第10話 二人のハノファード伯爵
大きな広間を兜、甲冑を身に付けた兵士達が所狭しに集まり、 ハノファード伯爵の声に耳を傾けている。
「先遣隊の情報は既に聞いているかの? アリアストルの丘付近に敵軍が進行してきたと。それも極めてわずかな少数でじゃ」
ハノファード伯爵はチラリと本棚の影から様子を伺っているオレを見た後にさらに言葉を続ける。
「これは本隊を隠すための罠であろう。彼らが来た方角、及び地形から敵の本拠地はアルトノーイの森の辺りにあると推測できるの」
答えを知っている人が誘導するのは思ったよりも歯がゆいモノだ。とは言っても爵位にモノを言わせて強権を使えば部下を簡単に動かせるだろうが、別に敵の本拠地を叩くことが今回の目的ではないからな…
「御館様。偵察の者が帰ってきたました。どうやら間違いないようです。御館様が仰っていた場所に敵の総大将であるジーク・ヴァルデンヴルクがいることを示す旗があるとの報告を受けました」
皆が伯爵の推測が当たっていたことに驚いていると同時に流石は先々代ヴァルデンブルク王に我が国の最高の知恵者と云わしめた御仁だと褒め称える。
「部隊を整えよ!! アヤツらに目にモノを見せてくれよう!」
ヤツは鋭い目でハノファード伯爵の兵士達の隊長らを見ながら、強い口調でそう言う。
「ハッ! すぐに準備を致します!!」
そう言って敬礼をする部下。そんな緊張した会議の空気を壊すかのように1人の兵士が扉から伯爵達の所に駆け寄ってきた。
「た、大変です!!」
この慌て用はようやくアイツが来たのか!?
「おい、今は作戦会議中だぞ!」
隊長の1人がそう声を荒らげて、駆け込んで来た兵士に向かって言ったら、
「作戦会議? 儂に報告が来ておらんぞ? どうなっているのだ?」
という声と共にアイツが現れた。そうハノファード伯爵である。
「何? 儂がもう一人、いるだと!?」
二人の伯爵を見比べて驚愕している部下達。
……やっときたのかよ。このクソジジは遅いぞ。
「なるほどの…」
そう言って、部下に命令を下していたもう一人の伯爵は、
「多少の小ネズミが紛れているとは思っておったがの。まさか、堂々と儂に化けておる奴がおるとわな!!」
と隊長格の兵を見渡した後、自信を漲らせた声でそう言う。
「先程の作戦、この自信に満ちた声。こちらの方こそ間違いなく御館様だ!!」
「いや、だがあちらで驚愕されている御仁もどう見ても御館様だぞ?」
突然、現れたハノファード伯爵に驚愕を隠せない兵達。
オレはそれを見てほくそ笑む。この混乱は予想以上だ。本当に笑いが止まらない。オレは声を立てずに笑った。




