襲いかかってくる。
ギン、ギン、ギギギィィィン!!!
それを必死に鉄甲で防ぐ。
「くぅっ……」
全てが紙一重だ。私の得意とする『流水の捌き』も速すぎる斬撃には効果が薄い。
この人、私より――速い!
なんとかギリギリで相手の攻撃を防御出来ているが、速すぎてこちらが攻撃する隙が無い。
今まで自分より速い相手と闘ったことがなかった。これって相当に相性が悪い相手だ、と直感する。
ドッ!
足に鈍痛が走る。
「なっ」
下段蹴り?!
目の前にFirst Hit!!の文字が踊る。
「くっ」
体勢が崩れる。
そこに容赦なく斬撃が襲う。
私はそれを後ろに転がるように避ける。
ザクリ……
しかし、切先が私の肩を切り裂き、体力が削られる。
「おい、お前の実力は、そんなもんなのか?」
クマ子が刀を鞘に仕舞い、再度居合の出来る構えを取って呟く。
くっ、挑発されているのは分かっている。けど、反論できない。このままでは攻撃すら出来ずに負けてしまう。
ならばっ
距離をとって、起き上がりざまに私は行動する。
ドン!!
蹴り込んだ地面が爆発したように爆ぜる。
剛の歩法『烈脚』だ。
反撃できないなら仕掛けるまでだ。私の出せる最大の速度で間合いを詰める。
「甘い!」
クマ子が居合にて刀を振り抜く。それは私が刀の間合いに入るのと同時。完璧なタイミングでのカウンター。私の体は真横一文字に切り裂かれた――ように、相手は思った筈だ。
間合いに入る直前に無音で駆ける静の歩法『幻歩』に切り替えて相手の背後に回り込む。
「むっ」
クマ子が手応えがないことに気づいたようだ。
「奥義『水穿』!」
出し惜しみせず、奥義を叩き込む。が、硬いものに防がれる手応え。
クマ子は咄嗟に左腕の鉄甲にて防御したのだ。
バキリ……
クマ子の鉄甲に亀裂が走る。
「なにっ」
驚愕の声。職業が拳闘士でないため固有スキル【武具不壊】の恩恵が無い。しかし、鉄甲は盾を装備できない職業のメインの防御手段となるため、相当に高い耐久性を持っている。それを一撃(厳密には瞬時同箇所連続攻撃だが)で、破壊されたのだ。クマ子の声に動揺の色が混じる。
ここで畳みかける!
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
拳の連打を叩き込む。が、その全てを刀で防がれる。
速度で相手の防御を抜けない。
だが今度は逆に相手が防戦一方になり、反撃できない状態に陥っている。
「チィッ!」
痺れを切らせた下段蹴りを放つ。だが、それは先ほど見ている。
跳びあがりその蹴りを躱すと共に、身体を捻り回し蹴りを放つ。
ドッ!!
よし。クリーンヒット!
肩口に蹴りが入り、相手を吹き飛ばす。
カウンターと判定されたため、大きなダメージが入ったが、距離が出来て攻撃の手が止まる。
「ふぅ……」
私とクマ子は同時に息を吐き出す。
体力は互いに8割。ほぼ互角だ。
「なかなか、やるな。だが、今までの攻防でアンタの実力は把握した」
クマ子はゆっくりと刀を鞘に戻す。
「では、アタシもスキルを解禁するとしよう。
断言する。ここからアンタは何も出来ずに敗北する」
そう言葉を続けて、重心を落とす。
敗北、その言葉は『勝ち』の味を知ってしまった私からすると、もう味わいたくない苦い言葉だ。
「負けません!」
グッと拳に力を込める。
「スキル発動【空間転移】」
その言葉とともにクマ子が消える。
ズシュッ!!
背中に鋭い痛みが走る。
「なっ!」
背後からの斬撃。まったく動きが見えなかった。いや違う。スキルと言っていた。瞬間移動するスキルがあるのだ。反応できずにまともに攻撃を食らってしまった。
「くっ!」
裏拳を放ち反撃するが、バックステップで躱される。
距離を取られた――そう思った瞬間
ズシュッ!
またしても斬撃が脇を抉る。
な、なにが起きたの?
切られた部位を押さえて相手を見ると、発動したスキルである【二段跳躍】の文字が踊っていた。
二段跳躍? 背後に跳んだ後に、空中でもう一度前に跳んだっていうことなの?
思考が追いつかない。
その間にまたしても刀の一撃を受けてしまう。
「くっ」
苦し紛れに蹴りを放つが空を切る。そして、カウンターで斬撃が襲う。
必死に距離を取り攻撃を避けるが、畳み掛けるようにクマ子が【空間転移】を発動する。
後ろっ!
咄嗟に背後からの攻撃に反応し、攻撃を受け止める。
「スキル発動【雷音発破】!」
ズドン!!
閃光と轟音。視界と聴力が奪われる。
うあっ、ヤバい!
五感を2つ奪われ、なす術が無くなる。必死に破壊不能である鉄甲で防御を固める。
しかし、相手もそれが分かっていてそこを狙ってくることはない。
ドスッ!
腹部に激痛が走る。
ガードの隙を縫って、腹部に刺突の一撃。体力が大幅に減少したのが分かる。だが――
「致命の一撃じゃないのなら!」
ぐっと腹筋を締め上げ、拳を構える。
「なっ」
驚いた声をあげたのを聴こえない耳の代わりに、刀伝いに腹が感じとる。腹筋で刀が固定され、相手は攻撃不能。
ぐっと足を踏み込み拳を繰り出す。視界は戻ってないけど、この距離ならば当たる筈だ。
「真陰熊流格闘術、奥義『崩穿華』!」
「スキル発動――」
拳を繰り出すと同時にクマ子の声。
手応えあり。インパクトの瞬間に気を爆発させる。
クリーンヒット!
「やった、か?!」
瞼を開く。ぼんやりと見えた視界には、粉々に砕けた木片が映った。
「え、これは――」
混乱する私の言葉に応える声は後ろから聞こえた。
「さすがだ。私に奥の手のスキル【空蟬】を使わせるとは」
振り返った私が見たのは、拳を構える熊の姿。この構えはまさか
「トドメです。スキル発動――」
私が最後に見たのは真陰熊流格闘術奥義の『崩穿華』であった。
「えっ」
頭の中は混乱してるが、身に沁みついた格闘の経験からか反射的に防御態勢をとる。
でも心の冷静な部分は理解していた。この技は防御不能なのだ。
ドン!
衝撃が突き抜ける。
その一撃のダメージは破壊不能の鉄甲を貫通し、私の体力を0にしたのだった。
――こうして私は戦いに敗北したのであった。
■登場人物紹介(ゲームアバター編)■
クマ子
職業:侍
属性:雷
主武器:刀
防具:くまくまスーツ
スキル:
空間転移★
二段跳躍★
雷音発破★
空蝉★
貫衝烈拳★




