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鎧の魔王のファンタジア  作者: 長月充悟
正義のような幻想
77/170

14、それは埋葬に能わず







 ■■■





 龍光十六閃。

 空から墜とされた隕石の一部を焼き尽くした、レナーテ最大の攻撃の一つでもあった。

 賢者が放つ同系統の魔法のおよそ四倍以上の威力があり、聖龍がこれで仕留められなかった生物は、千年前の『悪魔』のみであった。


『何じゃと!?』


 そういった事実があるにも関わらず、空に浮かぶ聖龍レナーテの両目が、驚愕で大きく開かれた。

 なぜなら、帝国の隊列の上空に、巨大な板状の魔力障壁が広がっていたからだ。


『その馬鹿げた防御力の障壁、人が作れるものではない……そうか、聖女か。じゃが、もう一回じゃ。どこまで耐えられるか、試してやろうぞ』


 聖龍が再び、龍の光を口から放つ。

 射線に入ってしまった飛竜数匹が一瞬で蒸発し、塵も残さずに消えた。

 そんな高威力の魔法を、光る巨大な板状の魔力障壁がかき消し、帝国軍を再度守った。


『ええい、もう一発じゃ!』

「やめとけ、バカが」


 聖龍レナーテが口に魔力を集めようとしたとき、黒いEAが最前列から拡声の魔法を使った。


『その声、ヴィート・シュタクじゃの』

「来てやったぞ、クソトカゲ! 焼かれる心の準備はできたか!?」

『聖女を味方につけおったか』

「はっ、そんな程度の理解力か。聖龍とかいうご大層なお名前が聞いて呆れる」


 黒いEAが剣を担いだまま、肩を竦めて嘲笑う。


『抜かせ、魔力体のときのようにやられはせんぞ、ヴィート・シュタク』


 鼻で笑い、巨大な聖龍は再び龍光十八閃を放つ。


「来るぞ、カートリッジ交換は!?」

「終わりました。発動します!」


 帝国軍の隊列を囲むように、黒い二ユル程度の柱がいくつも立っていた。それらを支えているEAたちが、手から魔力を流す。

 柱の上から真上に光が伸び、上空で合わさって光の盾となった。

 聖龍の魔法が直撃したが盾に防がれ、帝国軍の隊列に損害を与えることは叶わない。


『……なんじゃ、その柱は』

「あん? 聞きたいだろうが、トカゲの親玉程度の知能じゃ理解できんだろうな」


 小馬鹿にしたようなセリフに、聖龍が苛立ちの唸りを上げる。


『むぅ。聖女ではなくあのエルフの方か!』

「何の話やら。まあ、何度でも撃ってこい。魔力の無駄だがな」


 ヴィート・シュタクが手を伸ばす。


「一番性能の良いヤツ、持ってきてくれ」


 近くにいたEAたちが、巨大魔力盾を作り上げた柱型の兵器を持ってくる。

 それには取っ手がついており、両手で抱えられるようになっていた。


「はっ」

「ミレナ、護衛を頼む。剣聖用に調整された鎧の力、見せてやれ」」

「はい!」


 黒いEAの言葉に応じて、隊列の中から一つの鎧が現れる。紅色に黄金の装飾をされた、細身のEAだった。

 それは剣聖用に調整されたバルヴレヴォIS改。

 開発名は『第三聖剣』と名付けられた鎧だった。

 以前の形状を残して塗り替えられた紅の装甲が輝きを放つ。

 左肩には、ミレナの忠誠心の高さを示すがごとく、帝国の紋章が彫られている。反対側の右肩には剣聖を示す二つの交差された剣が描かれていた。

 手には双剣を携え、その立ち姿はEAの完成形の一つとも言える、バルヴレヴォの同型機だった。

 その頼もしい姿のミレナ・ビーノヴァーが、ヴィート・シュタクの黒いEAの横に立つ。


「行こうか、ミレナ」

「行きましょう、シュタク隊長」


 二人で頷き合って、脚部装甲内に魔力を叩き込む。


『ならば、もう一度撃って試してやろうぞ、ヴィート・シュタク!』


 一ユミル先の空に浮かぶレナーテが、巨大な光線を再び放った。

 しかしその攻撃は、EAたちが支える柱から出現した、大きな魔力障壁が防いで消し去る。


『カートリッジ交換! 急げ!』


 指令車からの拡声された指示が飛んだ。

 柱から1・5ユル程度の金属の棺桶のようなものが取り出され、同様の物が再び装着された。


『その棺桶のようなものが、魔力貯蔵の装置じゃの。二回程度防げるか。ならば連続で撃ってやれば』


 思索しながら呟いたレナーテの言葉。

 その間にも、黒と紅の鎧が、かなりの距離を詰めていた。


「そうは上手く行くかな」


 ヴィート・シュタクが楽しげに呟く。その両脇には、二ユルほどの柱が抱えられていた。

 その前方を守るように、紅と黄金の鎧が走り続ける。

 地上の道を埋め尽くす走竜たちが、近づいてくる二人に向けて襲いかかろうとした。


「死に絶えろ、竜どもめ」


 剣聖ミレナが手に持った双剣から魔力斬撃を放つ。

 三日月状の光る刃が、立ち塞がる竜たちを切断し、道を作り始める。


『空に浮かぶ儂に、そこから届くものか。所詮はヒトよ。浮遊の特性(アビリティ)を持つ聖龍には届くまい』


 そうせせら笑うレナーテの近くまで、ヴィート・シュタクとミレナ・ビーノヴァーが辿り着いた。

 しかし上空百ユル程度で飛ぶ聖龍を、見上げることしかできない。

 遠距離砲撃タイプでないバルヴレヴォシリーズには、攻撃手段はないはずだった。


「ミレナ、避けろよ!」

「はい!」


 ヴィート・シュタクのEAが魔力を走らせる。

 腕に抱えていた柱が淡い光を放ち始めた。

 バルヴレヴォが腕に抱えた柱を振り回した。

 その先端から光の刃が伸びる。柱を柄に見立てた、魔力による巨大な光の剣が出来上がる。

 もちろん、剣というには馬鹿げた大きさで、天にも届くいう形容が相応しい、二百ユルほどの長さだった。


「対龍兵器『我、埋葬にあたわずディグ・ミー・ノー・グレイヴ』、食らえ! クソトカゲ!!」


 横から斜め上へと振り回され、周囲にいた走竜たちが光の刃が放つ高熱で灰となる。

 そのまま真上で飛ぶ聖龍へと振り上げられた。


『ぬうぅうう!!』


 危機感を覚え、レナーテは必死に横へと飛びながら、魔力障壁を作り出す。

 その隕石さえ数度防いだ障壁がやすやすと切断され、避け損ねた聖龍の腹部を大きく傷つけた。

 傷跡から大量の血が、滝の水のように地面へと零れていった。


『なんじゃ、それは……どういう神世の武器なんじゃ、それは!! 先ほどの障壁もそれじゃな!!』


 聖龍が怒りを込めて問い掛ける。

 光の刃が消え、ただの柱となった兵器を抱えたヴィート・シュタク。

 彼は上空を見上げ、大きく傷ついたレナーテを嘲笑った。


「人間をいつまでも舐め切って、見下ろしてるからだ、クソトカゲ」

『ぐうぅ! 悪魔め、悪魔の石め! 悪魔の国め! 貴様が! やはり世界の安寧の敵じゃ!』


 叫びながらも聖龍は背中を見せて、大量の血を零しながら首都へと飛んで逃げていく。

 その姿は、人間なら這々の体と形容されるような、情けない後ろ姿だった。

 空を飛ぶ配下の竜たちも、レナーテを追って、慌てて逃げ出し始める。


「ちっ。こっちも攻撃する手がないか」


 ヴィート・シュタクが柱を軽く叩く。

 側面が大きく開き、棺桶に似た箱状の物が転がり出た。地面に落ちていた岩にぶつかり、箱の中身が開く。

 そこから零れ出たのは、棺桶の形に相応しい、人間の死体だった。

 ついでに柱も放り投げ、ヴィート・シュタクも背中から長剣を取り出した。


「無駄撃ちもできん。ミレナ、後方部隊が来るまで、堪えろよ」

「お任せください、隊長」


 紅と黄金のEAが双剣を構える。

 周囲にはまだ多くの走竜がいた。

 すでに多くの走竜を撃退しており、ヴィート・シュタクの周囲に数十匹ほど存在しているだけだ。

 それでも恐れることを知らずに唸り声を上げ、今にも襲いかからんとしている。

 後方部隊から 近接戦闘部隊のボウレたちが走り寄ってきていた。

 空に向けては、絶え間なく遠距離砲撃型ボウレが砲撃をし、逃げ出し始めた空の竜たちを墜とし続けている。


「さっさと片付けて、首都へ向かうぞミレナ」

「はい!」


 二人は背中合わせになって剣を構え、襲いかかる聖龍の走狗たちを葬り続けるのだった。









「いやぁ、さすがシュタク少佐ですねぇ」


 戦列最後部にある指令車で、ヴラシチミル・ペトルーが手を叩いて快哉の声を上げていた。

 指令車は戦場を見下ろせるように四ユルほどの高さに作られた、巨大な神輿だ。下には鉄と弾力性の高い魔物の革で作られた車輪がつけられている。それを引くのは旧式のEAたちだ。

 内部にあるのはもちろん作戦司令室であり、枯れ木エルフと司令部人員の他には、右軍の大将であるアネシュカ・アダミークも乗っている。


「しかし、とんでもない兵器だな、あれは」

「非人道兵器ですからなぁ、『我、埋葬にあたわずディグ・ミー・ノー・グレイヴ』は」

「遥か神世に使われたという、人身御供によって巨大な魔力を得る魔法の応用か?」

「魔女の知識ですか、それ? そんな大したものじゃないですよぉ。あのメテオストライクの十字架と同じ技術ですよぉ。カートリッジの中身によって威力が違うので、少し使いづらいんですがねぇ。シュタク少佐が使ったのは、おそらく真竜国の魔法士を捕らえたものでしょうねぇ」

「あれがあれば、何を相手にしても負ける気はせんが」

「魔素の濃い土地でなければ、あそこまで威力は発揮できませんし、人材っていうのは貴重ですからぁ。あんな非人道兵器はそう使えませんねえ。今回はその辺りに使って良い素材が転がっていたから、良かったですけどもぉ」


 帝国が使っているカートリッジと呼ばれる箱は、その形状通り正しく棺桶だった。つまり真竜国の人間を使い捨てにすることで、通常より強力な魔法を形成する装備だった。


「さて、走竜の掃討も終わったことだし、進むか。指令を出せ。進軍再開だ」


 アネシュカが指示を出す。


「はっ」


 上級将校たちが敬礼をし、指令車が進み始める。

 圧倒的な技術力で強襲してきた聖龍レナーテを撃退した。

 帝国軍は真竜国首都を目指して侵攻を再開するのだった。











 真竜国の首都から逃げ出した一行は、東の港へ続く道をようやく半分ほど進んだところだった。

 疲労困憊の民が多く、また長い上り坂が終わったということで、休憩となった。

 最後尾で木にもたれかかったリリアナは、肩に提げていた鞄から箱を取り出し、中の手紙を手にする。


「続き読むの?」


 馬を木に繋いだばかりのロマナが、上から覗き込む。


「うん、読まないといけないと思うから」

「昨日は結局、あれ一通だけだったしね」

「……泣いちゃって、それどころじゃなかったから」

「じゃあ、水分取っておかないとね」

「……うん」


 ロマナが差し出した水筒に口をつけ、中の冷たい水を飲み下す。小さな安堵のため息を吐いた後、リリアナは二通目の手紙を開いた。ロマナもその横に腰を下ろす。





 ――親愛なるリリアナ・アーデルハイト様。

 結局、返事は来ないが、リリアナは元気か? こっちは元気だ。

 ただ、戦争が始まって、オレの母さんも父さんも戦場へと行ってしまった。

 アイツらの父親や母親も軍人が多いし、ヴレヴォの町も少し寂しくなった。

 そういえば、ルカのこと、覚えてるか? この間、また来たよ。お前がいないと知って、何か嬉しそうだったぞ。次にあったら、ほっぺたでも摘まんでやれ。

 ところでリリアナは帝国の北西方面じゃないから安心だけど、噂じゃ戦況が悪い……ってわかるか? 帝国が負けそうだって意味だ。

 父さんはともかく母さんは、前に出てしまう性格だから心配してる。

 なんか愚痴っぽくなったな。

 ともあれ、みんな元気にしてる。

 ドゥシャンはとうとう結婚が決まったらしい。成人してしばらく経ったしな。みんなの兄貴だったアイツが、いつかは父親になるんだな。不思議だよな。

 アレンカはまだ塞ぎがちだぞ。早く帰ってこいってウルサイ。ルカが来たときは落ち着いたけども。

 他のヤツらもみんな元気だから、お前も元気でやっておいてくれよ。

 オレも成人したら、お前に一度会いに行こうかって思ってる。

 前より短くなっちまったな。それもこれも、お前が返事をくれないからだ。

 それじゃあ、また送る。

 ヴィルより。








「この子、すごい良い子だね……」


 ロマナが微笑むと、リリアナも少し自慢げに微笑み返した。


「面倒見も良かったよ。ルカちゃんって子がいてね。その子、たぶん貴族だったんだけど、たまにお忍びで遊びに来てたんだ。あんまり来られないから、ヴィルが付きっきりで。でも、その度に放って置かれた私は、いっつも膨れててね」

「えー。聞き分けの良い性格だと思ってたけどな、リリアナ」

「小さいときはそうでもなかったよ。でも、そうしてるとヴィルが一生懸命、ご機嫌取りをしてくれて、それが嬉しくて、ずっと膨れっ面の振りしてたんだけど、嬉しくて笑っちゃうから、すぐバレるんだ」

「すごい。リリアナがそんなことしてたんだ。お父さんにも少し距離がある感じだったのに……あ、ごめんね」

「ううん。確かにお父さんはちょっと距離あったかも。だから、たぶん、ヴィルがお父さんでお兄さんで……」

「初恋の人?」


 友人が隣から、からかうような笑みで覗き込んでくる。

 彼女の言葉に少し驚いた後、小さく首を横に振った。


「……たぶん、そんなんじゃなかったと思うけど、わかんない。まだ小さかったから、とにかくヴィルが大好きで……会えなくて悲しかったなぁ」


 木にもたれかかったまま、リリアナが空を見上げる。

 それはとても幸せだった日々だった。

 何度思い出しても、幸せな気分に浸れて、リリアナの心の温かくする思い出だ。

 もう十年も前なのに、覚えている。

 成長したヴィルを見て、すぐにわかったのは我ながら面白い。リリアナは心の中で笑みを浮かべる。


「次は読まないの?」

「……あ、うん」


 ロマナに言われ、次の手紙を手に取る。

 五通あるうちの真ん中だと、彼女は背面に書いてある日付から判断する。差し出された場所も、帝都からだった。


「……ヴレヴォが攻められた後の手紙だ」


 リリアナの言葉に、ロマナも息を飲んだ。

 手が震える。

 それでも開いて読まなければならない。滅ぼされた町にいた子供が書いた、その手紙を。

 中にあったのは、今までのように丁寧に書かれた文字ではなく、書き殴るという言葉が相応しかった。








 ――親愛なるリリアナ・アーデルハイトへ。



 ごめん。

 みんな、死んだ。

 オレを守ろうとして。

 本当にごめん、リリアナ。ごめん。

 力がなくて、ごめん。



 落ち着いたら、また手紙を出す。

 ヴィルより。













人柱兵器、「我、埋葬に能わず」

巨大な敵を倒すには、やはり命を燃やす必要がある(ただし他人の)

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