第八十五話
ウラジオストクにある米軍派遣航空部隊の指揮所で派遣航空部隊司令官のルメイ少将は悩んでいた。
「……戦力が回復したのはいいが……強行にトーキョーに向かえば被害は拡大してまた戦力の補充だ……」
ルメイは東京空襲を敢行すべきか悩んでいたのだ。仮に東京空襲を敢行したとしても日本の防空隊が二重三重に待ち構えている。
無駄に部下の命を散らすわけにはいかない。しかし、ホワイトハウスからの命令を守らなければならない。
「……トーキョー空襲はB-29くらいしか無理だろう。B-29が投入されるまでサドガシマやニーガタ等地方都市を潰すしかないな」
ルメイはそう決断して爆撃隊の目標を東京から佐渡島、新潟等地方都市に変更してB-29の投入要請の電文を放つのであった。
そして爆撃隊はウラジオストクから出撃をして佐渡島と新潟を爆撃するのである。
「何ッ!?」
迎撃に飛び上がった疾風のパイロットは佐渡島に爆弾を投下していくB-17に目を見開いた。
「……奴等め、爆撃目標を佐渡島に変えやがったなッ!!」
『叩き落としてやれェッ!!』
『おのれアメ公めッ!!』
パイロット達は怒り狂って機銃弾をB-17やB-24に叩き込んで撃墜するのであったが民間人の死傷者は続発した。
「……死傷者三百名弱か……」
「それは佐渡島だけだ。新潟をも含めると死傷者は千名を越える」
大本営では山本達が会議をしていた。
「北海道や東北でも米軍の爆撃機が目撃されている。爆撃目標を東京から日本全土に変えたようだな」
「陸軍の飛行集団を内地に帰還させているが、全機帰還するのには時間が掛かる」
「何か策は無いのか? このままでは日本は……」
前田少佐がそう呟いた時、将宏が手を上げた。
「何かあるのかね河内君?」
「……第二機動艦隊の戦闘機隊を陸軍の飛行集団が内地に帰還するまで基地航空隊に配備させてはどうですか?」
『………』
将宏の言葉に陸海の関係者達はざわめきだした。空母の戦闘機を陸上げするのは愚策に近かった。
「……史実のい号、ろ号作戦をするのかね?」
山本がジロリと将宏を睨んだ。
「いえ、史実のい号、ろ号は敵航空部隊と敵艦艇の撃滅です。今回は敵爆撃隊の迎撃ですから問題はありません」
「……うむ、その方向で行こう。ただし、陸軍の飛行集団が帰還するまでだ。東條さんもよろしいですかな?」
「構いません。むしろ助かります」
東條の言葉に海軍関係者は苦笑した。
「それと……第一航空艦隊の一部、硫黄島の航空隊も帰還させて迎撃に加えよう」
こうして方針が決定して第二機動艦隊の戦闘機隊は期間限定ながら陸上げされたのだ。更に対爆撃機用として防空隊には噴進弾の整備が進められた。
「舞鶴方面に向かう敵爆撃隊を視認ッ!! 行くぞォッ!!」
烈風隊を率いる志賀少佐が突撃を命令して烈風隊が敵爆撃隊に襲い掛かった。
母艦飛行隊は海軍航空隊の中では精鋭と吟われる航空部隊である。なので整備兵や部品も一流でありスペック上の性能を引き出す事も希にあった。
母艦飛行隊は基地航空隊と共同で敵爆撃機を撃墜した。しかし、被害を完全に押さえる事が出来ず、民間人の死傷者は徐々に増えていた。
「このままでは各新聞社が我々に非難を訴えます」
「そんな事は分かっている。近日中には飛行師団も帰還するからそれまでの辛抱だ」
辻中佐の言葉に東條はそう言った。
「海軍も鹿屋や松山航空隊を日本海側に展開させる事を決定して日本海側の海軍航空隊に移動しています」
堀長官は何とか明るい気分にさせようとそう報告した。東條もそれを感じ取ってある報告をした。
「陸軍も最新鋭の四式戦車を制式採用した。移転した岐阜と山梨の生産工場で生産中だ。それに満州の生産工場でも生産を開始した」
四式戦車は三式中戦車を拡大発展させた最新鋭の戦車である。配備先は満州と内地の二ヶ所であった。
四式戦車は対ソ戦を想定にした戦車であり、戦車砲は九二式十サンチ加農砲でありソ連のT-34-85戦車やJS-2戦車等と対等に戦える……筈である。
筈なのは実際に戦ってないからである。地中海経由で向かおうにも時間が掛かりすぎるため、東部戦線に乱入する事はなかった。
だが、捕獲したM4三両をスクラップにしたのは間違いなかった。
「ふむ、それなら多少の心配は……」
その時、地響きが聞こえた気がした。そして次の瞬間、部屋に置いていたお茶が入った茶碗がカタカタと揺れだした。
「これは……地震ッ!?」
「机の下に隠れろッ!!」
その日、後の観測で千葉県を震源とした震度五弱の地震が発生した。
「軍を至急出せッ!! 陸戦隊も出動させろッ!!」
「横須賀の艦艇は東京湾に出撃せよッ!!」
大本営では陸海軍の将校達が指示を出していた。大本営から所々で煙が立ち上っていたのが見えていた。
「河内君と前田君は直ぐに戻りなさい」
「良いのですか?」
東條の言葉に将宏はそう聞いた。
「構わん。それに自宅にはタルノフ大尉もいるのだ。大使館の関係者を死なせるわけにいかん」
「……分かりました。直ぐに戻ります」
二人は会議室を退室して待機していた陸王に乗り込んで自宅に向かった。
「うぅ……大丈夫かタルノフ大尉?」
「うむ……何とかな。それにしてもこれが地震か。凄い揺れだったな」
霞とタルノフ大尉が部屋の中を見渡す。部屋の中は地震の影響で物が落ちたりしていた。
「此処は私がやっておくからタルノフ大尉は二階を見てくれないか?」
「分かった。見に行こう」
タルノフ大尉は二階へと登り、散らかった惨状を見た。
「これは酷いな……カワチ少佐の部屋とかも散らかっているだろうな」
タルノフ大尉は取りあえず歩けるように端に物を寄せながら将宏の部屋へと入った。
「うわぁ……」
将宏の部屋も散らかっていた。普通の物なら良いが、将宏の部屋には陸海軍が発行した多くの同人誌が部屋にばら蒔かれていた。
「……これはカワチ少佐本人やってもらうか……ん?」
その時、タルノフ大尉は表紙が博麗の巫女と白黒の魔法使いを弟子にした悪霊が描いてある同人誌と紅魔館の門番の同人誌の間に何かが挟んであるのを見つけた。
「……こ、これはッ!?」
表紙を見たタルノフ大尉は驚いた。表紙は『新型戦車』と書かれていたのだ。
タルノフ大尉はパラパラと頁を捲り中身を確かめる。
「これは……凄い情報だッ!!」
タルノフ大尉は本を懐に入れて階段を降りた。
「どうだった二階は?」
「う、うむ。酷い惨状だった。済まないが大使館に戻る。大使館も酷い惨状だと思うのでな」
「分かった。気を付けてな」
タルノフ大尉は慌てて大使館に向かうのであった。
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