56.お互いの色
早いもので更に1年が経ち、3学年に進級して数週間。
1日でも早く結婚したいというウィル様の希望で、私達は卒業式の2ヶ月後に結婚式を挙げる予定なの。同級生の中では一番最初になるんじゃないかな?
「クラウディア、これはどうかしら?」
「母様……俺達の結婚式であって、母様の結婚式ではないんですよ」
「分かってるわよぉ。いいじゃない、少しくらい」
だから今、ウィル様の王宮で結婚式のドレスデザインを相談しているんだけど……。
毎回、側……お義母様も参加されるのよね。その、可愛がってくださるのはすっごく嬉しいのよ? でもドレスはウィル様と2人で決めたいなぁ……なんて。
「ほら。ディアだって母様に口出ししてほしくないって思ってますよ」
ちょっ、ウィル様!? なんてこと言い出すのよ。
「そうなの?」
「い、いえ。そんなことは」
「クラウディアはいいって言ってるわよ」
そりゃあ『そのとおりです』なんて言えないもの。そんな無邪気な顔されちゃうと……ウィル様と目を合わせ、互いに苦笑いをしてしまう。
「なんて冗談よ。そろそろ私は戻ることにするわ。ふふっ、2人の結婚式、楽しみにしているわね」
「はいっ、ありがとうございます」
「もう邪魔しないでくださいね」
笑いながら『息子が冷たいわ~』とお義母様はご自身の王宮へと帰っていかれた。
結婚式で着るドレスは挙式と披露宴の間で着替えるってことはしない。だってその日のために最高のドレスを仕立てるからね。1日そのドレスを着続けるのよ。もちろん私達もそのつもり。
それに招待客には、ドレスに使う色や使用する宝石の色と種類など、事前に連絡する必要がある。もちろん避けて欲しいからなんだけど、そう何度も着替えられたら選択肢が減って招待客も困っちゃうしね。
まぁ互いの色を身に纏うのが一般的だから、着替えたところで使う色は変わらないだろうけど。
「ユリの花についても事前通達しておこう」
「そうですね」
ブーケはもちろんユリをモチーフにしたアクセサリーも使用する予定だから、ユリモチーフも皆には避けてもらいたいのだ。
「じゃあ生地は白で黒い糸で刺繍を施す。これで決定だね」
「はいっ! あの……そのデザインですが、こういうのはどうでしょう?」
ドレスはもちろんベールにも刺繍してほしくて、少し前からデザインは考えていたの。ベールの方は生地と同じ白がいいわ。
「いいね。ディアがしたいようにしよう」
きゃー。頬を撫でないで~! 絶対今、私の顔赤いと思う。
「あ、ありがとうございます///」
ドレスとタキシードには、ウィル様の瞳の色である青と私の瞳の色である赤の宝石も散りばめるの。生地を互いの色にせず白にしたのは私の我儘。だってやっぱりウェディングドレスは白が良かったんだもん。
白いタキシードのウィル様かぁ。
うわぁ……!
「絶対かっこいい」
「ん?」
「な、なんでもありません///」
今の『ん?』ての。
少し首を傾けて、私を覗き込むように『ん?』って……。
カッコよすぎる。
もうっ。私の婚約者、すっごくカッコいいんですけどっ!
「はぁ……私、こんなに幸せでいいんでしょうか」
「俺の方が幸せだよ」
「ウィル様……」
「ディア……」
見つめ合い、少しずつ近づいていく距離。
「ん゛ん゛っ」
「「っ!!」」
今日もそばで控えているノエルの咳払い。
も~。ちょっとくらいいじゃんね。
*
*
そして迎えた卒業式。
式典はつつがなく終了し、この後行われる卒業パーティーの準備のため一度屋敷に戻ってきた。このパーティーは私達のデビュタントも兼ね備えている。
「ふふっ」
ウィル様から、黒から青にグラデーションされたドレスが贈られてきたの。もちろん青色のアクセサリーも一緒に。
「本当、独占欲丸出しですよね」
「ポーラもそう思う? んふふ~♪」
今日は全身ウィル様の色。
結婚式は白ベースにして正解だったわね。だってそうじゃなきゃ、2ヶ月後に全く同じ色のドレスになってしまうもの。
「喜ぶクラウディア様も大概ですね」
「だって嬉しいじゃない」
「……幸せそうでなによりです」
準備が終わりパーティー会場へと移動する最中、ほんの少しだけ寂しい気持ちになった。
共に学園生活を送った友人の殆どは今後も変わらず会えるけど、王都から遠く離れた領地に嫁ぐ友人もいる。それに環境の変化は前世でも経験してきたから……変わるものがあるって知ってるから……。
だからほんの少しだけ、寂しいわ。なんて感傷に浸っている間に、目的地に到着したみたい。
馬車まで迎えに来てくださったウィル様。
わぁお! 身に纏っているのは黒から赤のグラデーションだし、胸元にも赤い宝石の付いたタッセルブローチ。あらら? 用意したのはウィル様だけど、これって私の独占欲も強いみたいに見えるのでは?
まぁ間違ってないし、私とウィル様の色がグラデーションとか純粋に嬉しいから、誰に何を思われたって気にしないけどね。
「よく似合っているよ、ディア」
「ウィル様も……」
「顔真っ赤。可愛い」
「~~~///」
ウィル様っていつもカッコいいけど、こうやって正装するとカッコよさが倍増するの。なのに私にも伝わるくらい、愛おしいって言われているような目で見られたら……そりゃあ顔だって赤くなっちゃうよ。
「行こうか」
「はいっ」
用意された控室で時間まで待ち、私達は最後に入場する。
「ふぅ」
「緊張してる?」
「転けちゃったらどうしようって」
「大丈夫。俺が付いてるから」
「ふふ。はい」
名前を呼ばれたら階段を降りる。これ、1人だったら絶対足を踏み外してたわね。
「それでは最後に、ラインハルト・アークライト第三王子殿下とサブリナ・ギャレット侯爵令嬢、並びにウィルハルト・アークライト第二王子殿下とクラウディア・メープル伯爵令嬢です。どうぞお二組に、心からの歓迎をお願い申し上げます」
緊張でウィル様の腕を掴む手につい力が入ってしまう。小さく深呼吸してから一歩一歩階段を降り、盛大な拍手の中、無事にデビュタントを終えることが出来た。
そして私達とサブリナ達の二組が最初にダンスを踊り、今日一緒にデビューした皆も踊りだす。
「これで私達も、大人の仲間入り、ですね」
「だね」
でも……結婚式がある2ヶ月後までは、もう少しだけ子供でいさせてもらおうかな。
17時にも更新します。




