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10、ユル氏族






■■■





「単機で増援など笑わせる!」

「大将首だと!? ホントか?」


 賢者の周囲にいたボウレたちが、新しい敵へと魔力砲撃を連続で放つ。

 しかし、その赤い機体はもうその場にいない。

 大きく蛇行しながらも、圧倒的速度で偽のEAたちに向け大鎌を振り上げる。


「右だよ!」


 リリアナが叫んで注意を促す。

 だが真紅のEAは、すでに一機のボウレを真横に両断していた。


「ふむ、なぜうちの鎧を敵が持ってるのか」


 背中を取られた偽ボウレが、腰で上下に分かれて胴体から落ちる。

 その動きの速さに気づいたのはリリアナと、両腕に深い傷をつけられたヤンだけであった。


「何だ、このEA!」


 怖れながらも、他の偽ボウレたちが剣で斬りかかる。


「ハッ、笑わせる」


 少し低めの女性の声が、嘲笑を告げた。

 左右から襲いかかったボウレ二機は、膝から下を大鎌に刈り取られて、前のめりの倒れ込む。


「くっ、七の地、茨の血よ!」


 セラフィーナは、出の早い束縛の魔法で、足を止めようと詠唱をした。


「ほう、お前はひょっとして賢者か、良いな。ようやく会えたか! その美しい顔、刻んでやろう! そして半分と言わずに全てを焼いて首にしてやろうか!」


 その嬉しそうな言葉は、賢者の背中から聞こえた。


「リリアナさん!」


 胸に刃が突き刺さる寸前で、白銀のレクターが剣を割り込ませた。


「今度は勇者か! 楽しいなぁ!」


 剣と大鎌が激突し、紅のEAは後方に回転しながら飛びすさる。


「大将閣下、何をはしゃいでいらっしゃいますか」

「お前がいつまでも帰ってこないから、迎えに来たんだ、馬鹿者」


 子供を心配した親の声が、戦闘の場に不釣り合いだった。


「いつまでも子供じゃありませんよ!」


 今度は黒いEAが前進し、一機のボウレを縦に両断する。


「セラ! リリ! 撤退だ! 下だ!」

「逃がすかよ! ……ん?」


 ヴィート・シュタクが訝しげな声を漏らす。彼の視線の先には、白砂の髪の少女が顔を覗き込んでいた。


「こっち!」


 少女が叫びながら手を招く。

 称号持ちたちが、その少女のいる方へ撤退していこうとしていた。


「ふん、逃げても無駄だ」

「上ですよ、閣下」

「知っている」


 真紅と漆黒の機体は、逃げていく真竜国の人間から目を離し、天井を見上げる。

 そこから落ちてきたのは、黄金の装甲を持った四つん這いの人型だ。大きさはEAの二倍はある。


「なんだこれは」

「わかりません。古代ドワーフの防衛機構かも」

「奴らはそんなものを動かせるのか」

「さあ?」

「古い物が好きだな、本当に」


 EAに勝るとも劣らない速度で、そのゴーレムが二人に襲いかかる。

 二機は突撃を横に避けた。


「ふむ、取り逃したか」


 奥に見える道には、すでに誰もいない。

 不思議と、道の入り口すら見えなくなっていた。


「そのようですね」


 帝国のEA二機の間をすり抜けていく、金のゴーレム。

 それはすでに四肢と首を落とされた形になっており、自らの速度で壁に激突して沈黙した。










「ったく、帝国の大将ってのがあんなに怖いとはな」


 走って逃げながら、ヤンが悪態を吐く。

 その腕に刻まれた傷は、仲間によりすでに治療されていた。


「アネシュカ・アダミーク……」 


「どうした、リリ」

「う、ううん、何でもない」


 彼女は、真紅のEAから聞こえてきた声を思い出していた。

 どこかで聞いた記憶があるが、いまいちはっきりとしない。そもそも、EAの内部から聞こえる声は、拡声の魔法がかかっていることも多い。そしてこの魔法は、普段の声と違って聞こえるのだ。


「ところで、その子が例の?」


 走る賢者は、背後のボウレが抱えている少女を見て言う。

 白く髪はばっさりと耳の下で切りそろえられている。小さな目と鼻、それに細い体躯はどう見てもドワーフに見えなかった。エルフの子供と言った方がまだ通る。そんな容姿だった。


「そうだろうな」

「さっきのゴーレムはその子が?」

「そうみたいだな……」


 困ったように言うヤン。

 そこへ、少女が、


「私はアーシャ。アーシャ・ユル。よろしく、勇者、賢者、あと、魔弓の射手?」


 と冷めた口調で言った。


「アーシャちゃん、さっきのゴーレムはアーシャちゃんが?」


 リリアナが子供に話しかけるように尋ねると、ヤンが苦笑しながら、


「おっと、ちゃんづけするなよ、リリ。たぶん、その子は、それで成人してる」


 と口を挟んだ。


「え? でもこの子、一ユルぐらいしか、ドワーフでもそれよりかなり大きいのに……って、あ、そうか……」

「それは『今の』ドワーフだ。もしこの子が原初のユル氏族だったら、その名の通り一ユル程度で成人なのさ」


 話題のアーシャは、少し怫然とした顔を浮かべていた。リリアナの目には、その様子が子供そのものにしか見えなかった。


「私はユル氏族の生き残り。ここで姿を露わにするつもりはなかった。だけど勇者や賢者という言葉を聞いた。危なそうだったから助けた。貴方が勇者?」

「う、うん。私は勇者リリアナ・アーデルハイト」

「貴方たちから、身に宿す魔力が溢れているように見える。間違いとは思えない。信じる。だからあなたも信じて。私はユル氏族最後の一人」

「わかったよ。でもアーシャちゃん、助けてくれて本当にありがとう」

「聖龍レナーテ様とユル氏族との盟約により、勇者に協力する。ゴーレムは私が近くにいれば細かく操作もできるし、簡単な命令を守る防衛機構にもなる。ところで勇者」

「あ、うん、なあに?」


 リリアナはアーシャに呼ばれたので、速度を落としてボウレに並ぶ。そこに抱かれたアーシャの言葉が聞こえやすいようにだ。


「あの黒い鎧の男は称号持ちには見えなかった」

「ヴィート・シュタクのこと? そんな話は聞いたことないけど……」

「では、只人があの強さを……EA……メノア帝国は恐ろしい兵器を作った……」


 小さく細いアーシャが不安げに考え込む。

 だがヤンが自慢げに、


「だけどな、オレたちも手に入れたんだ。これで負けるこたぁねえぜ」


 背後にいるEAの胴を自慢げに叩く。


「……帝国のボウレそっくり」


 リリアナが訝しげな目でそれを見上げる。


「ドワーフに作ってもらった、ボウレそのものだからな」

「え、ええ!? どうやって?」

「作り方を手に入れたのさ。どうやったかはまだ秘密だ。だけどまあ、今度教えてやるよ」


 茶目っ気を出して片目を瞑るヤンに、リリアナは鎧の中でそっとため息を零す。


「そっか、わかったよ。あとアーシャちゃん、お願いがあるんだけど」

「……こう見えても勇者より年上」

「え? あ、そっか、ごめん……いやごめんなさい」


 先頭のヤンと賢者が止まり、EAたちも止まる。アーシャの住居である部屋に辿り着いたからだ。

 ボウレがゆっくりとアーシャを地面へと下ろした。少しふらっとして顔色が悪いのは、酔ったせいだった。


「でも、ヴィート・シュタクが追ってきたらどうしよう……」


 背後を振り返りながら、リリアナが呟く。


「大丈夫、扉は閉めた」

「扉?」

「固い金属で出来た岩肌そっくりの扉。古代ドワーフの技術。上の神像の間にあった入り口も、これで隠してた。見つからないし簡単に破壊もできない。ここの壁は固い」

「破壊するほどの力なら、遺跡自体が崩れるかもしれないしね。帝国もバカじゃないか。なら時間はあるってことね。下も?」

「うん。巨神の棺の間に大穴が開いたのは、予想外だった。でも今は、下からも入れないようにした。時間は稼げる。ところで、そのEA壊れてる?」

「うん……内部の魔法刻印は無事なんだけど装甲が」

「なら、今からここで治す」

「え? ホントに直せるの!?」

「一から作るのは、きっと無理だけど。でも、修理するぐらいなら、時間を貰えれば私がここで可能」


 安全で修理も可能と聞き、レクターからリリアナが顔を出す。


「すごいんだね、アーシャちゃん!」


 彼女の賞賛に、ヤンも感嘆のため息を零していた。


「はぁー、ドワーフたちの言ってたとおり、伝説のユル氏族ってのはすごいんだな」


 彼は仲間のエルフから、傷ついた両腕に治癒魔法をかけてもらっていた。


「大したことない。こんな装甲の修理ぐらいユル氏族なら、誰でもできたらしいし」

「そういえば、アーシャちゃんのご家族は?」

「もういない」

「そうなんだ……じゃ、じゃあどうやって生活を?」

「たまに町に行って、ドワーフたちに世話になってた」

「やっぱりそうなんだ。でも最近姿が見えなかったって」

「貴方たちと帝国が来ると聞いて、念のためにゴーレムを再起動させてた」

「じゃ、じゃあ、あの金色のは」

「うん。ユル氏族の遺産。三十体ある」

「ユル氏族ってすごいんだ……」


 感心したようにアーシャを見つめるリリアナの横で、セラフィーナが口を開く。


「さて、これからどうしましょうか……修理が終わるまでここに隠れてるしかないと思うけれど」

「でも食料とか大丈夫かな?」


 完全な不和に至る前に、空気を変えようと努めて明るく声を出した。


「あーそうだな。だけどま、とりあえず様子を見よう」

「他の出口とかがあれば……そういえば、ヤンさんはどうやって帝国に見つからずに仲間を呼んで来られたの?」

「一応な、他にもあるんだ、出入り口は。オレの知ってる場所は、帝国の奴らがいない場所から入れる。でも結局、上の神殿に辿り着いちまうんだよな。アーシャ、他に神殿を通らない出入り口はあるか?」


 調子を確かめるように、腕を回すヤン。


「ある。この地下施設から直接、上の森の中にある、木のうろに出られる。後で案内する」


 彼女の言葉に、ヤンは拳と拳を胸の前で力強く突き合わせた。


「よっしゃ! これでとりあえず籠城も脱出もできそうだな。とりあえずリリのレクターを直すか。で、良いんだよな? セラ」


 ヤンの質問に、アーシャのベッドに腰掛けていた賢者が顔を上げた。


「そうね。本当なら私たちの分も作って欲しいんだけどね」

「無理。私は修理はできるけど、よくわからない」

「わかったわ。無理強いはできないわね。その間、しばらくここで休ませてもらって良いかしら?」


 賢者が結んでいた髪留めを解く。青い髪がふわりと舞って肩に落ちる。


「わかった、賢者」


 白く小さな原初のドワーフが小さく頷いた。


「ところでヤン。あなたのお仲間はみんなエルフみたいだけど?」

「ああ、エルフは部族によっちゃ、弓の上手さが至上みたいなところもある。だからオレに付いてきてくれたんだ」


 得意げに語るヤンとは対照的に、賢者の顔が渋る。

 だがそれ以上は言葉を口にせず、顔を逸らして、聞こえないように舌打ちをした。


「どした? 体調でも悪いのか?」


 ヤンが心配げにセラフィーナへと近寄る。


「何でもないわ。悪い予感がしただけよ」

「悪い予感?」

「リリアナ、ヴィート・シュタクはその子を見たわよね?」


 急に話を振られたリリアナは、指を顎に当てて考える。


「見られた、と思うけど、それがどうしたの?」

「わかったわ。どのみち、私にできることはないから休ませてもらうわ」


 セラフィーナの態度に、リリアナとアーシャが顔を見合わせて小首を傾げる。


「添い寝はいるかい?」

「結構よ」


 近づいてきたヤンを素っ気なくあしらいながら、セラフィーナはベッドに横になって目を閉じた。

 セラフィーナの不安とは、ブラハシュアの町に住むドワーフとエルフについてだった。

 ヤンの持ってきた偽物のボウレは、ドワーフに依頼して作らせたと言っていた。

 そして彼は弓を信奉するエルフの部族を、手下のように扱っている。

 それはとても危険なことで、帝国を甘く見ていると彼女は思った。

 しかし現状のセラフィーナたちにとって、できることは恐らく、ほとんどない。

 疲れた体と失った魔力、そして壊れかけのレクター。

 それらを解決するには時間を必要とする。

 だから賢者は何も言わなかった。

 おそらく次の戦いが激しいものになると確信し、その準備をしなければならないと思ったからだった。













ロリ枠登場。

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