第3話 ヴァルデンブルク解放戦線からの使者達
「小僧、言わせておけば陛下に対して好き勝手に吠えよって!!」
どうやって言えばアルフレッドをこちらの陣営に引き込めるだろうかとオレが頭を悩ませていると突然に怒鳴るように伯爵が会話に割って入ってきた。ちょ、ちょっと、伯爵、怒鳴るなよ。敵対したらますます窮地に追い込まれるじゃないか!? まじかよ。勘弁してくれ……
「陛下がお目覚めになったのは数ヶ月前なのだ! それも、長期間に渡る昏睡状態の所為で体が全く動かない状態じゃぞ!!」
伯爵は怒りが収まらないと言わんばかりに凄まじい程に早口で言葉を捲し立てている。
「何度も言わせないで頂きたい。今、私は陛下と話しているのです。伯爵は…」
「そんな、陛下にさらなる気苦労を与えられるじゃろうか?」
「だから、私は…」
「いや、それは言い訳かもしれぬ。だが…」
伯爵の話を遮ろうとしたアルフレッドの言葉を伯爵は完全に無視。そして、なおも口を動かすのをやめない。って、よく見るとアルフレッドの頬がピクピクしてるよ。イケメンのお兄さんの顔が微妙にヒクついているよ。これはヤバイんじゃないか!?
「いい加減にしてください!!」
アルフレッドが怒りが頂点に達し、もう我慢できなかったのだろう。彼は伯爵の言葉を無理やり遮断しようと叫んだ。
「おい、おい、何を怒鳴ってるんだ? いったい、なにをやってるんだよ。アルフレッド?」
アルフレッドが怒鳴ったと思ったら、突如として扉から長身白髪の見覚えのある男が入ってきた。
コイツは確かヴァルデンブルク解放戦線のメンバーのレオナードだったか。元ヴァルデンブルグ海軍少佐。そして、ヴァンデンブルグ併合記念の式典をぶち壊して、オレとセリアを誘拐したリーダー格の男だよな。
「誰じゃ。ここにコイツを入れて良いと許可した奴は!!」
「おい、おい、そこで伸びているジジイの部下を責めるなよ」
ヤレヤレと言わんばかりに首を振りながらこちらに近づいてくるレオナード。倒れている兵士を見て歯ぎしりをする伯爵。うーん、老獪なこの人がここまで露骨な態度で悔しがるってレオナードは侮れない奴なんだろうな。また、面倒くさいのが増えたのか…
「くっ、この小僧め! いったい、ここに何をしに来たのじゃ! 今、儂らは大切な話し合いをしておる最中じゃぞ!!」
「ハッハハハハ、少し覗いてたけどさ。ジジイが一方的になんか言っていただけだろう」
伯爵の言葉を聞き、笑いながら奴はこちらに歩み寄ってきた。
「おお、陛下、これはこれは、唐突にこのようなご訪問をお許しください。陛下の御前に再び、参れたことを嬉しく思います。まさに恐悦至極!」
そして、オレの下に来るなり、先ほどまでと打って変わって頭を垂れ、丁寧過ぎる言葉で対応してきたぞ。絶対にコイツ、敬語とか嫌いだよな。すごい、違和感があるわ!!
「小僧! そんな対応で許すわけないだろう!!」
「ああん? ジジイが決めることじゃないだろう?」
そうだよなと言わんばかりに上段にいるオレを仰ぎ見る闖入者レオナード。ああ、面倒くさい。ここで、許さない。摘み出せと言っても、どうせコイツはここに居座りそうだよな。いや、絶対に居座るよな。うん、オレに選択しないだろ。
「良い。許す」
オレは鷹揚に頷き、王の貫禄を醸し出したぜ。なんちゃって…
いや、うん、醸し出せていないよな。わかってるんだよ。
「ホラよ。陛下もこう言っているしな。と言っても、本物の陛下かどうか。まだ、俺様にはわからないだろう」
オレの許可を受けたを確認したレオナードは威張るように胸を張り、伯爵を見て笑う。
「小僧、その発言は陛下に対して無礼だぞ!!」
「ああ、相変わらず、うるさいジジイだな。おい、アルフレッド!!」
伯爵に怒鳴られても、全く気にする素振りも見せずにレオナードはアルフレッドに問いかけた。
「アイツは本物の陛下だったのか?」
突然、入ってきたレオナード元海軍少佐。彼はエラそうな態度で俺を指差し、そう言ってきた。
なんて質問をするんだよ。ああ、ますます状況が混沌としてきたよ。どうすればいいんだ!? オレは心の中で頭を抱えながらそう悲鳴を上げるしかなかった。




