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17、素材入手







 巨大な骨の化け物は帝国のEAにより倒れ、その体躯が魔素へと還っていく。

 賢者は僅かに瞑目した後に、オレを一睨みした。

 しかしすぐに踵を返し、家の屋根から屋根へと浮遊の魔法で飛び移って逃げていった。ゴーレムの肩に乗った少女も、悔しそうとも苦しそうとも取れる表情を浮かべたまま、賢者についていく。

 隠れていた諜報部が、見つからないように追っていくのを見届ける。

 まあいい。今はアイツらの相手をしている場合じゃない。


「ヤンさん!」


 リリアナの声が聞こえてきた。

 レクターの腕に一人の女を抱えている。

 ……チッ、あの女。何をノロノロとしてやがる。


「勇者、アレを回収」


 言うと同時に同時に聖女が治癒魔法を使った。ヤンの血が止まったようだ。


「わ、わかりました、聖女様!」


 深いフードとマスクで容姿を隠した女に言われ、勇者は四肢を失ったヤンを右手に担ぎ上げる。


「ヴィート・シュタク」


 聖女がこちらに歩いてくる。仮面の下のニヤニヤした笑みが浮かぶようだ。


「何だ?」

「これは借りね」


 バルヴレヴォの装甲に触れた聖女の右手に、淡い緑の光が灯る。

 中にあるオレの体が癒やされていく。強力な治癒魔法のようだ。ボロボロになった左腕も瞬く間に痛みが取れていった。


「ぐっ……何をした……?」


 しかし、体に猛烈な疲労が襲いかかる。


「失った魔力と治癒に使った体力までは簡単に戻らないわよ。安静にね」


 仮面の聖女が含み笑いをしながら言う。おそらく自然治癒加速系の魔法か……。


「行くわよ勇者」

「は、はい」

「じゃあ、またね、少佐」


 レクターの肩に乗り、ヒラヒラと手を振った。

 白銀のレクターがオレを一瞬だけジッと見つめた。


「勇者」

「はい」


 聖女に促され、リリアナが跳ねるように飛び去っていく。

 とりあえず、今のオレにリリアナを相手にする力はない。それは周囲のEAも一緒だ。

 追おうとした帝国軍を、アネシュカ将軍が右手を上げて押さえる。

 全く、面倒なことだ。

 その背中が見えなくなると同時に、疲労が限界に来て、膝をついてしまう。


「シュタク少佐!」


 赤いレクターからミレナが飛び降り、慌てた様子でこちらに走ってきた。

 オレも前面部を開け、姿を見せた。ゆっくりと中から抜け出て、地面へと足を着ける。


「お怪我は!?」

「大丈夫だ、ミレナ」

「し、しかし、その血は尋常な量では……」

「聖女が治癒魔法を使っていった。おかげで疲労感がすごいだけだ」


 心配げな顔を浮かべる部下の肩を、ポンと軽く叩いた。

 強がってはいるが、もう前のめりに倒れて眠りそうだ。

 魔力のほとんどを失っているし、体力だって限界に近い。


「シュタク少佐」


 聞き慣れた声に、オレは振り向いた。

 長い黒髪と顔の左半分を隠すマスク。我が母、アネシュカ・アダミークだ。


「申し訳ありません、大将閣下。逃がしました」

「いや、よくやった。だが心配はさせるな。昔から何度も言っているだろう?」

「申し訳ありません」

「あと、私は謝らんぞ」


 オレは母さんはリリアナを殺そうとすると考えていた。だから聖女エディッタに、何かあればリリアナを守るよう、依頼していたからだ。


「いえ、謝るのはこちらの方です」

「ならいい……。悪戯はほどほどにしろ」

「ホントに申し訳ありません」


 まるっきり子供を叱る母である将軍と、笑いながら謝る仮面の少佐。

 そんなオレたちの顔を交互に見て、ミレナが不思議そうに小首を傾げた。


「さてシュタク少佐。後の処理は我々に任せて、一度、基地で休みたまえ。明朝、私のところまで来い」

「わかりました」


 連絡事項も終わり、これでとりあえずの仕事は終了だ。


「ミレナ」


 ふぅと小さな安堵のため息を吐き、オレはすぐ近くにいた赤髪の部下に声をかける。


「は、はい!」

「悪いが」

「な、何でしょうか!?」


 もう限界だ。

 眠くて仕方ない。


「担架の用意だ」


 オレはそのまま前のめりに倒れ込んだ。


「シュ、シュタク隊長!?」





 こうして亡国の王都で起きた、称号持ちたちとの戦いは終わった。

 紆余曲折を経た今回の戦闘は、終わってみればいつも通り、我々帝国軍の勝利という結果であった。

 この地に住まうエルフとドワーフたちは、敵国に通じた者は家族ごと処刑されていったそうだ。バカな奴らだ。

 あと、もう少しだけ、オレには後始末が残っている。

 聖女エディッタ・オラーフ。

 ヤツとの話がまだ終わっていない。

 さてと。一眠りしたら、もう一仕事、しますかね。










 ■■■





 旧ブラハシュア王都から離れ、ヴラトニアに近い森の中に、その隠れ家があった。

 激しい戦いから一晩が明け、小屋の一室にリリアナたちは集まっていた。

 部屋の真ん中にあるベッドには、四肢を失ったヤン・ヴァルツァーが寝かされていた。そして枕元には、聖女が椅子に座っている。


「聖女様、ヤンさんは?」


 小屋の中には、勇者と賢者、無事に合流できた竜騎士エリシュカと老冒険者メンシーク、そして新たな仲間アーシャがいる。


「勇者リリアナ、さすがに両手足を再び生やすには、私でも時間がかかるわ」

「そ、そっか……」


 聖女エディッタ・オラーフが呆れたように返事をすると、リリアナはしゅんとして俯いた。


「さてセラフィーナ」

「何よエディッタ」

「同級生のよしみで助けてあげたのだけど?」

「……感謝してるわ」


 挑発するような笑みの聖女に対し、賢者は申し訳なさそうに下を向いた。


「え、セラさんと聖女様は同級生なの?」


 驚くリリアナに、エディッタが肩を竦め、


「そうよ、ブラハシュアの魔法学校のね。と言っても、あまり交流はなかったけど」


 と嘲笑う。


「そ、それは貴方が聖女だと知っていれば」


 慌てて賢者が訂正しようとするが、エディッタが一睨みした。


「知ってなければ、自分は悪くない。それが貴方の悪いところね。違う?」


 二人の間に流れる剣呑な雰囲気に、メンシークが好々爺然とした笑みで割って入った。


「まあまあ、お二人とも落ち着いてはいかがかな? 二人の間に何があるかは知らんが、これからの方針を話し合いませんかの」

「まあ、そうね。これからの話(・・・・・・)をしましょうか」


 妙に含みのある言葉に、リリアナは少し訝しげに感じた。

 だがエディッタが微笑みながら、


「貴方たちはここから東、大陸北部の旧ヴラトニア教国から、海路を迂回して真竜国を目指すのが良いと思うわ」

「そうですな……確かに旧ブラハシュア王国内の港から真竜国を目指すのは自殺行為かもしれませんの。どうじゃの、セラ殿、エリシュカ殿」


 白い顎髭を撫でながら、老冒険者が考える。

 セラフィーナも竜騎士も同意見であり、頷いてメンシークに答える。


「う……」


 そこにベッドの上から、うめき声が漏れた。

 首から下にシーツをかけたままのヤンが、ゆっくりと瞼を開ける。


「あら、起きたの?」


 そう冷たい言葉をかけたのは、賢者セラフィーナだった。


「ヤンさん、大丈夫!?」


 優しき勇者リリアナが駆け寄る。


「こ……こは? 戦闘は……どうなった? オレは……ヴィート・シュタクに……」


 何も覚えてないのか、うわごとのように記憶の断片を漏らす。

 セラフィーナが近づき、その襟首を両手で掴んで勢い良く引っ張る。


「がっ!」

「良くも黙ってたわね、ヤン・ヴァルツァー!」


 顔を近づけ、憎しみを込めた目をヤンに向けた。


「……何だってんだ……」


 痛みに顔をしかめながら、ヤンは何とかうめき声のように抗議の声を上げる。


「ヴレヴォのことよ! 貴方、称号を隠して従軍し、あの町の占領作戦に参加したなんて!!」

「ま、待て……」

「どうして止めなかったの!! あの暴挙を!」


 それは戦争初期、まだ三カ国連合が勝っていたときの話だ。

 停戦交渉中に、連合軍が本部の指示を無視し、ヴレヴォまで攻め入った。その結果、町は焼き払われた。


「……オレは……軍の指示に従っただけだ……」

「どうして! 称号を明らかにして、軍を止めなかったの! そうすれば!」


 少なくとも有利な条件で停戦し、帝国とは敵対関係になりながらも、今のような国際情勢に陥ることはなかった。

 それが賢者の最初の考えだった。


「落ち着きなさいよ、ラウティオラ」


 エディッタが呆れるように言う。


「でも!」

「元々は調子に乗った貴方が、三カ国連合を提言したことが始まりよ。アンタが言うのは、お門違いだわ」

「……ふん」


 セラフィーナは投げ捨てるように、ヤンから手を離した。


「さてと、じゃあ、みんなはすぐにさっき言った通りにした方が良いわ」


 聖女が立ち上がって、陽気に言う。


「し、しかし聖女殿、ヤン殿をこのままにして大丈夫ですかな?」

「メンシーク卿だったかしら。大丈夫よ」

「え?」

「後は私に任せて(・・・・・)おきなさい」

「は、はぁ」

「どのみち四肢を新たに生やすのには時間がかかる。アンタらだって、こんなところで足止め食ってる場合じゃない。そうでしょ?」

「そ、それはそうじゃが」

「ヤンはいくら称号持ちとはいえ、手足が出なけりゃ何にもできない。魔法が得意なわけじゃないし、こいつは弓がなければ何もできない特性だしね。とにかく聖女の私に任せておけば大丈夫よ」


 聖女の念押しに、メンシークは困ったようにセラフィーナを見た。

 しかし彼女は荷物を担ぐと、


「行きましょう」


 と言って、部屋から出て行く。


「ま、待つのじゃ、セラ殿」


 慌ててメンシークが追いすがる。竜騎士エリシュカは肩を竦めてから、無言で部屋から出て行く。アーシャも無言でついていった。


「じゃあ聖女様、私も行きます」

「はいはい、気をつけてね」


 最後に残ったリリアナもバッグを持ち上げて歩き出した。


「リリ……」


 呻くようにヤンが呼びかける。

 しかし勇者は背中越しにヤンを見下すと、


「二度と会うことがないよう祈ってます、ヤン・ヴァルツァー」


 と冷たい言葉を投げて、部屋から出て行った。


「な、何だってんだ……」


 困惑した表情のヤンと聖女エディッタが残される。

 外から馬のいななきと荷車の走る音が聞こえてきた。

 立ち上がったエディッタが窓から外を覗けば、勇者一行はさっさとこの場から離れていったようだ。


「下手したわね、魔弓の射手。あの勇者は、戦争開始前まで、ヴレヴォの町に住んでいたそうよ」

「……チッ、そういうことかよ」

「あら、まともに喋れるのね。弱った振りだったわけ。相変わらず卑怯な男」

「何とでも言え、ハーフエルフ」

「ふふっ、さて、彼女たちは行ったわ。私は仕事に入らなきゃね」


 楽しそに笑うエディッタから、ヤンは目を逸らす。


「手足がねえのはわかったが、てめえのおかげで痛みもねえ。ヴィート・シュタクに切られたか」

「そうね」

「さっさと治してくれよ。オレの特性上、腕がねえと何もできねえ」

「はいはい、わかったわよ。でもその前に、貴方に会いたいという人がいるのよ」

「あん?」


 ヤンが怪訝な声を上げる。

 そんな彼をよそに、エディッタは楽しそうに歩いて、部屋のドアを開けた。


「じゃーん、なんと、ヴィート・シュタク少佐さんでした」


 そこに姿を現した人物を見て、手足のない男が限界まで目を見開く。

 彼女が招き入れたのは、帝国右軍の切り札であり、ヤンをここまで負傷させた仮面の男だった。


「よう、ヤン・ヴァルツァー。元気だったか?」

「てててて、てめえ、何で、ここに!」


 驚いて後ずさろうとするが、ヤン・ヴァルツァーは身動きすらできない。彼は弓が持てなければ、その特性を充分に発揮できないのだ。


「なんでって、そりゃあ……」


 わざとらしく考え込む仮面の男の肩に、聖女エディッタがしなだれかかり、


「私たちが最初から組んでたからでした! 驚いたかしら?」


 と楽しそうに笑う。


「く、クソが! そういうことかよ! お、お、オレをどうする気だ! 殺す気か!?」


 逃げることすらできない状況に置かれ、ヤンは精一杯の強がりを上げる。


「あー、殺す気はないな。色々と聞きたいことがあるし、役に立ってもらわなけりゃならん」

「どどど、どういうことだ?」

「いや、我々帝国軍は、よく考えたら称号持ちのことをよく知らんと思ってな。検体を手に入れて色々と実験しようかと思ったわけだ」

「い、意味がわからねえ! それなら最初から!」

「お前と通じボウレの設計図を漏らす勢力も、帝国内にいるようだしな。そいつらにバレたくなかったんだよ。ま、それも吐いて貰うからな。楽しみにしとけ」

「ご、拷問でもするのか?」

「そんなもので済むといいなぁ? なあ、エディッタ?」


 ヴィート・シュタクが隣に笑いかけると、聖女が顎に人差し指を当てて、


「たぶんかなり痛い実験も行うけれどー、大丈夫よ、私は聖女だからさぁ。すぐに治してあげるわよ」


 と悪戯好きの童女みたいに笑う。


「おい、おいおい! 待てよ! おい、こんなことしてレナーテに知られたら!」

「どうでもいいしー、レナーテなんてぇー。私たちの復讐の方が大事だしねー」

「ふ、復讐? な、何のことかわから……わ、わかった! 謝る! 謝るから!」

「今更遅いのよ、もう取り返しなんて付かない」


 エディッタが酷薄に言い放った言葉に、ヤンは言葉を失った。

 あの瞬間まで、これからの栄達に馳せていたヤン・ヴァルツァー。だが、両手足をもぎ取られ、何もできない状態で何をされるかすら定かではない。


「た、助けてくれ! セラ! リリアナ! リリ! 助けてくれ!!」


 最後の抵抗として、とうに走り去った勇者達の名前を呼ぶ。

 だが声が届くはずもない。

 ヤンの赤い前髪をヴィート・シュタクが乱暴に掴み、頭を引っ張り上げる。

 そして自らの顔を近づけ、そのアイマスクを空いている手でずり上げた。

 隠されていた目鼻立ちに、ヤン・ヴァルツァーは驚愕する。


「て、てめえはぁ! リリアナの! ヴィ、ヴィルとかいう!」


 目の前の顔に見覚えがあった。

 リリアナを追ってきたという幼馴染み。力の差を思い知らせるために、冒険者ギルドで殴って気絶させた男だった。


 顔を露わにしたヴィルは、楽しそうな顔を浮かべ、


「お前が殴った顔は高くついたな、ヤン・ヴァルツァー」


 と魔弓の射手の結末を嘲笑ったのだった。
















ゲットだぜ!

とまあ、こういう主人公です。

お気に召しましたら幸いです。

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