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断章、シュテファン・ヴィドラ大尉

第二話でリリアナに殺されたシュテファン副長の話です。



 シュタク特務小隊副隊長として殉職したシュテファン・ヴィドラ。彼は元々、帝都駐在の騎士団の一員として働いていた。

 これは彼が死ぬ約十年前の話だ。


「ヴレヴォが襲われている!?」


 彼がたまたまヴレヴォ近くの街道を哨戒していたときに、それは起こった。

 町を逃げ出した数人の男女が、その事実を教えてくれた。

 慌てて馬を走らせる。

 街道を走って駆けつけようとしたとき、体格の良い禿頭の中年男性を発見した。


「そこの臣民、何があった!?」


 馬を止め、膝をついて荒い息を吐く男に近づく。


「き、騎士様、この子を……」

 

 彼が抱えていたのは、呆然とした表情の、黒髪の男の子だった。

 手が震え、唇が半開きのまま、目を見開いている。

 

「何が……起きた?」

「おそらく、北西三カ国の軍がヴレヴォの町を」

「停戦交渉中だぞ!?」

「ですがね、騎士様……町に竜騎士や傭兵に、ヴラトニア教導騎士団まで……」

「くそっ、正気か奴ら!」


 シュテファンが馬に戻ろうとしたとき、少年が暴れ出す。


「坊ちゃん、しっかり、落ち着いて!」

「離して! 離してよ!」

「駄目ですよ坊ちゃん!」

「アイツらを、アイツらを助けに戻らなきゃ! 戻らなきゃ!!」

「坊ちゃん!」


 シュテファンは慌てて少年に駆け寄り、一つの魔法を使う。

 すると暴れていた少年が急に瞼を閉じて倒れ込んだ。


「ね、眠りの魔法ですかい?」

「かなり強めに使った。しばらく目を覚まさないはずだ。この子は……」

「……友達を、目の前で殺されましてね……」

「親は?」

「母親は軍人ですが、戦場で行方不明です」

「……そうか」


 アイツを助けにというのは……殺された友達のことだろうか。

 苦悶の表情を浮かべたまま眠る少年の頭を撫でる。


「すでに占領されているか……」


 シュテファンは視線を上げる。ヴレヴォの方角の空に、竜の影が見えた。大きな火の手が上がっている。


「……他に逃げ出した臣民がいないか、探してくる」

「お、お気を付けて、騎士様」

「街道を走れば、他の部隊がいるはずだ。保護してもらってくれ」


 シュテファンは、その少年の顔をこれ以上見ないように、馬へと走り出した。






 それからしばらくして、行方不明になっていた皇帝が戻り、軍が再編成された。

 騎士という階級は廃止され、軍人として少尉という階級が与えられた。

 彼はヴレヴォを取り戻す戦いにも参加し、以降も軍人として戦い続けた。

 そんな中、シュテファンは一人の男と出会う。


「シュテファン・ヴィドラ少尉か?」

「はっ。よろしくお願いします、シュタク隊長」


 銀髪に革のマスクをかけた青年将校だ。何でも幼少時に顔に酷い火傷を負い、その保護のためマスクをしているそうだ。

 だが、戦闘は凄腕だと聞いていた。噂では単機でブラハシュア王城に特攻し、王族貴族全てを薙ぎ払ったらしい。武の国を名乗るだけあって、精強な近衛騎士団がいたそうだが、彼の操るEAにはただの雑兵だったそうだ。


「年下の上司で申し訳ないがヴィドラ少尉、今後ともよろしく頼む」


 少し照れたように笑う男を見て、意外と若いんだなと気づいた。成人して数年経ったぐらいか。

 そういえば、あのときの黒髪の少年と同じぐらいか。

 彼は元気にしているだろうか。それとも彼と同じように軍人となっているだろうか。


「どうした? ヴィドラ少尉。ボーッとして」

「あ、いえ、申し訳ありません」

「では行こうか」


 二人して基地の中を歩く。

 あれからシュテファン・ヴィドラにも子供ができた。

 かの少年は友人と家族を亡くしたそうだ。自分の子には同じ思いをさせたくないものだ。

 ならば、頑張らねばなるまい。


「ところでシュタク隊長、ご家族は?」

「父母ともに壮健だが?」


 シュテファンの気さくな質問に、仮面の男は気を悪くした様子はない。だが、少し怪訝な表情を口元に浮かべていた。


「ではご結婚は?」

「予定はないな」

「いいですよ、結婚は。特に子供はいい」

「どうした、いきなり」

「いえ、また家族に会うために頑張らなければと思いまして」

「フッ、貴官は変な男だな。だが、確かにそうだ。親を亡くして悲しむ子供など生まれないよう、我々が頑張らねばな」

「おっしゃる通りです」


 二人して雑談をしながら、軍の基地を歩く。

 仮面をつけた奇抜な格好のわりに存外、話をしやすい男だとシュテファンは思った。

 面白い。

 子供の間では、悪い国をやっつけるヒーローとして、妙な人気が出てきた男だとも聞いていた。

 うちの子供がもう少し大きくなったら会わせてやろう。喜ぶかもしれない。

 子供が喜ぶ姿は、見ていて心が暖かくなる。あのときの黒髪の少年のような、悲壮な顔をして欲しくはない。

 だからシュテファン・ヴィドラは軍人として戦い続けたのだった。




 彼が勇者に殺された、その瞬間まで。






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