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鎧の魔王のファンタジア  作者: 長月充悟
真竜湾攻略戦
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4、聖騎士の末裔ブレスニーク






 短いバカンス兼水上訓練が終わり、オレたちは帝都のEA開発局格納庫へと戻ってきていた。

 大陸のほぼ中央に位置する帝都は、やはり南国ほど暑くはない。というかむしろ寒い。


「波乗りはどうでしたか? シュタク少佐」


 横に立つドワーフの中年女性、ベルナルダ・ペトルーがオレに尋ねてくる。

 今は格納庫の中からレクターが降りてきているところだ。


「二度とやりたくないな」

「まあ、あんな手ぐらいしかないですからねえ」


 ベルナルダが含み笑いしていた。


「さて、レクターは一日整備に預ける。頼んだ」

「わかりましたよ、少佐。ああ、ところで、ブラハシュアでユル氏族の生き残りに会ったとか。本当ですかい?」

「本人はそう名乗ってたがな」

「はぁ。いたんですねえ、ホントに。こりゃ腕が鳴る」


 太っ腹のドワーフが、その太い二の腕を反対の手で叩く。


「原初のドワーフで神にも等しい存在だろう? 良いのか?」

「いえいえ、前からずっと疑問に思ってたんですよ。不思議な技で色々な物を直したりできるユル氏族。これ、原初のドワーフって無能だったんじゃないですかねえと」

「無能? 勇者のレクターはアーシャとかいうユル氏族に直されたようだが」

「そんなこと、今のドワーフは知識さえあればできますよ」


 ベルナルダが得意げに胸を張って鼻で笑う。

 確かにそうだ。不思議な特性を使わなくても、同じことはできる。


「お前は確かに帝国臣民だよ、ベルナルダ」


 技術で神話を超える。人間とは、正しくそうあるべきだ。

 称号や特性なんていう不可思議な力に用はない。


「嬉しいこと言ってくれますねえ、少佐。帝都育ちのドワーフは、ユル氏族を上回るってところ、見せてごらんに入れましょうかねえ」

「頼もしい開発局で嬉しいよ。ところで、特別顧問は来ているか?」

「公爵令嬢様ですかい? いや、今日は見てないですねえ」

「ん? そうなのか?」


 アイツは帝都のEA開発局に用事があるといって、オレたちより先に帰ったはずだぞ。


「何か用事でもありましたかい?」

「いや、ご機嫌伺いに行こうとしただけだ。何でもない。じゃあ整備頼んだぞ」

「はいよー任してちょうだいよ、少佐」


 背中を向けて手を振りながら、オレは格納庫の出口に向かう。

 ふむ。

 何やらバカが動き出しているのか?

 オレも真竜諸島海峡攻略戦への参戦が近い。

 厄介ごとは勘弁してもらいたいんだがな。









 ■■■






「シャールカ、聞き分けなさい」


 四十を超えた辺りの年齢の、白い口髭を生やした神経質そうな男が言う。


「聞けません、お父様。私はヴィレーム殿下の婚約者です」


 きっぱりと断ったのは、シャールカ・ブレスニークだ。


「いつからそんな聞き分けのない子になったのかね」


 やれやれと首を振りながら、父と呼ばれた男が、柔らかなソファーへと腰を落とす。

 一方、立ったままの銀髪の令嬢は、不機嫌さを隠さない目つきを父へと向ける。


「近々、私は公爵の地位を継ぐ。そこでお前はヴィレーム殿下との婚約を破棄し、エリク殿下の婚約者へと戻るのだ」

「戻る? なった記憶は一度もありませんが」

「元々、その予定だったのだ。お前も知っているだろう?」

「元々の予定など知りません、お父様。ご用件は以上でしたら、私はヴィルのところへ……ヴレヴォの屋敷へと戻ります」


 彼女のにべもない返答に、公爵家嫡子でありシャールカの父である男が大きなため息を吐いた。


「……全く困ったものだな……」

「ではお父様、これで失礼いたします」


 頭を抱える彼に背中を向け、彼女が立ち去ろうとする。

 そこへ、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「旦那様、大旦那様がお出でになられました」

「わかった。通せ」


 メイドがドアを開けると、杖をついた老人が入ってくる。

 その後ろには、フードで顔を隠した若い男がいた。


「これはこれは父上。それにエリク殿下。ようこそいらっしゃいました」


 次期公爵の言葉に、金髪の皇太子エリクがコートを脱ぐ。メイドが受け取り部屋から出て行った。


「お忍びだよ、面と向かって話すのは久しぶりだね、二人とも」


 彼は柔らかい笑みで公爵家の父と娘を交互に見る。

 シャールカは教本通りのお辞儀を見せ、


「お久しぶりでございます、エリク殿下」


 と手短な挨拶で済ませた。

 その様子に、エリクは困ったような顔で肩を竦めた。


「シャールカ」


 現公爵である彼女の祖父が、杖をついて前に出る。


「何でございましょうか、お爺様」

「まだ我が儘を言っておるのか?」

「我が儘などではございません。それに一度は結んだ約定、それを覆すような真似をお許しになられる皇帝陛下と将軍閣下とは思えません」

「こちらは次期皇帝じゃぞ?」

「申し訳ありませんが、それは約定を覆す根拠となりません。また屋敷の正門を作り替えますか?」


 それは先日、アネシュカ・アダミーク右軍大将により門を爆破された件を使った嫌味であった。

 公爵が目を見開く。当主の怒りを買わないために、家内では誰もが触れなかった事件だった。


「シャールカ!」


 怒りに肩を振るわせた老人が杖を振り上げ、彼女の肩に振り下ろす。

 大きな音を立てて、彼女の華奢な肩を打った。


「……お爺様?」


 だが打たれた方は少しもたじろがず、真っ直ぐに底冷えするような目で祖父を見据える。

 打ち据えた方が逆に怯み、顔を引いてしまった。


「よしてくれないか、ブレスニーク公爵。私の婚約者となる女性だ」


 エリクが仲裁するつもりで割って入った。

 杖を下ろした現公爵が、苦々しげに、


「貴族の娘たる者、当主に従え!」


 とエリクを挟んだ状態のまま、孫へと唾を飛ばしながら叫ぶ。


「それ以上は止めたまえよ、公爵」


 皇太子が睨み付けるが、老人は怒りを隠さない表情のままだ。そして肩を怒らせ、息子である公爵家嫡子の横へと勢い良く座る。

 そんな彼らの様子に、エリクは小さなため息を吐く。

 それからシャールカの方に振り向いた。


「シャールカ。いやルカ。公爵もキミのことを思って言っているのだ。どうか考え直してくれないか?」

「……勿体ないお言葉ですが」


 再び頭を下げるシャールカの肩に、エリクが手を置いた。顔を上げた彼女の目を真っ直ぐ見つめ、


「ルカ、僕は聖騎士(・・・)の称号を持つ者として立つと決めた」


 と真摯な眼差しで告げた。


「え?」


 困惑した表情の彼女の前に、皇太子が膝をつく。

 そして彼女の右の手を取った。


「……硬い手の平だ。ヴィルのために剣を鍛えたのかい? キミぐらいの魔法の才能があれば、そんな苦労はせずに済んだだろうに」

「自身の……ためです。……魔法を使わずにいたのは、自分のためですから」

「これからは、どうか未来の皇妃として、その才能を生かしてくれないか?」

「エリク殿下……」


 彼は名目上は帝国で三番目に位が高い男だ。

 両親譲りの美貌に優しげな表情、宰相補佐を難なくこなす才覚。

 大陸で一番の有望格であり、多くの女性が彼の虜となる。

 帝国の少年たちの憧れの的がヴィート・シュタクであるなら、彼は少女たちの高嶺の花である。


「彼がもし……魔王としてレナーテを倒すなら、大陸は乱れる」

「ヴィルは……ヴィレーム殿下は魔王などにはなりません」


 エリクはあえて、魔王という単語を出して、シャールカの動揺を誘った。

 それに対し、戸惑いながらも、シャールカは断言する形で言葉を終える。

 エリクは内心で舌打ちをした。弟が『ヴィル』という愛称のみで呼ばれたことに。

 だが、そんな悔しさをおくびにも出さず、真剣な眼差しでシャールカの瞳を見上げる。


「そうでないことは、キミは良く知っているのではないかい?」

「それは……」

「魔王は人類に害を及ぼす。帝国も戦わなければならない。ブレスニークの聖騎士は千年の前も勇者の前で立ち向かった。違うかな?」


 彼の言葉に、第三皇子の婚約者はうつむいてしまい、唇を戦慄かせる。


「だから私は、帝国の皇子として、そして聖騎士として立とうとしたんだよ。キミのためでもあるし、私の可愛い弟ヴィレームのためでもあるんだ。わかってくれないかな?」


 優しげに諭すような皇太子の顔を見ることができず、シャールカは下を向いたまま首を小さく横に振るだけだった。

 彼女が無言でいるのを見て、エリクはさらに言葉を続ける。


「今は考えてくれるだけでいいんだよ。無理強いはしない。だけど、僕の覚悟と決意も、わかって欲しい。次期皇帝として、大陸の民に平穏を与える義務があるんだ」


 皇太子エリクはゆっくりと立ち上がり、


「良い返事を貰えるのを願ってるよ、ルカ」


 と優しく笑いかけた。









 ■■■






 オレがヴレヴォの自宅に戻り、リビングのドアを開けると、部屋の中にはルカが待っていた。

 唯一の歓待器具とも言えるソファーに姿勢良く腰掛け、その背後には世話役のメイドが控えていた。


「ルカ? どうした?」

「……申し訳ありません、どうしてもヴィルの顔が見たくて」

「お、おう? 珍しいな。何かあったのか?」


 妙に暗い雰囲気を醸し出しているのを不思議に思う。

 近づく前に、彼女の後ろに控えていたメイドに視線を送った。彼女は小さく頷いて、部屋から出て行った。

 扉が閉まるのを待ってから、シャールカにの側に近づき、右手を取って隣に腰掛ける。


「申し訳ありません、ヴィル……町娘のようなことを言ってしまって」

「ん、ホントに疲れているな。今日は研究所に来なかったが、何かあったか?」


 少し心配で、横から膝を突き合わせ、彼女の顔を覗き込む。

 だが、ルカはこちらを見ない。

 しかし、暗い表情のままで、


「ヴィル、魔王の伝承をご存じでしょうか?」

 

 と問い掛けを零した。


「知ってるが、どうした?」


 オレが即答すると、ルカがなぜか驚いたような顔をする。


「どのように聞いて……いますか?」

「強き者、悪を知り悪を為すとき、ヘレア・ヒンメルの響きあり、だったか」

「それをどこで!?」

「ブラハシュアの地下遺跡だ。リリアナと落ちたときにな」

「そ……そうですか」


 ホッとしたようなため息を見せ、浮かした腰を落とす。

 何か知らんが、酷く悩んでいるようだ。

 最近は感情をよく見せるようになったとはいえ、基本が人形のような無表情なのでわかりづらい。

 それでも、顔が暗い。

 こういうとき、悩みを聞いてやるのが一番だろうかと悩む。こいつの口から魔王の話が出るとは思わなかった。

 ああ、聖騎士の家系だからか。ルカの祖父であるブレスニーク公爵は、聖騎士の家系であることに誇りを持っている。

 何でも勇者だった帝国の始皇帝が、千年前に『悪魔』と呼ばれる敵と戦ったとき、隣に立った隣国の王子が聖騎士だったそうだ。時は経ち、ブレスニーク王国は自ら帝国へと併合を申し入れ、数百年の後には今のように公爵の地位となった。

 オレからすれば、そんな先祖が持っていた称号に縋るなんて、バカ以外の何者でもない。

 いや、そうか。自分が聖騎士の末裔であることで、勇者の末裔である皇帝と心の中だけでも対等でいたいのかもしれない。

 シャールカが思い悩んでるのは、十中八九、それ関係だろう。内容が気になる。


「お前こそ……いや、どうでも良いか」


 教えてもらおうと口を開いた、言葉は途中でやめた。

 代わりにルカの手から自分の手を離し、彼女の肩を握って少しだけ引き寄せた。


「ヴィル?」

「ルカ」

「……何でしょうか?」

「一通り終わったら、二人でもう一度、旅行に行こうか」

「え?」

「前回はオレの仕事に巻き込んだ形だったしな」


 笑いかけると、ルカは小さく首を横に振った。


「それは……ですがリリアナさんのためでしたので」

「今度はお前のためだ。安心しろ、金は貯めている。いくら位の低い嫡子だといえ、貴族のご令嬢に恥をかかせないぐらいはできるぞ」


 冗談めかした言葉に、ルカが少し驚いた後、その目を嬉しそうに細めた。

 それから、オレの胸へと頭を上半身ごと傾けてくる。


「良いですね、きっと楽しい旅になるでしょう」

「そうだろ。楽しみにしとけ」

「ふふっ」

「どうした?」

「ホント、楽しみ……です」


 シャールカの弾むような声が聞こえてくる。

 こいつにも色々あるんだろう。

 オレにもやらねばならないことがある。

 真竜諸島攻略戦への参戦は近い。準備はかなり整ってきている。

 だが、それが終わった後の幸せを、オレが真剣に考えるときが来たのだろう。

 そろそろ、この胸に残る焦燥に決着をつけなければならない。

 きっと聖龍レナーテと真竜国を葬れば、この心も晴れ渡るはずだ。

 ああ。そうだな。

 オレを邪魔するヤツがいるならば、叩きつぶさねばならないよな。












頭の悪い会合


なんかすごいポイント評価とブクマいただきました

めっちゃ増えた(当社比)

ありがとうございます。

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