第13章 「サイバー馬賊、その誇り高き戦い」
今や紅露共栄軍の秘密要塞は、爆発音と銃声の鳴り止まない壮絶な修羅場と化した。
この修羅場で賊軍を追い立てて回る正義の官軍は、複数の勢力によって構成された連合軍だよ。
白い着物と赤い袴で構成された巫女装束に身を包んだ京洛牙城衆と、伝統的な漢服を纏った道士達で構成される崑崙仙軍。
そうした霊能者の軍勢による超自然的な力の行使は確かに華やかだけれど、中華王朝政府軍の一糸乱れぬ質実剛健な戦い振りも見事の一言だよね。
何しろ中華王朝政府軍を率いる英賀琳上将軍は楚漢戦争の時代に活躍した九江王の英布の子孫であり、先祖同様に武人としての高い素質を持っているのだから、頼もしい事この上ないよ。
勿論、我等が人類防衛機構が誇る防人乙女も例外じゃないね。
強襲揚陸艦で接岸してからは、第二次世界大戦末期にノルマンディーで展開されたオーヴァーロード作戦もかくやの上陸作戦を決行し、多大な戦果を上げつつあるんだから。
私としても、この上陸作戦の成功は喜ばしい限りだよ。
何しろ友軍である人類防衛機構の本隊と合流出来た事で、通信デバイスである軍用スマホと補助AI搭載の多機能ヘルメットを受け取り、そして何より愛銃のレーザーライフルを始めとする各種武装も再び手元に戻ってきたんだからね。
かくして「赤眸の射星」は再び真の輝きを取り戻したって訳。
時間が無いから遊撃服には着替えられなかったけど、この満州服は遊撃服と同じナノマシン配合の強化繊維製だから何も問題はない訳だよ。
むしろこの奇抜な服装に因む形で、「サイバー馬賊」って新しいニックネームまで命名された訳だからね。
名付け親の京花ちゃんには感謝しなくっちゃなぁ。
その京花ちゃんにしても、今回は何時になく張り切っていたんだ。
「たあっ!レーザーウィップ、地獄回し!」
「ぐわああっ!」
リボン状に変形させたレーザーブレードの刀身を敵兵の首に巻き付け、そのまま他の敵兵の身体にぶつけて陣形を滅茶苦茶に見出しちゃうんだから。
あのレーザーウィップは人命救助とか高所での高速移動とか様々な局面で役立つけど、こうして敵を翻弄する時にも大いに役立つんだよね。
まあ、京花ちゃんが何時にも増して激しいのも無理はないかな。
「君達には私の曽御祖母ちゃんが随分と世話になったねぇ!今日は曽孫の私が御礼参りに来てあげたんだから、存分に楽しませて貰うよ。」
何しろ京花ちゃんの曽御祖母さんである大日本陸軍女子特務戦隊の園里香上級大佐は、数十年前の「アムール戦争」の際に名誉の戦死を遂げられたのだから。
それも投降を装った紅露共栄軍の敗残兵による自爆テロのせいでだよ。
此度の作戦行動、京花ちゃんとしては御先祖様の意趣返しという側面もあったのかも。
「そ~らよっと、お仲間の所まで飛んでけ~!」
「うわああっ!」
何しろ勢いをつけて敵兵の身体を叩きつけた先には、紅露共栄軍の分隊がいたんだからね。
どうなるかは一目瞭然だよ。
「アッハハ、ゴミみたいに積み重なっちゃって!薄汚いテロリスト風情にはお似合いだよ!」
身体の彼方此方を強かに打ち付けてすぐには起き上がれない敵兵をあんな風に嘲笑するんだから、京花ちゃんも容赦がないよ。
だけど単なる復讐鬼に堕ちたり暴走したりしないのが、この京花ちゃんの偉い所だね。
「チャンスは今だよ、思い切りやっちゃって!」
ほら、こんな風にね。
この「榎元東の青き風」と呼ばれる少女士官は一見すると奔放そうだけど、その実は私達との連携をキッチリ視野に入れてくれているんだ。
「よし来た、お京!ぬかるなよ、ちさ!」
「任せてよ、マリナちゃん!私もレーザーライフルも、これからが本番なんだから!」
そうして笑顔で笑い合えば、後は各々の愛銃が確かに応えてくれたよ。
こちらでレーザーライフルの光線が敵兵を消し炭に変えたと思えば、向こうでは大型拳銃から発射されたダムダム弾が敵兵の身体を徹底的に破壊していたんだから。
それにしても、やっぱり正規の武装ってのは良い物だよね。
私のレーザーライフルが高性能なのは言うまでもないけど、マリナちゃんの大型拳銃も負けず劣らずに素晴らしい精度と破壊力だよ。
これに比べたら私が先程まで使っていた鹵獲品の銃器なんで、まるで子供の玩具だね。
そんな子供の玩具を振りしかざしていた連中も、もう今となっては見る影もないよ。
私のレーザーライフルで消し炭になったのもいれば、マリナちゃんの撃ったダムダム弾で無惨な肉塊になったのもいるね。
松尾芭蕉曰く、「夏草や兵どもが夢の跡」。
既存秩序の崩壊という紅露共栄軍の大それた夢が水泡となるのも、もう間もなくだよ。




