エピローグ
友人達と共に、シルフィは学園の門をくぐる。
心配性の使用人達は、毎日シルフィを見送り、帰る頃には出迎えてくれる。
父親も、毎日、シルフィに声をかけ、学園で問題なく過ごしているか様子を見てくれる。
みんなどうしてそんなにも自分のことを心配するのだと、シルフィは苦笑していた。
学級に入ると、友人達がシルフィに朝の挨拶の声をかける。
その中の一人が言った。
「今日は王太子殿下の学園での視察があるそうだ」と。
シルフィは、そのことを不思議に思った。
こんな何もない学園に、わざわざ王国の王太子が足を運んで視察に来るなんておかしな気がしたのだ。
別の友人が話す。
「殿下は、王都にある全ての学校の視察を続けているそうだよ。学校の施設の拡充をするための視察という話も聞くけれど」
別の友人は笑ってこうも言った。
「殿下の花嫁探しという話もある」
女生徒達は黄色い声を上げ、慌てて身だしなみを整えようとする。
それに、前世で義兄の記憶のある少年は、眉を曇らせていた。
「シルフィ」
彼には危惧があった。
王太子という言葉は、暗く忌まわしい記憶しか思い起こさせない。
シルフィと婚約し、破棄し、最後は彼女を処刑した王太子。
またその王太子が彼女の前に現れる?
自分やシルフィが生まれ変わっているように、前世の王太子が再び王太子に生まれ変わっていてもおかしくはない。
少年はシルフィの手を掴んだ。
首を傾げている彼女の前で、前世の記憶を持つ少年は(いっそ彼女を連れて、帰宅してしまおうか。僕が気分が悪いと言えば、優しい彼女は付き添ってくれるはず)と考え、それを実行に移そうとしていたその瞬間、パンパンと手を叩きながら入室した女の教師が、生徒達に着席を呼びかけ、彼女は誇らしげに紹介した。
「王太子殿下のご来臨です」
一斉に頭を垂れる生徒の前に颯爽と現れる、王太子とその取り巻きの者達。
彼の視線が教室の中を彷徨い、そして王太子の目が目印のような美しい銀の髪の少女を見つけて開かれた。
そうして物語は再び始まるのです。
前世で姉を愛していた弟は、王太子となり、彼女を花嫁とすることを望み
前世で護衛の騎士であった男は、彼女の父となり、彼女を守ろうと奔走し
前世で両親であった夫婦もまた、主君の娘である彼女を命を賭して守ろうとするのです。
それは前世以上の苛烈さで、物語は展開するでしょう。
闇底の中、這いずる神は、興味深気に今日も人間達の世界を覗き、昏く嗤うのです。




