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1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(5)

「ご心配頂かなくても、私は自由に楽しく生きていくから大丈夫ですよ」


 得意げなセーラに軽くカウンター。

 しかし彼女は、それを負け惜しみだと考えたようだ。


「女が一人で楽しく生きるなんて夢物語が叶うかはさておきまして、殿下から賜った騎士を不幸にするようなことはしないでくださいましね。なんでしたらアーロンさん。うちに来てもよろしくてよ」


 アーロンにしてみれば、王妃候補のお付きになれるというお誘いだ。

 出世にも繋がる道である。


 その誘い文句はズルくない?

 アーロンがお芝居の楽しさに目覚めるまで待ってくれないかなあ。


 私は思わず、隣に立つアーロンの顔をちらりと見た。

 迷っていたらどうしようとも思ったが、彼は私と目を合わせてにこりと微笑んだ。

 そして、私を庇うように前に出る。


「もったいないお言葉ありがとうございます。しかし、マリナ様に仕えることは、殿下のご命令と承知しておりますので」

「私から殿下に進言してもよろしくてよ」

「二言はないと申された殿下のお言葉を尊重したく存じます」

「そ、そう……ならいいですわ」


 断られるとは思っていなかったのだろう。

 めんくらったセーラは、目もとをひくつかせている。

 美人が台無しだよぉ?


「ふ、ふんっ。王都中で噂になっている婚約破棄されたような女と一緒にいることに耐えられなくなったら、いつでもいらっしゃいな」


 自分で噂をばらまいといてよく言うよ。

 婚約破棄は事実だけどさ。


 負け惜しみにみも聞こえるそのセリフに、アーロンは黙って礼で答えた。


「あなたも、恥に耐えきれなくなったら、王都を出て行く援助くらいはしてさしあげてよ」


 鼻息を荒くしたセーラは、捨て台詞と宿を出て行った。


「やれやれ。今のやりとりだけで、ウソの噂を流したのは自分ですって白状したようなもんだねえ」


 おかみさんがうんざりしたようにため息をついた。

 お忍び調査をしていてわかったことだけど、王都は税率も高く、貴族の直接的な理不尽を受ける機会も多い。

 表では言えないような不満があちこちにくすぶっている。

 それでいて、騎士とお姫様の芝居が受けたりもするのだから、不思議なものだ。


「何か助けはいるかい? マリナちゃんの悪い噂を打ち消すくらいなら協力できるよ? マリナちゃんには『騎士団パンツ大量盗難事件』で世話になったからねえ」

「え? あれの解決ってマリナさんが?」


 アーロンにはあまり知られたくないやつ!

 あれは悲しい事件だった……。


 おばちゃんの申し出はうれしい。

 でも転ばされてただ起きただけじゃあ、やられ損だ。

 せっかく転んだなら、銀貨の一枚も拾わないとね。


「気持ちは嬉しいのですが、このまま放置してもらますか?」

「いいのかい?」

「はい、私に考えがあります」

「マリナちゃんのその悪い顔、久しぶりに見たよ」


 おかみさんの「一緒に悪巧みするよ」的なこの笑顔、とても大好きだよ。


「あの……マリナさん、なんだかすごく嫌な予感がするのですが」

「大丈夫。今の会話を聞いて、そうならない人はいないから。アーロンは正常よ」

「そういう心配をしてるわけじゃないんですが!?」

「でもそんな人に役者は務まらないの」

「もしかしてと思ってましたが、昨日の広場でのアレ、これからも続けるつもりなんですか?」

「まっさかあ」

「で、ですよね。よかった……」

「どんどん規模を大きくしていくのよ。目指すは国一番の劇団!」

「ひぇぇ……」


 ドン引きされてる……。

 でも私にはわかる。

 彼は絶対に芝居に魅せられると。

 歌や竪琴が上手いというだけではない。

 誰かを演じ、他人を楽しませることに喜びを見いだせる人種だからだ。

 昨日の広場ではっきりした。

 あとは彼の殻をどう破るかである。


 その前に、絶対に邪魔してくるであろうセーラへの対策もしなきゃだけどね。


「ところでアーロン、私がすることに察しがついていて、なぜセーラについていかなかったの?」


 殿下の命令を理由にはしていたけど、とりあえず逃げることだってできたはずだ。


「それは……マリナさんがあまりに自由に笑うので」

「え? 私?」


 てっきり、昨日のパンが美味しかったとか、そういう美しい話を期待したのだけど。


「もしかして、バカっぽかった?」

「違います! 騎士にも貴族にも、マリナさんのように未来に希望を持って笑う者を見たことがありませんでした。

 だから、貴女についていけば、もしかしたら自分もそうなれるかと。

 申し訳ありません……ご婦人を護る立場にありながらこんな……」

「ううん……いいの。違うわね……いいわ、すごくいい! やっぱり才能あるよ!」


 ――芝居には技術が必要。だがそれ以上に心でするもの


 これは、かつて王都にきていた劇団の団長に聞いた言葉だ。

 こっそり楽屋に忍び込んでは、劇団員と話していた幼少期を思い出す。


 その心が、アーロンにはある。

 うん、いける!


「アーロン! 今日から早速稽古よ! 覚悟してね!」


お読み頂きありがとうございます。

本日はもう少しだけ投稿しますので、面白い&続きが気になると思っていただけましたら、ブックマーク&高評価よろしくお願いいたします。

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