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招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~  作者: 都鳥
第八章

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8-7 森の奥の遺跡

 アリアちゃんの「頑張ろう」の言葉に力強く返事をしたはずの僕は、このダンジョンに足を踏み入れても(ほとん)ど出る幕が無かった。


 何せ、今はジャウマさん、ヴィーさんだけでなくセリオンさんまで揃っている。さらに僕との訓練で経験を積んだ、月牙狼(ルナファング)のクーも、今ではとても頼もしい。


「ラウル、アリアを頼んだぞ」

「は、はい!!」

 ダンジョンに入る前にヴィーさんがああして声を掛けてくれたのは、今にして思えば役に立たない僕に対するせめてものフォローだったのかもしれない。

 前後をジャウマさんとセリオンさんに守られ、横にはクーが付いている。僕がしている事と言えば、アリアちゃんに手を握られているだけだ。


 そのアリアちゃんも不安そうな様子はない。あの3人の強さを信頼しているからだろう。それは僕も同じだ。

 でもだからこそ、今こうして手を繋いでいる理由が、アリアちゃんの為なのか僕の為なのか、自分でもわからなくなってくる。

 そんな僕の気持ちを知らずに、アリアちゃんは僕を見上げて笑顔で繋いだ手を揺らした。



「このダンジョンは、まるで『城』だな……」

 少し前を行くセリオンさんが辺りを観察しながら、誰に言うでもなく小さな声で言った。

「城、ですか?」


 この世界のダンジョンは、元々は魔族の世界の一部だったと聞いた。もちろん、遺跡の様相をしたこのダンジョンもそうなのだろう。

「このダンジョンの元は、魔族の城だったってことですか?」

 そう考えるのが自然だ。


「いや、違う。俺たちと一緒にこの世界にきた『城』は2つしかない。そのうちひとつは俺たちの滞在しているアリアの城、もう一つは――」

 ジャウマさんの言葉の続きは、さすがの僕にも予想がつく。魔族の中で城に住まうべき存在。全ての魔族を統べる者……

「『魔王』の城だ」


「……でも、ここは『魔王』の城ではないんですね」

「そうだ。だが、セリオンが言うように、やけに『城』に似すぎている」

 先頭を歩くヴィーさんも、(いぶか)()な様子で言った。


 そこからしばらく歩き、何度目かの魔獣との戦闘を経て、何度目かの分かれ道に差し掛かったところで、ヴィーさんが立ち止まった。


「……なんか、道が(ちげ)えな」

「ああ、そうだな。おそらくここはさっきも通った道だ」

 ヴィーさんの言葉に、セリオンさんが応える。


「ってことは、僕らは迷ってるんですか?」

「ああ、そうだ。これもみんなヴィジェスの所為(せい)だな」

「クゥ!」

 まるでセリオンさんに賛同するように、クーが鳴いた。それを聞いて、ヴィーさんは面白くなさそうな顔で僕らを(にら)みつけた。

 いや、僕はヴィーさんの所為だとか一言も言ってないんだけどな……


「何者かが道を歪めているんだ。おそらく、この奥にいる『黒い魔獣』だろう。アリア、何かわかるか?」

 ジャウマさんに名前を呼ばれたアリアちゃんは、腕を組んでうーーんと首を(ひね)った。


「なんとなく、だけど、こっちの方が魔力が濃いんじゃないかと思うの」

 アリアちゃんは、とことこと今来た道を少し戻ると、柱の陰を覗き込む。そこには路地裏のような細い通路があった。


「ヴィー」

「よっしゃ、行ってみるか」

 まるで命令をするように、ジャウマさんがヴィーさんを呼ぶ。それが当たり前のように返事をすると、ヴィーさんはその通路に足を踏み入れた。


 この通路はここまで来た道と違い、人ひとりがやっと通れるくらいの幅しかない。体の大きいジャウマさんには少し通りにくいようで、体を斜めにしながら僕らの後を付いてくる。


 その通路を抜けると、少しだけ広い部屋になっていた。

 正面に大きな石造りの扉があり、その扉の上に翼をもった生き物のような彫像が飾られている。

「この扉か。いかにもって感じだな」

 そう言って、ヴィーさんがその扉に掛けようと手を伸ばした。


「ヴィーパパ、違うよ」

「へ?」

「こっち。この先みたい」

 アリアちゃんが指さしたのは、扉とは別の方向の何の飾り気もない、ひびだけが入っている石壁だった。


 拍子の抜けたような顔をしていたヴィーさんは、普段の顔に戻ってその壁に歩み寄る。


「ひびが入っている。おそらく(もろ)くなっているだろう。ヴィー、気を付けろよ」

 セリオンさんの言葉に、そちらを見ながらヴィーさんはへへっと鼻で笑う。


「わーってるって、まあ俺に任せ…… うわっ!!」

 余所見(よそみ)をしていた所為で、転がっていた石につまづいたヴィーさんが驚いた声をあげる。

 そのまま前につんのめると、ひびの入っていた壁に体ごとぶつかった。その壁がヴィーさんが当たったところから、不自然に大きく崩れる。

「うわっ!」

 さらに崩れた石壁が大小の無数の石礫と砂埃となって、ヴィーさんの上に降り注いだ。


「ヴィーパパ!」

「待て、アリア。前に出てはだめだ!」

 駆け寄ろうとしたアリアちゃんに、ジャウマさんが声をあげる。その声を聞いて、慌ててアリアちゃんの手を取って引き戻した。


「グウゥウウウ!」

 何かに気付いたらしいクーが、警戒の声を上げる。


 次の瞬間、崩れた石壁から小さい何かが飛び出してきた。ネズミのようなウサギのような、小さなもふもふは一匹ではない、次から次へと飛び出してくる。

「うわあああ!」


 わらわらと出てきたそいつは、瓦礫に埋もれかけているヴィーさんに次々と襲い掛かった。

お読みくださりありがとうございます。


前章で、クーが強くなってたことが証明されてしまい。ラウルはなんだか複雑そうです(^^;)

強くならなくていいはずなんですが、皆が強いですからねぇ……


さて、次回の更新は9月23日(土)昼前予定ですが、ちょっとリアルの予定がありまして、ずれるかもしかしたら休ませていただくかもしれません。

一応、頑張って書くつもりはありますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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