第二十二話 告白
「いいか、話だ、話をするぞ、お前が聞きたくないとか関係ねえ勝手に話してやるからなあ!!」
さあてとにかく追いかけて声をかけてみたが、ここからどうしよう?
仲直りの方法。
うまくやるにはどうすればいいか。
そんなの経験がないんだからわかるわけがねえ。
だけど、そうだ。
俺らの仲なんだ、今更つまらない取り繕いをする必要もねえだろ。
俺はドアの向こうの雪菜に向かってありったけの本音をぶつけるために声を張り上げた。
「なあ雪菜仲直りしよう!!」
「……、いくら何でも雑すぎない?」
「うっ、うるせえな! 俺に気の利いた仲直りの仕方とか期待するんじゃねえ!!」
ああくそ、そうだ、また忘れるところだった。
「雪菜、悪かったな」
「…………、」
ドアの向こう。雪菜からの反応はない。
それでもやっぱり仲直りしたいなら思いの丈を伝えるしかないんだ。
「ひどいこと言って雪菜を傷つけてしまったよな。あれは全部嘘だ。照れくさくて適当なこと言ってしまって、だから、なんだ、本当はかわいいと思っているぞ!! わかったか!?」
「……うん。別にもういいよ」
顔は見えない。
それでも、何となくだが、これじゃ駄目な気がした。
「雪菜、あのだな、ええっと、あれだっ」
「だからもういいって──」
「俺は雪菜のことが好きだ!!」
だからといってここでこれまで目を逸らしてきたもんをぶちまけるつもりはなかった。それなのに気がつけば吐き出していたんだ。
「あ、やっべ」
「あ、やっべ、じゃないわよおっ!!」
そこでズバンッッッ!!!! とドアが勢いよく開け放たれた。その先、顔を真っ赤にした雪菜が詰め寄ってくる。
「なになに今のなにいいやどうせ幼馴染みとして好きとかそんなオチよねわかっているわよでもだけどなんでこのタイミングでほんっとう思わせぶりな態度ばっかりよね鈍感クソバカわかっているんだから私が勝手に期待しているだけで大和は優しいだけでだから踏み込み過ぎないようにってもうあんな期待するのはやめようって決めたのにどうしてこんないい加減にしてよお!!」
「雪菜」
言ってしまったもんは仕方ない。
予想以上に雪菜がキレているし、なんかもう勢いが良すぎて半分以上聞き取れなかったが、こうなったら最後まで踏み込むしかねえよなあ!!
「俺のこの好きって気持ちは付き合いたいとか結婚したいとかそういう好きだ!! わかったかわかったなそれじゃあ返事をもらおうか雪菜あ!!」
「…………は、ひ? いま、なん、て???」
「だから雪菜が好きなんだ!! 付き合ってくれ!!」
「うそ、だよ」
「嘘じゃねえ!! いやまあつまらない嘘で雪菜を傷つけたから信じてもらえないかもしれねえが、それでも誓ってこれは嘘じゃない。だから信じてくれるまで何度でも言うぞ」
俺は言う。
この想いが伝わるまで何度だって言ってやる。
「俺は! ずっと前から!! 雪菜に惚れているんだ!!!!」
だから、なんだ。
五人組の嫌がらせグループを中心とした悪意に何年も晒されても雪菜のそばにいるのをやめなかったのも、黒川のような天才に勝負を挑んだのも、凡人じゃ相当努力しないと合格できない剣城繚乱高校を目指したのも、全部が全部だからなんだ。
幼馴染みだからじゃねえ。
一人の女として好きだから。
ああそうだ、好きな女のためならなんだってできるに決まっているよな!!
ーーー☆ーーー
しばらく反応がなかった。
雪菜は呆然と俺を見つめていた。
そこで雪菜の頬を雫が伝った。
涙が溢れ出たんだ。
「なっ、ちょっ、そんなに嫌だったか!? やっぱり幼馴染みとしてしか見て──」
「もうやだ。なんで、いつもいつも! 大和はそうやって最後には私が一番欲しい言葉をくれてさあ!! 普段は鈍感なのになんなのわざとなの!?」
「いや、あの、つまり?」
「私だってとっくの昔に大和に惚れているわよお!!」
ぼすん、と胸に飛び込む雪菜。
ぐりぐりと顔を俺の胸に押しつけながら、くぐもった声が漏れる。
「優しさからじゃない。大和は心から私が好きなんだよね?」
「優しいから告るってなんだそれ? この想いは紛うことなき俺の本音だ」
「本当なんだよね? 私、もう我慢しないよ? この期待を裏切ったら絶対に許さないんだから」
「なら何の心配もいらねえな。俺が雪菜のことを好きなのは何があっても揺らがないんだし」
「……ううー」
「待て待て脛を蹴るななんだ俺の脛にそんなに恨みがあるのか!?」
「単なる照れ隠しなんだから黙って受け入れてよお!!」
「無茶言うなって地味に痛いんだから!!」
っていうか、なんだ。
雪菜も俺に惚れている? 本当に?
「なあ雪菜」
「なによおー」
「本当に俺のこと好きなのか?」
「……ッッッ!?」
「痛ってえ!? 顎が割れたかと思ったぞ!?」
頭を跳ね上げて下から顎を打ち抜くとは。
かわいい外見に似合わず本当手が早いよなっ。
「なにそれ喧嘩売っているわけ? 告ったのは大和なのになんでそんなこと言うの!?」
「おち、落ち着けって! 俺はただ雪菜ならもっと才能があって顔が良くて人間性も完璧な男を捕まえることも簡単だけどそれでも俺なんかでいいのかって聞いただけでな」
「やっぱり喧嘩売っているじゃん!! ようし買ったぶちのめしてやるッッッ!!!!」
「まてやめろ肉体言語に頼る前に話をしよう、なっ!?」
「私は大和が好きなのよ!! 才能とか顔とか人間性とかそんなの知るか!! 私がそんなステータスを見比べて恋人を選別するような女だと思われていたとかほんっとう最悪!!」
「い、いや、そんなことはないが」
「そんなことあるから『俺なんかでいいのか』とかふざけたことが言えるんじゃん!! 大和なんかじゃない。大和がいいの。才能とか顔とか人間性とかそんなステータスなんてどうでもいい。世界で唯一大和のことが好きなのよ!! ずっと一緒にいたいのよ!! 大和と一緒ならそれ以外はどうでもいい。私はここまで大和に惚れているのよ!! わかった? わかったなら二度とつまらないこと言わないで!! 何に遠慮することなく私のことを好きでいろってのよお!!!!」
ああくそ、雪菜には敵わないな。
これまで長々と悩んでいたもんが簡単に吹き飛ばされた。
「ああ、そっか、そうなんだな」
雪菜がそれでいいなら。
俺自身の心からの望みが許されるのならば。
「俺は雪菜が好きだ」
「私も大和が大好きなんだからあ!!」
俺は誰に遠慮することなく雪菜を抱きしめた。
そうしたかったから。これからはもう遠慮する必要はないんだ。




