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鎧の魔王のファンタジア  作者: 長月充悟
真竜湾攻略戦
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10、コンラート捜索









「……奴らはもういなかったと」

「はい。コンラート・クハジーク少尉の姿も彼のレクターも見えませんでした」

「そうか。助かる」

「では失礼します、少佐」


 諜報部の男が執務室を出て行き、オレは机に頬杖をついてため息を零す。


「少佐……」


 隣に立ち報告を聞いていたミレナが、心配げにしていた。


「わかってる。だが、あの場で攻めてもまた失敗する可能性も高かった」


 襲撃部隊を引き連れ、基地へと戻ってきた。

 失敗の原因は、あの亀が予想外に強力だった。これに尽きる。

 そもそも慣れない海上戦だったのもある。

 しかし大きな要因としては、あの口から放たれる水流砲が強力すぎて、現有戦力では攻略手段を見いだせなかったのだ。


「仕方ない。コンラートの救出は一度見送る」


 リリアナのことだから、傷つけたりはしないが、レクターだけ奪って置いていくかと思った。しかしそういうわけでもないようだ。


「隊長! ……あ、いえ、申し訳ありません」

「悪いな。だが、我々は軍人だ。アイツが無事だと祈ることしかできん」


 ポンと肩を叩いて、言い訳を言うしかできない。

 ……ったく。困ったもんだ。


「ミレナ、少し休憩しろ。眠れなくても良いが、横になって目を閉じてろ」

「ですが!」

「アイツを取り戻すなら戦闘になる。体力を戻しておけ」

「……わかりました」


 心なしか赤髪にも艶がない気がする。

 副隊長の背中を押し、扉へと向かわせる。


「失礼しました」


 いつもの元気もなく、ミレナが部屋から出て行く。

 部屋の中で一人になり、どうするか考える。

 アイツらはあの亀で真竜諸島共和国に戻るのか? 無謀に過ぎる気もするが。

 ただ、かなりデカイし、海を渡れないこともないだろう。かと言って、海面を一日で辿り着くとは限らんし、波の穏やかな日じゃないとできない移動手段だ。

 それにいくら十五ユルほどの巨体とはいえ、あの半球形の甲羅の上には大して人は乗れない。

 なら、船を亀で引っ張って海を渡るってのが、使えそうな手だな。

 しかし、あのゴーレムとレクター二機が乗せられる船は、漁村の漁師が使う小舟なんかじゃ無理だ。


「そうだな。そうしよう」


 おそらく少し大きめの船を手に入れるはずだ。ならば、交易港か大きめの漁港に向かっているはず。

 その辺りを中心に捜索するとしよう。

 諜報部の手も借りなければいけない。

 戦闘面で言うなら、オレとミレナとテオドアだけじゃ不安が残る。

 人手を手に入れるか。

 さっさと終わらせなきゃな。

 真竜湾攻略戦を、オレの都合で遅らせるなんて無理だろう。


「行くか」


 とりあえずアネシュカ・アダミーク将軍に許可を貰い行くか。

 そう考えて、オレは椅子から立ち上がった。











「ヴィート・シュタク少佐、それはできない相談だな」


 アダミーク将軍閣下の豪華な執務室で、オレは机越しに却下を受ける。


「そうですか」

「確かに対EA戦を何度も経験したクハジーク少尉は、得がたい人材かもしれん。だが軍部では決して評価は高くないぞ」

「おっしゃる通りです」


 直立不動したまま、将軍閣下の回答を肯定する。

 青髪のクソガキ、コンラート・クハジークの軍部での評価は最低に近い。

 EAでの戦闘力は高いが、命令に背く、統率された行動は苦手、上官……つまりオレに対しての暴言が多いなど、帝国軍人として、落第点に近い。

 それでも、オレが高く買っているという点と、勇者のレクターとの戦闘経験を買われて、特務小隊に残留していた。

 本来ならいつレクターを取り上げられても仕方ない状態だった。

 ここ最近の戦闘訓練もやる気がなかった。これは他の軍人も見ている。何せ何度も勇者と戦ったコンラートだ。皆がどんなものかと周囲も注目していた。

 時間が解決するかと、長い目で見ていたオレの判断が悪かったのだろう。

 結果がレクターが新型戦闘艇ごと捕獲されたでは、直属の上官であるオレとしても反論できない。


「そもそも、貴様は部下に構っている場合か?」


 右目の眼光を光らせ、母さんがオレを睨む。


「いえ」


 何も返す言葉はない。

 今は真竜諸島に渡るための作戦行動中なのだ。

 オレが中心となる攻撃もある。

 ホント、何やってんだと自分ですら疑問に思う。


「話は以上か?」

「ですが、ここで奴らに仕掛ける意味はあります」

「ほう?」

「おそらくコンラートから、作戦全容を聞き出そうとしているはずです」

「拷問でもしているかもしれんな」

「逆でしょう。賢者だけならそれもあるかもしれませんが、勇者なら行いません」


 オレが勇者のことに言及したせいか、将軍の右目が吊り上がる。


「ほう? さすが勇者と仲が良いだけのことはあるな?」


 その威圧感に、緊張が走る。


「コンラート・クハジーク少尉を取り戻し、奴らがどこまで情報を手に入れたかを知る必要がある。違いますか?」


 オレの物言いに、母さんは驚いたように目を見開いた後、


「面白い言い様だな」


 と挑発的に笑う。


「まあ、実際はコンラートから情報を全部仕入れていようと構いませんがね。我々が把握しなければならないのは、奴らの動きです。それぐらい、あの巨大な亀は見た目に反してかなり強力です」

「報告にあったヤツか」

「我々が真竜諸島共和国の港を占領した後、すぐに取り返されては笑い話にもなりません」

「ま、一理はあるな……ふむ」


 アネシュカ・アダミーク右軍大将は頭の後ろで手を組み、背もたれにのし掛かって考え込む。

 おそらくオレの私情を理解しつつも、作戦の効果を考えているのだろう。


「いかがでしょうか?」

「では、一度だけだ。真竜湾攻略作戦全体から考えても、一度以上の接触は意味がないものと判断する。諜報部から五人ほど貸し出す」

「ありがとうございます」

「EAも五小隊十五機だ。期限はそうだな。三日だ」


 彼らは近衛部隊である赤服どもと同じ、大将直轄部隊だ。他の人間が勝手に指示を出すことは許されない。


「……三日ですか」


 正直、日数的にはそれがギリギリだろう。

 作戦の本番、つまり真竜湾侵攻作戦の開始日はオレにも知らされていないが、おそらく一週間後ぐらいだ。

 何でも春が近くなってくると、この海は穏やかになる期間があるそうだ。


「不服か? お前も暇ではないはずだ」

「いえ。ありがとうございます。ご期待にお応えします」


 敬礼をし、軍人らしい動きで部屋から出て行く。


「少佐、いかがでしたか……?」


 外に出ると、ミレナが待っていた。不安げな面持ちでいる。


「三日貰った。チャンスは一度だけだ。何らかの手段で沖に出られていたら問題だが、そうでないことを祈ろう」

「は、はい!」


 我が特務小隊の副隊長の顔に笑顔が戻った。

 コンラートやテオドアとは士官学校からの同期だと聞いている。


「では、行こうか、ビーノヴァー中尉。迷子のクソガキを回収しにな」

「了解です!」









 諜報部だけでなく、オレたちも実際の足を使って探す。

 オレは海上をEA用小型戦闘艇(モーターボート)に乗って哨戒する。

 沖に出られていたら問題だが、それなら最初から追いつきようもない。ゆえに端からその可能性は無視だ。大陸北の海岸線に沿って移動し、敵影を探し続ける。

 諜報部の面々には、奴らの隠れていた場所の近くを中心に、痕跡がないかを探ってもらっている。

 あの亀が巨大とはいえ、EA二つと黄金のゴーレム一機を乗せたままでは、真竜諸島まで渡れはしまい。

 必ず大きめの船を手に入れて、亀に引かせるはずだ。そして大きめの船を手に入れたなら、何らかの取引があるだろう。盗むにしても、大騒ぎになるだろうしな。

 ったく。コンラートめ。世話を焼かせる。


「少佐!」


 オレがバルヴレヴォISを走らせていると、向かっていた先からミレナの赤いレクターが戻ってきた。

 小型艇を傾け、海上で制止する。


「その様子だと、見つかってないみたいだな」

「は、はい……」

「すまん、こちらもだ」

「テオドアはどうなんでしょうか? 姿を見てないのですが」

「ああ、アイツは罰ゲームだ」

「はぁ……」


 あの裏切り者には、奴らの情報伝達手段を探してもらっている。

 真竜諸島から大陸北岸なら、大きめの鳥なら手紙ぐらい運べるだろう。不自然な動きをしている鳥がいないかを探し、その後を追うように命令をしていた。見つかる可能性の少ない話で、休憩も許してはいない。

 今頃、寒い中を一人で馬を走らせているはずだ。

 あいつがそこで挽回するなら、今後の対応を考えないでもないさ。


「さて、ミレナは一度戻って諜報部と合流してくれ」

「少佐は?」

「もう少し先まで探してみるさ。波乗りの訓練にもなる」

「あの、コンラートを探すのも重要ですが、少佐もご無理を」

「気にするな。部下のヘマは隊長の責任だ。ではな」


 軽く手を振り、黒いEAの中から魔力を送って小型艇を加速させる。

 ったく。

 待望の真竜湾攻略戦の前に、オレは何をしているのやら。

 すまん、もう少しだけ遅れそうだ。

 内心でいなくなった幼馴染みたちに謝る。

 オレは大陸北部の冷たい海の上を、走り続けるのだった。










 ■■■






 勇者たち一行は、旧ヴラトニア領土から旧ブラハシュア内へと海岸線を移動しながら戻って来ていた。早めに移動を始めたせいか、ヴィート・シュタクたちには今のところ見つかっていない。

 今、彼らが滞在しているのは、大陸北部の町の近くである。海岸線にある港からの道がある交易拠点であった。

 そこから程なく行った場所の山中にある山小屋を借り、賢者たちは情報と物資を手に入れようとしている。


「戻ったぞ。何じゃ、まだ逃げとらんのか?」


 老冒険者メンシークが小屋の中へと入ってくる。


「逃げねえよ……うっせえなぁ」


 コンラートが悪態を吐く。

 両腕と両足をローブでグルグルに巻かれ、小屋のベッドに先を結ばれていた。逃げだそうと思えば簡単に抜け出せるぐらいの、簡易的な拘束だ。

 だがコンラート自身が逃げる気がなかった。正確に言うなら、彼はまだヴィート・シュタクの前に戻る勇気が持てなかった。

 もっとも、勇者たちもその対策ぐらいはしていたが。


「ほれ、コンラート殿、食べるが良い。まだ少し暖かいぞ」


 今のところ、彼は非人道的な扱いはされていない。むしろ勇者を代表に、敵とはいえ対等に扱われている。

 自由になっている手首から先でパンを受け取り、口に含む。

 少し高級な白パンだと気づいた。


「てめえらの旅費がどっから出てるのか謎だな」

「リリアナ殿がときどき魔物を狩って稼いでくるのじゃよ。あの子なら、簡単に強力な魔物を狩れるからのぅ」

「あーそうかい」


 それ以上は喋らず、コンラートは白パンを一気に食べ終え、そのまま横になる。


「コンラート殿、儂はちょっと外に出てくるからの」

「いちいち言わなくてもいいよ」


 メンシークが外に出て行き、ドアが閉まる。


 ――何やってんだオレは。


 自己嫌悪に陥るが、どうにも積極的に脱出しようとする気も起きない。

 あの老冒険者メンシークでさえ、生身のコンラートより数段強いからだ。彼より弱いのは、小さく細いドワーフのアーシャぐらいだが、いつも黄金のゴーレムがくっついている。

 ましてや勇者や賢者などが脱出に気づけば、あっという間に捕まえられるだろう。

 だから無駄な努力はせず体力を温存し、奴らの情報を得ようとしているのだ、とコンラートは自分に言い訳をする。

 目を閉じて一眠りでもするかと思っていた彼の耳に、ノックの音が聞こえた。

 誰か戻って来たのかと思えば、ドアの方からの音ではないと気づく。

 そしてその反対側にある窓を見た。


「て、テオドア!」

「やっほぅ」


 見慣れた金髪の優男だ。いつも不真面目な、士官学校からの同期である。


「コンラートー、元気してたぁ?」


 外から窓を少し開け、テオドアが呑気な調子で挨拶をする。


「お、お前、何でここに」

「隊長がねえ、勇者たちが真竜国と鳥で連絡を取ってると思うから、怪しい動きをしてるのを探せって命令してきて、もうクタクタ-」


 疲れ切った顔だが、いつものテオドアの調子でへらへらと笑っている。

 見慣れた同僚の顔に、コンラートはホッとしてしまった。


「で、コンラート、何してんのー?」

「何って、見りゃわかんだろ。捕まってんだよ」


 そう言って、彼は手首をくっつけた状態で拘束された手を見せる。


「そんぐらいいつでも逃げ出せるでしょー」

「バカ言うなよ。生身で何ができると思うんだよ」

「ふーん。まあいいや。場所は掴めたし、また迎えに来るよー」

「は? オレの縄外してくれよ。自力で帰れる」

「無理無理。ちょっと離れた場所に勇者とかいるし、あのメンシークとかいうお爺さん、わりと勘もするどいしー。オレっちが無理するわけないでしょー」


 いつもの調子で言いながら、テオドアが窓を閉めようとする。


「あ、待てテオドア」

「んー?」

「……あのさ」

「なになに、何なのさー?」

「た、隊長は、その、何か言ってたか?」


 コンラートが詰まりながらも気になっていることを尋ねる。するとテオドアはへらっと目を細めて笑い、


「最悪でもレクターだけは持って帰れってさぁ」


 と答える。


「……そうかよ」


 ひょっとして心配しているのではないかと思ったが、そんなことはなかったようだと、コンラートは悔しく思った。

 これがテオドアの嘘であるとは気づいていない。コンラートは良くも悪くも単純な頭をしている。難しいことは考えたくない性質だった。

 一方のテオドアもテオドアで、ただの冗談ではなくある種の企みがあって言ったのだった。

 彼は東方ブレスニーク公爵家に縁のある貴族出身だ。ゆえに、聖騎士用に作られたレクターを手に入れるよう、とある人間に指示を受けていたのだった。

 帝国軍にあるより、勇者たちが持っていた方が楽だと彼は考えていた。ゆえにコンラートの離脱を促すように、状況を動かそうとしている。


「じゃあね、後で助けに来るよー」


 そう言って、テオドアは懐からナイフを取り出し、部屋の中に投げ入れる。

 今度こそ窓を閉め、テオドアが音も立てずに去って行った。


「……ケッ」


 コンラートは縛られた両手でナイフを拾い上げ、ベッドの下に隠した。

 そして再び横になって目を閉じる。

 元々、反抗的だったのはコンラートだ。ゆえに見捨てられても仕方ない。

 そう思っている彼でも、ヴィート・シュタクに裏切られたような気がしたのだった。
















そろそろ三十万文字

頑張ったな、自分。

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