母さん
救急車で運ばれる間、意識がなかった。
気づくと病院のベッドの上で点滴を受けていた。
「栄養失調ですね」
と、新しい点滴の袋を取り換えに来た看護師が言った。
うつらうつらしていると、連絡が行ったのか、母さんが顔を見せた。
「ちゃんと食べてるの?駄目じゃない、自活するってお父さんに宣言したんでしょ」
僕はむっとした。
大学受験に失敗した僕を体よく追っ払った親父の味方しかしないんだ、この人は。
ただ「出ていけ」と言われて、放り出された僕は無力で、用意してもらったボロアパートの一室から塾に通い、単発のバイトでへとへとだった。
3日くらい水を飲んでた記憶しかない。
「帰れ!会いたくない‼」
「でもねぇ」
母さんは病院代を支払って、付き添いで僕をアパートまで送ってきた。
やれ生活パターンが悪いだの、世間体が悪いだの口うるさくてかなわなかった。
「嫌だいやだいやだああ」
僕は半狂乱で泣き叫び、泣きつかれて眠ってしまった。
目が覚めると母さんは居なかった。
台所にたべものが作りおきしてあった。僕は空腹に勝てずむさぼり食った。
食べると、気分が少し上向いた。
「母さん」
僕はぼろぼろ涙を流した。
僕が小さかった頃、本当に大事に育ててもらった。
今だって、本当に自立出来てる訳じゃない。
でも、あんまり落差が激しくて、僕は戸惑っているんだ。
親って一体何者だろう?
僕は自立出来るだけの度量は持ってないような気がして、さらに落ち込んだ。
スマホのアラームが鳴って、慌ててバイト先に連絡して休むと告げた。
現実は僕にとても冷たい。
やらなきゃならないことをこなすので手一杯で、ちょっとまごつくとこんな風になるのがおちだ。
それでも、地球は容赦なく回り続けている。




