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ま:魔法の言葉



 わがままを言って。

 不満を溜めて。

 何が不満なのかも分からなくなって。


 何をしてもどうしても不満に思ってしまう自分が嫌で、自己嫌悪でさらにいじけてしまう自分が嫌。


 わがままだって自覚がある。

 どうしようもない馬鹿だってわかってる。


 やめたほうがいいのも分かっているし、こんなふうに考える事自体おかしいことだっていうもの頭の中では分かっているのに、溢れてくる不満がどうしようもなくて訳がわからなくなってしまう。

 こんなに可愛くなくて面倒くさいことばかり言っていたら、嫌われるって分かっているのに、やめられない。


 だめだ、もう嫌われる。


 もし私が相手だったら、こんな面倒くさいことばかりいう相手なんて嫌だ。嫌いになるに決まっている。

 こんなことを言われたら、私なら悲しくて辛くなってしまうって分かっているのに。どうしてこんなことばかり口から飛び出てきてしまうんだろう。


 不満が悲しみに、絶望に色を変えて行く。


 もう呑まれてしまいそうになったその時。



「嫌いになったりしないよ」



 驚いて、不満も悲しみも絶望も、みんな止まった。


「どんな君でも好きだよ。面倒でも、わがままでも」


 魔法の言葉。


「好きだよ」


 動き出す。

 不満も悲しみも絶望も、自己嫌悪さえも。

 色を変えて、動き出す。


 不満は充足へ、悲しみは喜びへ、絶望は希望へ。

 自己嫌悪さえ、愛情へ変えて。


「私も、好きだよ」


 素直な私に戻る、魔法の言葉。




―――



 彼女がまた鳴きだした。


 ここ最近、不安定気味だ。

 結婚が近いし、女性ならではの毎月のものも影響しているのかもしれない。


 本当に些細なことで不満を爆発させて文句を言うくせに、最終的には自己嫌悪にどっぷりと浸かってしまうのはなぜなんだろう。

 こういう時は、どうしていいかわからなくなる。

 様子を伺っていると、自己嫌悪が過ぎて、泣き出してしまった。


 ああ、これは良くない傾向だ。


 鳴いているうちはまだいいけど、泣かれると辛い。

 こんな面倒なのは嫌でしょう、嫌いでしょう、とつぶやく。


 バカだなぁ。

 って言ったらまた切れられるかもしれないし、追い打ちになってしまうかもしれないから黙っておく。

 本人は真剣に悩んでいるみたいだけど、ボクには分かる。

 

「嫌いになったりしないよ」


 悩むのも、わがまま言うのも、自己嫌悪になるのも。

 全部が全部。


「どんな君でも好きだよ。面倒でも、わがままでも」


 ボクのことが好きだから。


「好きだよ」


 だから、心を込めて伝えれば。

 ほら。


「私も、好きだよ」


 ボクの大好きな笑顔が戻ってきた。



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