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4、新たな称号持ちとの前哨戦






「スラム街方面で交戦中?」


 ボラーシェク駐屯基地で報告を聞いていた。


「はい、西側の城壁近くでベドナーシュ中尉の部隊が、弓を使うエルフたちと交戦中とのことです」


 あの女丈夫か。母さんが昔鍛えたことのある人物だと聞いている。簡単にやられたりはしないだろう。


「エルフだけか?」

「いえ、少佐のおっしゃられていた赤毛の男もいるようです」

「称号持ちは?」

「他はいない模様です」

「わかった」


 イスから立ち上がり、近くに座っていた中将へ敬礼をする。


「では行って参ります」

「健闘を祈る」

「ありがとうございます」


 上着を脱ぎ、数十ユル離れた格納庫へと走って向かった。

 そこにはオレのEAバルヴレヴォとレクター三機が並んでいる。


「よおし、シュタク特務小隊、行くぞ」

「わかりました!」

「やっと仕事かよ!」

「めんどくさいなぁー」


 三者三様の返答だが、今は注意している場合でもない。

 レクターたちは帝都で一度改修し、召喚の魔法刻印は消してあり、内装も帝国標準の物へと換装済みだ。

 これがボウレⅡ以上に優れた機体なら、研究すべきものだったが、装甲がやたらと硬いだけで、他は大して変わらない性能だそうだ。


「敵はおそらく、新しい称号持ちだ。気合入れろよ」


 胴の前面が開いたEAに入り込み、中で手足を伸ばす。

 自動的に開口部が閉まり兜が落ちてきた。

 魔力を内部に通せば、付与魔法で視界が広がり、一際重い装甲すらも手足と変わらず動く。

 さあ楽しみだ。

 ぶっ殺してやろうじゃないか、ヤン・ヴァルツァー。

 お前が売った喧嘩がどれだけ高くついたか、教え込んでやる。








 スラム街の通りでは、魔力と魔法の矢による砲撃戦が繰り広げられていた。


「ベドナーシュ中尉、よく耐えた」

「おっと少佐! 応援感謝するよ!」


 ボウレ三機は相対するエルフたちの砲撃に耐えるように、魔力障壁を張っている。

 ヤンとかいう男の姿は見えない。隠れてるのか?


「さてと。コンラート、行って来い」

「任せな、隊長!」


 白を基調とし青いラインの入ったEAが、味方の救援に向かう。

 相手のエルフたちは距離を取って、魔法を込めた矢をこちらに撃ち込んでいた。

 矢に込められる魔法は、効果時間が短くて良い。ゆえに威力の高い魔法が鏃に込められ、着弾すると爆発を起こしたり、硬い石すら貫通したりできるそうだ。


「だが、大した問題じゃないな」


 先行したコンラートが踏み出し、剣を大きく振るう。

 いくつも矢がその一振りで吹き飛ばされ、あらぬ方向で音を立てる。

 コンラートは剣技に自信があるようで、ああいう風の魔法を増幅させて吹き飛ばすような小技も使いこなす。

 これで性格さえまともなら、言うことはないんだが。


「おっと」


 オレは左後方から、魔素の集まりを感じて身を反らす。

 先ほどまで頭があった場所で、大きな風切り音がした。


「外した!? あのタイミングで!」


 驚く男の声が聞こえた。

 足元では三本の矢が地面に埋まって、ほとんど見えなくなっていた。貫通特化の矢か。

 振り返って矢を放った男を見上げる。

 ベドナーシュ中尉たちの後方にあった二階建ての建物の上に、赤い髪を逆立てた筋骨隆々な男が立っていた。


「一応、聞こうか。何者だ?」

「はっ、黒いEA、てめえがビート・スタクか」

「ヴィート・シュタクだ。滑舌が悪いのか」

「わざと間違えたんだよ。オレ様はヤン。ヤン・ヴァルツァー。聞いて驚け。称号『魔弓の射手』の持ち主だ!」


 叫びながら、建物の上から五本の光を放つ。

 どうやら称号持ちの膨大な魔力を、矢の形に加工して撃っているようだ。魔力砲撃と似たようなもんか。

 なるほど魔弓の射手というのも伊達じゃないな。


「少佐、お守りします!」

「お仕事お仕事」


 ミレナとテオドアが魔力障壁を張り、オレの前に立ち塞がってくれる。おかげでヤンの攻撃が何も届かない。


「ケッ、部下の後ろに隠れて、臆病者が」

「我らは軍人だからな」

「帝国の軍人ってのは、よっぽど臆病者なんだな。そんな鎧を着て、借り物の力で威張りやがって」


 罵りながらも、いくつも矢を放つが、ミレナたちが防いでくれていた。

 コンラートは他の小隊とエルフたちへ向かっている。

 戦況はほぼこちらに傾いているな。


「面白いことを言うな、ヤン・ヴァルツァー」

「お、何だ図星を突かれたか?」

「借り物の力は、そちらも同じだろう?」

「あん?」

「称号持ち、そこに付け加えられた特性。お前が自身の力で得たものじゃないだろう?」

「はっ、これはオレ様の力さ。お前たちみたいな臆病者を、何人も葬ってきた力だ!」


 自分だけは特別とでも言いたいのだろうか。言ってて悲しくならんのかね?


「では葬ってみるが良い、その借り物の力でな!」

「やってやるさ、根暗野郎!」


 ヤン・ヴァルツァーが弓を構え弦を鳴らす。

 放たれるは八本の光の矢。その半分をテオドアが落とし、残りの四本をミレナの双剣が弾く。

 部下の成長が著しいことは何よりだ。


「さて、ヤン・ヴァルツァーよ。向こうのエルフたちはお前の仲間か?」


 縦横無尽に駆け回り、コンラートに向けて矢を放つ四人の女エルフたち。

 エルフの特徴としては、オレたちヒト種から見て美しい容姿と長い耳、そして数倍を生きる寿命の長さなんかが挙げられる。

 部族によっては弓が得意だったり、魔法を重視していたりと色々あるそうだ。


「あん? 仲間じゃねえよ、恋人だよ」

「四人ともか?」

「そこに勇者も加わる予定だけどな。羨ましいかよ。仮面で顔隠してるんだろ、ヴィート・シュタクってのは。ブサイク隠して大変だなぁ。アイツらはキレイなだけじゃなく強いぜ、オレほどじゃねえが」


 こちらを見下すような顔つきのヤンだが、一般的に言えばヒト種の中では女性に人気がありそうな容姿だ。本人も自信があるのか、表情によく表れている。


「ミレナ、テオドア、抑えていろよ」


 命令を告げ、踵を返した。


「おい、背中向けて逃げる気かぁ?」

「そこで見ていろ」


 脚甲内の付与魔法陣に魔力を通す。

 長剣を肩に担ぎ、コンラートやベドナーシュ中尉たちを釘付けにする四人のエルフ女の元へと走り出した。


「速い!? お前ら! 逃げろ! 散れ!」

「遅い」


 コンラートたちを狙うのに集中していた四人が、オレに気づいた。


「まず一匹!」


 一番手前の女エルフとすれ違い様に、剣を振り下ろす。右肩から左の脇までを切り落とした。

 驚く二番目の元へ滑るように踏み込み、今度は切り上げて首を刎ねる。

 三体目は咄嗟に後ろに飛んで距離を置こうとした。だが遅い。追いつき、突きを放った。その心臓があった位置に拳大の風穴を開け、絶命する。


「ひっ!?」


 恐れおののき足の止まった最後の一匹。その頭を左手で掴んで持ち上げる。

 そいつは弓を捨て、拘束されたままオレのバルヴレヴォへと近距離から魔法を放った。

 だが、そんなものではかすり傷の一つも、つけることができない。

 少しだけ力を入れると、黒い手を外すために必死でもがき始める。


「てめぇ! 離しやがれ!」


 ヤンがこちらに向け、いくつもの攻撃を放つ。しかし、他のEAたちがそれを防いでくれた。

 オレはまだ生きているエルフを片手で持ち上げたまま、ヤンの方を向く。


「敢えて聞くがな、ヤン・ヴァルツァー。こいつの命が惜しければ投降しろ」

「んな……どうせ殺すつもりだろう!? するわけがねえだろ!!」

「そうか。高くついたな、お前の軽率な行動は」


 そう思って、四人目の頭部を握りつぶした。

 残った首から下が地面に落ちる。

 魔弓の射手が目を丸くし、その後、顔が怒りに燃え始める。


「てんめええ!!!」

「おや、何をお怒りか? 勇者リリアナが五人目に入る予定なんだろう? なら四人死んだところで大した被害でもあるまい。まだ一人残ってるじゃないか」

「クソが! クソがあ! 殺す! 絶対殺す!」

「それはこちらのセリフだよ。ほら、かかってこい。そこからの攻撃では、オレに傷一つ付けられんぞ」

「これを食らっても、言ってられるか!」


 ヤンの持つ大弓に魔力が流されていく。

 先ほどまでと違い、眩いばかりの光が集まっていった。


「何か強そうな攻撃だな」

「死ねぇ、ヴィート・シュタク!」


 EAの魔力砲撃の数十倍にも達する、巨大な光の玉が高速で放たれた。

 見た目通りの威力なら、あのレナーテの放つ魔法にも匹敵するだろう。


「死ぬかよ、バカが」


 左手を前に突き出し、一瞬の間に付与魔法陣を三十回ほど起動させる。

 EA内部に刻まれている魔法刻印に魔力を流すことで、EAは大きな力を得る。

 しかしこれは、実は効果が一瞬で切れる。だがすぐに復帰が可能でもある。ゆえに魔力を流し続けることで何度も起動させ、擬似的に永続的な効果を得るのだ。

 そこでオレはやり方を変えた。魔法が切れる刹那のタイミングに、すぐさま魔力を流し続けることにした。

 これによって、通常より小さな魔力で、大きな効果を得ることができるようになったのだ。オレがEAを使えば他人より強い理由は、主にこれに頼る部分が多い。

 他人には、波を掴むようにと説明はしたが、未だ理解できた人間はいない。

 その力で作り上げた強力な魔力障壁が、敵の攻撃を簡単に霧散させた。


「あれを防いだだと!?」


 ヤンが驚きの声を上げていた。


「あれぐらいなら、攻撃が来ることさえわかっていれば防ぐことができる。全機、アイツに向かって魔力砲撃だ!」


 EAたちがヤンに向けて、遠距離攻撃を放つ。


「チッ!」


 着弾し、ヤツのいた建物が壊れていく。

 これ以上は無理と悟ったのか、魔弓の射手を名乗った男が距離を取って逃げ出した。

 壊れていく足元を蹴って、器用に飛び跳ねながら去っていく。


「追いますか?」


 赤いレクターのミレナが近寄り、オレに問い掛けてきた。


「いや、いい。どうせまた仕掛けてくるさ。それより作戦を続行だ」


 恋人を四人も殺されて、逃げたままで終わるような男にも思えん。


「了解しました。ブラハシュア再制圧作戦続行します」

「ベドナーシュ中尉も頼む」

「あいよ、任せな、少佐殿。徹底的にだろ?」

「そうだな。徹底的にだ」


 再びEAたちが動き始めた。作戦続行だ。

 こうして、ボラーシェクで放置されていたスラム街の制圧が終了したのだった。




 しかし笑えるな。

 我が軍に単独で勝てると思っていたのか。

 称号持ちってのは、よっぽど自信がおありのようだ。

 リリアナぐらい謙虚であれば良いんだがな。

 そういう意味では、やはりアイツは称号持ちらしくない。さっさと見切りを付けて欲しいところだ。








 ■■■





「ヤンさん!」


 戦場を逃げ出した魔弓の射手は、賢者たちが潜んでいる高級宿屋の近くでリリアナに発見された。

 その顔は憔悴しきっており、いつもの自信に溢れた彼らしくはなかった。


「リリか」

「無事で良かった……あれ、エルフさんたちは?」

「……アイツらか」

「うん、まさか……」

「ああ。全員、ヴィート・シュタクに殺された」


 膝をつき、ヤンが苦しそうに零した。

 リリアナの表情が固まる。


「そんな……」


 口ではそう言いながらも、彼女は内心では

「やはり」

と思っていた。

 称号持ちではないが竜騎士筆頭であるエリシュカ、そこに賢者セラフィーナ、勇者であるリリアナ。この三名ですらヴィート・シュタクの黒い鎧を倒すことは敵わなかった。

 それをこの男が倒せるとは思っていなかったからだ。

 だが、リリアナはそんなことを言える性格ではなかった。

 膝を落として歯を食いしばる男に、


「げ、元気出して……死んだ人たちの分も……」


 と優しい言葉をかけてしまう。


「リリ、頼む、力を貸してくれ!」

「……力を?」


 男は縋るように、リリアナの両肩に手を置く。


「アイツは強い。オレも奥の手(・・・)を出す。リリのレクターは?」

「あれはレナーテ様の魔力体を召喚したせいで、装甲が劣化して、戦闘は厳しいかも……」

「……念のために、ユル氏族の生き残りをまた探そう」

「でも、あそこには何も……」


 勇者は賢者に付き添って、旧王都近くの遺跡にずっと潜っていた。


「太古のドワーフ『ユル氏族』。そいつらなら、特性で物を直すことができる。眉唾物だとは思うが、ドワーフたちはできると言っている。今はそれに縋るしかねえ」


 特性とは、リリアナたち称号持ちにとっては身近な物だ。

 知らない技能すら行使し得る概念であり、太古ではスキルやアビリティなどと呼ばれていた。

 これがあるゆえに称号持ちは強いのだと、彼女自身も理解している。


「でも、あれだけ探して見つからなかったのに……。その生き残りさんの面倒を見てたドワーフさんたちも、ここしばらく姿を見てないって言ってたし……。今は逃げた方が」


 ユル氏族の生き残りが、遺跡の最奥のさらに奥に隠れ住んでいる。

 レクターを修理できなかったドワーフたちが、賢者に伝えた情報だ。ゆえに彼女たちは真竜国へ向かう足を止め、遺跡の奥を探索していたのだ。


「リリアナ! 頼む、オレは自分の女を殺されても何もできない、そんな男にゃなりたくねえんだ!」


 魔弓の射手が間近から真剣な眼差しで見つめる。

 逃げられないように両肩を掴まれた勇者リリアナは、異性に慣れていないどころか、他人にここまで近づかれることも少なかった。

 だから戸惑いながら目を下に逸らしつつ、


「セラさんが良いと言うなら」


 と条件を出した。


「助かる!」


 ヤン・ヴァルツァーが感極まって、可憐な勇者を抱きすくめた。


「きゃっ!?」

「ありがとな、リリアナ!」

「ちょ、ちょっと! 離して!」

「お、おう、悪い悪い。つい嬉しくてな」


 冗談めかして男が笑う。

 危うくヤン・ヴァルツァーの胸に風穴が空くところだったとは、彼は気づかなかった。

 何とか力を抑えたリリアナは、顔を隠すように背中を向ける。

 本当に嫌だった。

 だが仮にも仲間であるヤンには言えない。

 だから背中を向けた。


「今からセラに聞いてくる! ホントに助かる!」


 そんな機微に気づかず、ヤンは手を振りながら嬉しそうに部屋から出て行った。

 扉が閉まる音を聞き、彼女は小さく、


「……ヴィル……」


 と幼馴染みの名前を呟いた。

 これがもし彼なら嬉しいのだろうか、と益体もないことを考える。

 少なくとも嫌ではないと気づいた。


 こうして勇者一行は、最大の武器であるEAレクターを修理するため、遺跡に潜ることになったのだった。














リリアナ・アーデルハイト(勇者)

八才から真竜国の奥地にあるレナーテの神殿で育つ。

ほぼ女性しかいない環境であり、勇者として崇められていたので、若干コミュ障。

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