第二十一魔導 護衛ですか
6月も半分が終わり、16日の今日は土曜。と言うことで一人食堂でジュースを飲んでいた。
「あち~。六月ってこんなに暑かったっけ?」
ストローでちびちび飲みながら食堂にある薄型テレビを眺める。そこにはテレビを囲むように生徒たちが椅子を引っ張り、座っていた。食堂はクーラーがついているため暇な生徒はここに来るんだろう。
部屋のクーラー使えって。いや、部屋だと狭くてみんなと居られない、ってやつか?
そんなテレビの周りに座る生徒を無視してテレビを見る。画面にはお天気キャスターが明日から一週間分の天気予報を棒を片手に説明していた。
いや、週間予報で棒使うのか?
なんてどーでもいいことを考えているとカランッ、とコップの中に入っていた氷が音を立てた。
飲み終えちまった。
今の時間は1時を過ぎ、1時45分。一時までは直登達と食堂で昼飯を食べていたが、直登は幼馴染の彼女ん家に。剣呉は美緒と一緒に自主練。菜月は──────
「でね、柊羽君が──────」
「本当ですか!?」
と、まぁ凛姉と智香と一緒にガールズトーク中。いや、それは良いんだ。いいんだけど……今、俺の名前が出た気が……いや、気のせいだろう
氷だけとなったコップを掴み、俺は席から離れる。食器の返却場にコップを置き、食堂から出ようとした瞬間だった。
「柊羽ちゃん」
「はい?」
調理場からの声に呼び止められ、俺は回れ右して、食堂の窓口に戻る。そこに居たのは割烹着姿に三角筋を付け、ニコニコと笑う優しいおばさんである。
おばさんの名前は小島 仁美。
この食堂のリーダー的存在であり、同時に俺ら生徒のお母さん的存在である。実は以前、智香と会った時にバニラアイスを頼んだおばさんが仁美さんだったりする。
「柊羽ちゃん、これから暇かい?」
「はぁ、暇っちゃぁ暇だけど……何か頼みごと?」
仁美さんに敬語は使わない。いや、最初は使ってたけど仁美さんがため口でいいよ、って言うので敬語を使わなくなった。ちなみに仁美さんをおばさん、と呼ぶと反応してくれない。
「頼みごとっていうか護衛をお願いしたいね」
「護衛? どっかにいくの? 仁美さん」
「私じゃないよ。麻美だよ。あさみ」
口に手を当てて、小さく俺だけに聞こえるように仁美さんは言った。
なるほど。そりゃ護衛も必要になるわ。
麻美とは仁美さんの一人娘で食堂で一緒に働いているのだ。さらに麻美さんはこの学園の卒業生である。で、護衛の理由は簡単だ。またも美人過ぎる。美人過ぎるお姉さんだ。 ……ちょっと、天然だったりするが。
歳も24と若く、こちらは生徒より男性教職員に人気である。そのため麻美さん目的で食堂に通う先生もいるほどだ。この前だって口説かれてたよな?
そんなわけで変な虫が寄り付かないように護衛が必要、らしい。
「仁美さんのお願いなら聞くしかないでしょ。だけどどこに行くん?」
「ちょっと調味料やその他もろもろをショッピングセンターに買いに行ってもらうよ」
「あいよ……ん? そーゆうのって毎日配達されてくるんじゃ?」
「あははっ、いやねぇ、新人の子が注文忘れしちまってね。注文するより買に行く方が早いんだよ」
仁美さんは調理場の奥で落ち込んでいる男性をチラッと見る。それに俺も釣られてチラッと見た。
「なるほど。で、麻美さんは?」
「着替えに行ってるよ。ちなみに誰が付き添ってくれるか教えてないから言っといおくれ」
「へ~い」
普段の俺なら確実に断っていたであろう今回のお願いだが、相手が相手なため断れず俺は麻美さんの護衛(ここ重要!)を受けるのであった。




