第九十一話
「……戦死……だと……」
「あぁ……そうだ。将宏は……将宏は戦死した」
「そ、そんな馬鹿な事があるものかッ!!」
「……将宏の遺品だ」
前田少佐はそう言って霞にある物を渡した。
「……これは……将宏にあげたハンカチ……」
それは以前に霞がハンカチが無かった将宏にあげたハンカチだった。
「あいつが水交社にいた時に持ち忘れたらしい」
「そ、それじゃあ……将宏は……」
霞はそう言って泣き崩れたのであった。それはヒルダとライサも同様であった。
「………(全く、将宏も厄介な役目を俺にしてくれたものだな)」
「一体何故彼が戦死せねばならんのかね?」
「それは……河内本人から聞きましょう」
「何?」
「遅くなりました」
「か、河内君ッ!?」
襖を開けて現れたのは戦死したはずの将宏であった。
「おっと、今の自分は幽霊ですよ」
「料亭に訪れる幽霊か。これは面白いな」
宮様はニヤリと笑い、将宏を座らした。
「君が戦死とはどういう事かね?」
「実は前田少佐の家族やヒルダ達に自分が未来人だとバレましてね」
「何ッ!?」
将宏の一言に東條達は目を見開いた。
「流石にあの家にはもう居れませんからね。後顧の憂いを断つために戦死したわけです」
「しかし……」
「これは自分がこの世界に逆行した時から決めていた事ですので」
「……そうか」
東條は言葉を飲み込んだ。「私が言いたいのはそう言う意味ではない」という表情をしていたが宮様は東條に視線を向けて首を横に振った。
それだけ将宏の決意は硬かった事である。
「これからは楠木将裕となります」
「ふむ……楠木とは?」
「南北朝時代の楠木正成から取りました」
「成る程。では楠木少佐、君には陸軍と関係を深めるために陸軍から前田少佐と関係を築き、第二機動艦隊特務参謀を命じる」
「判りました」
こうして将宏は新たに楠木将裕と名を変えたのであった。
「それと……問題はだ……」
「ウラジオストクの米航空基地……ですな」
ウラジオストクには未だに日本本土を爆撃してくる爆撃隊が存在していた。
B-29が投入されていたら目を覆う惨事があったかもしれない。
「爆撃して基地機能を喪失させるのが一番の手段ではないかね?」
「だがアメリカの工業力であれば直ぐに飛行場を回復させるぞ」
「戦艦部隊の艦砲射撃でやれば十分だ」
「ソ連が宣戦布告したと認識しないかね?」
議論が何時間にも渡って繰り広げられた。そして他の者達の疲れが見え始めた時、将裕が徐に挙手をした。
「何か案はあるかね河内……楠木君?」
「手っ取り早く占領しましょう」
『……は……?』
将裕の言葉に皆は唖然とした。
「し、しかしソ連側にしてみれば宣戦布告と取らないかね?」
「そこはソ連と交渉してみましょう。占領は戦争が終わる日までとして交渉すればソ連も頷くかもしれません」
「ソ連側が断れば?」
「大和型を含めた全戦艦を投入して徹底的に艦砲射撃で破壊して排気タービン式の戦闘機とジェット戦闘機を投入するまで時間を稼ぐしかないでしょう」
「……そうなると定期的に日本海に戦艦を投入せねばならんぞ?」
「代わりはあります」
「何かね?」
「富士や朝日、摂津などの旧式戦艦を現役復帰に改装させて艦砲射撃をさせます」
旧式戦艦が搭載していた三十サンチ砲は海軍の倉庫に埃を被って眠っていたのだ。
「……時間は掛かりそうだが得策かもしれんな。取りあえずはソ連との交渉次第だな」
宮様はそう呟くのであった。そして翌日、山本内閣で外務大臣を担当している重光葵とソ連と関係がある東郷茂徳がソ連大使と面会をした。
「……成る程、言わば飛行場のみを占領して対米戦が終了するまで租借……ですか」
「えぇ、その通りです。無論、対価として医薬品や食糧等の提供をしましょう」
ソ連はドイツとの戦争で工業力はズタズタであり、食糧も配給制になっていた。
日本は今のところは食糧等の配給制は無く、自活が出来ていたためこれを対価としたのだ。
「……これは私の一存で決める事は出来ません」
「無論、本国で検討して下さい」
ソ連大使は直ぐにフルシチョフへ情報を送った。
「……どう思うベリヤ?」
「……話は悪くないな。だが、此方はアメリカから支援を受けている。支援の量はハッキリ言えば日本とは比べ物にはならない」
「……では断ろう。艦砲射撃くらいなら構わないだろう」
「うむ、ウラジオストクには一切被害を加えない条件なら艦砲射撃を許可しても大丈夫だ」
こうして米航空基地は艦砲射撃及び航空攻撃で殲滅する事が決定された。
参加艦隊は山口多聞の第二機動艦隊と宇垣纏の第一艦隊が主力であった。
第一艦隊には五一サンチ砲を搭載した大和と武蔵もおり、飛行場破壊は容易であると思われた。
「今回の作戦は我々砲術屋の腕を見せる良い機会だ」
大和の艦橋で宇垣はニヤリと笑う。両艦隊は関門海峡を抜けて日本海へと出てウラジオストクへ向かう。
そして攻撃圏内に入ると第二機動艦隊の各空母は風上に艦首を向けて次々と攻撃隊を発艦させた。
攻撃隊は二波に分かれており、それぞれ二四〇機の攻撃隊である。
米軍も攻撃隊を探知していたが間が悪かった。
「くそッ!! B-29の離陸前に来やがってッ!! 奴等これを狙っていたのかッ!!」
滑走路には日本本土爆撃に向かう予定のB-29七十機が駐機していた。
「急いで戦闘機を出せッ!! 対空砲は時間を稼げッ!!」
「ですが滑走路にはB-29が……」
米軍にとって最悪の事態が起ころうとしていた。
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