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8/11

1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(8)

 演目は、『平民出身の騎士が、貴族の令嬢と恋に落ちる。しかしその令嬢には、王族との縁談があって……』というストーリー。

 観客が多いのは、事前にでまわったこのあらすじのせいもあるだろう。

 私に関して流れた噂に合わせて作ったシナリオだ。

 デマがより拡散することにはなったけど、同時に観客の興味も引けた。

 みんな、貴族のスキャンダルは大好きなのだ。


 舞台は思っていたよりもずっと順調に進んだ。

 最初は緊張していたアーロンも、彼の歌と竪琴に聞き惚れる観客達を見てふっきれたようだ。

 これまでで一番良い演技を見せてくれている。


 私に対して、婚約破棄に関するヤジがとんだりしたけれど、そんなものは必要経費だ。

 むしろ、そうやって笑いをとろうとしたまであるからね。

 大丈夫、大丈夫。


 もともとは、家柄の違いからくる悲恋がメインだったのだけど、アーロンの話を聞いて、少し筋を変えた。

 最初はいがみあっていた二人だったが、騎士が人々を助ける過程で引かれ合う流れを追加したのだ。

 アーロンが望んでいた人助けを、お話の中だけでも叶えてあげたかった。

 それに、彼も違う人生を演じることで、気持ちの整理が少しだけできたようだ。


 別の誰かになる――。


 これもまた、お芝居の醍醐味である。

 小さい頃は毎晩、別のだれかを一人で演じていたものである。

 お芝居に出会わなければ、今頃私は窮屈なあの家で、精神的にまいってしまっていたかもしれない。


 そうこうしているうちに、ストーリーもクライマックス。

 駆け落ちしようとした騎士と令嬢を、たくさんの兵士が止めに来るシーンだ。


 ちなみにこのお芝居、メイン二人以外の登場人物はステージの向こう側や、路地の向こうに見切れているていで進めている。

 もちろんけっこう無理はあるので、脇役の出番は極端に少なくしてある。


「しまった! 兵士達が! このまま隣国まで逃げよう! キミと一緒なら国を捨てることなど怖くはない!」


 アーロンが私の肩を抱き、朗々とそう言いながら、広場から伸びる大通りの先を指さした。

 当然そこに兵士などいない……はずだった。


「え? 本当に来た?」


 アーロンが小さく声をあげた。

 大通りを10人ほどの兵士がこちらに向かって駆けて来たのだ。


「私も家を捨てます。私を連れて逃げてください!」


 芝居を続ける私に、目を見開いて驚くアーロン。

 「逃げた方がよくいのでは?」と目で訴えてくる。


 しかし私は、


 ――このまま続けて。


 そう強い意志を込めて、彼の碧い瞳を見返す。


「え……? あ、あぁ……マリーナ様……」


 多少どもりながらも、アーロンが私をぎゅっと抱きしめた。

 この状況で演技を続けてくれる度胸に感謝したい。


 ちなみに「マリーナ」とは、私の役名だ。


 兵士が観客をかきわけ、ステージに迫って来る。


「解散しろ!」


 兵士のリーダーらしき男性が声をあげた。

 観客達は兵士達から離れようとするが、密集した広場では身動きがとれずにいる。

 そんな中、他の兵士達は無理矢理進み、小さなステージを囲む。


「逃げきれません……どうかマリーナ様だけでも……」

「貴男が残るなら私も! 貴男なしではもう生きていくことなどできません!」


「ええい! 芝居をやめろ!」


 抱き合う私達を引きはがそうと、兵士の一人がステージにあがってきた。

 私の右腕つかみ、引っ張る。


「あっ!」


 しかし左手はアーロンの手を握ったまま離さない。


「離れろと言っている! この場で斬りすててもよいのだぞ!」


 いらだつ兵士が、アーロンに剣を向けた。

 もちろんお芝居用の小道具などではなく、本物だ。


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