Heroine
僕は、・・・いや、俺は自分のことを「僕」じゃなくて「俺」といおうと思った。
「僕」だとなんか、ひ弱な気がして。
二度目の大学受験で教育学部にすべりこんだ俺は、真面目に講義を受けて、バイトもそこそこ頑張っていた。
夜中に店舗の陳列棚に商品を並べる仕事だったが、良い収入源だった。
静かな深夜を切り裂くようにサイレンの音が聞こえた。
特に気に止めていなかったけれど、ちょうど休憩時間で自動販売機で缶コーヒーを買っていた。
青緑の服装の救急隊員が担架を運んできたのを見るとはなしに見てしまった。
「・・・みずき」
間違いない。みずきだった。痩せこけた頬。つむった目。運ばれていく。
「待ってください!」
「なんだ君は?」
「知り合いなんです」
「一緒に行きますか?」
「仕事中なんで、断ってきます。待っててください」
俺はバイト先の上司に事情をかいつまんで話すと救急車に便乗した。
「どこの病院にいくんですか?」
「精神科です」
「どこが悪いんですか?」
「ギャンブル依存性とアルコール依存性の常連です」
俺はみずきを見つめた。
俺があの時、見捨てて帰らなけりゃ、ここまでひどくならなかったんじゃないのか?
子どもっぽい正義感の塊だった「僕」。
今、「俺」はどうだ?
俺は彼女を救えるだろうか?
できる限りのことをしてみたい、と強く思った。
「僕」が愛してた「彼女」は一体どんな存在だった?
「彼女」はどこにいる?
時間と共に街は変わって行き、人さえ人にとどまらない。
俺は、善くありたかった。
「みずき」
かつて僕が愛した女の子。ただそれだけでも全力を尽くす価値はあるだろう。




