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第2話 疑いの眼差しと詰問

 臨時の玉座にいるオレを見上げるように顔を上げる赤髪の男。オレが彼の表情に視線を向けると、そいつの顔には人の良さそうな笑みが張り付いているように見えた。


 だが、この状況でそんな冗談みたいなことは絶対にありえない。だって、王の復帰があまりにも唐突すぎたからさ。王であるオレの帰還をただ喜んで微笑んでいるなどと、普通の感性をしていたら、まずありえないことだ。必ず何か思惑があるはずだ。


「陛下のご帰還誠に喜ばしく存じます。また、陛下に再び謁見を賜れたことは望外の喜びでございます」


 男は低音の優しげな声音とは裏腹に疑いのまなこでこちらを伺っているようにジッとこちらを見ていた。そう、仮の玉座の下側から伺える奴の瞳はオレの正体を暴いてやると言わんばかりに睨みつけている。


「ふむ、アルフレッドだったかな。確か近衛に所属していたような…」


 オレはさも昔の記憶を探っているようにそう言う。う、アルフレッドの目が余計に鋭く細まったぞ。うん、ますます疑いの眼差しが強くなったように感じる。まぁ、それも当然か。ああ、先ほどの使者の態度がいっそ清々しく感じる。奴は最初からこちらが偽者と決めつけて正体なんて、どうでもいいやというスタンスで話してきたから対応が楽だったんだよな。


「私の名前を覚えておいででしたか。誠に感激の極みです!」


 コイツはあのバカ使者とは対照的にオレの正体を探ろうとしているように感じるぞ。だが、なぜだろう? だって、偽者ならばそれが誰だろうとコイツには関係ないだろうに…


「愛娘であるセリアの護衛を引き受けていたモノを忘れるわけがなかろう」


 はっはははと突然に立ち上がり、笑い出したアルフレッドを不敬だぞと叱責する伯爵。


「誠に失礼しました。そのお言葉。セリア様にもお聞かせしたかったです。陛下がセリア様を思っていたと知ったら、きっと感涙するでしょう」


 態とらしく慇懃無礼な程にゆっくりと丁寧にオレを睨みながらそういうアルフレッド。わからん。気でも狂ったのか。くそ、いったい、コイツは何が言いたいのだ!!


「この若造が何を言っておるのだ!! 陛下の御前でそのような物言いが許されると思っているのか! それではまるで陛下が愛娘を大切にしていないみたいではないか!!」


「大切にしていたと言うのならば! なぜ、たった1人の愛娘であるセリア様とあの大罪人との結婚をお止めにならなかったのですか!! あなたからこの国を奪った反逆者との!!」


 アルフレッドの言い分は正しい。まさにその通りとしか言いようがない。確かにオレが健在ならば、当然のごとくにあの反逆者ジークとの結婚など絶対に許さなかっただろう。


 や、やばいな。よく考えたら、矛盾だらけのガバガバ設定だ。どうする。民衆には傷が癒えるまでと言って、誤魔化したがそんなことでコイツは納得するだろうか。


「お答え願えませんかね? いや、それとも陛下はやはり…」


 くそ、何も思いつかない。こうなったら、言うしかないのか!! オレは焦る気持ちを抑えることができずに民衆に説明した時と同じことを口走っていしまった。


「そ、それはな傷が…」


 しまったと思った時には既に遅かった。アルフレッドは追撃するようにさらに早口で捲し立ててきた。


「傷があった? でも、意識はあったのですね。ならば、陛下はセリア様にその存在を知らせることは出来たのにずっと黙っておいでになったのでしょうか?」


「い、いや、それには事情が…」


「事情? 傷があって動けなかったというありえない言い訳のような事情を信じろとおっしゃるのですか。この国にはあなたの命令なら死ぬ気で聞くモノが大勢いるのに…」


 つまり、国を失っても、オレならばセリアを助けることができたと? さすがにそれは過大評価というモノだぞ。


「落ち着け、小僧! 陛下の御前であるぞ!!」


「伯爵は黙っていてください! 私は陛下にお尋ねしているのです。なぜ、あなたはたった1人の愛娘であるセリア様と国を滅ぼした大罪人であるあの男との結婚をお止めにならなかったのか!!」


 アルフレッドの急変した態度に慌てて、話に割り込んできた伯爵。その彼の言葉を遮り、オレにさらに問い詰めるために口を動かすアルフレッド。


「陛下! お答えください!!」


 真剣な瞳でこちらを見つめるアルフレッド。くそ、マズイ状況になってしまった! コイツが所属する旧海軍主体のヴァルデンブルク解放戦線から協力が得られないとジーク軍との戦で勝利は危ういモノになるかもしれない。どうする。どうすればいいんだ…

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