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15、勇者の闘い



 ■■■




「まったく、まさか勇者を堂々と名乗るなんて」


 出て行ったリリアナの様子を、セラフィーナは遠くから見守っていた。魔法を使い、届かないはずの白いEAの姿と声を聞いていたのだ。


「良いじゃないか、セラ。自覚が出てきたのだから」


 エリシュカの声は楽しそうに弾んでいる。

 彼女たちがいるのは、遥か上空だ。竜騎士の操る聖白竜で待機しているところだ。

 エリクやその側近が太陽の側を通る鳥の影をもう少しだけ注意深く見ていたら、それが竜だと気づいていたかもしれない。


「エリシュカ、そういう問題じゃないわ。大体にして、一時的に帝国軍を撤退させても、その後はどうするの?」

「ふむ、真竜国まで連れていくのは難しいな」

「それがわかってるから、彼らを置いて行くという決断をしたのに」

「『勇者』は見捨てない、か。そもそも真竜国に住まう罪のない弱い人間のために戦おうとしたのだから、リリアナとしては正しいのではないか?」

「竜の翼が治ったと思ったら、この事態よ」

「治ったわけではない。今も無理をしている」

「それでも、この地方からリリアナとEAを脱出させるには充分だったのよ?」

「そこで逃げては、勇者ではないと思ったのではないか?」

「……ったく」


 セラフィーナとしても、リリアナが嫌いなわけではない。

 むしろ彼女が忘れていた昔の志を、感傷的に思い出させる。

 賢者である彼女とて、何も帝国が憎くて攻め込んだわけではない。王国の民を救う手段として選んだのだ。


「彼らは依然、廃坑の中。帝国軍が来る前に逃げられたら良かったのだけど」


 その口調は、内心の高ぶりを抑えながら、冷静に話すよう努めていた。

 話題にしたのは、反乱軍と指定された集団のことである。


「あの廃坑は入り口は一つしかない。帝国軍も周囲を索敵しながら、逃げ道を潰すように来たはずだ」

「私たちだけでも、竜で上空に逃げたのは正解だったわけね」

「そうなる。それで、どうするんだセラ?」

「おそらく勇者の存在は彼らにとっては予想外のはず。そちらに気を取られている間に、私が本陣を叩く。向こうも防衛手段は取っているでしょうけど、勇者があのザハリアーシュ皇子を倒せば、陣形は乱れるはず」

「そこを狙うか、了解だ」


 竜騎士が空を舞う聖白竜の手綱を引く。


「狙う本陣はどこだ? 飛行船か?」

「ヴィート・シュタクが来てないというのなら、飛空船ではなく、あちらの帝国の旗が立っている方ね」

「了解したわ。その間にリリアナと私たちで各個撃破。とりあえず撤退させて時間を稼ぐ」

「そこまでは良いが、その後、彼らはどうする?」

「どうにかするわ。なんとかブラハシュアまで連れて行って、そこで別の称号持ちに頼む」

「わかった……そろそろだな。行くぞ!」

「ええ!」


 竜騎士の操る巨大な白い竜で、二人は皇太子エリクのいる本陣を狙う準備に入る。

 セラフィーナを乗せたまま、エリシュカは竜の首を垂直にし、どんどん落下していった。

 ザハリアーシュが負け、その保護に向かうためEAたちが浮き足立っている。

 今しかない。

 手綱を握る竜騎士にしがみついていた賢者は、地面が近づき本陣の姿が見えたとき、手を離して飛び降りた。

 勇者と第二皇子という想定外の戦いがなければ、本陣の上部に隙など生じなかっただろう。

 竜の方ははそのまま角度を変え、周囲を囲むEAたちに向かって斜めに滑降していった。

 そこでまたEAたちに動揺が走る。

 注意は完全に竜騎士へと注がれた。

 治安維持の左軍でなく、人間との戦いに慣れている右軍であれば、このような事態には陥らなかっただろう。

 警戒網に混乱が生じた本陣に、ローブと髪を靡かせ、賢者が高速で落下していく。

 彼女は目を閉じ意識を集中させ、魔法を詠唱を始めた。


「火竜の嘆き、炎の鳴動、聖龍の加護の元、八陣を結成し、その大地を焼け! 火激の光線!!」


 重力と空気の狭間にいる彼女の周囲に、八つの魔法陣が展開される。そこから生み出されるのは、山すら貫く熱と光の線だ。

 それらは帝国第一皇子のいる廃坑から少し離れた丘へと、連続で着弾していく。地表を舞い上げながら、EAすら吹き飛ばす爆発が連続で起きた。


「降下速度、下がれ!」


 二句の詠唱で落下スピードを緩和し、セラフィーナは地面へと降り立つ。


「これで本陣は撃破した……くっ」


 突然の魔力砲撃を障壁で防ぎ、彼女は攻撃の発射元を見据える。


『うひょー死ぬかと思ったぁー、皇子様ー大丈夫ですかーい?』


 中心地に立っていたのは、強奪されたEAだ。薄い緑色に光る魔法障壁を八角形に広げたレクターの射手だった。


「あ、ああ! 助かったよ!」


 護衛にいたEAたちは即応できなかったが、すぐに体勢を立て直し、エリクの周りについた。


『じゃあ、皇子様、飛行船の方へ下がっちゃってくださいなーここはオレっちがやりますよー』

「頼む!」


 金髪の皇子は、同時に生き残った護衛に守られながら走り去っていく。


「逃がさないわ! 穿て、火せ……守れ障壁!」

『やらせないよー』


 弓から放つ魔力砲撃をセラフィーナへと撃ち放つ。咄嗟に準備した詠唱を破棄し、賢者は半円系の障壁を張って身を守る。


「……まあいいわ。本陣は破壊したから、指揮系統は砕けたし」


 障壁を張りながら次の魔法の準備をする。

 相手は魔力砲撃を得意とする機体だ。接近されなければ、前回のようにはいかないと賢者は意思を固める。攻撃も一方向からしかない。

 右手で障壁を展開しながら、左手の手の平を前に突き出した。


「永遠なる水の流れ、止まらずの風、打ち響くは雷鳴、空より落ちよ、地より伸びよ、五つの光! 雷撃の潮流!」


 魔法を司る神与からの称号『賢者』の本領。

 それを発揮するかのごとく、彼女の命令に従い空気中の魔素が変換され、物理現象がねじ曲がる。


『くあああ、これはやばいいいいい!!!』


 緑色のEAが咄嗟に身を翻しながら障壁を張る。

 しかし間に合わず、地面と上空から狙う雷の魔法に撃たれ、煙を上げながら地面へと仰向けに倒れた。

 トドメを刺すか迷った賢者だったが、廃坑の方に集まるEAたちに気づく。そちらへと加速の魔法を掛けながら走り出した。

 賢者が遠ざかっていくのを、テオドアは倒れたまま見送った

 緑色のレクターの中で、彼はホッと安堵のため息を零す。

 このまま死んだ振りしとこ……。

 事実、雷撃の魔法を完全に防ぎきれず、魔力の流れが乱されて立ち上がることすら不可能な状態だ。

 ケガもないのだし、これはこれで幸運だ。そう思い、テオドアは目を閉じて戦闘の終了を待つのだった。






『ええい、両殿下をお守りしろ!』


 膝をついたまま動けないザハリアーシュの周囲へ、帝国のEA・ボウレが集まっていく。

 白銀のレクターは、ザハリアーシュにトドメを刺す気は無かった。ゆえに他のEAの無力化を狙い始めた。


『逃げるなら追わない!』


 そう叫びながら、リリアナは剣を振るう。

 付与魔法により拡張された視界の中で、背後から襲いかかるEAへ、振り向きざまに回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。

 次に襲ってきた敵の斬撃を剣ごと左腕で叩き折った。

 最後のEAは、人間の足が入っていない足元部分を一瞬で切り刻む。大地との接地面を失い、前のめりに倒れた。


「リリアナ! 包囲されるまえに!」

『エリシュカさん! わかりました!』


 竜騎士の操る聖白竜が吐いた炎を食らったボウレは、その装甲を溶かされ動けなくなる。

 内部の人間が無事かまではエリシュカは構わず、とにかく動くEAの数を減らすことに集中し始めた。

 空を飛ぶ竜に対して地面から放たれる魔力砲撃を、竜騎士は巧みに回避しながら斬撃を飛ばす。

 竜騎士は称号でこそない。だが、強大な戦力であることを、彼女は証明してみせていた。


『くそっ、オレが足手まといになっちまうなんて! 勇者め! 竜騎士め!』


 二機のEAに担がれて後退しながら、第二皇子のザハリアーシュが悔しそうに叫んだ。

 リリアナの方もまた、そちらに構う気はない。

 次々と襲ってくるEAの武器を弾き飛ばし、足を切り落として手を砕き、無力化した物を片手一本で投げ飛ばして排除する。


『こ、これが称号持ちか……! これが勇者か……!』


 一人のEA操縦者が相手を怖れ、うめき声を漏らす。

 しかし次の瞬間、光熱の魔法に頭を吹き飛ばされ、後ろへと倒れていった。


「舐めないようにね、帝国さんたち!」


 賢者セラフィーナがふわりと舞い降りて、両手の先に魔法陣を描き出す。


『無益な殺傷はしたくないの! 撤退して! 帝国のみなさん!』

「リリアナ! ここで帝国の皇子を」

『セラさんは黙ってて!』


 金切り声を上げながら、リリアナは次々と敵を無力化していく。


「仕方ない……でも不可抗力は許してね、リリアナ!」


 総勢百機近く居たEAが、すでに半数ほど無力化されていた。

 指揮系統を失った帝国の治安維持部隊が、段々と動きを止め始める。

 舞い上がる埃が、風に飛ばされていった。

 動く存在が減っていき、周囲の空気が落ち着きを取り戻し始めていた。


『撤退しなさい、帝国の勇士たちよ!』


 リリアナが力の限り叫ぶ。

 それは、戦闘終了の宣告だった。

 元々は治安維持任務を主とする左軍の兵士たちだ。

 今まで不利になることなどほぼなかったのと、初めての対EA実戦となったこともあって動揺していた。また、最新鋭機に乗る皇子を破ったのも相まって、撤退の雰囲気が蔓延し始めていた。

 なおかつ本陣も襲撃されて音沙汰がない。

 あとは誰かが撤退しようと言うだけで、戦闘は終わる。そんな空気だった。

 賢者は魔法の準備に入り、上空では竜が火炎を吐いて、勇者は仁王立ちで廃坑の前を守る。

 そこに指揮系統の混乱した帝国軍の付け入る隙はなかった。

 撤退の二文字を、前線指揮を任されていた男が口にしようと、EAの中で喉を鳴らす。




 しかし、そうはいかない。


『さあ、ここまで追いかけてきたぞ、真竜国の切り札たち』




 挑発するような声をかけられ、リリアナたちはその発生源の方を向いた。

 廃坑を見下ろすような位置に、それは影を伸ばしていた。


「……あの黒いEAは……」


 エリシュカが呻く。


「そんな……ここには来てないという情報だったのに……」


 セラフィーナは信じられないと首を横に振った。


『ヴィート・シュタク……!』


 リリアナが唇を噛む。


『遊びは終わりだ、バカが』


 黒いEA『バルヴレヴォ』で長剣を肩に担ぎ、ヴィレーム・ヌラ・メノアが嘲笑ったのだった。







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