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16、勇者と復讐者






『コンラート、勇者とやらせてやる。ミレナは前回と同じく賢者だ。抑えて見せろ』

『よっしゃぁあ! サンキュー、隊長!』

『了解しました! コンラート! ちゃんとした言葉を使いなさい!』


 オレの命令に従い、脇に控えていた二人が走り出す。

 コンラートはともかくミレナと賢者の相性は悪くない。双剣での連撃が魔法の詠唱の妨害にもなる。混戦状態の今なら、食らいついていけばいけるはずだ。


『左軍のEA部隊は、我々が抑えているうちに本来の目的を果たせ!』


 オレも長剣を持って走り出す。

 半数のEAたちが我を取り戻し、廃坑の入り口へと向かい始める。


『させない!』


 それを止めに走ろうとした白いのEAの前に、コンラートの青色のEAが立ちはだかる。


『お前の相手はこっちだ勇者ヤロウ!』

『ヤロウじゃないもん!』


 レクター同士の戦闘が始まる。

 剣聖に負けかけたのを反省したのか、コンラートの剣は慎重さを覚えていた。リリアナの強烈な斬撃を丁寧に受流し、要所要所で反撃を仕掛けていた。


『強力だけど、わかりやすいな、てめえ!』


 強そうな攻撃は避け、牽制を受け流し、体勢を崩せば大胆に仕掛ける。

 それに対しリリアナも機体性能と自身の能力で、大した損傷も受けずにいた。

 ……どっちも大丈夫か。しばらくやってろよ。

 内心で呟きながら、違う局面を見る。

 ミレナは距離を置こうとする賢者に、ちゃんと食らいついていた。


『今度は仕留める!』


 直線的な左右の細剣の動きが次々と襲いかかる。

 それに対し賢者は小さく厚い障壁で弾き返すという前回の再現から始まっていた。


「これぐらい!」


 剣がぶつかる度に障壁の魔力が少しずつ散っていくが、すぐに元の形に復元し、ミレナは突破できないでいた。


『それぐらい!』


 垂直に振り下ろされた剣が障壁に当たる瞬間、ミレナの剣先が一瞬止まる。


「え?」


 完全な制動を見せ、障壁に触れる直前で剣線が左に回り込み、賢者の腹部を切り裂こうとする。


『外した!?』

「なんて動き!」


 驚きながらも咄嗟に身を倒しながら賢者が回避する。結果としてローブをわずかに削り取っただけに終わった。

 しかし縦横無尽に襲いかかり直前で変化する剣が、賢者の動きを完全に止めることに成功した。障壁を全方面展開するしかなくなったようだ。

 その結果として賢者は魔力を多く消費し、なおかつ障壁が薄くなる。ミレナが徐々に追い詰めていくが、賢者は諦めた目を見せずにいた。

 こっからどう動きを見せるか心配だが、いつまでもミレナを見ているわけにもいかない。


『……とりあえずは!』


 左軍のEAたちを妨害しようと竜騎士が滑降し、聖白竜の炎を放とうとした。

 まずはこの蚊トンボからだ!

 急加速しながら走り出し、長剣を振りかぶりながら飛び上がる。

 その一撃で竜の首を叩き落とそうとしたが、竜騎士が手綱を引いてかすり傷で終わらせた。


「ヴィート・シュタク!」


 憎々しげに叫びながら、竜が上空へと舞い上がる。


『これ以上、燃やさせると思ったか? 左軍、手の空いているヤツは砲撃、竜騎士を落とせ!』


 命令をしながらコンラートの方をチラリと見た。

 押されてはいるものの、リリアナに焦りがあるせいで抑えきれている。しかし時間の問題であることも間違いない。


『おい、テオドア、いつまで寝ている!?』

『ひゃ、ひゃい!』


 緑色のEAが跳ね起きて直立不動で敬礼をした。


『コンラートとミレナの支援に回れ! 良いな!』

『りょ、了解であります!』


 ったく。

 だがこれで懸念は竜騎士だけだ。こいつは落としておかないと、後で困るだろうしな。

 戦況は傾きつつある。所詮は無勢、多勢に勝る道理などない。

 あとは、相手の切り札が発動するのを待つだけだった。






 ■■■




 廃坑の入り口の影に身を潜め、老冒険者メンシークとオトマル・アーデルハイトは戦況を見守っていた。


「ぬうう、またヴィート・シュタクか、あやつめ……!」


 剣を抜いたまま今にも飛び出しそうなメンシークを、オトマルが肩を掴んで止める。


「今、出て行っても……討ち取られるかもしくは足手まといになるだけです」

「し、しかしアーデルハイト殿、お主の娘も危ないのじゃぞ!?」

「か、彼女は勇者です、信じましょう……」


 メンシークから目をそらしながら、オトマルが自分に言い聞かせる。


「お主……」


 だがメンシークはどこか険の籠もった目で訝しげに睨んだ。


「て、帝国のEAの数が多い。いかにメンシーク卿が手練れといえど、この状況では」


 老冒険者にも、オトマルの言い分が正しいのはわかっていた。

 入り口が一つしかない廃坑、その中には数十人の非戦闘員がいる。

 外には半分は動けないとはいえ、残り五十機近くのEA、つまり手練れの魔法剣士レベルの兵種が存在しているのだ。

 対する味方は強力なEAを身に纏った勇者と、多数の魔法を使う膨大な魔力の使い手『賢者』、それに鉄すら溶かす炎を吐く竜の操り手、竜騎士の筆頭。

 すでに勝ちは見えていた。

 一時的にでも撤退させれば、廃坑内の非戦闘員を逃がせる算段だったはずだ。

 しかしそこに現れたのは、ヴィート・シュタク。

 北西三王国のうち二カ国を落とし王侯貴族を皆殺しにした虐殺者だ。


「……竜車の竜を使おう、オトマル殿」

「竜?」

「幸い、大きな荷車を引くために、二頭の走竜がおる」


 走竜はこの世界の陸上移動手段で最も早く強靱な物だ。値段も高く数は少ないが、EA相手に逃げ切ることも可能なように思われた。


「少しでも、数を惹きつければ、というわけですか?」

「いや、ヴィート・シュタクが来た方向におそらく飛行船があったはずじゃ。あれが奴らの母船なら、撤退した第一皇子もおるはず」

「人質にして引かせるわけですね、わかりました……が、私にはあまり期待を」

「わかっておる! お主は一人でも惹きつけよ、いいな!?」

「は、はい!」


 言い訳を重ねようとしたオトマルを、威厳ある老冒険者が一喝する。

 戦況はすでに全滅へと傾き始めていた。早く動かねばならない。

 焦りながら、メンシークは廃坑の奥にいる走竜の元へと向かうのだった。






 帝国軍の歩兵たちが廃坑の中に向かう気配を見せれば、真竜国の人間たちはそちらに注意を向けざるを得ない。

 二十機以上のEAが、上空の竜騎士目がけて魔力砲撃を撃ち続ける。

 残っていた機体も体勢を立て直し始めていた。

 竜に乗るエリシュカは、首から血を流す聖白竜を操り、急下降しようとした。

 だがすぐに殺気に気づいて、舞い上がる。


「ヴィート・シュタク……!」


 上空から苦々しげに、厄介な敵の名前を呟く。

 その男は周囲に指示を出しながら、常にエリシュカの方を狙っていた。


「リリアナに、セラは……!?」


 見れば、勇者も賢者も完全にではないが動きを抑えられている。

 どちらかでも突破できれば、廃坑の方を援護できるのだが、三機のレクターの連携により手間取っている。

 負傷覚悟で突撃するか、とエリシュカが悩んだときだった。

 帝国の歩兵が殺到していた廃坑内から、二匹の走竜が飛び出してきた。

 メンシークとオトマルだと気づく。


「こちらじゃ、追ってこい仮面の男!」


 老冒険者が叫びながら、黒いEAの近くを通り過ぎようとする。


『男は放っておけ、何も出来ん。ジイさんは殺せ!』


 一瞬だけ全員の注意がそちらに向いたときだった。

 エリシュカは竜の手綱を握り、急下降を始めた。


「すまない、付き合ってくれ!」


 乗竜としている聖白竜に声をかけ、大気を割って廃坑へと全速力で向かう。

 ヴィート・シュタクは走竜に乗るメンシークに気を取られている。今のうちに攻撃を仕掛けなければ、と焦った。


『バァーカ』


 嘲笑うような声とともにヴィート・シュタクが振り返る。

 彼だけは最初から注意を逸らしてなどいない。

 長剣を担いで助走をつけ、エリシュカの落下してくる方向へ向かってきた。


「くっ!?」

『遅いよ、竜騎士』


 方向転換はもう間に合わない、そう思ったとき、竜が飛び上がってきた黒いEAに火炎を吐いた。

 並のEAなら一瞬で溶かす高温の炎だ。やれるかもしれない、と自分の竜に感謝する。

 だが、すぐにそれは姿を見せた。何の損傷もない。


『落ちろ、駄竜が!』


 そう叫んで、竜の右の翼を斬りつけた。


「うあああああ!?」


 半ばほどから翼を切断され、竜は錐揉み状態になり、回転しながら急下降していく。

 すぐに地面へと到達し、轟音と大きな土煙を巻き上げた。


「エリシュカ殿!?」

『人の心配してる場合か!』


 走竜に乗るメンシークが振り返った瞬間、ヴィート・シュタクの黒いEAは落下しながら魔力砲撃を撃った。


「ぬおっ!?」


 走る竜のすぐ側の地面を爆発させ、メンシークを竜ごと吹き飛ばす。

 受け身も取れず、数ユルほど舞い上がって老冒険者は倒れ込む。走竜は足が本来と違う方向に曲がり、立ち上がることさえ出来ずにもがいていた。


『メンシークさん!!』


 リリアナが叫び、そちらに救援に行こうとした。だが、

『行かせるかよ、勇者!』

『お仕事お仕事』


 青と緑のEAが、行く手を阻んだ。

 リリアナは剣を構えたが、足元にテオドアの操るレクターから魔力砲撃を受け、足を止めた。

 どうしたらいいか、とセラフィーナの方をチラリと見るが、そちらも双剣による曲がる斬撃に抑え込まれ、何もできない状態だった。

 真竜国の人間たちにとっては、まさに絶体絶命の状況だった。






 ■■■





「よっと」


 地面へと綺麗に着地し、オレは周囲を見回す。

 うるさい竜騎士と老冒険者を行動不能にしたようだ。

 絶対にもう一度、状況が変わると思い、そのときを待った甲斐があった。

 しかし、メンシークとかリリアナが叫んだな。ひょっとして、共和国になる前の国王メンシークか?

 まあいい。

 オレの手は空いた。

 あとはリリアナと賢者か。

 まずは賢者を落として、リリアナへの人質にでも使おう。

 そう思って、賢者の元へ走ろうとしたときだった。


『うおっ!?』

『うわああ!!』


 コンラートとテオドアの驚きの声が聞こえてきた。

 リリアナの方を振り向く。

 コンラートたちのEAは吹き飛ばされ、煙を上げて沈黙していた。

 何が起こった?

 そこには、先ほどよりもさらに輝きを増したEA『レクター』が存在していた。

 内部で変換しきれなかった勇者の魔力が、外に漏れ出して光を放つ。それはまるで周囲を包む白銀の霧のようだった。


『ヴィート・シュタクぅぅぅ!!』


 リリアナがオレの名前を叫んだ。それは憎しみを孕んだ声だ。


「どうにもオレが相手をしなければならないようだな」


 誰にも聞こえないように、小さなため息を吐く。


『あなたは絶対に許さない! ヴィート・シュタク!』


 剣先をこちらに突き付け、似合わない強い言葉でリリアナが叫ぶ。


「かかってこい、勇者・リリアナ・アーデルハイト!」


 片やオレは、長剣を肩に乗せ、左手でチョイチョイと招いた。

 相手は片手に剣を構え、こちらに走ってくる勇者のEA。その白銀の鎧は緑色の魔素の粒子を吹き散らしている。

 オレはそれを迎え撃つため、黒いEAで長剣を構え直すのだった。






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