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「この本は当たりだな」
古本屋で見つけた昔の海外SFを読みふけっていた。
「アルフレッド・エルトン・ヴァン・ヴォクト」
どこの国の人だろう?
「スラン」
タイトルと表紙に惹かれた。
こういうストーリーを読むと、自分も逆境を潜り抜けて日の当たる場所でヒロインと一緒にハッピーエンドになれる気がする。
飯を食って、風呂に入ってスッキリしたら、明日からに備えて心の整理をしておこうと思った。
日常の細々したミクロから、人生観のマクロへ意識を切り替える。
ああ。僕はこんなだけど、ちゃんとやっていけるだろう。
不意にスマホの着信音がかかった。
「公衆電話?」
今どき珍しい。
「・・・もしもし?」
「・・・」
無言電話か?
「切るぞ」
「待って」
「え?誰?」
「私」
「・・・みずきちゃん?」
「うん」
彼女だった。僕とはもう縁を切ったんだとばかり思っていたんだけど、どうしたんだろう?
「なんの用?」
「近くまで来てるの会ってくれない?」
「僕は今、家じゃないよ。浪人生活するために親がアパート用意してそこで暮らしてる」
「困ったなぁ」
「何?」
「会えない?」
「・・・会えないこともない」
まだ未練があるから、遠くだって会いに行きたかった。
電車を乗り継いでみずきちゃんに会いに行った。
みずきちゃんは以前のみずきちゃんじゃなかった。愚痴と同情を乞う早口の話しを一方的にまくし立てて、微笑みを忘れてしまっていた。殺伐とした目が彼女の置かれた現状を映していた。
さっき読んだSFの世界観から抜けきれてない僕は、彼女を助けて二人で幸せになりたいという幻想をぼんやり感じながら、小一時間彼女につきあった。
「貸して」
「何を?」
「とりあえず、1万円」
「は?なんの金?」
「パチンコするの」
僕は、今、頭をガツンとやられたような気がした。
「・・・」
「早く」
「あのね、電車代を残して持ち合わせは3千円」
「えー」
僕は怒りを押さえ込みながら、財布から3千円抜き出すと、
「もう、二度と連絡してくんな」
と彼女に叩きつけて、きびすを返し、帰路についた。
スマホでB'zの「easy come easy go」のYouTube呼び出して聞いた。
もう彼女に未練はなかった。




