し:十二支外の物語~Out Of Twelve~
やっぱり。
モフモフが好きだ。
ツルツルも好きだ。
というわけで、暴走してしまいました・・・。
どうして、こんなことになってしまったのだろう?
―――
ユキは痛む腰をさすりながら、最後の洗濯物を思いっきり踏みつける。
最初は洗濯物を踏むことにかなり抵抗があったのだけど、今はもうそんなことは欠片ほども思わない。
むしろ、踏みたい。踏みつけたい!
そりゃもう、日ごろの鬱憤をここぞとばかりに解消させてもらう。しかも踏めば踏むほどきれいに仕上がるこの達成感がたまらない。
最後に井戸からくみ上げた水で濯いで、干す。
気持ちよいほどに真っ白だ。
「よきかな、よきかな。やっぱり洗濯はこうでなくちゃ!」
今日は天気がいいから、すぐに乾くだろう。もしかしたら、夜までにあと二回は洗濯できるかもしれない。
久しぶりの晴天。
風が心地よく、丹精込めて育てている8本のひまわりが太陽に向かってリズムを取るように揺れている。
ここに来て、もう4ヶ月。
時が経つのは早いものだ。
「がんばって、たくさん種をつけてね」
井戸から新しく汲んだ水をひまわりにやり、ユキは次なる洗濯物を取りに家の中に戻った。
―――
あの日、ユキは小学校のときからずっと育ててきたひまわりを今年も植えるべく、スコップに肥料、ジョウロをもって意気揚々と庭に出ていた。
葉野菜が好きなせいか、どうしても緑緑しい菜園に彩りを添え、妹たちのペットのハムスター、ハムソン一家の食卓の足しにすべく、毎年ひまわりを植えていた。
毎年毎年、妹たちにハムソン一家用にひまわりの種を取られてしまうから、今年はそれを上回るひまわりの種を収穫できるだけの大輪の花を咲かせる計画だ。
ふっふっふ、自慢のプチ菜園をひまわりの大輪で彩ってやるわっ! 待ってろよ、ハムソン一家!
早速作業に入ろうとした、その時。
「お姉ちゃん! ミスター・ハムソンが逃げた! そっちいったよ!!」
家の中から、下の妹の悲鳴が響いたと同時に上の妹の鋭い声が飛んでくる。
こんなときでも、ちゃんと『ミスター』付けするあんたに脱帽だわ、と思いつつ、ジャンガリアンハムスターのミスター・ハムソンの屋外脱走を阻止すべく、庭へ出る引き戸を閉めようとした。
引き戸を閉めるその瞬間、こっちへ走ってくるミスター・ハムソンと目が合った。
全てがスローモーションのようにゆっくりと、はっきりと見える。
慌てた妹たちが、おやつとビニール袋をもってミスター・ハムソンを追いかけてくる、その髪の毛の動きまで。
ミスター・ハムソンのまん丸の目から、少しも視線をはずしていないのに。
『ミツケタ。コイ、此方ヘ。モドレ、我ガモトヘ』
ミスター・ハムソンの口が、そう、動いた。
瞬間。
自分自身が、半分に、引き裂かれる。
ひとつに解け合っていたものを、無理やり分離させられる不快感、苦痛。
声にならない悲鳴をあげて、それすらも分かたれ、ユキは“ユキ”から引き剥がされる。
「駄目だよ、気をつけなくちゃ。ハムソン、ちっちゃいんだから」
「ミスターハムソンだってば! もう、ミキが急にゲージあけるから!」
「サキ姉が開けろってゆったんじゃん!」
無事に“ユキ”がミスター・ハムソンを捕獲し、妹たちの喧嘩が始まる前兆を聞きながら、ユキは意識を手放した。
―――
体がふわふわする。
もう苦痛も、不快感も、ない。
ただ、泣けないほどの喪失感。
そして。
私は世界から切り離された。




