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貴方達には後悔さえもさせません! ~可愛げのない悪女と言われたので【記憶魔法】を行使します~【書籍化】  作者: 川崎悠
フィナーレ編

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17話 暗中

「…………」


 荷馬車らしきものに押し込められ、近くには2人が陣取った。

 馬車を引いている人間が最低でも1人。

 残り3人は、他に馬でも引いているか。


(……どうしてこんな事になったのかしら)


 諦観と絶望が胸に染みた。


 ほんの少し前まで他家の令嬢に認められ、明るい未来が待っているように感じていたのに。

 私の人生は、きっと絶好調だったわ。


 なのに。


(不相応の夢を見た報いなのか)


 貴族でもなかった平民が、淡い恋の夢を見た。

 だが、この世界はそんなことを許してはくれなくて。


 優しい人達に囲まれて勘違いしてしまった私は、踏み越えてはいけない一線をいつの間にか踏み越えていた。


(……平民としても、貴族としても、上手くいくなんて)


 行き過ぎた夢。

 平民だったからこそ出来た友人たち。

 その関係を保ちながら貴族令嬢でもあろうとして。


 その結果がこれなのか。


(これから私はどうなるの)


 殺されるのか。慰み者にされるのか。

 どちらにしても待つのは地獄のような未来。


(ハ……)


 何だったのだろう、私の人生は。

 分からない。

 自分がどういう人生を歩んできたのかの記憶さえ忘れてしまったから。


 ほんの僅かな幸福な時間だけを頼りに、この先を生きていけるだろうか。

 いいえ、そもそも命さえ保てるか。


 ああ、本当に。何だったんだろう。

 私は、このまま終わってしまうの?


(……嫌)


 嫌だ。このままで終わりたくない。


 友人が出来た。

 優しくしてくれる義理の親が出来た。


 義理のお姉様たちと、義理の両親。

 私に、そうだと言える『家族』ができたの。


 そうして私は……恋をした。


(リック様……)


 もう一度、会いたい。

 そうでなければ。私は、ここでは……終われない。




「……追手は?」

「いや」

「…………」


 馬車内に入った男2人は彼らの中では立場の弱い方か。

 私が叩いた男は馬に乗ったらしい。

 怒り心頭だろうことが容易に想像がつく。


 このまま彼らのアジトに着いた時に、まず殴られるか蹴られるか。


 襲撃者のくせに彼らには馬が最低でも3頭。

 ただの盗賊・破落戸にしては準備がいいと言える。


 この近くを根城にしているような犯罪グループ?

 辺境領は治安が良いが、ここはまだ伯爵領で、グレゴリー家の管理地区のはず……。


 こういったグループが潜んでいるのか。

 他家の領地内。

 救援を動かすのに手間が掛かるはず。


 それでも私が攫われた目撃者は3人残せた。


 ただ、集まった令嬢たちの護衛騎士は、彼女たちを守るのが本来の仕事だ。

 私の救出に動くには……時間が掛かるでしょうし、動いてくれる程の関係は築けていない。


 少しお喋りをした程度の仲。

 家同士の繋がりができたワケでもなく、そうなる前の話。


 『見捨てた』という行為が醜聞に取られる可能性もある?

 かもしれないから多少の望みはなくもない……。

 だけど……、だめか。

 まず彼女達の安全が最優先だろう。



 そうこうしている間に、馬車がどこかに辿り着いた……らしい。


(……近い?)


 隣町に出るほど走っただろうか。

 彼らのアジトは子爵家の管理地域内にあるの?


 まさか。


「静かにしてろ。絶対に騒ぐなよ?」

「……」


 馬車内に居た男がそう脅してきた。

 私は表情を殺し、視線を向けるが、返事はせず頷きもしない。


(騒ぐと周りが気付くような場所?)


 だからこそ脅しをかけた?

 大きく声を上げれば、という考えが頭に浮かぶが……。


(殺されない保証はない……)


 騒ぐようなら、バレるようなら殺す。

 彼らはそれでいい可能性はある。


 それに、きっとこの場所はグレゴリー家の土地のどこかだ。

 ならば黒幕は、やはりグレゴリー家の。


(カルミラさん……ではないとしても)


 親と娘の思惑が同じとは限らないということに思い至った。


 辺境伯家の立場は、レノク王国西側一帯で一番の名家という立場。

 彼女のように『気持ち』を優先しての活動ではなく『政略』面を考えている親で……。


 私という存在が邪魔だった、としたら。


 私がいなければリック様……パトリック様の婚約相手がカルミラさんになった可能性が、きっとある。

 少なくとも彼女はそう考えていて。

 彼女の親は婚約の打診を今までしてこなかった?


(なぜ?)


 釣書を送る事自体は、たとえ上位の家相手でも失礼には当たらないはずだ。

 だって『パトリック様』には婚約者が今いないそうなのだから。


 ならばと考える令嬢のいる家は多いはず。

 にも拘わらず、そういったアプローチをしなかった?


 それは娘が適格でないと考えていたから?

 考えがあって他に結びたい家があったから?



 ……『私が邪魔』という前提で、黒幕がグレゴリー子爵という『仮定』ならば、何かおかしい。


 だってチャンスはあったはずなのよ。

 カルミラさんがああ言うほどに待ち望んでいた。


 なのに今まで動かず、私が出てきた途端にこんなことを?

 チグハグではないかしら。


 それに子爵家が動かすにしては微妙な戦力のような気もする。

 裏で動く者達を鍛えるにしても彼らはどうなのだろう。


 騎士1人、御者1人に対して6人掛かりで奇襲をかけて、少しの時間粘られてしまった。

 一瞬で倒せない程度の鍛えられていない集団。


(急遽、そういった人間を集めて動かさなければいけなくなった?)


 それもまた、なぜ。

 キッカケとなったのは間違いなく『私』であり、私がリック様の婚約者候補に上がったから。


 ……ほとんど決まりそうな話だったから。

 どうしても、それを阻止したくて?


 そこまで願う婚約に対する『暗躍』は、本当に今回だけの話なのかしら?


 ノーラさんが話していたように、私以外の候補はたくさん居たはずよ。

 でも、そういった人達は、今は『別の縁』を見つけていて。


 子爵家がそんな事をコントロールできるもの?

 或いは、この地の領主である伯爵家が?


 ……そうね。

 少なくともグレゴリー子爵だけではない。

 だって無理だろう。

 辺境伯家の令息の婚約者候補に干渉する。し続けるなんて芸当は、子爵家だけでは無理だ。


 ノーラさんが嫁ぐ予定なのは伯爵家。

 それも何かしら動いていて?

 だとしたら後ろに居るのは伯爵家の婚約に干渉できるような、それ以上の存在?


 どこかの侯爵家? 何のメリットがある。

 だって、そこまで遠回しな真似をするなら、もっと堂々と動けばいいはずよ?

 堂々と、どこの家との婚約を結んで欲しいとそう願えばいい。

 その方がよっぽど効率がよく、効果もあるはず。


 侯爵家からの働きかけの縁談なんて、婚約者の見つからない辺境伯家にとっては望むところなはずだもの。



 それをこんな回りくどい、リスクばかりが高い妨害をして。

 結局、結ぶ予定なのが……子爵家の令嬢という可能性??


 想像し難い理由があるなら、どんな理屈だってつけられるだろう。

 たとえばグレゴリー家がどこかの高位貴族に恩があって、娘の縁談を頼んでいるとか……。


(いえ、だから。正攻法の方が効率的で、問題がなく、さらにリスクのない選択なのに、今のような真似をする意味は?)


 何かが……大きく、違う。

 裏から手を回すにしては迂遠で。

 表から手を出さないのが妙な。


 ……『真っ当な理由』では、ない?

 現に犯罪に手を染めている。


 カルミラさんが願うような事が許される動きではない。

 それでいて、彼女は『何も知らない』?


 グレゴリー子爵家が、ディミルトン辺境伯令息の婚約に干渉したい理由があり、それは犯罪を犯して妨害をするほどのこと。


 なのに正当な形で婚約を結ぼうとはせず、辺境伯家の邪魔になるような工作ばかりをして……。


 ……裏に付いている『何者か』は、それらが実行できる程の力を持っている??



 それほどの力を持つ家門が辺境伯家に干渉したい理由は?

 侯爵家や、有力な伯爵家、はては王家と縁を結ぶのとは話が違う。


 辺境伯家は『国を守る』のが重きに置かれる家門。

 その家に対して下手な干渉は、自国に危機を招くことになりかねない。


 辺境伯家が仮に恨みを買っているとしても、結局やり口があまりにも『微妙』過ぎ、『無駄に影響力があり過ぎ』る。


 だって辺境伯家そのものに何かを仕掛けるんじゃなくて、婚約者『候補』となった令嬢に干渉するんでしょう?

 それも今回のように襲うのではなく、他の縁を進めて??


(そんな事するワケない……)


 でも、そうしていないのなら、今のこれは何?

 グレゴリー家は無関係? いえ、この段階でそれは難しい話。


 リック様……いえ、パトリック様への『嫌がらせ』が目的?

 でも、そうするとグレゴリー家は、娘との縁談を『嫌がらせ』と考えていることに。


 いや、そもそもカルミラさんを婚約者に据えるつもりはない?

 ただの実行犯か何か……で?



「おい。立て。こっちに来い。声を出さずにな」

「…………」


 私を移動させる準備が整ったらしい。

 アジトか何かへの移動……。


 もうすぐ日が暮れる時間帯。


 私は逆らわず男達の監視下の中、彼らについていく。

 人目を避ける必要があるような街や村の中では、残念ながらなかった。


 林の奥かどこかにある小屋。

 ここにそんな物があると知らなければ見つからないような雰囲気。


 それでも声を出すなと言っていたのと、馬車の走った距離からして、近くに民家ぐらいはあるはず……。


(逃げる機会があれば、それを見つけるのが最善。だけど)


 その民家の者が味方とは限らない。

 ここが監禁場所で、その民家は彼等の居住区という線もある。


「……」


 視界の端で、私が頬を叩き、そして私に暴力を振るった男が睨みつけてくるのを感じた。


 もちろん私は彼に視線を合わせない。

 そして表情も凍り付かせて一切の情報を与えない。


 怯えている姿も。震えている姿も。

 嫌悪する姿さえも見せてやらない。


 無関心で、視界にすら入れない事こそが一番、この男にダメージを負わせるだろうから。


「……っ!」


 案の定、最も彼のプライドを傷つけただろう私に、それでも男は声を掛けなかった。


(上下関係がある。そして、その『上』の者は、ここに居るのね)


 居なければ軽薄に声を上げただろう。

 だが、彼らは追手から逃げ切ったのに緊張感を持って動いていた。


(恐怖、武力で彼らを従えている何者か。一筋縄ではいかないか、とても強い……)


 無言ながらも彼らに逆らわずついてくる私に、縄すら掛けず、ただ取り囲み、逃がさないようにしながら。

 そうして私は、その男の前に立った。



「…………」


 男だ。見知らぬ相手。

 剣呑な雰囲気を持っている。


 6人の襲撃者と違って、きっと彼は訓練を受けているような戦士。

 顔を半分、隠していて口元が見えない。


 髪の色は暗い茶色。瞳の色は黒。


「お前が……シャーロットか?」

「……?」


(言葉に訛りがある? でも聞き取れる……)



「黒い髪に、アメジストの瞳……お前、が……シャーロット」

「え?」


 ふらり、と。その男は立ち上がった。


 私の周りを取り囲んでいた男達は、ビクリと震えて後退った。


(殺される、かもしれない)


 直感がそう囁く。この男は、そういう事を仕事にしている男だと。

 影のような雰囲気のある、男。


 その雰囲気はさらに危なく。

 どこか夢遊病のような。


 まるで私に、私の顔に吸い寄せられるみたいに。



「……もっと、よく顔を見せろ」


(……嫌。触れられたくない)


 こんな男に。どんな目的であったとしても。


 嫌だと思った。

 愛しい人の顔を思い浮かべた。


 触れられたくないと。関わりたくもない、と。

 近寄ってほしくないのだと。



 ──私は、彼を、『拒絶』する。



 その瞬間。


 バチィッ!!!


「なっ!?」

「きゃっ!?」

「!?!?」


 その場に居た全員の予期せぬことが起きた。


 何かが弾けるような音。

 それだけでなく薄い膜が私を囲み、そして衝撃を生み出して。


「が!?」


 私を包んだ光の幕が、アジトに居た男を弾き飛ばし、そして壁に叩きつけたのだ。

王子じゃないよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『断絶の結界』はまだ有効だったんですね 結界に弾かれる対象は『シャーロット・グウィンズを悪女に仕立て上げた人間』 これには隣国の王太子とその命を受けた者も含まれるのでしょうね ならず者たち…
[良い点]  ちょいとこじつけもあるかな?と思いつつでも頭脳はあのシャーロットだしなあ‥‥‥与えられた情報を精査し裏を想像するなんて普通に出来るでしょうね。  段々黒幕の正体に近付いて来たか。  流石…
[気になる点] 結界が弾くのはハロルド、ゼンク、クロード、マリーアの4人……と、シーメルも弾かれてたから、シャーロットが明確に拒絶した相手が弾かれる? ハロルドとゼンクはシャーロットの結婚式が「初対…
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