1人目の劇団員はイケメン騎士様!?(4)
「質屋さんと知り合いなのですね。それに、まるで商人のような交渉でした」
次の目的地へ向かいながら、アーロンが訊いてきた。
イヤミも偏見もない純粋な疑問。
そういうところイイよね。
「お忍びであちこち見て回ってたときにちょっとね」
「出自もバレてましたし、お忍びとは……?」
意外にするどい!
「さて、次は宿ね。さすがに野宿というわけにはいかないし。アーロンも騎士宿舎は追い出されちゃったでしょ?」
質屋を出て次に向かうのは宿屋だ。
「はい……ですが、宿に泊まれるほどの持ち合わせは……」
「大丈夫、私が出してあげるから」
「そんな! ご婦人に宿代を頂くなんてできませんよ!」
「その分ちゃんと働いてもらうから安心して」
「もしかして僕……とんでもない人に目をつけられましたか……?」
「そのセリフを笑って流せるくらいには優しいから安心して」
「全く安心できないのですが!?」
そんな軽口を叩きつつ、やってきたのは王都でも庶民向けの宿屋さん。
「おやおやマリナちゃん。こんなところに来たってことは、婚約破棄されたってのは本当みたいだね」
かっぷくのよい宿屋のおばちゃんが、「わっはっは」と豪快に笑う。
いや、笑い事じゃないんだわ。
「もしかしてその噂、王都中に広がってます?」
「知らない人はいないんじゃないかねえ」
「わーお」
いくらなんでも広がるのが早すぎる。
あの女、やったな?
おおかた、私をこの王都から追い出したいのだろう。
メンツを気にする貴族の令嬢なら、とっとと田舎にでもひっこむところだ。
でも、お芝居をするなら観客がいないと話にならない。
旅劇団をやるにしても、まずは王都で知名度を上げてからだ。
「連泊をご所望かい?」
「さすがおかみさん、話が早い。2人分、1ヶ月お願いできますか? できるだけ安い部屋を」
「うちはどの部屋も安いさね。マリナちゃんにはヒキガエルワイン煮込み事件でお世話になったからね。ちょっと安くしとくよ」
「ありがとうおかみさん!」
「え? 何ですかその事件……?」
ごめんねアーロン君、ずっと蚊帳の外で。
もうすぐイヤでもごりごり活躍してもらうからさ。
「そっちの色男が駆け落ちの相手かい? なかなかいい男じゃないか」
「駆け落ち!? そんな話になってるんです?」
これには私もびっくりだ。
「やぁっぱりウソかい。セーラ様の取り巻きがそんな噂を流してるって話を聞いたけどね。はっはっは、あんたも面倒な女に目をつけられたもんだ……っと、噂をすれば……」
おかみさんが一瞬顔をしかめ、私の背後を見た。
「あらマリナさん、まだ王都にいらしたのですね」
イヤミたっぷりな声に振り返ってみると、そこにいたのはセーラだった。
お供の兵士が二人、付き添っている。
「セーラさんこそ、こんな場所に何かご用?」
背後でおかみさんが「こんな場所?」と呟いたが、聞こえないフリ。
……あとであやまっとこう。
「マリナさんが元気になさっているか心配になって、様子を見に来たのですわ。殿下の『元』婚約者ですもの。幸せになって頂きたいですわ」
『元』をこれでもかと強調するセーラ。
性格悪すぎじゃない?
彼女としても、より良い結婚相手をゲットするために必死だったのはわかるけどさ。
こんなところまで追い打ちしにくる必要は……あ。
アーロンがお気に入りって話は本当だったってことか。
取り返すつもりがあるかは知らないけれど、プライドを傷つけられてムカついたってところだろう。
婚約者争いは、貴族令嬢の戦場だ。
だから、私を蹴落としたことはそこまで怒ってない。
でもさ、これ以上追い打ちをかけてくるというのなら、こっちだってとことんやってやる。
自由になった私の人生、誰にも邪魔はさせないよ!




