1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(9)
兵士の剣が、私の首すじをかすかにに突きつけられた
つつ……と血が流れるのを感じる。
やば、もう少し猶予があるかと――
――キィン!
「それが騎士のすることか!」
私が次の出方を判断する前に、兵士の剣がアーロンの剣によって弾かれた。
見たところ彼らは騎士ではなく雇われ兵士だとは思うけど、今つっこむところではないだろう。
アーロンは私の腕をつかんでいた兵士の手を取り、そのまま引き倒した。
「ぐえっ」
背中を打ち付けた兵士を、そのままステージの下へと蹴り出す。
私が強化する前にこの腕前!?
アーロンってもしかして、本気を出したら強い?
「これ以上、貴女に指一本触れさせません!」
台本にないセリフだけど、ちゃんと繋がってるからOK!
兵士達が一斉にステージに上がってこようとする。
今だ!
私は聖女の力で、アーロンの身体能力を強化する。
そこからはもう、ハデなアクションの連続だった。
迫り来る兵士達から私を護りながら、ちぎっては投げ、剣を弾き、蹴り飛ばす。
広場にいる観客達は湧きに湧いた。
日々を生きるのに精一杯な彼らにとって、これほどの娯楽は滅多に味わえないものだろう。
アーロンは兵士達を次々に昏倒させていく。
中には、文字通り空中に投げ飛ばされる兵士もいた。
観客達のど真ん中に落ちた兵士の中には、「こないだうちの息子を殴ったやつだね!」などと言われ、踏まれまくっているのもいる。
ちょっとかわいそうだが、自業自得なのでしょうがない。
そして残るはリーダーただ一人。
「貴様ら、こんなことをしてただですむと思っているのか!」
リーダーさん、お顔が真っ赤である。
「こんなにたくさんの仲間を殺してしまった……」
アーロンはしっかり演技を続けている。
「いや、死んでないと思うが……。あとアーロンさんあんた、もう騎士団を退団したんだろ?」
そこで冷静なツッコミはやぼでしょリーダーさん。
「あなたの罪、私も一緒に背負うわ」
私はそっとアーロンの剣の柄にそっと手を添える。
こくりと頷くアーロン。
その真剣な表情に、お芝居だとしてもドキリとしてしまう。
あれだけ湧いていた観客達も、静まりかえり、ごくりと息を呑む音すら聞こえてくるようだ。
「ここまで抵抗したのだ。腕の一本くらいは覚悟してもらおう!」
リーダーがアーロンに斬りかかる。
これだけ仲間がやられても自信満々に襲いかかってくるあたり、腕に覚えがあるのだろう。
しかしアーロンは、リーダーの攻撃をなんなく裁く。
私の能力は、動体視力や筋力などが総合的に強化される。
ただ、アーロンの動きをみていると、決してそれに頼っているだけではないことがわかる。
剣術は素人な私にも、彼の動きが洗練されたものだとわかる。
ただ早く動いているだけではなく、美しさすら感じられる動きなのだ。
きっと努力をしたのだろう。
騎士団で評価されることはなかったと本人は語っていたが、これまでは身体能力がついてこなかっただけなのかもしれない。
もしくは、暴力を扱うのに彼は優しすぎたか……。
剣の柄でリーダーの首筋を殴り、彼を昏倒させたアーロンが私の手を取る。
「さあ、まいりましょう!」
「はい!」
倒れた兵士達をそのままに、舞台は続く。
あとはエピローグ的な一幕を残すのみだ。
騎士に寄り添うヒロインが、彼の竪琴と歌を聞くシーンで無事閉幕となった。
結果として、公演は大成功を収めた。
想定以上だったと言っていい。
万雷の拍手の中、私と手を繋ぎ、観客に向かって礼をするアーロンは、これまでで一番嬉しそうな笑顔だった。
「これはどういうことですの!?」
観客達の歓声を破るように響いたのは、セーラの怒鳴り声だった。
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