1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(8)
演目は、『平民出身の騎士が、貴族の令嬢と恋に落ちる。しかしその令嬢には、王族との縁談があって……』というストーリー。
観客が多いのは、事前にでまわったこのあらすじのせいもあるだろう。
私に関して流れた噂に合わせて作ったシナリオだ。
デマがより拡散することにはなったけど、同時に観客の興味も引けた。
みんな、貴族のスキャンダルは大好きなのだ。
舞台は思っていたよりもずっと順調に進んだ。
最初は緊張していたアーロンも、彼の歌と竪琴に聞き惚れる観客達を見てふっきれたようだ。
これまでで一番良い演技を見せてくれている。
私に対して、婚約破棄に関するヤジがとんだりしたけれど、そんなものは必要経費だ。
むしろ、そうやって笑いをとろうとしたまであるからね。
大丈夫、大丈夫。
もともとは、家柄の違いからくる悲恋がメインだったのだけど、アーロンの話を聞いて、少し筋を変えた。
最初はいがみあっていた二人だったが、騎士が人々を助ける過程で引かれ合う流れを追加したのだ。
アーロンが望んでいた人助けを、お話の中だけでも叶えてあげたかった。
それに、彼も違う人生を演じることで、気持ちの整理が少しだけできたようだ。
別の誰かになる――。
これもまた、お芝居の醍醐味である。
小さい頃は毎晩、別のだれかを一人で演じていたものである。
お芝居に出会わなければ、今頃私は窮屈なあの家で、精神的にまいってしまっていたかもしれない。
そうこうしているうちに、ストーリーもクライマックス。
駆け落ちしようとした騎士と令嬢を、たくさんの兵士が止めに来るシーンだ。
ちなみにこのお芝居、メイン二人以外の登場人物はステージの向こう側や、路地の向こうに見切れているていで進めている。
もちろんけっこう無理はあるので、脇役の出番は極端に少なくしてある。
「しまった! 兵士達が! このまま隣国まで逃げよう! キミと一緒なら国を捨てることなど怖くはない!」
アーロンが私の肩を抱き、朗々とそう言いながら、広場から伸びる大通りの先を指さした。
当然そこに兵士などいない……はずだった。
「え? 本当に来た?」
アーロンが小さく声をあげた。
大通りを10人ほどの兵士がこちらに向かって駆けて来たのだ。
「私も家を捨てます。私を連れて逃げてください!」
芝居を続ける私に、目を見開いて驚くアーロン。
「逃げた方がよくいのでは?」と目で訴えてくる。
しかし私は、
――このまま続けて。
そう強い意志を込めて、彼の碧い瞳を見返す。
「え……? あ、あぁ……マリーナ様……」
多少どもりながらも、アーロンが私をぎゅっと抱きしめた。
この状況で演技を続けてくれる度胸に感謝したい。
ちなみに「マリーナ」とは、私の役名だ。
兵士が観客をかきわけ、ステージに迫って来る。
「解散しろ!」
兵士のリーダーらしき男性が声をあげた。
観客達は兵士達から離れようとするが、密集した広場では身動きがとれずにいる。
そんな中、他の兵士達は無理矢理進み、小さなステージを囲む。
「逃げきれません……どうかマリーナ様だけでも……」
「貴男が残るなら私も! 貴男なしではもう生きていくことなどできません!」
「ええい! 芝居をやめろ!」
抱き合う私達を引きはがそうと、兵士の一人がステージにあがってきた。
私の右腕つかみ、引っ張る。
「あっ!」
しかし左手はアーロンの手を握ったまま離さない。
「離れろと言っている! この場で斬りすててもよいのだぞ!」
いらだつ兵士が、アーロンに剣を向けた。
もちろんお芝居用の小道具などではなく、本物だ。




