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103:囚われのシンキングタイム

「あっちゃーこりゃ参ったね。なんにも見えないやー」


 真っ暗闇の中にベルノの声が響く。

 参ったとの言葉に反して、なんとものんきな色をしたその声は不規則に跳び跳ねる。


 ベルノのいるここはオルフェリアが作った黒雲の中。

 未練と怨念を蓄え集った死霊を材料とした牢獄である。


「ねーザリちゃん、何とかしてよー」


 そんな暗闇の牢獄の中、ベルノは同じように囚われ、直ぐ近くにいるはずの同胞に頼る。


「はいはい。ま、ここは任せてちょ・う・だ・い・な」


 それに乱反射で出来上がった不協和音を帯びながらも、了解の返事が。


「せーのッ! 山吹色サンライトイエローのバックラァーイトッ!!」


 そして掛け声とともに熱く激しい光が溢れる。

 この完全再現された夜明けの輝きに暗黒の牢獄を形作る亡霊たちが悲鳴を上げて離れていく。


 そんな悪霊祓いの光の中心では、ザリシャーレが芸術的なまでにひねった立ち姿を披露している。


「これは私も混ざった方がいー感じ?」


「いらないわよ別に。ポーズがいい感じに仕上がったり、二人でやったりしたって光の強さが変わるわけでもなし」


 一緒にポーズを取ろうとするベルノを苦笑交じりに制して、ザリシャーレもまたポーズを解く。

 しかしその言葉どおり、あくまでも芸術的なポーズはお遊び、欲望を満たすための添え物に過ぎず、バックライトと言いつつ全方位へ広がる光は緩むことなく、死霊の作る暗黒の入り込めない空間を作っている。


 ならいいやと、ベルノはすっかり興味を無くした様子で、ポケットから取り出したリンゴにかぶりつく。


「これでひとまず辺りは見えるようになって落ち着いたわけだしー……ね、サンゾー?」


 そして振り向いた先には、剣を支えに立ち上がろうとするサンドラの姿がある。


「ああ。また助けられたようだな」


「いいっていいって。ワタシらも明かりが欲しーなって思ったついでなんだし。それよりほら、腕を直すために食いなっせ、たーんと食いなっせー!」


「あ、ああ……腕のことまですまんな……というか押し付けるな押し付けるな! 受け取りにくい食べにく……むもがッ!?」


 ベルノはグイグイと回復のための食事を押し付け押し通して、こじ開ける形でサンドラに食べさせる。


 あまりにも強引に過ぎるそのやり方に、ザリシャーレは苦笑交じりに肩をすくめる。


「一息つくのは良いのだけれど、ここからどうしたものかしらね」


 ザリシャーレがぼやき見回すとおり、三人の周りの暗黒牢獄は押し広げられているものの、ザリシャーレのバックライトの向こうは、追い払いきれていない怨霊たちが形作った闇の壁で閉ざされている。


「えー? そんなのザリちゃんがダッシュしてぶち破っちゃえば良くなーい?」


 ベルノがサンドラに食わせながら突破法を示す。が、その脳筋式の脱出方法に、ザリシャーレは頭を振る。


「たぶんムリね。牢獄を作ってる壁自体が動いてるんだもの」


 ホラ。と、ザリシャーレが指さした先では、暗い壁からほつれるように出た靄が逃げ込むように暗黒色をした牢の壁に吸い込まれていた。


「走った分壁を作ってる亡霊が動いて、牢獄のある場所が変わるだけよ」


「ふーん。じゃー穴でも掘ってみようか?」


 それならばとベルノが指を激しく動かすのに、ザリシャーレはまたも首を横に。


「それで破れるくらいなら、もう転移で抜けれてるし、他のに連絡だってできてるわよ?」


「それもそっかー」


 しかし呆れたようなダメ出しにベルノはムッとした様子を見せるでもなく、素直に受け入れる。

 そうしてベルノは、じゃあどうしたものかと、首を捻る。


「……だったら、食欲のが食らい尽くしてしまえば、いいんじゃあないのか?」


 すると食べ過ぎで顔を青くしたサンドラがゲップ交じりにアイデアを出す。

 その言葉は苦し気ではあるが、具合を確かめ、解すように動かしている左腕は枯れ木のような状態から完全に復元している。

 そして生命力を放出しすぎて老いるように萎れていたその肌も、もとの若々しい張りを取り戻している。


「えーやだー!」


 そんなサンドラの提案をしかし、ベルノは唇を尖らせて拒否する。


「な、なぜッ!? こちらにまとわりついていたのを剥がしたのと同じように食べてしまえば……ッ!?」


「その時にも言ったけどー……ゴースト系は美味しくないの!」


 手段はあるのにどうしてか。この問いにベルノは食欲ゆえにと、断固として拒否する。


「不味いし、食べ応えもない! 我慢して食べるにも限度があるの!」


「そんなッ!? そんなことを言ってる場合か!? 脱出するためなら多少の我慢は……ッ!?」


 拒否するベルノに、無理強いしようとするサンドラ。

 だがその間にザリシャーレが割って入る。


「はい、そこまでよ。さてここでサンドラに問題です。アタシ達のパワーの源ってなんだったか・し・ら?」


「いきなりなにをッ!?」


「いいから、考えてみてちょうだい」


 唐突なクイズに面食らうサンドラに、ザリシャーレは有無を言わせずに応えるように強いる。


「考えるも何も、貴様ら魔神たちの力の源など今さら改めて考えるまでも……って、あ!」


 答えを口に出そうとして、サンドラは閃きに目を見開く。


「そう、そのとおり。欲望よ。で、食欲を司るベルノが拒否感の湧いてるものを食べ続けられると?」


「土台、無理な話だったな」


 強大な、特に自身の司る分野に関しては圧倒的なまでの力を持つ魔神たち。であるが、それも気ままに、欲望のままに動いているからこそ。

 嫌なことを無理強いしたところで普段の力の数分の一も発揮できるものではない。


「まーでもねー、のぞみちゃんのためだっていうのはサンゾーの言うとおりだしー……吐き気堪えてがんばろーかなー」


「それも手ではあるけれど、切り札ってことにしときなさいよ。マスターが起きない内に、手早く片付けるのは第一だけれども」


「でもさー? それじゃどうやって抜けるって言うの?」


「だから、それを考えるのよ」


 無理を通そうとするベルノを止めて、ザリシャーレは考え込む。


「うーん。この外にいる大本のためにパワーは温存したい。だから我慢した力業は切り札にして、幽霊の牢獄を破る……むつかしーなー!」


 改めて求められているアイデアの条件を指折り並べて、ベルノは頭を抱える。


「こちらも肉体が万全になったからオーラブレードで切り裂けなくはないだろうが……」


「試す価値はあるけれど、それで切り開いて抉じ開けたとして、またすぐに裂け目を塞がれてしまいそうなのよね」


「まあ、壁を為しているものが分厚いからな……」


「……戦士サンドラもすっかりこっちの味方……というか、脱出に手を貸してくれるつもりになっているようですけれど」


「まあそれはね。取り巻き同盟からは尻尾切りされたみたいなもんだし、ウチをもっと積極的に利用していくつもりになったって事じゃないのかな」


 サンドラと、意識を取り戻したアガシオンズも加えて、ああでもないこうでもないといい具合の脱出法がないかとスリリングディザイア組はアイデアを出しあう。


「うーん……やっぱり牢屋になってる亡霊の数がやたら多いのが問題なんだよねー」


「戦士サンドラに頼って消耗させて、オルフェリアの目標を達成させるのも面白くないですからね」


 しかしパワーを温存しつつ全員無事に脱出。となると、どうしても亡霊の層の厚さが問題になる。


「しかし、あまり時間をかけるとマスターを起こすようなことになってしまうわね」


「それもヤダよねー。のぞみちゃんを寝かせてあげよーってのに、私らのせいで起こして心配かけたなんてどうしよーもないし」


 そしてベルノたちの目的からすると、もうあまり時間もない。


「こういう時、オーナーならどうしますかね」


 そういえばと、アガシオンズの一人が口にしたその言葉に、全員の目が集まる。


「うーん……のぞみちゃんなら、か……ということは、ボーちゃんも一緒だよねー」


「あの二人ならどうするか……ねえ」


「まーいい感じの魔神パワー見繕ってぶち破れーって感じじゃない?」


「そうかもだけど、それが出来ないなら、でしょ? そうねぇ取り囲んでる敵の欲望を満たして味方にーなんて……」


 ザリシャーレが冗談半分に口にしたその「IF」に、発した当人もベルノも、その他の全員が顔を見合わせて固まるのであった。


「それだ!」

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