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127:睡眠欲と色欲。コンボを組めばまともな形になるはずもなく

 ぶつかり合う刃と刃!

 袈裟がけ、横薙ぎ、突き! 絶え間ない金属音と打撃音の中心点は、サンドラとケインである。


 サンドラの力を奪い取り、勢いを増した英雄の剣。であるがしかし、欲望を育まれたサンドラの双剣はそれ以上に鋭さを高め、一歩も譲ること無く切り結んでいる。


「俺との繋がりを……かつての世界での旅路を、呪縛だと言ったかッ!? 解放されて気が晴れたとッ!?」


 憤りのままの唐竹割り。これをサンドラはしなやかな波紋模様の曲刀で受け流す。


「こちらが思ったままを言ったまでのこと!」


 そして流れた体に膝蹴り。闘気で芯も外も強化した一撃が青い装甲越しに英雄のはらわたを揺さぶる。


「おごぉおッ!?」


「かつてはそちらとこちらの間には友好的なつながりがあったのかもしれない。が、今のそちらと結びたいとは思わんな」


 唾とうめき声とを吐き出すケインに冷ややかに言葉を投げつつ、ロングソードを突き刺しに。

 しかし、堪えたケインはその切っ先から転がるようにして逃れてオーラブレイドを飛ばす。


 牽制の刃をサンドラは身を翻しての一閃で打ち消し、追撃に踏み込む。


 すると追い打ちをさせじと、死霊の兵士たちが割り込みに入る。

 しかしオルフェリアが差し向けたそれらを、将希のパイルバンカーが突き刺し、吹き飛ばす!


「ハンッ! サンドラさんに惨い仕打ちをした当然の報いってヤツだろうが! もうサンドラさんは俺たちの味方なんだから安心して任せろッ!」


「寝取り宣言のつもりかよ!? いい趣味した少年だな! まったくいい趣味だよッ!!」


 援護を妨害して見せて鼻息荒くドヤ顔する将希に、ケインはサンドラと切り結びながら苛立ち任せに吐き捨てる。

 潰そうにも潰しに行けない状況に対する苦い顔に、将希はさらに自慢げな顔を見せる。


「……あの坊主、完全に俺たちの味方してるみたいな口ぶりだよな?」


「……で、ござるな。主様のお命を狙ったこともあるというのに」


「ま、ままま、まあまあ……今は助けてくれてるし、ね? あんまり、前のことを蒸し返すのも、ね? ヘヒヒッ」


 サンドラの援護をこなす将希の口ぶりに対して顔を合わせて突っ込むボーゾとクノ。

 不満げな二人に対して、のぞみは弟のフォローを入れる。


 そこへのぞみを目掛けてケインのオーラブレイドが迫る。

 しかしそれはサンドラが飛び込み様に切り落とし、のぞみに届かせない。


「あ、あり、ありがとうね、サンドラさん」


「なんの。今回もまたこちらの危ういところを助けられたからな!」


 続けてのぞみ狙いに襲いくる刃を叩き落としつつ、サンドラは唇を吊り上げてうなづき返す。

 そして身を翻しながら一撃では刻めないような大振りのオーラブレイドを重ね放つと、敵から顔を背けた形でのぞみに真剣な顔を寄せる。


「……あちらを抑えているにも限界がある。急ぎ目的を果たしてくれ……」


 思いがけず余裕の無いこの言葉に、のぞみは目を瞬かせる。

 しかしサンドラは明らかに受け損ねたのぞみに構わず、改めて英雄の抑えに臨む。


「おい、しっかりしろよのぞみ。どうしたいのかはともかく、動き出したほうがいいんじゃあねえのか?」


 すっかりサンドラを見送っていたのぞみはヘヒッと跳ねるように立ち上がると、相棒の言うとおりだと、黒髪を波立たせる勢いで繰り返しうなづく。


 呆けたままでいては、サンドラがケインに悟られぬよう、密かに耳打ちした甲斐もなくなる。

 迅速に目的を果たすことこそが、苦境を表に出さず強敵の抑えをしてくれているサンドラへの何よりの報いなのである。


 では、果たすべきのぞみの目的とは。

 当然異世界転生ヒーローをこの場で打ち倒すこと……ではない。断じて違う。

 のぞみがこのダンジョンに乗り込んだそもそもの目的。それは敵の首輪付きにされた両親の救出である。


「だから、どうにかしないといけない……のは、あっち……!」


 そうしてのぞみが見上げるのは、庇護欲の鉄巨神バウモールと組み合った巨大な人形。

 そのもがき足掻く巨人人形の内側に囚われて、魂をも繋がれてしまった父・亮治である。


「アレに捕らわれている……ということは奥方も……」


 クノが呟きながら、取り出した巻物をのぞみのマジックコンソールへ投げ込む。

 するとヤモリ忍者の一人の視界が、のぞみの手元に映し出される。


 暗がりの中。

 その中に浮かぶ淡い輝きを放つカプセル。その中に閉じ込められているのは、小柄で量の多く長い髪を垂らした女性。のぞみと将希の実母である和美であった。


「やっぱり、お母さんは、あっちに……」


 のぞみは予想通りの光景に、ザリシャーレのジャイアントカットモデルをやらされている女型の巨大人形を見やる。

 先程のゲッコーからの映像は、わずかな隙間から女の巨大人形へ潜入調査に入ったチームからの映像報告だったと言うわけだ。


「さてはっきりしたところで、やることはひとつだな。あのデカブツに閉じ込められた二人を引きずり出す。あとはとんずらするなり英雄退治まで欲張ってみるなり気の向くままにってこった」


「ヘヒッ……そ、それはそう。だけれども……そんな単純、でもない……と思う」


 のぞみが言う通り、ボーゾがざっくりとまとめたほどに簡単な話ではない。


 救出するにしても亮治と和美の魂はそれぞれを納めた巨大人形とリンクさせられてしまっている。

 これを物理的に無理矢理引き剥がしては、どんな悪影響が出るか分かったものではない。

 よしんば無事に身柄を確保できたとして、魂も取り戻して繋がりを絶たねば、結局は敵の首輪付きのままであることに変わりがない。


 つまり、いつケインがサンドラを突破してやって来るかも分からない状況で、手早く、さらにソフトに二人を完全に救出しなくてはならないということだ。


 まとまったやるべきことを目の前にして、のぞみは目眩を覚える気持ちであった。


「で、でも……やらないと……私たち、で……ッ!」


「ようし! その意気だ! 欲に負けんな。欲から逃げんな! それよりか欲しがる気持ちを全開に、どうしたら欲しいままに叶うのかを考えろってな!」


 難しさに怯みながらも挑もうとするのぞみの姿勢に、ボーゾは満足げにうなづく。

 この激励にのぞみはホラースマイルを添えてうなづくと、マジックコンソールに指を走らせて、自分が望む勝利を目指して動き出す。


「まずは……みんなを……出し惜しみ、無しで……ッ!」


 こののぞみの声に応じるようにしてゲートが展開。本拠地から頼もしい味方を呼び出す。


「イロミダ、スムネムはバウモールたちと一緒に、巨人……の中の人をやってるお父さんたちを、抑えて……ベルノとウケカッセで、ケイン? と、オルフェリアにぶつかって……サンドラさんと、将希も……だけど、誰も欠けちゃ……ダメ」


「むっずかしーなー! それだとお腹空かせてパワー全開ってのはムリでしょー!?」


「確かに難しい。ですが、ママのためならばどうにかして見せる。そこのところは我々共通のものと思っていたのですが?」


「もー! やりたくないなんて言ってないでしょー!?」


 ウケカッセに挑発されるまま、ベルノはのぞみの願われるままにサンドラと将希の助勢に向かう、


「それではママ。脱落するような無理はするな。とのことですが、別に英雄の身ぐるみをまるごとお金にしてしまっても構いませんよね?」


「ちょ、それ事態は別にいいけども……!? せせ、セリフがぁ……ッ!?」


 そしてウケカッセも、のぞみが死亡フラグめいた出撃の台詞を言い直すように求めるより早く、ベルノの後を追いかけていく。


「こっちはワタシとスムネムが骨抜きにしてる間にのぞみ様がどうにかする、って感じでいいんですよね? 手段は考えてあるんです?」


 所在無さげに伸ばした手をさまよわせていたのぞみは、この肩を撫でながらの言葉に、跳ねるように背筋を伸ばす。


「う、うん……力業、だけど……あのでっかい人形を乗っ取っちゃえば、いいや……って、ヘヒヒッ!」


 のぞみはそう言ってサムズアップ。すると両肩に担ぐようにして光で出来た立方体、魔法の情報処理システムを作り出す。

 知識欲の魔神パワーの現れであるそれを見て、イロミダは艶っぽく、スムネムはとろけた目を擦りながら、なるほどとうなづく。


「ではせっかくですし、ワタシたちの魔神パワーも使ってもらいましょうか」


「む……その方が、はやく終われる。おふとんに、帰るのがはやくなる」


 それにのぞみが反応する前に、サポート役として傍につく魔神たちは、揃ってダンジョンマスターへ手をかざす。


 するとどうか、たちまちにのぞみを体が沈み込むほどに柔らかな巨大枕が持ち上げる。合わせて、小柄ながら出るところのズドンと出たボディを包む帽子とマント付きレオタードが、はだけたダボダボワイシャツと下着のみという姿に変わる。


「フッヒャヘヒィイッ!? な、なに、これ!? なんぞこれぇえッ!?」


 完全に褥に誘うスタイルになったのぞみはその顔色を赤と青に点滅じみた勢いで変え続ける。


「オーケーグッジョブ!」


「イエスですね!」


 その一方でボーゾもイロミダもスムネムも、満足げにうなづいて親指を立てる。


「いや、ちょ!? ちょぉッ!? 格好はともかくワケを説明……して、下さいッ!?」


「単純にスムネムとの組み合わせで変わっただけですよ。ほら、これから寝よう寝ようって誘う形じゃあないですか」


「性的な意味も含んじゃってる、けども!? ……って、それがコンボということ?!」


 標的を濃密な睡眠欲に沈めるスムネムの。

 見るものを、文字通りの色香で酔わせて骨抜きにするイロミダのパワー。


 確かにその二つを組み合わせた形だと言えばそうなのだろう。

 だが唐突にきわどい格好にさせられたのぞみにしてみれば、それがどうしたとしか言いようがないことだ。


「ヘヒィイ……は、恥ずかしぃ……けど、も、せっかく強力なのを、借りたんだから……全力全開で使った、方が……いいかも? ヘヒッ」


 しかし、とのぞみは首をフリフリ。目的の達成に集中することにする。

 そしてふわりと雲のような枕に乗って、巨大人形たちを目掛けて浮かび上がるのであった。

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