お:おばけ
二回に分けちゃいました。
一話完結のはずが……。
ま、予定は未定ということで(←おいっ)
肝試しをしよう、とはじめに言い出したのは隣に住む三つ年上の男の子だったと思う。
いつもみんなのリーダー的存在のその子がやろうといえば、周りの子供たちに反論があるはずもない。そういう私もその中の一人だった。
面倒見のいい男の子の指示で、町外れにある廃屋で肝試しをすることになった。そこは大人たちから、決して近づいてはいけない、と厳しく言われているところだったから、数人の子供達は怖がって帰ってしまった。残った仲間達に悪く言われるのが嫌で、私は帰るということができなかった。
もちろん、凄く怖いし、一人で行くのならたぶん色々な言い訳をして逃げていたと思うけど、二人一組で行動する肝試しなら、強がりを見せる相手がいる分、なんとかなりそうな気がした。
それが間違いだったんだけど。
二人一組で行動する予定のはずが、どうしてか私は一人ボッチでこの屋敷のなかにいる。
たぶん、ペアなった同い年の男の子が私を怖がらせようとして、姿を隠したに違いない。それで私が泣き出したら、きっとみんなに言いふらすつもりなんだ。そんなことになったら、もうお隣の男の子は遊びに誘ってくれなくなってしまうかもしれない。唯でさえでも、最近みんな私をのけ者にしようとするから、こんなところで弱みを見せるわけには行かないんだ。そんなことをしてしまったら、みんなが私を置いていく理由ができてしまうから。
フィーリは女の子だから。フィーリはまだ小さいから。フィーリは足が遅いから。
いろんな理由で置いていかれているのに、更に理由が増えてしまうのは、どうしても嫌だった。
だから私は昼間なのに薄暗い屋敷の中を一人で進んだ。
一人だって平気だったって、胸を張ってみんなに言えるように。
そして、ルール違反をして私を一人にした男の子を思いっきりひっぱたいてやるんだ。
勢い込んで足を踏み入れた部屋で、フィーリは息を呑んだ。
何か、いる。
何か黒くて大きなものが、ソファの上にいる。
ペアを組んだ男の子じゃない。それよりももっと大きなもの。
フィーリは心臓がのどまでせりあがって来たように感じて、あわてて飲み込んだ。
ごくり、と大きな音がして、心臓が更に大きく音を立てる。
だめ、こんなに大きな音を立てたら、ソファの上の何かが起きちゃう。
それがおきたらどうなるのか分からないけど、あまりいいことがおきるとは思えなくて、フィールは口を手で覆って少しずつ後ずさった。
そのとき、フィーリの目に信じられないものが飛び込んできた。
ああ、神様。
肝試しを完遂した証拠として、とってこいといわれたボールが、よりにもよって、そのソファの向こう側にある。
おちつけ、フィーリ。
あそこにボールがあるということは、先に行ったペアがそこにおいてきたということだから、とってくるだけなら、きっと大丈夫。
そのあとで、フィーリのブローチをどこかにおいてくれば、肝試しは終了だ。
こんなの簡単だ。
ソファの上の何かはきっと、最初のペアがあとのペアを脅かすために置いたのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。
呼吸をしているように上下して見えるのも、きっと怖い怖いと思っているせいで、本当はきのせいなんだ、そうに違いない。
フィーリは自分に言い聞かせて、そうっと部屋に足を踏み入れた。
大丈夫。ソファの上の何かは動かない。
ゆっくりと息を殺してソファの上から目を離さないように。
ようやくソファを通り過ぎてボールに手が届いたとき、フィーリはほっと安堵の息をついた。それが良くなかった。
「だれ?」
「きゃぁっ!!」
ボールに目をやったのはほんの少しの時間だったのに、いつの間にかソファの上の黒い物体は、フィーリの背後に立っていて、驚いたフィーリは思わず手に持っていたボールを振り向きざまに思い切りその物体に向かって投げつけていた。
「危ないよ?」
ところがその物体は至近距離で投げつけられたボールを片手で受け止めて、反対の手でボールを投げたフィーリの腕をつかんでいた。
あまりにもありえないその動きに、フィーリは軽くパニックを起こした。
もうボールはいい。
肝試しを完遂できなくてもこの際いい。
次からみんなの仲間はずれにされるのは嫌だけど、それは今後どうにか挽回することにして、とにかく 今はここから逃げなければ。
そのためには、この腕が邪魔。
「おっと。きみ、どこからきたの?」
かじりついて腕を放させようとしたのを、軽く、本当に子犬を持ち上げるみたいに両脇に腕を入れられて持ち上げられる。
ありえない、もう大きいのに。
お父さんだってもうこんな風に抱っこしてくれないのに。自由になる足で思いっきり暴れているに、目線の高さに持ち上げられたまま、少しもぐらつかないなんて、ありえない。
いくら暴れても離してくれない相手に、次第につかれきってきたフィーリは力を抜いて持ち上げられた状態で、このあとどうしよう、と考える。




