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81:ミクロにはミクロの世界に対応したのがいる

 モンスターの群れが倒れ伏した通路。

 ある者は崩れ、ある者は寝息を立て、足の踏み場が無いほどにモンスターが敷き詰められたその中心に、背中合わせに立つ二人組の探索者の姿がある。


『こちらファング1! ペア・ディンゴは依頼のあった地点を制圧完了!』


 その探索者コンビの片割れ、忍はモニターに目線を向けながら、付近の鎮圧を報告してくる。


「おう! ナイスナーイス! そのまま押し上げてくれよな!」


『了解。任せてくんなって!』


 即席にコードネームをでっちあげる余裕を見て、ボーゾが戦場を移すように依頼。

 すると忍は躊躇なく親指を立ててそれを了承する。


 忍がそうして、僅かな隙間を選びながら歩き出すと、悠美がそれに続きながらカメラ目線を向ける。


『直々の依頼でありがたいけれど、ちゃんとボーナスは弾んでくれるのよね?』


「あったぼうよ! のぞみの準備が終わるまでに、暴走モンスターの撃破や同業者の救助には色付けて報酬を出すぜ!」


『はい、言質はいただきましたっと……それで、のぞみさんの準備とやらはどれくらいかかりそうなの?』


「そいつも、もうそんなに時間はかからないさ」


 そう言ってボーゾが目を向けた先では、のぞみが筒状の光を持っている。


 肩幅に広げた両手。その間に橋渡しにするように展開した光の筒の中は液体で満たされている。

 両端を持つのぞみの指が筒の表面に跳ねる度に、中を満たす水の中に気泡が生じる。


「ウイルス型なら免疫系、いや善玉系のカウンターウイルス……ヘヒッ」


 筒を覗きこむのぞみの笑顔は、つぶやきの内容もあって、マッドなサイエンティストのようにも見える。


 だがその印象も的はずれではない。


 のぞみは、ただいままさに、寄生タイプモンスターに対抗するための細菌サイズのモンスターをエディットしている真っ最中であるからだ。


「物質系の子たちの中でも、変質して活動……オッケー……異物に対する攻撃反応……イイ感じ、ヘヒ、ヘヒヒッ」


「うん。順調順調。忍と悠美がジリ貧になって泣き出すよりは早く仕上がるだろうさ」


 そんなハイになってしまっているのぞみを横目に、ボーゾは自分の見立てを協力者に伝える。


『なるほど。むしろボーナス期間が短くなる心配をしなさいよ、ということね?』


「そう思ってくれていいぜ。欲張ってガンガンやっちまっていいからな」


『あいにくと、欲をかいて引き際を誤るつもりはないわよ』


 ボーゾの誘いにぴしゃりと返して、悠美は忍と共に石造りの地下迷宮を進んでいく。


そんなパートナーと頼もしい協力者の交信をよそに、のぞみは光の筒をいじくりまわし続ける。


「ヘヒヒ……だ、だいたい……仕上がってきた……! 仕上がって、きた……ら、実験……期待通りに、狙った、ように仕事してくれるか……その、テスト……ヘヒヒッ」


 完全にその手の科学者そのものな言動ののぞみは、光のシリンダー内でエディット、培養したモノを、バーサークしているモンスターの内部に転移させる。


 真っ赤っかに染まった捕獲モンスターのシルエットの中、注射無用で打ち込まれた青の光がポツリと。


 赤一色の中に浮きに浮いたカウンターウイルスを示すそのマークは、しかし瞬く間にその範囲を大きく広める。

 敵と見定めたウイルスを糧として分裂。分裂増殖したモノもまた同じく赤の群れを食らい増える。


「ヘヒッ! こ、この威力……! ヘヒヒッ」


 倍々に青い色の範囲を広めていく自作のウイルスの能力を確かめて、のぞみはご満悦。


「お、完成したのか?」


「ヘ、ヘヒッ……よ、ようやく、納得の出来栄え……ヘヒヒッ」


 それはもうパートナーにガッツポーズをとって答えるほどに。


「そいじゃあとは数を揃えてうちこませるだけ、か? 予防ってことでアガシオンズも使っておけばあいつらも前に出れるだろうし、ようやっと解決ってとこか?」


 ボーゾが言いながらやれやれと肩をすくめる。

 暴走の原因がモンスターに感染する寄生型モンスターであるということが分かったために、下位悪魔・使い魔型モンスターであるアガシオンズは感染拡大の恐れがあるとして、事態収束の人手として駆り出すことができなかったのだ。


 だがそれもこれまで。のぞみが生み出したカウンターウイルスがあれば、感染した端から駆除してくれる。

 防疫態勢が整った今、親密な探索者だけに頼りきりになることもなくなるのであった。


「へ、ヘヒッ……そんな時間は、いりまっ……せん、よ?」


「なぬ?」


 しかしのぞみはそんなに待たなくても良いと、疑問符を頭に浮かべたボーゾを置いて、光のシリンダーを自身の胸の前で縦にする。

 そしてその先端を自分自身に突き立てることで、パートナーへの答えとした!


「な、なにをぉッ!?」


 自傷・自殺にも見えるその行いに、ボーゾはたまらず目を丸くする。

 だがのぞみは平然と、いつものようにヘヒヒと笑ってカウンターウイルス満載の筒をその身に沈めていく。


「わ、私は……ダンジョン、マスター……スリリングディザイアの、コア……! 突っ込めば、全体に、行き渡る……ヘヒ、ヒヒッ」


 まずダンジョンコアを内包したのぞみが、出来立てで数の少ないカウンターウイルスを受け入れる。

 そうすることでのぞみと繋がったスリリングディザイア全体に、カウンターウイルスが行き渡る。

 そしてその増殖能力は、先に披露したとおり。餌に設定したウイルス型モンスターの群れに遭遇したらば、瞬く間にその旗色を塗り替えてしまうほどだ。

 ならば手元で数を増やしてから動くよりも、先に散布してウイルス自身にも感染拡大をしてもらった方が効率は良い。


「……で、広まりの悪いところを重点的に、アガシオンズを派遣したらいいって?」


「そ、そゆこと……ヘヒヒッ」


 言わんとたところを滑らかに察してくれたパートナーに、のぞみは胸から光の筒を生やしたまま親指を立てる。


「さ、さすがに……モンスターの体内に、直に別のモンスターをPOPさせられるかは、分かんない、し……そこは、頼るしか……ヘヒッ」


 言いながらのぞみはアイテムクリエイションのマジックコンソールを展開。カウンターウイルスを詰めたカプセル薬や、血管に直打ちにできるような注射器を作り始める。


 それら処方用アイテムを形にして自動増産を始めたのぞみは、ふと目をやったコンソールに目を見張る。


「ヘヒッ? ふ、増え……てる?」


 つぶやき、そのタッチパネルコンソール一枚を手繰り寄せたのぞみは、顔をぶつけんばかりに食い入り見る。


「や、やっぱり……! ふ、増えてるぅうッ!?」


「増えてるって、何がだよ?」


「こ、これ! これぇえ!」


 何に仰天しているのかと、ボーゾが首をかしげる。

 それにのぞみがヘヒヘヒと指し示したのは、モンスターの発生を設定するアイコンだ。


 タップすることで地形の適正からモンスター、ついで実際に配意するポイントと、適したものを選択するモードへ移行するものである。

 すでにタップされて起動したその選択肢の中に、それまでになかったモノがある。


「た、体内だぁ?」


 ボーゾが顔を歪めてすっとんきょうな声をあげる。

 だが目の前にあるものが変わることはない。

 そこには陸上に地中や水中、などなどと並んで、確かに「体内」という表示があった。


「ここはひとつ、試しに選んでみたらどうだ?」


「そ、そそ……それも、そうだね……ヘヒッ」


 試したいという欲望を見通してか、触れるように進めるボーゾに言われるまま、のぞみは操作してみる。


 すると配置するモンスターとして、出来たばかりのカウンターウイルス「ウイルススイーパーウイルス」の名前が出てくる。


「た、対応したモンスターを生んだ、から? だから選べるように……なった?」


「いや、それよりもウイルススイーパーってお前……」


「だ、ダメ? かな? モンスターウイルスっぽい名前……思い付かなかった、から……ストレートど真ん中に、してみた、けど……ヘヒッ」


「いや別に悪くはねえけどよ……」


 そんなやり取りをしながら、のぞみは試しにと操作を進めて、配置ポイントとして選択可能なモンスターを全選択する。


「んじゃ……ポチッとな……ヘヒッ」


 そして軽い調子でスイーパーウイルスを放流。


 するとどうか。

 現在スリリングディザイア内部で暴走状態にあったモンスターたちが急激におとなしくなっていく。


「ヘヒィ……こ、これで、なんとか……なったぁあ……」


 突然の寄生モンスターによるパンデミックがあっさりと終息に向かうこの様に、のぞみは安心するやら肩透かしやら、とにかく背すじを丸めつつ長々と息を吐く。


「まあ、ちょいと拍子抜けだったが問題が解決して良かったな。で、こっちはどうするんだ?」


 ボーゾがそう指さした先を見てみれば、順調に数を増やすカウンターがある。

 それはカウンターウイルス詰のカプセル薬と、注射器が命令のままに絶賛増産中にあることを示しているのだ!


「ヘヒィッ!? そ、そんなに、もういらないからぁ!? 急ぎに揃える必要ないからぁあッ!?」


 そこでのぞみは、完全にほったらかしにしていたことに気づいて、慌てて生産停止にかかるのであった。

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