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34:庇護欲巨神バウモール!

 寂れた坑道の中、顎を大開きにしてワニじみたトカゲが走る!


「ひん剥いて・あ・げ・ま・す・よ」


 食いついてやろうとのこの突撃を、イロミダはしかしひらりとかわし、双剣を一閃。すると、ワニトカゲは皮だけを残して消えてしまう。


 そのイロミダを目掛けて、糸で勢いをつけた大クモが。


 しかし躍りかかるクモをザリシャーレの鞭が一閃。錆びたレールへ叩き落とす。


「いーい糸を持ってるわね。 アナタに良し、服に良し、マスターに良し、つまりアタシに良し! いただきだわ!」


 モンスターから獲得できる資材に舌なめずりし、次々とその出どころを叩きにかかる美女二人。


「いいですよ、お二人とも。そのままどんどんと戦って剥ぎ取っていきましょう! 多々買ってもらうためにもね!」


 ウケカッセがそんな二人に後ろからついていきながら、強奪を煽り促す。


 地に落ちて動けないクモの上にウケカッセが手をかざすと、吸い込まれるようにその手の中に納まる。


 シャボンのようにその手の中に浮かんだ玉の中にはトカゲの皮ばかりか肉が、あるいは束ねられたクモの糸など。これまでに手に入れた獲得品の数々が代わる代わるに浮かび上がっていく。


「これだけ集めれば、まあまあ良い値にはなるでしょう……が、まだまだ足りませんねぇ。もっと、もっと稼がせてもらいましょう」


 集まった品々にどっさりと積まれた金を見ているのか、ウケカッセはうっとりと目を細める。


 そこへ背後から迫るものが。


 固く乾いた音を潜ませたそれは、大きなつるはしを振りかぶった人骨である。


 戦闘能力の低いサポート役の後衛から、と狙っての奇襲である。


「……お前は、大した額にはならなさそうですね」


 しかしウケカッセはお見通しとばかりに振り返り手のひらをかざす。すると鉱夫の骨は音を立てて崩れ、数枚の硬貨になって地面に落ちる。


「まあこの程度でしょう」


 チャリチャリンと固く澄んだ音を立てるコインに、ウケカッセは予想通りとばかりに軽く鼻を鳴らす。

 そらに続いてかざしたままの手のひらに硬貨たちが吸い込まれるように消える。


「しかし……これでもベルノが潜るよりはマシだったかもしれませんね。あれではダンジョンを食い潰すばかりでしたでしょうしね」


「なにをうッ!?」


 丁寧に天井のクノを見上げてのそのセリフに、ベルノが蜂蜜色の髪を逆立たせる。


 しかし、怒りの言葉を挟みながらも食べるのを止めないあたり、ウケカッセの言葉に間違いがあるようにも見えないのであるが。


「それはともかくとしても……数が多いですね。売り物が集まるのは結構ですが、ですがこの数は少々……」


 そうしてぷりぷりむしゃむしゃと怒ってしまったベルノをのぞみがなだめる一方で、ウケカッセは手をかざす向きを変えながらため息を吐く。


 手のひらが動くその度にトカゲやクモの体が消え、スケルトンワーカーが小銭に換わる。


 しかし掃除機で埃を吸い込むような勢いの回収にも関わらず、ザリシャーレとイロミダの作り出す素材たちは、まるで片付く気配がない。


「確かに……いくらアタシたちの手際が、鮮やかだって、言ってもね!」


「まず、こちらが、片付ききりませんものね!?」


 それもそのはず。

 前に出た二人もそう言うとおり、倒しても倒しても次から次へとモンスターが奥から現れて、まるでキリがないのだから。


「これで、よくもダンジョンツアーなんてできたものですねッ!?」


 とうとう両手で吸い込み始めたウケカッセが、なげやりに叫ぶ。


「ハッハッハ! 内心儲かってウッハウハとか思ってるヤツがなに言ってんだ? 心にジャリジャリとゼニが貯まる音が聞こえてるぜ?」


「それは否定しません。しませんが、しかしこの状態で、ウハウハな稼ぎ時になるのは私たちくらいのものですよッ!?」


 からかうようなボーゾの言葉に、ウケカッセはグルグルと回って吸い込みながら叫び返す。


「……だ、だよね……おかしい、よね……ヘヒヒッ」


 いま、絶え間ない供給を三人が捌き続けていられるのは、皆の魔神としての能力があってこそ。


 普通の探索者パーティでは、お客様(にもつ)を抱えていようがいまいが、間違いなく飲み込まれてしまうだろう数だ。


 これが当たり前だというのなら、ツアー商売など出来るわけがない。


 明らかにおかしい。なにかが起こっている。


 そんな確信に、スリリングディザイア一行が警戒を強めたところで、クノが後ろからの足音に目線を向ける。


「うわッ! なんだこりゃッ!?」


「モンスターの津波!?」


「ここはいつから魔王城になったんだよッ!?」


 ウケカッセらが取り巻かれた状況に悲鳴じみた声を上げたのは、後から入ってきたらしい探索者たちだ。

 たたらを踏む彼らの隊列の半ばには、防具で膨らんだ一般人たちもいる。


「や、ヤバイ! ヤヤヤヤバイ!」


「ウケカッセ、ダンジョンアタックはヤメだ! そいつら守りながら出入口まで戻ってこい!」


「そそ、そう! ソレッ!」


 一般人の姿を見るや、のぞみが取り乱す一方で、ボーゾが素早く出すべき指示を代弁する。


「承知しましたッ! 聞きましたね、二人とも!?」


「ええ!」


殿(しんがり)はお任せよ!」


 お客様を抱えた探索者たちと、手早く撤収に入る金、飾、色の三魔神。


 その姿にのぞみはホッと豊かな胸に手を置く。


 だが――。


「オイ! ボケッとしてるヒマは無いぜのぞみ!? こりゃ入り口を塞がなきゃ溢れ出すぞ!」


「ヘヒィッ!? だ、だだだ、だよねッ!?」


 ボーゾから、まだ早いとの発破を受けて、跳ねるように席を立つ。


 その勢いのまま、ダンジョンの出入りを管理するゲートに向けて急ぐ。


 そうしてたどり着いた先は、もはや惨状と言うしか無い状態であった。


 出入りを封鎖するゲートはすでにひしゃげ、曲がっている。


 そうしてこじ開けられた隙間から出てきたのか、ワニトカゲやスケルトンワーカーが控えていた探索者と戦っている。


 探索者の中には一般人を庇ったのか、血だまりに倒れ伏した者もいる。


 そうして傷つき倒れた物を食らおうと、新たにゲートを抜けたワニトカゲが大口を開けて迫る。


「ババッバ、バウモールッ!?」


 そうはさせじと、のぞみはとっさに手を突き出す。

 直後、飛び出た巨大な鉄拳がトカゲをぶん殴る。


 のぞみに呼ばれて飛び出た拳は、そのまま勢い余ってゲートに衝突。ドグチアッと鈍く湿った音を立てる。


 ゲートをさらにひしゃげさせて塞いだ拳に続いて、のぞみの目の前にできた渦からは肩が現れ、さらに大きな頭が続き、やがて五体すべてをこの場に現す。


 地面を響かせて立つ巨人。


 その全身を包むのは、輝くトリコロールカラーの分厚い装甲。


 額には金色のVの字型の兜飾り。その下のヒロイックなマスクでは緑色のゴーグル状の目が優しげな光を湛えている。


 この、胸に真っ赤なスリルのSのエンブレムを刻んだ、フルヒヒイロカネの巨大ロボ!


 彼こそ。


 彼こそ!


 彼こそ!!


 庇護欲の巨神バウモールである!


「バウモール、みみ、みんなを……」


 舌の回らぬのぞみに、しかしバウモールは透き通った目を輝かせてうなづく。


 そうして門前に陣取ったバウモールは、モンスターどもを溢れ出ようとした端から文字通りに叩き潰し、目からの光線で焼き払う。


 その姿はまさに怪物を封じる強固なる門。人々の盾になる守護神である。


 彼は元々ダンジョンコアを守るガーディアン、あの山のダンジョンでのぞみに味方した石巨人だ。

 それに庇護欲を司る立場と名前を与え、今の趣味的なフルヒヒイロカネボディに改めたのだ。


 まさにここで使わずしていつ使う。と言うべき配置である。


「……分厚い、メタル! か、カッコいい! ヘヒ、ヘヒヒヒヒヒッ!!」


 のぞみは自分の趣味全開なバウモールの勇姿を見上げて、ご機嫌な笑い声を上げる。


 それをボーゾは肩から眺めてため息を吐く。


「……ベルノ、平らげろ」

「はーい!」


 その指示を聞くが早いか、ベルノの姿がぶれる。


 直後、探索者たちが食い止めていたモンスター達の姿がまるで幻だったかのように消え失せる。


 彼らはあわてて消えた敵の姿を探す。


 その目はやがて、ある一点で止まる。


 そう、トカゲや骨たち大量のモンスターを一抱えにしたベルノに、だ。


「いーただきまーす!」


 ベルノは注目の集まるなか大口を開けてモンスターの塊に食らいつく。


 するとちゅるん、と。まるで一口大のゼリーでも吸い込んだかのように、塊を為したモンスター達が消える。


「……ベルノ、頼め、る?」


「もちろん! 私はベルノ。ベルノ・グラトニー……私に食べられぬもの……無しッ!」


 そして彼女は名乗りに続いて、ご馳走でぎゅうぎゅう詰めになったダンジョンへと飛び込むのであった。

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[良い点] まさに俺がガンダムだ!
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